業務システム導入時に知っていると得するインドネシア税法の知識

2015/05/07

ジャカルタ

業務システム導入時に知っていると得する税法の知識としては付加価値税であるPPNと所得税PPhであり、特にインドネシアの税制の特徴は所得税PPh体系が複雑であることです。

会計システムから見たインドネシアの税制

インドネシアでの会計システム導入時には、好む好まないによらず多少の税務の知識が必要になってきます。

  1. 給与計算システムに関連するのが所得税PPh21
  2. インボイス発行または受領に関係してくるのがVAT(PPN)
  3. 会計システムのAP決済に関係してくるのがPPh23
  4. 関税BMやPPh22は会計システムのGLからマニュアル仕訳
  5. その他はシステムになじみ薄(PPh25, PPh24, PPh4(2), PPh26, PPh29)

いきなり大雑把ですが僕の場合はこんな感じでくくっています。

会計システムから見たインドネシアの税制

まずは所得税

法人税(PPh25 bulanan)

インドネシアは日本と同様に自由主義経済ですから国のメインの税収は所得税(PPh=Pajak Penghasilan)であり、そのうち会社の所得税である法人税が課税所得に対して一律25%かかります。

但し年度末の当期課税所得(13月調整後の税引前利益)が翌期の3月に確定してから一括納税というのはNGで、前年度課税所得x25%=前年度法人税額から前期の前払PPh22(輸入時に売上計上時の税金を前払い)と前年度に源泉されたPPh23(国内サービス販売時にお客から回収した源泉徴収票に基づく)とPPh24(日本からの収入のうち日本で源泉された源泉徴収票に基づく)を控除したみなし税額を12等分して毎月の予定納付額(PPh25)として前払いし、年度末に当期課税所得を元に算出した確定法人税額から12ヶ月分の累積額と当期のPPh22、PPh23、PPh24を控除し、差額をPPh29として納税します。

PPh25の月額は税務上の課税所得が前年度末から当期3月末までの間の「13月」に税務調整がなされた上で確定する関係上、毎月の予定納付額が更新されるのは4月からになります。

サービス源泉税(PPh23, PPh4(2), PPh26 bulanan)

上記の法人税は申告(自社の税額)して支払うものですが、国内サービスに関してはサービス提供者側の税金2%を決済時に源泉(他社の税額)した上で翌月10日までに納税する義務PPh23があり、サービス提供者側にBukti potong pajak(源泉徴収票)を発行してあげます。

逆に売りの場合はお客から源泉徴収票を発行してもらい、年度末の当期確定課税所得の25%から控除(PPh25の12ヶ月累計額、PPh22、PPh24も合わせて控除)し差額をPPh29として納付します。これさっきも書いたな。。。

ERPシステムでPPh23を処理するのは売り買いともにインボイスの決済時であり、インボイスの明細単位で源泉対象(サービス)かそうでないかを判断する必要があるため、品目マスタに識別フラグがない限り選別計算が難しく、会計システムのみの場合は品目マスタすら存在しないので更に難しいです。

よって必然的にAP決済画面からマニュアルで税金仕訳を追加することになります。

(売り決済)

  • Dr. Bank 98      Cr. AR 100
  • Dr. Prepaid PPh23 2

(買い決済)

  • Dr. AP 100      Cr. Bank 98
  •             Cr. W/H PPh23 2

同じく国内サービスのうちオフィスの賃貸料(他社の収入から自社が源泉)の場合、支払うときPPh4(2)分10%を源泉し翌月納税する義務がありますが、PPh23がまとめてポンの総合課税(Non-Final)であるのに対し、PPh4(2)は取引単位で課せられる源泉分離課税(Final)です。

銀行利子(自社の収入から銀行が源泉)も同じくPPh4(2)のFinalであり、口座に入金されるときに銀行側に20%源泉されています。ですから1M(約1千万円)をBCA銀行で年利6.25%(2015年5月現在)の定期預金を作る場合

  • Rp.1,000,000,000x0.0625x0.8÷12=Rp. 4,666,000(約4万5千円)

これが毎月Netで利子として入ってきます。日本の超低金利に比べると夢のような話ですが、インフレとルピアの為替リスクは定期預金の利子くらい軽くふっ飛ばしますので、安易に円をルピアに両替するのではなく円とルピアをバランス良く保持してリスク分散したほうがよいと思います。何のこっちゃ。

上記は国内サービスに対する源泉でしたが、海外サービスに対する源泉はPPh26で支払い時に源泉の上、海外のサービス提供者が自国で二重課税されないよう源泉徴収票を発行してあげます。

実はこのPPh26がインドネシア子会社の日本へのロイヤルティ支払い、つまり日本の親会社の投資回収の源泉に対してかかる源泉徴収であり、インドネシア法人側で20%きっちり源泉の上、インドネシアにて納税する必要があります。

輸入時の前払法人税(PPh22)

輸入時に関税(Bea Masuk)の他に、「将来の販売時の法人税を前払いしろ」というがめついPPh22があります。当然PPN(Pajak Pertambahan Nilai)もしっかり徴収されますので輸入時にはトリプルで税金がかかることになります。ただ下にも書きますがBM、PPh22、PPNは目的や負担者がそれぞれ異なります。

例えばFOB価格1,000に対して送料200と保険10がかかった場合のBM、PPN、PPh22は以下のように計算できると思います。たぶん。

  • BM : (1,000+200+10)x15%=181
  • PPN : (1,000+200+10+181)x10%=139
  • PPh22 : (1,000+200+10+181)x2.5%=347

この場合の輸入に関わる仕訳は以下のようになります。

  • Dr.Freight fee 1,000      Cr. AP Forwarder 1,667
  • Dr.BM 181
  • Dr.Prepaid PPN 139
  • Dr.Prepaid PPh22 347

PPh22は経過勘定(資産)に計上し、年度末の当期課税所得x25%の税額とre-classします。

海外所得に対する所得税(PPh24)

インドネシアで年間183日ルールを満たすインドネシア居住者が日本から給料その他の収入がある場合、インドネシアだけでなく日本の収入に対しても所得税が課されます。

その場合の2重課税を防ぐためには日本で源泉されたときの源泉徴収票でもってインドネシアで控除を受けることになるらしいですが、そもそもどこまで日本の収入をインドネシアの税務署に報告するかという「それ以前問題」があります。

但しリタイアメントビザと呼ばれる319ビザでインドネシアに居住する場合は日本での年金収入などがあることを前提としているので、このPPh24の控除手続きが必要になるのだと思います。

非居住者への支払いに対する源泉税(PPh26)

インドネシアの事業主体が非居住者に対して支払いをする際には、 20%を源泉徴収してインドネシアの税務署に納税する必要がありますが、日イ租税条約に基づいた二重課税防止のための規則を適用する際に必要となる居住者証明書(DGT)を税務署に提出することで、インドネシア側で免税または減免を受けることができます。

弊社の場合、日本から購入するソフトウェアのライセンスへの支払いに対する免除であり、PPh pasal 26(非居住者への支払いに対する源泉税)20%が免除され0%になりました。

よくある親会社に対するロイヤルティやセールスコミッションの場合、「下がる」ようですがそれがは免除なのか減免なのか経験がないのではっきりしません。

こちらのサイトで提供されている手順書に従って記入した居住者証明書(DGT)は日本側で管轄の税務署にて承認印と署名を取得してもらい、インドネシア側の税務署に提出することで承認されました。海外からライセンスを取得しインドネシアで販売する事業者は必須かと思います。【2019年度居住者証明書フォーマット(和訳付き)/ 租税条約の申請方法にかかわる改定】2018-No.8

個人所得税(PPh21 bulanan)

個人の所得税PPh21(源泉なので正確には所得税控除)は日本と同じく「超えた分のみ税率が上がる」超過累進課税です。基本給(Gaji Pokok)と手当(Tunjangan)を足した金額(Gross)から各種控除(Potongan/Subsidi pajak)を差し引いた金額が課税所得です。

  • 50jutaまで:5%
  • 50jutaから250jutaまでの間:15%
  • 250jutaから500jutaまでの間:25%
  • 500juta以上:30%

毎月のGross給料(控除なしと仮定)が10juta/月の人の年間課税所得額は120jutaなのでPPh21の年間総額は50jutax0.05 + 70jutax0.15=13jutaになりますので、毎月の所得税は13juta÷12ヶ月=1.083jutaになり、手取りは10juta-1.083juta=8.917jutaになり、1.083jutaが会社によってPPh21として納税されます。

給料が手取り金額(Net)の場合はNet給料10juta/月に所得税手当(Tunjangan PPh21)1juta(本来は正確に計算する必要あり)を追加した11jutaをGross給料(控除なしと仮定)とします。

この場合の年間課税所得額は132jutaなのでPPh21の年間総額は50jutax0.05 + 82jutax0.15=14.8jutaになりますので、毎月の所得税は14.8juta÷12ヶ月=1.233jutaになり、手取りは10jutaのままで、1.233jutaが会社によってPPh21として納税されます。

これは下手な例なのでTunjangan PPh21(1juta)とPPh21(1.233juta)の間に差額0.233jutaがありますが、この差額がないようにビシッと逆算することをGross-up方式と言います。この説明、はっきり言って自信ないので間違っていたらご指摘ください。

PPN(Pajak Pertambahan Nilai)

PPhの説明で疲れましたのでPPNは軽く流したいところですが、インドネシアで生活する上で一番なじみ深いのはPPN(付加価値税)10%ではないでしょうか?Invoice発行時にOut10%、Invoice受領時にIn10%でFaktur Pajakを証拠としてプラスなら翌月末までに納税、マイナスなら年度末に還付請求または翌事業年度に繰越します。

PPNを考える上で製造業が材料を輸入して製品を生産し商品として小売店に並ぶプロセスを考えると分かりやすいと思います。

材料購入時のBea Masuk(関税)は輸入品の消費(材料を購入)への課税を製造業が負担するものであり、同時に課せられるPPh22は販売時の利益に対する課税の前払いという意味で製造業が負担するものであり、PPNは工場から一次卸、二次卸、小売店というサプライチェーンの中で生じる付加価値への課税を事業主が負担するものです。

ただし消費者が小売店から商品を購入する時のVATは税額控除できないため、PPNを負担するのは消費者ということになります。そういう意味でPPNは日本の消費税(酒税・たばこ税)に近いと言えると思います。

  • BM(事業者負担)→PPh22(売上時の税金前払い)→PPN(消費者負担)

納税方法(まとめ)

毎月のSPT(Surat Pemberitahuan)はPPN, PPh21, PPh23, PPh25, PPh4(2)の5枚あり、銀行への払い込みはまとめて一括OK。PPh23が売りの場合には年度末の当期課税所得に基づいて計算された法人税からの控除になります。

年度末に当期課税所得に基づく25%法人税額確定後に、毎月前払いしてきたPPh25(予定前払い)、PPh23(客に源泉された源泉徴収票分)、PPh22(輸入時に販売時の前払い)、PPh24(インドネシア居住者が日本で得た収入のうち日本で源泉されたもの)を控除した差額をPPh29として払い込みます。これ書くの3回目。