インドネシア税法

タックスアムネスティで海外資産がインドネシアに還流 【簿外取引で購入された海外資産】

2016/10/24


2016年7月から施行されているタックスアムネスティといえば「脱税への恩赦」とか「海外の隠し資産の国内への呼び戻し」とか、犯罪者の香りがする説明が先行してしまいがちですが、NPWP(納税者番号)を持つすべてのインドネシア人または在住外国人が当事者となる問題です。

タックスアムネスティで問題視されているのは簿外取引で購入された海外資産であり、国内ビジネスで得た利益で海外資産を購入し現地法人のB/Sの資産として計上していれば問題はありません。

タックスアムネスティが国会で可決された経緯

6月28日にタックスアムネスティがDPR(国会)で電光石火の速さで可決されたのは、5月に世界的に話題になったパナマ文書(パナマの法律事務所から流出したタックスヘイブンに関する内部文書)に載っていたインドネシアの個人・法人の資産総額は2,300兆ルピア(国家予算の1.5倍)から、天文学的な税収が見込まれることに加えて、この法律によって資産の海外流出を防ぐという意味があるからです。

要はPPh(所得税)未納分や国内資産のうちまだPBB(Pajak Bumi dan Bangunan)固定資産税を納めていない分があれば、3ヶ月以内に白状すれば2%、6ヶ月以内なら3%、9ヶ月以内なら5%の罰金で無罪放免、海外資産の場合は、3ヶ月以内なら4%、6ヶ月以内なら6%、9ヶ月以内なら10%でOK、というものです。

このAmnesty(ギリシア語で「忘れ去る」の意味)という甘い響きの言葉の裏には、期間を過ぎたら大変な罰金を課しますよ、という脅し文句が隠されているわけで、金持ちインドネシア人の海外資産の代表として挙げられるシンガポールの高級コンドミニアムなんかは、今のうち全部ゲロしておかないと、後で発覚したらとんでもない罰金(具体的な税率は2016年8月現在まだ流動的)を課せられます。

そして当然ながらこの問題、金持ちインドネシア人だけではなく、普通のインドネシア人庶民、在住外国人も当事者となります。

SPT tahunan PPh(所得税申告)に記載する内容

毎年3月末になると、弊社スタッフも半休とって税務署に所得税の申告に行きますが、今はDJP Onlineにログインしてe-Filingのメニューから申告ができるようになっています。

民間企業は、従業員の所得税PPh21を納税済みである証拠であるbukti potong pajakを発行してあげる義務があるので、もしこれをもらえない場合は、会社が税務署に従業員の存在を報告をしておらず、納税していない可能性があります。

SPT tahunan PPhのための専用フォームは3種類に分かれていて

  1. 1770S : penghasilan bruto(グロスインカム)が60juta以上の一般的なサラリーマン
  2. 1770SS : penghasilan brutoが60juta以下の人用(専業主婦など)
  3. 1770 : Pengusaha/wiraswasta(起業家)用

このうちe-Filingは1770Sと1770SSフォームの人が対象となっており、記載するために必要な書類は以下のようなものです。

  1. bukti potong 1721 A1(民間企業従業員)または A2(公務員)
  2. bukti potong 1721 VII(個人所得税PPh21)源泉分離課税分(Final)
  3. bukti potong(土地や建物以外の賃貸から発生したPPh 23)
  4. bukti potong PPh 4-2(土地や建物の賃貸収入、または配当から発生したPPh 4-2)
  5. 財産リスト(預金、土地権利書、車のSTNK)
  6. 借金リスト
  7. Kartu keluarga(家族証明書)

税金と資産の関係

今回問題となるのが「5.財産リスト(預金、土地権利書、車のSTNK)」であり、そもそも自分の財産を好んで税務署に申告しようとは思わないのが一般的な庶民感覚だと思われますので、ここがいい加減な申請(過少申請)になっている人が大半であることが推測されます。

そもそもなんで所得税申告に財産リストを申告する必要があるかといえば、所得に不相応な財産を持っているかどうかをチェックするためであり、一般企業の財務状態はP/LだけでなくB/Sもチェックする必要があることからも理解できます。

今回のタックスアムネスティで、一般のインドネシア人があせっているのが、このいい加減な過少申請が罰金の対象となりうるというところですが、SPT tahunan PPhに資産の申告漏れがあったとしても、その資産にかかわる税金を納めていれば、SPT tahunan PPhの修正のみでよく、別途罰金や税金がかかることはないようです。

例えば家やアパートなどの不動産の場合、毎年税務署から送られてくるPBB(Pajak Bumi dan Bangunan)を分離課税(Final tax)として支払っているでしょうし、銀行預金の利子も自動的に20%源泉されています。

SPT tahunan PPhはNPWPを持つ人すべてが対象なので、専業主婦であるうちの嫁さんも対象であり、しかもここ2年ほど申請をサボっている非常に危険な状態なので、今回のタックスアムネスティを機に税金の問題を全部クリアにすることにしました。

合法的な節税であるタックスヘイブンへの利益移転が違法になる?

租税特赦法はタックスアムネスティとかボランタリーディスクロージャーとかいう表現で世界的に実施されていますが、インドネシアの場合は国内総生産(GDP)を超える8,770億ドルという桁違いの海外隠しがあると言われるだけあって、その成果である海外資産の自国への還流額は97.2 triliunルピア(97.2兆ルピア)で世界一だそうです。

ビジネスでは売上を上げた国で納税するのがフェアだと思うのですが、その前提だと大した節税方法がないので、もっと大きな節税をするために、売上を上げた国以外の税率の低い国に、移転価格税制で訴追されない方法で利益を還流させようとします。

僕は新卒入社した長期信用銀行系システム会社で海外システム部に配属されたのですが、ロンドンやニューヨークといったメジャーな支店に混じって、一際浮いていたのがケイマン支店という名前でした。

このケイマン諸島やパナマなどのタックスヘイブンに設立した現地法人は実質的にはペーパーカンパニーであり、そこで直接売上を計上するか、もしくは無形固定資産(商標権や知的財産権)を移転し、自国からロイヤルティとかセールスコミッションという科目を通して費用を支払うことで、自国の利益を圧縮することが可能であり、資本主義経済システムの抜け穴を賢く利用した合法的な節税と言われてきました。

ただこれが「合法であれば何をしてもよいわけではない」という世間の反発を食らうようになるのは、巨額な利益を上げている国に納税していないことは社会インフラへのタダ乗りでアンフェアと解釈されるからでしょう。

これが単なる嫌儲ではなく、タックスヘイブンに利益を溜め込むことによる社会への弊害として、以下の2点が挙げられることが多いようです。

  1. 自国の所得税収が減り国家財政を圧迫。
  2. 大資本の内部留保が肥大化し資金が市場に流入しないことによるデフレと格差拡大。

言ってみれば資本主義社会においても完全自由競争が果たして人類の平和にとって最善なものなのか、という大きな問題意識を投げかけている訳です。

また法的拘束力はないとしてもOECD(経済開発協力機構)加盟国間で、タックスヘイブンにある資産に対して本国から課税できるという共通ルールができるという流れにより「タックスヘイブンの終焉」などと言われますが、ヘイブン(天国)と言われるほど極端に無税とまではいかないまでも、国ごとの所得税率格差を利用して、多少でも自国よりも税率の低いオアシスくらいの国への資金流入は続くと思われます。

違法な海外資産とは何?

インドネシア国内企業が、国内ビジネスで得た利益から所得税を支払った後の税引き後純利益を、利益剰余金や資本準備金に回すのではなく、海外の現地法人に送金して海外資産を購入(要は国外投資)し、現地法人のB/Sにの資産として計上すれば何の文句も言われません。

タックスアムネスティでは海外の「隠し資産」という言葉が用いられますが、隠し資産とは「隠し利益」で簿外取引(オフバランス)として購入された資産であり、個人の場合はSPT tahunan PPHで申告していない資産であり、「隠し利益」とは一般的に所得税を納めていない利益隠しを指します。

先のパナマ文書問題で多くの個人名や企業名が「暴露」されたということは、タックスヘイブンがブラックボックス化することにより、そこに還流するお金の名義人も金額も源泉も秘密主義で隠されていたことにより「隠し利益なんじゃないの?」という疑念が持たれたからです。

そうであればタックスヘイブンに現地法人を設立しても、連結ベースでオンバランスにしておけば、利益と資産の妥当性が説明できるのですが、それだとタックスヘイブンに利益を移転する意味がない。

要はタックスヘイブンにおける「合法的な節税」という言葉は限りなく説得力を失っている訳です。

海外資金をインドネシアに送金

インドネシア在住日本人にとっての必読書?、深田祐介著「ガルーダ商人」の中で、東邦商事の小笠原社長が香港経由でスーツケースに1000万円ハンドキャリーでジャカルタに持ってきたという場面(上のP292)がありますが、戦後間もない頃の厳しい為替管理法の下にあった時代とは違って、今では海外送金は基本自由に行えます。

資金が流出する側の国にも諸事情があり、例えば今何かと話題のドイツ銀行が、アメリカへの巨額の罰金(サブプライムローンで不適格の債務者に金を貸し、それを安全な投資として他の投資者に転売した罪)の工面のため、中国の資金を引き出そうにも引き出せない状態が続いているのは、中国の外貨預金残高が激減しているからとも言われています。

ただインドネシア人の海外資産が一番集中しているのは金融先進国であるシンガポールなので、資金のインドネシアへの還流による影響はさほどないとは思われ、インドネシア政府もタックスアムネスティによる海外からの送金受入銀行数を18行に増やしてかき集める気満々です。

ちなみに日本では、100万円以上の海外銀行送金の場合は、銀行から口座名義人住所の所轄の税務署に連絡が行き、贈与税対象ではないか、マネーロンダリング資金ではないか、という税務調査の対象になりうるようですが、さすがに自分の口座からインドネシアの自分の口座への送金であれば、特に税金が課せられることはないと思います。