オムニバス法は労働法の改正と、法人税引き下げによる事業継続支援の2つが柱ですが、外国人によるアパートの所有権が認められるかどうかも注目されていますが、直ちに外国人によるアパート投資需要を喚起するために不動産バブルのリスクを伴う改正がなされるとは考えにくいと思います。 インドネシアは不動産価格暴騰を防止するために外国人名義での所有権を認めていませんが、近年の国内中間層の拡大に伴う不動産需要の高まりによりジャカルタ周辺部の不動産価格は値上がりを続けています。 続きを見る
インドネシアの不動産
オムニバス法を構成する雇用創出法とオムニバス税法
去年の10月頃からジョコウィ大統領が法制化を目指していたオムニバス法案(UU Cipta Kerja=雇用創出法)は約1年間の審議の末、先週10月5日に国会にあたるDPR(Dewan Perwakilan Rakyat=国民議会)で可決されましたが、インドネシアの各地で反対デモが繰り広げられ、僕は先週8日は朝から外出し昼過ぎに西ブカシに到着したものの出口付近が大混雑、1時間以上車列の中で粘ったものの空腹と腰痛に耐え切れず途中で折り返しJ.COドーナッツに退避したところ、窓の外の正面にデモ隊が到着していました。
特定の政治団体や組織が日当を出してデモ参加者を募るのはインドネシアに限った話ではありませんが、今回のデモでは平和裏に行われていたデモの中から突然暴力行為や破壊行為を始める者が現れ、中には特定大学のジャケットを着たまま破壊工作に関与したデモ参加者が、実際は該当大学に在籍していないなど、明らかに背後で煽動する組織があるように思えましたが、僕が退避していた建物の前でもひとしきり騒ぎまくったデモ隊が一斉にトラックに乗り込み撤収する場面がありました。
(2020年10月13日追記)
プラボウォ・スビアント国防相は今回の破壊行為は、混乱を引き起こすことを望む特定の政党によるHoaks(フェイクニュース)に煽動されたもので、背後に外国からの干渉があるのではないかと疑っていると述べました。

オムニバス法は雇用創出法 (CiptaKerja)に関するものと租税 (Perpajakan)に関するオムニバス税法の二本立てで構成される制度をまとめて(オムニバス)一括改正しますが、オムニバス税法にについては法人税を現行25%から20%まで引き下げ、PPN報告遅れの罰金を2%(年利24%)から1%へ引き下げるなど、海外企業のインドネシアへの進出というよりも、事業継続にとっての規制緩和であり歓迎される内容です。
(10月14日追記)
スリ・ムルヤニ財務大臣はオムニバス税法により、外国人への課税規定が条件付きで変更となることを明らかにし、個人課税対象の規定が従来の「全世界所得課税」から「国内所得課税」に変わることで、外国人の国外所得に関してインドネシア到着後4年間は非課税となります。
今回のデモの原因である雇用創出法は、日本の新聞で外資誘致法と書かれるように、外国企業によるインドネシアへの海外直接投資(FDI=Foreign Direct Investment)を阻害する要因だった雇用環境の改善(労働者にとっては改悪)により「毎年290万人の雇用を生み出す」ことを目的としており、インドネシア労働法の2大聖域とも言える退職金の減額(現行最大32カ月分⇒ 最大25カ月分)と経営側の裁量による最低賃金の設定(国の実質経済成長率とインフレ率の和 ⇒ 経営側が各州の経済成長率またはインフレ率に沿った最低賃金を設定)が盛り込まれています。
インドネシアの雇用関係のすべては労働法UU No 13 Tahun 2003(労働に関するインドネシア共和国法律2003年第13号)に基いており、解雇の正当な理由があったとしても、労働法に定められた退職手当(uang pesangon)勤続功労金(uang penghargaan masa kerja)受け取るべき権利喪失の保障(uang penggantian hak yang seharusnya diterima)を支払う義務があり、外国資本にとっての長年の最大のネックであった本丸の一部に、ついに手が付けられようとしているのは歴史的出来事なのかもしれません。
この法律の是非について外国人の僕がとやかく言うことではありませんが、インドネシア人労働者にとっては外資規制緩和という名の元で既得権益の侵害と受け止められるのも仕方がないのかもしれません。
外国人はアパートの所有権が与えられるのか?
今回のオムニバス法は、174の条項が1000ページ以上に渡って記載されており、中身をすべて精査するのは大変だと思うのですが、この中の第144 (1)項には「許可を受けた外国人がアパートユニットの所有権(hak milik atas satuan rumah susun)を持てる」という記載があり、もし所有権が認められれば外国人への不動産市場開放の第一歩になります。
現在インドネシアの土地所有形態は以下のように分類されます。
- Hak Milik(所有権)
インドネシア国籍者のみ - Hak Guna Bangunan(建築利用権)
会社名義の不動産はほとんどがこれで有効期間30年+20年延長可能。 - Hak Pakai(使用権)
定期借地権付き住宅で有効期間25年+20年延長可能であり、在住外国人名義(年間183日以上滞在のKITASホルダー)での不動産所有はこれしかない。 - Hak Guna Usaha(事業利用権)
大型事業用地で可能であり、有効期限35年+25年延長可能。
外国人が個人名義で土地を購入する場合は、オーナーやビル管理会社と25年~30年の賃貸借契約を結ぶことで土地の上にある建物に対して設定された使用権(Hak atas tanah)を取得するしかなく、完全なるフリーホールド(Freehold)である所有権(Hak Milik)で所有することを認められておらず、賃貸権であるリースホールド(Leasehold)として、契約期間中は排他的に当該土地を占有し使用することができます。 インドネシアのアパート投資では購入価格の10分の1の年間賃料10年間貸してインカムゲインを享受した後で、売却によるキャピタルゲインを狙うのがよいとされてきましたが、不動産価格の高騰と価格上昇率の低下により、今では20分の1の賃料で15年間貸して売却するのが現実的ではないでしょうか。 続きを見る
ジャカルタ近辺での不動産投資と一戸建て住宅購入 【インカムゲインとキャピタルゲイン】
アパートユニットには土地はありませんが区分所有権(Strata title)が設定されるため、今回のオムニバス法の第144 (1)項が完全な区分所有権である可能性は低いとはいうものの、この区分所有権に対しても使用権が設定出来るという意味であれば、外国人向け投資用物件販売という新しい市場が生まれる可能性があります。
現在のインドネシアのアパートのほとんどが区分所有権または建築利用権であり、今後建設されるアパートは外国人への使用権設定を前提とした区分所有権での販売が増えていくのかもしれませんが、インドネシアの法律は頻繁に法改正することを前提として草案のまま可決される傾向があり、オムニバス法自体が国民の反応を見ながら法改正(修正)を加えて行くことになることが予想されるため、直ちに外国人によるアパート投資需要が期待できるとは考えにくいと思います。