MRT開通後もインフラ整備と都市開発が進むジャカルタ

2020/09/01

ジャカルタのMRT

ジョコウィ現大統領がジャカルタ州知事時代に、副知事のアホック氏と一緒に政治的に建設開始を決断した大量高速交通MRTが正式開通しました。地下駅舎を先に作って、シールド採掘で駅の間を地下トンネルで繋げていく工事は日イ共同事業体で行われました。

ジャカルタではMRT地下鉄第2期工事が開始され、2024年の首都移転に伴い沿線の大統領宮殿を含む政府関連施設が保護区や博物館になり、ジャカルタの歴史的魅力を押した世界的観光地になる可能性があり、都市開発による経済発展を現在進行形で体感できます。

スナヤン競技場(Gelora Bung Karno)

インドネシアの政治・経済・社会

日本人のインドネシアについてのイメージはバラエティ番組で活躍するデヴィ・スカルノ元大統領夫人の知名度に依存する程度のものから、東南アジア最大の人口を抱える潜在的経済発展が見込める国という認識に変遷しています。

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MRT工事着工から正式開通までの道のり

着工から5年半、今月2019年4月1日にジャカルタに大量高速交通MRT(英語のMass Rapid Transitまたはインドネシア語のModa Raya Terpadu)南北線がついに正式開通しました。

2019年5月8日に東京FMのON THE PLANETという深夜番組に電話で出演させていただき、首都移転とMRT開通についての現地の様子について説明させていただきました。

ジャカルタMRTのルート

MRTJakartaのサイトより

大統領選挙の直前に滑り込みセーフできっちり間に合わせるという絶妙のタイミング、ちょうど今頃インドネシア人は投票所に行っている最中だと思いますが、少なくともジャカルタの有権者にとってジョコウィ氏の評価が上がったことは間違いないと思います。

しかし工事着工当初は、多くの人がMRTプロジェクトって本当に最後まで終わるの?また途中で頓挫するんじゃないの?と疑心暗鬼だったのは、現在でもKuninganのRasuna Said通りやSenayanのAsia Afrika通りに残る、2004年に着工し2014年中止が決定されたモノレールプロジェクトの朽ち果てた支柱を日常的に目にしていたからです。

スティヨソジャカルタ特別州知事時代に決定されたモノレールプロジェクトは、2004年にAsia Afrika通り、2005年にRasuna Said通りで着工されたものの、2006年に出資者が決まらず中断され、2007年のファウジ知事、2013年のジョコウィ知事ともにプロジェクト再開を模索したものの、結局2014年のアホック知事になって完全中止、残された支柱の残骸はモノレール建設を請け負っていた国営建設会社Adhi Karyaが撤去することになっています。

朽ち果てた支柱の残骸の所有権を有しているAdhi Karya社は、現在進行中のLRT(英語のLight Rail Transitまたはインドネシア語のLintas Rel Terpadu)プロジェクトを請け負っています。

モノレールの支柱の残骸を尻目に進むLRT工事

モノレールの支柱の残骸を尻目に進むLRT工事

今回のMRTプロジェクトの最大の見所はなんと言っても、Bundaran HI駅からSenayan駅までを結ぶ6区間の地下鉄部分のシールド工法による掘削工事であり、2017年2月にSetiabudi駅でジョコウィ大統領とアホック知事(Basuki Tjahaja Purnama 通称Ahok)が貫通の瞬間に立ち会いました。

このときまさかその3ヶ月後の5月にアホック知事が宗教冒涜罪と公共の場での憎悪表現(選挙運動の集会で『イスラム教徒はコーランを使って惑わされているから、私に投票できない』と発言)の罪で「禁固2年、即時収監」の判決を受けるとは想像できませんでした。

今回のMRTプロジェクトは2013年8月着工ということですが、当時僕はBundaran HI駅前のオフィスビルで仕事をしており、日々変化していく工事の様子を間近に眺めていました。

しかし柵が作られ、側溝が掘られ、陸橋が外され、重機が穴を掘るという工程が具体的に何を意味しているのかさっぱりわかないまま、いつの間にか2014年には地下駅舎の掘削工事に突入していました。

  1. 着工: 2013年8月に着工。
  2. 掘削開始: 2015年10月にBundaran HI駅からシールド掘削機2機が南下、南坑から2機がSenayan駅方面に北上開始。
  3. トンネル貫通: 2017年2月に南下するシールド掘削機2機と北上する2機がSetia Budi駅まで貫通。
  4. 試乗開始: 2019年3月に試乗開始。
  5. 開通: 2019年4月に正式開通。

Bundaran HI、Dukuh Atas、Setiabudi、Benhil、Istora、Senayanの6地点でコンコース階とプラットフォーム階から構成される地下駅舎を先に作って、シールド採掘で駅の間を地下トンネルで繋げていくという作戦で、Bundaran HIから南下する2機の掘削機とSenayan南の南坑から北上する2機の掘削機は、それぞれ別の日イ共同事業体で行われました。

  • 南下チーム:三井住友建設・Hutama Karya
    Bundaran HI⇒Dukuh Atas⇒Setiabudi
  • 北上チーム:清水建設・大林組・Wika Jaya
    南坑⇒Senayan⇒Istora⇒Setiabudi

ジョコウィ現大統領がジャカルタ州知事時代に、副知事のAhok氏と一緒に政治的判断として、30年前から計画されていたにもかかわらず延期され続けてきたMRT建設を決定したのが2012年とのこと、2014年10月には大統領選挙に勝利、そして今日4月17日(水)が2期目の大統領選挙、ジョコウィ大統領は時流に乗るのがうまい「持っている人」だと思います。

着工当時は対面のPlaza Indonesiaに昼飯食べに行く際に渡る陸橋の上から、眼下で日々着々と進み行くMRT建設の様子を写真に撮っていました。

2013年10月
日本大使館前の歩道橋からHI広場方面から北上する労働者デモを写したものです。まだ工事の様子はうかがえません。

Thamrin通り北方面、デモ隊に封鎖されてます。

2014年3月
日本大使館前のフェーズ1の始発駅となるBUNDARAN HIの地上部分で何か工事が始まりました。あれからもう5年とは感慨深い。

MRT工事中のThamrin通り。

2014年5月
同じ場所から撮影しているので手前の植木の葉が随分増えています。この頃は本当にMRTが最後まで完成するのか疑心暗鬼でした。

ThamrinのMRT工事着々と、、、進んでないか。。。

2014年6月
2週間後に植木が開花、白のブーゲンビリアでした。まだ地下駅舎の空間は空いていないはずだが、溝のようなものは排水設備か?

MRT工事進捗状況。排水用か土台用に溝を掘っている。

2014年7月
かつてのモノレール建設計画頓挫という前科のトラウマからMRTも二の舞になるのではという不安を誰もが持っていたと思います。

MRT建設工事、最近ピッチ上がってます。

2014年7月
SBY大統領2期目の後のジョコウィ氏とプラボウォ氏の大統領選挙を10月に控え、結果次第で工事中止になるという噂がありました。

HI広場方面のMRT工事状況。選挙結果が計画にどう影響するのか気になるところ。

2014年7月
日イ両国の国旗とともに、三井住友建設とHutama Karyaの地下駅舎建設とシールド掘削南下チームの旗がなびいております。

Hotel Pullman前、このMRT建設に関しては日本の支援を控えめながらキチンとアピールしているみたい。日の丸と三井住友建設の旗がなびいてます。

2014年8月
シールド工法(掘削機を地中に掘進させ土砂の崩壊を防ぎながらトンネルを築造していく工法)が始まる2014年10月の2ヶ月前。

「10mおきにびっくりマークと工事中標識が並んでいるのは壮観だ」というどうでもいい独り言であれ、なかなかアップされないとどうも気持ちが悪いので何度もトライしているなう。

2015年6月
掘削機は毎月約300mずつ進み1年4ヶ月で貫通しているので、中盤過ぎたこの頃にはDukuh Atasくらいまで到達しているはず。

給与体系が上がっているとはいえ、なんでみんな車買えるんだろか?車を手放すのがトレンドの日本と正反対。

MRT地下鉄第2期工事が開始

ジャカルタでは、2019年4月にMRT地下鉄の第1期区間(総延長15.7km)が正式開通しましたが、コロナ禍の中にあった今年6月に、現在の始発駅であるPlaza Indonesia前のBendaran HI駅から、北ジャカルタのKotaまでの6.3km、西ジャカルタのAncolの車両基地までの5.2kmの総延長11.5km(10個の新しい駅)を第2期区間として工事が開始されました。

ホテルサリパンパシフィック前に建設される予定のThamrin駅周辺の地質が柔らかく、地盤沈下のリスクが高いため第1期工事よりも難しいといわれており、駅建設工事にあたってタムリン時計塔(Tugu Jam Thamrin)がバンテン公園(Taman Banten)に移されるなど、ルート沿線には文化遺産(cagar budaya)が多数あるため、破損等の影響が出ないように地下鉄建設前に十分なシミュレーションが必要だとされています。

ホテルサリパシの北でMRT第2期のThamrin駅工事が始まっている。tugu jam Thamrinはtaman Bantenに移設されるそうです。

既に開通している第1期ルートは中央ジャカルタから南ジャカルタという都市開発が進んでいた地域ですが、第2期の北ジャカルタと西ジャカルタ方面は昔の街並みの面影を残す旧市街地を通るため、古いものと新しいものを融合させた公共交通指向型都市開発(Transit Oriented Development=TOD)が期待されている地域です。

MRTジャカルタ第2期工事ルート(MRT Jakartaのサイトから)

そしてインドネシアは首都ジャカルタを2024年に東カリマンタン州に移転する作業を開始する予定となっていますが、これにより第2期ルート沿線の大統領宮殿を含む政府関連施設が保護区や博物館になり、ジャカルタの歴史的魅力を押した世界的観光地になる可能性もあるわけです。

インドネシアのオラウータン

インドネシアの首都ジャカルタのカリマンタン島への移転計画

インドネシアは東カリマンタン州バリクパパンまたはサマリンダ近郊のクタイカルタネガラ県と北プナジャムパスル県の両県にかかる地域への政府機関の移転を2024年中には開始する予定です。自然災害が少ない、国土の中央に位置する、地方都市近郊に位置するなどが選定の理由です。

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現在進行形で経済発展を体感できるのがジャカルタの魅力

インドネシアは世界第4位の人口2億7,000万人を抱え、そのうち若年層が50%近くを占める潜在的経済成長率が最も高い国の一つであり、なかでもジャカルタ近郊を含む都市圏人口は3,120万人と、東京都市圏に次いで世界第2位のメガシティを形成しています。

MRT Fase2A(HI広場前~Kota Tua)のSegment1(モナスまで)の進捗16.5%。
■2021年10月ボーリングパネルが日本から到着
■2022年掘削開始
■2025年5月Segment1完了
■2027年8月Fase2A完了
2024年に首都移転開始後にルート沿線の政府関連施設が保護区や博物館になりモナス駅周辺は世界的観光地になる可能性あり。

数年前までは日本人にインドネシアについて聞いても、デヴィ・スカルノ元大統領夫人くらいしか知名度がありませんでしたが、今では東南アジア最大の人口を抱える潜在的経済発展が見込める国という、経済面でも注目されるようになったことはインドネシアで仕事をする身としては嬉しい限りです。

LRT Jabodebekの始点駅Dukuh Atas付近の工事の状況(2019年4月)

MRT工事以外にも高層ビル建設、幹線道路の高架化とアンダーパス化が急ピッチに進んでおり、将来は東南アジア経済の中心ハブ都市に成長する可能性を秘めており、何か歴史が日々刻々と動いていくダイナミズムを肌で感じているようでもあり、この現在進行形でアジアの経済発展を体感できることがジャカルタの魅力と言えるかと思います。

MRT Blok A駅って降りたことないけど、周辺は日本の街の雰囲気に似ているそう。駅舎と商店街の距離感からそう感じるのかな。「海外と似ているジャカルタの8つの場所」の一つとしてここを選ぶセンスは渋いと思うけど。

MRTが駅舎も含めて三井住友建設・清水建設・大林組などの日系ゼネコンを中心として建設されたことも影響しているものと思われますが、MRT駅周辺からはなんとなく関東近郊の私鉄(個人的には東武東上線のイメージ)の駅の雰囲気を感じてしまいます。

そんなジャカルタが社会、環境、経済の空間のまとまりとして、機能的で住みやす都市空間に発展するための重要課題と言われているのが渋滞解消と洪水防止です。

ジャカルタ

洪水防止と渋滞解消を実現するインドネシアの地域空間計画

ジャボデタベック-プンジュール地域を社会、環境、経済の空間のまとまりとして、機能的で住みやす空間構造に整備するというインドネシアの長期国家計画で検討すべき課題として洪水、水源の利用可能性、衛生とゴミ問題、沿岸および島の埋め立ての問題 、渋滞、首都移転の6つが挙げられています。

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都心部と郊外住宅地域を結ぶ慢性的な渋滞解消のために、電車KRL(Kereta Rel Listrik)、軽量軌道交通LRT(Light Rail Transit)、大量高速交通MRT(Mass Rapid Transit)、空港鉄道KA(Kreta Api Bandara)などの鉄道ベースの大量輸送インフラ整備が行われており、地盤沈下による洪水問題はジャカルタ近郊の上流山岳部の水源エリア、中間の集水域としての緩衝エリア、下流のエ耕作地エリア、沿岸部の養殖保護エリアとしてそれぞれ役割を持たせ、貯水地を整備することによる治水を強化しています。

ジャカルタLRT

ジャカルタ市内と郊外を結ぶLRTとKRL Commuter Line

ジャカルタ中心部ドゥクアタスから南のチブブールと東のブカシを結ぶ軽量軌道交通LRTと、西ジャカルタのコタ駅からチカランまでを汽車ではなく電車(Kereta Rel Listrik)で結ぶKRL Commuter Lineの建設プロジェクトが進行中です。

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交通インフラ整備が刻一刻と進行し、首都移転を控え変化し続ける現在の首都ジャカルタでITビジネスを展開(拠点は西ブカシ)できるのは大変貴重な経験であり、日本の名目GDPを追い抜くと言われている10年後の2030年あたりが、官民一体となって経済発展に邁進するインドネシアの国家政策の答え合わせが出来る時期ではないでしょうか。