インドネシアのビジネス環境

仕組みが理解できるとは現場の動きが想像できるということ【IT化が進んでも簿記の知識が役立つ理由】


「IT化が進めば業務の理解に時間を費やす必要はなくなるのか」という最重要問題意識

「会計業務がシステム化された今、簿記の知識は必要なのか?」という問いは「IT化が進んでいけば業務の本質を理解するために時間を費やす必要はなくなるのか?」という、業務システムの開発、導入を生業とする自分にとっては非常に重要な問題意識に言い換えられます。

これまでシステム化が進んでも業務には「売上や費用の計上日はいつにするのが妥当か?」「購入後に景気の波に合わせて稼働と非稼働を繰り返してきた機械の評価額はいくらが妥当か?」など、会社の事情によって判断に迷うイレギュラー処理が発生するため、関係者間での議論と調整が必要になる場面が多々あり、これが完全自動化の阻害要因となっていました。

これは取得価額(原価)と現在評価額(時価)という二面性に対する判断基準が統一されていない中で、会計ソフトや帳簿という2次元の世界で、時間の概念を考慮しながら評価し物理的に目に見えない取引仕訳を起こす難しさに起因していたのですが、インドネシアの会計基準であるPSAK(Pernyataan Standar Akuntansi Keuangan)が世界標準であるIFRS(国際会計基準)に準拠したことによって、会計処理に議論の余地が少なくなりました。

インドネシアの銀行のATMカードはそのままデビットカードとして機能する上、GoPayやOVO、ShopeePayなどキャッシュバックやポイント特典のついた電子決済手段が浸透しているため、僕も日常生活で現金払いする機会はほとんどなくなりましたが、企業で発生する取引もすべてがキャッシュレス化され、銀行口座と連携して自動仕訳や口座とシステムの自動照合チェックができるシステムの使用が標準になると、経理業務は完全に自動化され、営業や購買など他のバックオフィス業務も自動化が進んでいくはずです。

そうなった場合、部署単位の業務が自動化された後に必要な知識とは、組織としての会社全体の運営の仕組みであり、具体的には「モノと金額とキャッシュの動き」であり、これが業務の本質と言えるかと思います。

仕組みの理解とは想像力が働くということ

簿記で学べることは、仕訳が元帳転記されて試算表に集計された科目ごとの金額をB/S(貸借対照表)科目と損益計算書(P/L)科目に分けたとき、双方に発生する差額が一致するという複式記帳法(Double-entry bookkeeping)の本質であり、いきなり財務諸表の読み方だけを理解したのと、財務諸表に載ってきた数字がどのように発生してきたのかから理解しているのとでは、モノと金額とキャッシュの動きの想像力が違ってきます。

例えば僕は今日ShopeePayにRp.300,000トップアップし、ACEにて電球を購入しShopeePayで支払ったことでポイントが溜まり、KOI CafeからGoFoodしてGoPayで支払うときにポイントを使って値引きを受け、PLNの電気料金トークンRp.500,000を購入しBCAモバイルバンキングから支払いました。

  • BCAのVirtual AccountでShopeePayにトップアップ
    Dr. 預け金-ShopeePay Rp.300,000      Cr. Bank BCA Rp.300,000
  • ACEで電球を購入しShopeePayで支払い
    Dr. 雑費 Rp.79,600      Cr. 預け金-ShopeePay Rp.79,600
  • KOI CafeからGoFoodしGoPayで支払い
    Dr. 飲食費 Rp.29,000         Cr. 預け金-GoPay Rp.18,000
                      Cr. 雑収入-GoPayポイント Rp.11,000
  • PLNの電気料金のトークンを購入
    Dr. 前払費用-光熱費 Rp.500,000       Cr. Bank BCA Rp.500,000

今日ShopeePayで溜まったポイントはいつか使用して雑収入として還元されるわけですが、支払う場面では得したと感じても、今日の何をどうやって買ったかなど忘れてしまった月末に、BCAの口座取引履歴とGoPayとShopeePay残高をチェックしただけでは、モノと金額とキャッシュの動きの関連性が想像しにくいはずです。

簿記を勉強していなくても財務諸表の仕組みは理解できるが、簿記を勉強していれば現場での動きが想像できるようになる、つまりモノと金額とキャッシュの動きが想像できるようになると会社運営の仕組みも想像できるようになるということです。

よく「学生時代に何を勉強しておくべきか」という話題で英語以外に会計が挙げられるのがこういう理由であり、最近ではプログラミングが挙げられるのも同様の理由であり、別にIT関連の仕事に就かなくとも、すべての世の中の仕組みがIT化されている今日、目に見えるハードウェアを制御するプログラムのメカニズム(情報処理試験でシステム工学に該当するもの)を知っていれば、世の中の動きを想像できるようになるということだと考えます。





おすすめ記事一覧

大統領選挙で考えたギャップにハマるということ 1

ギャップにキュンとするというのは人間の本能みたいなもので、ジョコウィの私利私欲のない素朴なおじさん像と、その実強力なリーダーシップを発揮する実務派という内面が、一見普通の人だが実はスゴイというギャップ好きのインドネシア人に大ウケして、大衆は一種の集団催眠状態にあるようです。

情報の質のレベル 2

見える化された結果を共有化することで問題点が共通認識されますが、共有化が進むことで情報の持つ希少価値が薄れて困る人間がいる場合、有益な情報を独占することでポジションを高めようという政治力が働きます。

インドネシアのスタバの店員にありがたい人生の教訓を教わった件 3

いつものスタバでいつものアイスコーヒーを注文していると、だいたいなじみの店員が「今日は珍しい時間に来たねー」とか「今日もいつものアイスでいいのかなー」とか馴れ馴れしくフレンドリーに話しかけてきます。

宗教によって異なる「死んだらどうなる」の考え方 4

キリスト教もイスラム教もともにユダヤ教から派生した宗教であり、それぞれイエス・キリスト(本人が神)またはアッラーという唯一無二の神を信じます。

株価操作なんてインドネシア株では当たり前 5

株価は売り注文と買い注文により変動し、大量の売り注文を買う注文がたくさん入れば、他の投資家達は「俺も俺も」と続くことで株価が上がります。

心臓に毛が生えたインドネシア人のずうずうしい転職活動を応援してみた 6

インドネシア人は秘密の話は誰かに暴露しないと精神の安定を保てない人が多いため、内緒の話に情報の希少性は少なく信憑性も低いことが多いので、「ここだけの話」という枕詞付きで聞かされる話は話半分に聞いておいたほうがいいかもしれません。

日系企業のインドネシアでの存在意義 7

今のまま日本の人口減が続けば、内需は縮小の一途をたどるわけで、そうなると日本国内市場だけで生き残るのは難しいと判断する国内企業が、海外市場に活路を見出そうとするのは必然です。

チャンスはあるが勝てる分野を見つけるのが難しい 8

実際にインドネシアに住んでみて、自分で動いて人と話しをして、現地の事情を少しずつ理解していくにつれて、インドネシアで起業することが意外と手強いことに気づき、その難しさの原因は、高い送料と関税であったりローカル企業との競争であったり、就労ビザ(IMTA)や外国人技能開発基金(DPKK)などのランニングコストの高さであったりします。

インドネシアのシステムインテグレーション業界 9

先日JETRO(日本貿易振興機構)さんと、インドネシアの中小企業のIT投資について意見交換させていただく機会をいただいたのですが、そこで「システム投資のコストメリットはどのように説明できるのか」という、システムインテグレーターの存在価値にも関わる重要な問題提起がありました。

肉体と精神と心と魂 10

「Body and Soul」といえば、昨日の内閣改造に伴う人事で内閣府政務官に内定した自民党の今井絵理子参議院員がメンバーだったSPEEDのデビュー曲であり、インドネシアの老舗女性ファッションブランド名でもあります。

ジャカルタのラーメン市場 11

僕がインドネシアに初めて来たのが1997年10月、インドネシア語は分からないし、仕事は辛いし、周囲の人間は理不尽だし、一時期日本に帰りたくて仕方がない時期がありましたが、当時自分をかろうじてインドネシアに繋ぎ止める心の支えとなっていたのが、協栄プリンスビル(今のWisma Keiai)の日本食レストラン「五右衛門」であり、ここでキムチラーメンを食べることが唯一の楽しみと言っても過言ではありませんでした。

ブランド力、技術力、資金力の3要素 12

1998年のジャカルタ暴動後、ルピアが暴落し海外からのドル建て債務を抱えた国内企業が利子の支払いに苦しんでいた頃、僕は外貨が獲得できるインドネシアでの新しいビジネスを探していました。

日本とインドネシアの間でのタイムマシン経営が通じなくなっている件 13

先進国と後進国との間にある流行のタイムラグを利用して、先進国での成功例を後進国で実践するビジネスモデルをタイムマシン経営といいますが、インターネットの普及に伴い情報がフラット化してしまい、モノと情報のタイムラグが限りなく小さくなった今、先駆者である中小零細同業他社が乱立し市場が出来上がったところに、後発の大手が参入し先発零細を駆逐していく、という典型的な負けパターンにはまります。

サリナデパートとマクドナルド 14

本日5月10日を最後にインドネシアのマクドナルド第1号店であるサリナデパート店(Sarinah)が閉店になりますが、ジャカルタのショッピングモールが新しいコンセプトでモダンにリニューアルされ続ける中で、僕がインドネシアに来たばかりの20数年前には、若者の待ち合わせ場所の定番でもあったサリナデパートやブロックMのパサラヤ(Pasaraya)などは完全に時代に取り残されてしまいました。

不景気の歴史 15

僕がインドネシアに来てからこれまで何度か経済不況を見てきましたが、今回の新型コロナウィルスの感染拡大により、間違いなく景気後退しますので、数年後にはこれがコロナショックとかコロナ不況とか呼ばれるようになるのかもしれません。

日本のバブル経済崩壊後とインドネシアの通貨危機後 16

自分が大学に入学したのがバブル経済末期の1991年、土地も株価もMAX爆上げして、三菱地所がアメリカの象徴であるロックフェラーセンタービルを買収し、ジュリアナ東京でワンレンボディコン(登美丘高校ダンス部のバブリーダンスみたいなやつ)のお姉さん達が扇子振って踊っている時期でした。

内需と外需の自国経済に及ぼす影響 17

公共事業投資を行っても、お金が企業内や個人の貯蓄に滞留してしまい国内消費が増えないのが日本の状況であり、国内消費は増えても消費材の輸入品比率が高く、国内資産が海外に流出しているのがインドネシアの状況です。

2019年の総選挙を前にインドネシア政治史のおさらい 18

来年の大統領選挙(Pemilu Pilpres Pileg Indonesia 2019)に向けての選挙運動(Kampanye)を解禁するにあたり、投票用紙に印字される順番はジョコウィ現職大統領・マフル副大統領候補組が1番、プラボウォ大統領候補・サンディアガウノ副大統領候補組が2番と決まりました。

コーヒーをもっと楽しくもっと美味しく 19

インドネシアは北回帰線と南回帰線をはさむコーヒーベルトに位置するコーヒー栽培に適した国で、1602年の東インド会社の進出を契機にオランダの植民地支配が300年以上続き、その間アラビカ種のコーヒーが持ち込まれ、気候のいい高原地帯で栽培が開始されました。

インドネシア人の悪魔祓い 20

人間誰しも自分の中に悪魔が潜んでおり、それが何らかのきっかけで表面に出て来るという考え方自体には、背景に宗教が有るか無いかの違いだけで、基本的に理解できる話であり、それを信じるか信じないかは別として、そういう考えがあることを認めることは大切なことだと思います。

-インドネシアのビジネス環境

© 2020 バテラハイシステム Powered by STINGER