「インドネシアの税金」と聞いて思い浮かぶのは、日本でも始まったばかりのインボイス制度とそれに添付される付加価値税PPNの詳細を記載したFaktur Pajak(Tax Invoice)、従業員採用時にNETの金額で契約し所得税分を税額控除として会社が負担するグロスアップ方式などです。
1945年8月にインドネシアを独立国家に導いだスカルノ初代大統領時代は、建国五原則であるパンチャシラの下で建国イデオロギーを確立しましたが、当時はまだ国家歳入を賄うだけの税収がありませんでした。
1967年から30年以上に渡って独裁政権を敷いたスハルト大統領はインドネシアを「ASEANの盟主」と呼ばれるほど経済発展させましたが、その財源は外国援助や海外借款が主であり、本格的に税収を財源として国家運営することを目指したのはメガワティ大統領時代が2003年に創設した汚職撲滅委員会KPK(Komisi Pemberantasan Korupsi)の活動が本格的になった頃ではないでしょうか。
かつてシンガポールが行政面で汚職の蔓延をクリーンにすべく、初代首相リークアンユーが公務員給与を3倍に引き上げると同時に、汚職に対して厳罰を設けたのと同じように、インドネシアもスハルト政権時代に醸成されたKKN(Korupsi汚職・Kolusi談合・Nepotisme縁故主義)という負の遺産をクリーンにするために、税務署職員の給与を上げ、KPKの厳しい監視の下で企業との裏交渉がやりにくい環境づくりをしてきました。
残念なことに2019年10月の法改正でKPKは権限を大幅に縮小され、政治的圧力もあり弱体化が指摘されています。
当ブログでは僕と同じようにインドネシアに関わり合いを持って仕事をする人が、日常生活やビジネスの現場で出会うさまざまな事象のコンテキスト(背景)の理解の一助となるような税金についての記事を書いています。
付加価値税PPN(Pajak Pertambahan Nilai)
インドネシアの付加価値税の仕組み
PPN(付加価値税)は末端消費者が購入時に掛かった11%(IN)を控除できない(消費者は販売をしないから)という意味で実質消費税と同じですが、サプライチェーンの中の事業者が利益(付加価値)に対して負担する税という意味で、消費者が負担する消費税とは性質が異なります。
事業者の場合、事業年度内に売上時の11%(OUT)を購入時の11%(IN)で控除するので、売上がないと払い負けすることになります。例えば100万円の売上時に111万円請求し11万円納税すべきところ、60万円分の仕入時に66.6万円請求され税金6.6万円負担してあげているので、差額の4.4万円だけ払えばよいという考え方です。
消費者の場合、60万円の商品を購入するとき66.6万円支払って6.6万円のPPN(IN)を負担してあげているのに、販売の機会がないので11%分を相手から徴収できず、マイナス6.6万円まるまる払い負け損するという意味で、PPNはサプライチェーンの末端にある消費者が実質負担していると言えます。
言い換えれば事業者が仕入金額に付加価値(利益)40万円を載せて売上100万円を計上する際の税金は、付加価値40万円に対する11%分4.4万円だけであり、仕入時に負担した6.6万円は40万円の利益を上げるための必要経費だったとも考えられる一方で、消費者は同じ金額の経費6.6万円を払ったにもかかわらず、何も利益を上げられないという意味で払い損と言えます。
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インドネシアのサプライチェーンの中で付加価値税PPNと所得税PPhを負担する主体 【売上のない最終消費者が購入時点で付加価値税を負担】
サプライチェーンの中で前払されたVATは、販売活動によってVAT11%を請求しない末端の消費者が負担していることになり、消費者から税務署への支払いを各事業者が代行している結果になります。
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インドネシアで課税事業者PKP登録
課税事業者PKP(Pengusaha Kena Pajak)は付加価値税PPN(Pajak Pertambahan Nilai)の課税を受ける法人であり、課税対象品目BKP(Barang Kena Pajak)や課税対象サービスJKP(Jasa Kena Pajak)の売上の11%(PPN-OUT)と仕入の11%(PPN-IN)の差額を付加価値税として納税します。
課税事業者が66.6万円で販売する商品は、本来なら非課税事業者(Non-PKP)が60万円で販売して初めて同じ仕入コストということになりますが、購入側からすれば60万円という金額が、本当に妥当な金額か(課税事業者から買う場合に比べて割高になっていないか)という判断がつかなくなるので、インドネシアのほとんどの日系企業間では「課税事業者(PKP)以外とは取引しない」という商慣行が出来上がっています。
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インドネシアで課税事業者PKP登録申請に必要な書類【Invoice発行に添付するFaktur Pajak発行のためにはPKP登録必須】
課税事業者PKPは付加価値税PPNの課税を受ける法人であり、課税対象品目BKPや課税対象サービスJKPの売上の11%(PPN-Out)と仕入の11%(PPN-In)の差額を付加価値税として納税します。
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所得税PPh(Pajak Penghasilan)
PPhの詳細
総合課税(Non-Final)はPPh23(サービス源泉税2%)、PPh26(出張者給料、ロイヤリティ20%)、PPh22(輸入時に売上計上時の税金前払)、PPh25(法人税 12.5%~25%)は年度末にPPh29で調整します。分離課税(Final)はPPh4(2)(賃貸料10% 銀行利子20% PP23 0.5%)などが該当します。
- PPh23:国内サービス提供者側の税金2%を決済時に源泉(他社の税額)した上で翌月10日までに納税する義務があり、サービス提供者側に源泉徴収票(Bukti potong)をe-Bupotから発行する。
- PPh4(2):国内サービスのうちオフィスの賃貸料の場合、支払うとき10%を源泉し翌月納税。銀行利子は口座に入金されるときに銀行側に20%源泉される。
- PPh23がまとめてポンの総合課税(Non-Final)であるのに対し、PPh4(2)は取引単位で課せられる源泉分離課税(Final)になる。
- PPh26:海外サービス(本社支援、ロイヤリティ・ライセンス購入)料に対する源泉はPPh26で、支払い時に源泉の上自国で二重課税されないよう、日本の管轄税務署から承認を受けた居住者証明書(DGT)をインドネシア側の税務署に提出し承認を受ける必要がある。
- PPh24(海外での所得に対する所得税=駐在員の日本の給料)
- インドネシアで年間183日以上滞在する居住者はインドネシアで全世界所得に対して納税義務が発生するが(183日ルール)、日本の収入に対しては2重課税を防ぐために日本で源泉されたときの源泉徴収票でもってインドネシアで控除を受ける。
- リタイアメントビザと呼ばれる319ビザでインドネシアに居住する場合は日本での年金収入などがあることを前提としているので、このPPh24の控除手続きが必要

e-Bupotから発行するBukti PotongのフォームはPPh4(2)、PPh15、PPh22、PPh23共通。
個人所得税(国内)であるPPh21
課税所得(所得 - 非課税所得)ごとの個人所得税税率は、インドネシア人は15%日本人は25%~30%が多く、年間所得が非課税所得限度額PTKP(Penghasilan Tidak Kena Pajak)である54juta以下であればPPh21は免除されます。
- 50jutaまで: 5%
- 50jutaから250jutaまでの間: 15%
- 250jutaから500jutaまでの間: 25%
- 500juta以上: 30%
個人の所得税PPh21は日本と同じく「超えた分のみ税率が上がる」超過累進課税で、基本給(Gaji Pokok)と手当(Tunjangan)を足した金額(Gross)から各種控除(Potongan/Subsidi pajak)を差し引いた金額が課税所得となります。
従業員の給料を決める際に、Netなら所得税は会社負担、Grossなら個人負担、Gross-upなら個人負担だが会社が手当でカバーするという意味です。Gross-upではPPh21の差し引き後をぴったりNet給料額にするよう所得税手当(Tunjangan PPh21)を足してGross給料を決めるます。
毎年3月に前年度の所得税申告Pelaporan SPT Tahunanをする必要がありますが、Bukti potong pajak上でUpah Minimum Propinsi (UMP)を下回っていると銀行で住宅ローンKPA(Kredit Pemilikan Rumah)が組めないリスクがあります。
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日本とインドネシアの個人所得税の違い【グロスアップ方式で個人所得税PPh21の月額を計算】
インドネシアは日本と同じく超過累進課税制度であり、多くの会社は雇用契約時の給料は手取り金額で締結し、個人所得税分は税額控除として会社が負担するグロスアップ方式を採用していますので、所得税の計算に当たっては控除額は収入とみなして総収入で計算します。
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売りと買いのPPNとPPh23仕訳
インドネシアでの会計システム導入時には多少の税務の知識が必要になります。
- 給与計算システムに関連するのが所得税PPh21
- インボイス発行または受領に関係してくるのがPPN(VAT)
- 会計システムのAP決済に関係してくるのがPPh23
- 関税BMやPPh22は会計システムのGLからマニュアル仕訳
- その他はシステムになじみ薄(PPh25, PPh24, PPh4(2), PPh26, PPh29)
売りの場合のPPh23を発生したARから差し引き(インドネシアの場合)
- 売上時
- (借)AR 109 (貸)売上 100
- (貸)PPN Out Payable11
- (借)WHT Prepaid 2
- 決済時
- (借)Bank 109(貸)AR 109
売りの場合のPPh23を決済時に入金から差引(タイの場合)
- 売上時
- (借)AR 111(貸)売上 100
- (貸)PPN Out Payable 11
- 決済時
- (借)Bank 109 (貸)AR 111
- (借)WHT Prepaid 2
買いの場合のPPh23を発生したAPから差し引き(インドネシアの場合)
- 仕入時
- (借)仕入 100 (貸) AP 109
- (借)PPN In Prepaid 11
- (貸)WHT Payable 2
- 決済時
- (借) AP 109 (貸) Bank 109
買いの場合のPPh23を決済時に出金から差し引き(タイの場合)
- 仕入時
- (借)仕入 100 (貸)AP 111
- (借)PPN In Prepaid 11
- 決済時
- (借)AP 111 (貸)Bank 109
- (貸)WHT Payable 2
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業務システム導入時に知っていると得するインドネシア税法の知識 【インドネシアの税制の特徴は所得税PPh体系の複雑であること】
業務システム導入時に知っていると得する税法の知識としては付加価値税であるPPNと所得税PPHであり、特にインドネシアの税制の特徴は所得税PPh体系が複雑であることです。
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輸入時の関税とPPh22の仕訳
関税(Bea Masuk)、PPN、PPh22の送金後、フォワーダーに輸入申告書PIB (Pemberitahuan Impor Barang)を作成してもらい、輸入申告・審査・許可という手続が開始し、最終的に物品搬出承認書SPPB (Surat Persetujuan Pengeluaran Barang)が発行されて荷物の搬出が可能になります。
関税は4区分に分けられ多くは5%~20%の範囲に入ります。
- 最必需品:0~10%
- 必需品:10~40%
- 一般品:50~70%
- ぜいたく品:最高:200%
将来の販売時の法人税の前払い源泉税がPPh22であり、計算上はBM(事業者負担)→PPh22(製造業者負担)→PPN(消費者負担)の順番に課税されます。
- 輸入時
- (借)Freight charge (貸)AP Forwarder
- (借)関税BM(5%~20%)
- (借)Prepaid PPh22(2.5%)⇒7.5%に値上げ
- (借)PPN(11%)
PPh23は決済時に相手の所得税を源泉(前受)してあげるpayable負債ですが、PPh22は債務発生時に所得税を前払するprepaid資産です。
通常法人所得税制度(PPh25)と分離課税PPh Final(PPh4-2)
法人税PPh25 bulananは課税所得に対して一律25%かかりますが、年度末の当期課税所得(13月調整後の税引前利益)が翌期の3月に確定してから一括納税というのは認められず、前年度課税所得の25%の12等分を翌月15日までに前払いします。
前年度課税所得は、前年度収入から前年度の前払PPh22(輸入時に売上計上時の税金を前払い)と前年度に源泉されたPPh23(国内サービス販売時にお客から回収した源泉徴収票に基づく)とPPh24(日本からの収入のうち日本で源泉された源泉徴収票に基づく)を控除したものであり、その25%を12等分を毎月の予定納付額として前払いし、年度末に確定した当期課税所得を元に算出した確定法人税額から12ヶ月分の累積額と当期のPPh22、PPh23、PPh24を控除し、差額をPPh29として納税します。
ただし年間売上4.8Milyar以下の中小零細事業主UMKMは、会社設立後3年間は売上の0.5%を納税するPPh4-2(PP23 Tahun2018)が適用できます 。
- 年間売上4.8Miliyar以下のUMKM中小個人事業主(Usaha Mikro, Kecil, dan Menengah)の課税所得に対してかかる税金として、経営成績である利益に対してかかる法人所得税(PPh25 bulanan)ではなく、事業主に対して一律公平にかかる事業税のような Final Corporate Income Tax Scheme外形標準課税(Pro forma perpajakan standar)であるPP 23 Tahun 2018が売上に対して0.5%かかる。但し適用は3年間のみで以降は通常のNormal Corporate Income Tax Schemeになる。
- UMKMでPPN課税事業者PKP(Pengusaha Kena Pajak)が支払う税金はPPNとPPh Final(PPh4-2)とPPh21(社員の源泉所得税)。但しPPh21は年間所得額がPenghasilan Tidak Kena Pajak(PTKP)以下なら非課税。
- UMKMと似た言葉に最低賃金UMK(Upah Minimum Kabupaten)またはUMP(Upah Minimum Provinsi)があり、2017年のジャカルタの最低Upah(工賃)は3.35juta。
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インドネシアの中小個人事業主に対する外形標準課税制度の改定【利益率4%以下なら通常の法人税率を適用したほうがお得】
年間売上高が4.8Miliyar未満の中小企業が選択することができる売上高に対する1%の分離課税制度(PP46)が改定され(PP23)、税率が0.5%と引き下げられる一方で、適用期間は3年間に限定されます。利益率が4%以下の場合には通常の法人所得税率が得です。
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税務申告用の源泉徴収証明書A1フォーム
1年分の個人所得税源泉について、会社は1721 A1(民間企業従業員用フォーム 通称A1)に必要事項記入の上、翌年1月末までに最寄の税務署(KPP=Kantor Pelayanan Pajak)にまとめて申告を行う義務があります。
税務署(KPP)でEFINを申請して、郵送されてきたEFINとNPWPにてDJP Online利用のパスワードを生成して、はじめてE-Filingで所得税申告が利用できるようになります。
税務署から送られてきた請求書の支払いは、SSEやDJP Online上のE-BillingにてID Billingを取得したのちに、ATMやインターネットバンキングで支払い可能になります。 毎年1月末までに、会社は社員の前年度の源泉徴収の明細を1721 A1フォーム(Bukti Potong PPh21)に記載し税務署に提出し、社員は3月末までに個人所得税申告をSPT-Tahunanを1720Sフォームにて行う際に、源泉徴収済みである証拠としてA1フォームを添付します。 続きを見る
インドネシアの個人所得税PPh21と税務申告用の源泉徴収証明書A1フォーム 【労務費の内訳は給料+PPh21+BPJS】
NPWPを夫婦で分けるか一つにまとめるかの違い
NPWPを夫婦で分ける場合は夫と妻の収入の合計が課税所得として累進課税計算されますが、NPWPを1つにまとめる場合は夫の収入のみがPPh21の累進課税計算対象となり、妻の所得は年末のSPT-Tahunanで1770Sフォームで申告する分離課税のみになる。財産を夫婦で別管理することを前提としている場合は、NPWPも別々に取得する必要がありますが、そうでない場合はNPWPを分けることは税務署の管理を煩わしくし、所得税の計算上も不利になります。
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インドネシアで納税者番号(NPWP)を夫婦で分けるか一つにまとめるか【所得税計算でまとめたほうが得】
インドネシアで納税者番号(NPWP)を夫婦で分けるか一つにまとめるかという問題ですが、所得税の計算上ではまとめたほうが割安になります。
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その他の税金
免税限度額を超える場合の税額の計算方法
2018年1月28日からインドネシア国外で買い物して国内に持ち込む物品に対する免税限度額が、従来の一人当たり$250または3.3jutaから、$500または6.75jutaに引き上げられることになり、近年のドル高ルピア安の為替相場から考えると、実質的な緩和措置と言えそうです。
ポイントはPPNとPPh22は「免税限度額を超える額+関税」に対してかかるところです。 入国時の持込荷物に対してかかる税金は関税BMと付加価値税PPNと輸入税PPh22の3種類ありますが、免税限度額を超える分に関税を足した額に対して、付加価値税と輸入税がかかります。 続きを見る
インドネシア入国時に免税限度額を超える場合の税額の計算方法 【課税価額に関税をプラスした総額に対してPPNとPPh22が課税される】
土地・建物税
不動産課税評価額(NJOP=Nilai jual objek pajak)から非課税額(NJOTKP= Nilai jual objek tidak kena pajak)を差し引いた金額の20%が不動産課税対象額(NJKP=Nilai jual kena pajak)であり、これの0.5%が毎年支払うPBBになります。
- PBB-P2(年)={(土地不動産課税評価額+建物不動産課税評価額)-非課税額}x0.1%
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インドネシアでの不動産購入と土地・建物税の話 【毎月発生する固定費をいかに回収するか】
インドネシアでアパートや商業用店舗などの賃貸用不動産物件の購入時には毎月発生する固定費をいかに回収するかを考慮する必要があります。
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インドネシアの自動車税
インドネシアの自動車税PKB(Pajak Kendaraan Bermotor)は、毎年の車両証明書STNK(Surat Tanda Nomor Kendaraan)の更新時に支払う自動車税と、5年に一回ナンバープレート(pelat nomor kendaraan)の交換とエンジンの登録番号チェック時に支払う自動車税があり、毎年発生する自動車税は車両売却評価額NJKB(Nilai Jual Kendaraan Bermotor)に対して税率2%(1台目の車の場合)です。
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インドネシアの自動車税【車検制度はなく保険は任意加入】
インドネシアの自動車税は、毎年の車両証明書の更新時に支払う自動車税と、5年に一回ナンバープレート交換とエンジンの登録番号チェック時に支払う自動車税があり、国が定める車検制度自体がなく、保険も民間保険会社が提供する保険サービスへの任意加入になります。
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レストラン税とサービス料
もともとPPNだったものが2010年からPB1に変わったもので、同じく10%なので消費者がその違いを意識するものではありませんが、徴収する主体がPPNのときは国税総局(Direktorat Jenderal Pajak)でAPBN国家予算(Anggaran Penerimaan dan Belanja Negara) に入る中央税Pajak Pusatだったものが、PB1の場合は地方政府(Pemerintah Daerah)でAPBD自治体予算(Anggaran Pendapatan dan Belanja Daerah)に入る地方税Pajak Daerahに変わりました。
ちなみに中央税APBN該当するのが所得税PPh、固定資産税PBB(Pajak Bumi dan Bangunan)、印紙税Bea Materai、付加価値税PPN、奢侈品販売税PPnBM(Pajak Penjualan atas Barang Mewah) などで、地方税APBDに該当するのがレストラン税Pajak Restoran、ホテル税Pajak Hotel、広告税Pajak Reklame、エンターテイメント税Pajak Hiburanなどです。 付加価値税PPNは中央税でレストラン税PB1は地方税という違いがありますがともに10%で、ホテルではサービス料10%込みの値段に対してPB1が10%掛かるため合計21%かかると言われます。 続きを見る
インドネシアで普段あまり意識しないレストラン税とサービス料について 【中央税PPNと地方税PB1ともに10%】
インドネシアの税務署
企業は短期償却してより多く損金計上したいが、税務署は長期の耐用年数を求め損金否認して課税所得を増やしたい方針です。
- 会計と税務の違いとは一言で言うと税金を減らしたい企業と増やしたい税務署の立場の違い。
- 会社の儲けた金は企業会計上は利益で、税務会計上は所得であり、P/Lに計上した交際費が必ずしも経費として落とせる(損金計上する)とは限らない。費用のうち法人税を計算するときに、税制上掛かる税金を減らせるものが損金。
- 企業は早々に費用計上して税金を減らしたい。一方で税務署は費用化されて利益を圧縮されると課税対象の所得が少なくなるため長い耐用年数を求める。これが会計と税務が違うということ。
- 連結会計ではIFRSに基づく財務報告が必須になる一方で、税務については引き続き各国独自の基準で財務報告を作成すべき。
日本の税制が正しく申告することを前提とする性善説に基づいているとすれば、インドネシアの税法は源泉先取りで出来るだけ返さないという性悪説の上に成り立っていると言えます。
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インドネシアの税法は性悪説の上に成り立つ【税務署がダメ元で納税させる傾向】
日本の税法は事後に正しく申告するされることを前提とした性善説に基づいていますが、インドネシアの税法は源泉で事前に徴収した上で出来るだけ返さないという性悪説に基づいていると言えます。
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海外のデジタル事業者に対する課税
インドネシアで一定期間以上の事業活動を行うためには、国内の個人、法人、または恒久的施設(PE=Permanent Establishment)のいずれかとしてNPWP(納税者番号)を登録し、納税する義務があります。
PEが意味するのはインドネシア国内の「物理的な場所」のことであり、会社の事務所、個人事業主の家、商品を保管する倉庫などですが、本来インドネシア国内に居住しない個人または法人がPEを使用することは、納税せずして事業を行うことになり税法違反になります。
例えばインドネシアに拠点を持たない海外企業が商品の在庫をインドネシア国内の貸倉庫に置いて、受注を受けてから国内代理店に出荷を委託するケースでは、倉庫がPEに該当するので税法違反となり、海外企業はPE登録をしてNPWPを取得し納税しなくてはなりません。
もしPEという課税の根拠がなかったら、日本本社は出張者に現地法人または現地代理店をスポンサーとして6か月の労働ビザ(C312)を取得させ、NPWP取得が免除される183日間以内で営業活動を行わせて、直接本社へ売上を上げれば、理屈上では出張者個人としても本社として納税の義務は発生しません。
仮に税務署に指摘を受けた場合でも、出張者は1年間のC312を取得しPPh21(個人所得税)だけをスポンサーを通じてきちんと納税し、日本本社の売上として計上すれば、理屈上ではインドネシア国内でのPPN(付加価値税)、法人所得税やPPh23(サービスにかかる源泉税)等を回避することができます。
このような税逃れを防ぐために、インドネシア国内に物理的拠点がないまま事業活動を行う海外企業を、課税の根拠となるPE登録し、NPWPを取得させるのですが、Netflixなどの海外EC事業者が、海外のサーバーを通じてインドネシア国内の個人契約者を獲得することで売上を上げる場合、PEと認定することが難しく税法違反にはなりませんでした。
B2Bの場合は事業の実体を把握しやすいのですが、B2Cである個人向けのEC事業の場合は売上の実態が把握しにくいという問題があったのです。
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NetflixやAmazonなどの海外EC事業者への課税【コロナ禍により税収減を賄うためにインドネシア国内で売上を上げる海外企業が対象】
支払いがアメリカのサーバーを通してアメリカ法人になされるために、インドネシアで付加価値税(PPN)を支払っていないと指摘されており、インドネシア国内で売上を計上する以上、その会社は恒久的法人(BUT=Bentuk Usaha Tetap)であり、課税事業主(PKP)として納税の義務が発生することになります。
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コロナ禍におけるインドネシア政府による税制優遇措置
インドネシアで従業員が会社と雇用契約を結ぶ際に、給与の金額に個人所得税PPh21を含むか含まないかによって、3通りの契約形態があります。
- ネット:契約時に決まった手取金額に対してかかる個人所得税は会社が源泉徴収し納税。
- グロス:契約時に決まった給料の金額には個人所得税分が含まれているため、会社が毎月源泉徴収し納税。
- グロスアップ:契約時に決まった手取金額に対してかかる個人所得税分を税額控除(Tunjangan Pajak=Tax Allowance)という会社補助として上乗せしたものを給料の金額とし、会社が源泉徴収し納税。
今回の半年間の税制優遇措置では個人所得税PPh21は政府が負担し、その分は従業員に還元するという意味になりますので、ネット契約またはグロス契約で会社によって源泉納税行われていた場合には、従業員の給料が半年間アップすることになります。
そしてグロスアップ契約の場合も、会社が社員に支払う手取金額に対してかかるであろう所得税分を「会社補助」として手当しますよという契約であるため、会社側の立場としては税制優遇措置を受けるべきは補助の負担を担ってきた会社だろうという理屈も成立するかもしれませんが、仕組みはどうであれその本質は社員の個人所得税を会社が代理で支払っているだけなので、やはり社員に還元するのが筋だと考えます。 インドネシアの新型コロナウイルスに関する税制優遇制度として、個人に対しては年収2億ルピア以下の従業員の個人所得税PPh21の免除、中小企業(UMKM)に対してはPP23(外形標準課税 売上の0.5%)の4月から9月までの免除があります。 続きを見る
インドネシアの新型コロナウイルスに関する半年間の税制優遇制度【政府による個人と企業に対する補償】
コロナ禍の影響による低所得者救済のための賃金補助金
2020年のジャカルタ特別州の最低賃金UMP(Upah Minimum Provinsi)はRp.4,276,349でジャワ島で最も高く、逆に最も低いのがジョクジャカルタ特別州(Daerah Istimewa)のRp.1,704,608で2.5倍の差がありますが、2019年のインドネシアのインフレ率が2.72%と過去10年間で最低であったことを考えると、両州とも前年度比で8.51%とインフレ率をはるかに上回る賃上げがなされています。 インドネシアの社会保障制度BPJSにはKetenagakerjaan(社会保険)とKesehatan(医療保険)の2つがあり、社会保険加入者のうち月給5百万ルピア以下の低所得者に対して、政府からコロナ禍に対する賃金補助金として60万ルピア/月が4ヶ月間支給されることになっています。 続きを見る
コロナ禍の影響による低所得者救済のための賃金補助金【社会保険BPJS TKの計算方法】
タックスアムネスティ(租税特赦法)
世界的に話題になったパナマ文書(パナマの法律事務所から流出したタックスヘイブンに関する内部文書)に載っていたインドネシアの個人・法人の資産総額は2,300兆ルピア(国家予算の1.5倍)から天文学的な税収が見込まれることから注目されるようになりました。
このAmnesty(ギリシア語で「忘れ去る」の意味)という甘い響きの言葉の裏には、期間を過ぎたら大変な罰金を課しますよ、という脅し文句が隠されているわけで、金持ちインドネシア人の海外資産の代表として挙げられるシンガポールの高級コンドミニアムなんかは、今のうち全部ゲロしておかないと、後で発覚したらとんでもない罰金(具体的な税率は2016年8月現在まだ流動的)を課せられます。
所得税申告に財産リストを申告する必要があるかといえば、所得に不相応な財産を持っているかどうかをチェックするためであり、一般企業の財務状態はP/LだけでなくB/Sもチェックする必要があることからも理解できます。
ビジネスでは売上を上げた国で納税するのがフェアだと思うのですが、その前提だと大した節税方法がないので、もっと大きな節税をするために、売上を上げた国以外の税率の低い国に、移転価格税制で訴追されない方法で利益を還流させようとします。
「合法であれば何をしてもよいわけではない」という世間の反発を食らうようになるのは、巨額な利益を上げている国に納税していないことは社会インフラへのタダ乗りでアンフェアと解釈されるからです。
このケイマン諸島やパナマなどのタックスヘイブンに設立した現地法人は実質的にはペーパーカンパニーであり、そこで直接売上を計上するか、もしくは無形固定資産(商標権や知的財産権)を移転し、自国からロイヤルティとかセールスコミッションという科目を通して費用を支払うことで、自国の利益を圧縮することが可能であり、資本主義経済システムの抜け穴を賢く利用した合法的な節税と言われてきました。
タックスヘイブンに利益を溜め込むことによる社会への弊害は、資本主義社会においても完全自由競争が果たして人類の平和にとって最善なものなのか、という大きな問題意識を投げかけています。
- 自国の所得税収が減り国家財政を圧迫。
- 大資本の内部留保が肥大化し資金が市場に流入しないことによるデフレと格差拡大。
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タックスアムネスティで海外資産がインドネシアに還流 【簿外取引で購入された海外資産】
タックスアムネスティで問題視されているのは簿外取引で購入された海外資産であり、国内ビジネスで得た利益で海外資産を購入し現地法人のB/Sの資産として計上していれば問題はありません。
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