材料が材料倉庫に入荷してから製造工程で加工されるまでの生産活動と、製品倉庫以降の販売活動をカバーするのが生産管理システムであり、材料が製造工程に投入された時点で材料費と加工費という発生費用となり、製品になった時点で製造原価化し、出荷した時点で売上原価化する、一連の原価の流れを管理するのが原価管理システムです。
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生産管理システム
生産管理業務は工場ごとに異なり、システムの開発導入も一品一様にならざるを得ず、工数が嵩みがちです。結局のところシステム導入の成否は、顧客の利益を優先しシステム導入効果を感じて欲しいという熱意であり、ある意味精神論に帰結します。
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要件を定義してシステムの仕様を決める
生産管理システムの導入にあたって、現場の作業の動きに対してシステムからどのように指示を出し実績を記録していくか、というシステムの運用フローを確定する要件定義というフェーズがあります。
インドネシアの現地法人へのシステム導入の場合、日本本社の情報システム部を中心とした日本サイドと、インドネシア現地で導入を担当する日本人(僕らのこと)の間ですべての要件を決めてしまい、現地のインドネシア人のスタッフに「はい、我々日本人がちゃんと考えて設計したシステムをどうぞ使ってください」というトップダウンのパターンと、各部門のインドネシア人を交えて喧々諤々の意見交換を重ねながら最大公約数的仕様を模索するインドネシア伝統ムシャワラ(話し合いで合意を得る)型に大別されます。
- トップダウン型
グループ全体で標準仕様を持たせたいために日本主導の要件定義になる。 - ムシャワラ型
インドネシア人スタッフが使うシステムだから現地で納得いくまで話合って全員一致を目指す。
前者の場合日本サイドとインドネシア現法の駐在日本人の強力なリーダーシップがあればうまくいくのでしょうが、そうでない場合や現法の資本関係でパートナーサイドから派遣されたスタッフが幅を利かせている場合、インプリメンテーション(要件定義後のシステムを運用に落とし込むこと)のフェーズになって猛烈なブーイングを食らうことになります。
「インドネシアではこんなやり方はしない」「マスタの数字がおかしいがこれは日本人が勝手に決めたから知ったこっちゃない」とかならまだかわいいほうですが、「こんなシステム導入に大金をかけているから俺たちの給料が上がらないんだ」という変な空気が漂いはじめ、現場を歩くたびに軽く殺気を感じたことは一度や二度ではありません。
システムの仕様が現場で実体化される
すべてはこの会議室でのミーティングで決めた要件定義がベースになるのですが、システムの標準機能で足りないギャップの部分をアドオン開発し、完成したシステムの操作説明会やトレーニングの中で、現場スタッフの生の声を聞きながら仕様変更や追加開発などの微調整を加えていき、システム運用の始まりから終わりまで通しで部門担当者ごとにデータ入力する運用リハーサルの中で、実際の運用にあたって必要になってくる部門間の連携の仕方を確認します。
そして現場での人とモノの動きに合わせてシステムから指示(移送指図・製造指図・出庫指図・ピッキングリスト)を出し、実績を入力していくインプリメンテーションのフェーズにて、幽体離脱していた魂が肉体の戻るかのように、これまで積み重ねてきた机上の理論が実体化されていく感覚、業務システム導入の仕事にやりがいとか楽しみを見出すとすればまさにこの瞬間だと思います。
ただし運用の際には要件定義の中で想定していなかったトラブルが発生したり、想定はしていたものの運用に与えるインパクトが想定よりはるかに大きかったりする場合には、現場の人間に大きな負荷をかけるマニュアル作業が発生し、せっかく稼動しかけたシステムの運用を阻害します。
例えば現品票を発行するラベルプリンターが故障すると、シール方式のラベル専用用紙ではなく通常の複合機からA4の紙でラベルを出力し、セロテープで現品に貼り付けてどうにかその場をしのがざるを得なくなりますが、広い倉庫の中をセロテープとカッターを持ってA4サイズのラベルを現品に貼り付けていく作業は大変です(経験談)。
生産管理システムのインプリメンテーション作業
実地棚卸に基づく在庫の反映と該当倉庫の場所への在庫移動
生産管理システムの運用開始にあたって最初にやるべきことは実地棚卸に基づく在庫情報のシステムへの反映であり、製造業であれば材料や資材の在庫数量と場所を確定してからはじめて「何月何日の生産からシステムで製造指図を発行しよう」という次の予定が決まります。
既に倉庫に実在する在庫すべて現品票を貼り付ける方法は2通りあります。
- 棚卸入庫したすべてのロットに対してロット検査を行い現品票を発行
- 発行済みP/Oをバックデートで入力し入荷処理後の受入検査を行うことで現品票を発行
製造指図で引き当てられた該当するロットの材料や資材は出庫指図としてリンクされ、倉庫からの払出を行う際に現品票にあるバーコードをスキャンすることで出庫実績を計上しますので、バーコードには最低でも品目コードとロット番号が含まれる必要があります。
QC部門によるロット検査や受入検査で発行された現品票が貼り付けられた現品を、倉庫の所定の棚に格納するために移送指図を発行しますが、その際の棚番号は倉庫の中で現品を移動する際に棚に貼ってあるバーコードをスキャンすることで移送実績の中に計上させます。
受注情報からMPSを作成しMRPをまわすことで製造指図を発行
現場の在庫とシステム上の在庫が一致してからはじめて、受注情報から基準生産計画(Master Production Schedule)を作成し、MRPを回すことで製造現場の生産バッチサイズに合う製造指図をシステムから生成しますが、この際現場の担当者から問われるのは以下の2点です。
- 製造開始日が現状のリードタイムどおり手番ずらしされているか。
- 製造ロットサイズが実情に合致しているか。
マスタの精度が高まりシステムの運用が定着してしまえば、システムから出される製造指図に基づいて機械的に実務が行われるようになりますが、導入直後は逆に現場の運用どおりにシステムから製造指図が発行することが、システムに対する信頼性を得るため、つまり「このシステムは使えそうだぞ」と思わせるために重要になります。
出庫指図の発行と出庫実績の計上
現場では指示は製造担当者が出しても実績は倉庫担当者が計上したり、また指示と実績のタイミングも異なるため、生産管理システムでも基本的には2段階処理になります。
- 指図を発行し実績を計上(製造・出庫・移送)
- 情報を作成して実績を計上(P/O・検査)
上述のとおり出庫指図は製造指図にリンクして生成されますので通常は製造担当者が行い、倉庫から現品を製造現場に移動するのはフォークリフトを扱える倉庫担当者になりますが、出庫指図上で指定するのは品目コードとロット番号と数量のみであり、どの棚番から抜き取ったかは倉庫担当者が作業をする際に棚に貼ってあるバーコードをスキャンすることで移送実績の中に計上します。
- 倉庫への移動:指図でFrom「品目コード+ロット番号」とTo「倉庫」を指定し、実績でTo「棚番号」を計上
- 倉庫からの移動:指図でFrom「品目コード+ロット番号」とTo「倉庫」を指定し、実績でFrom「棚番号」を計上
投入実績と製造実績の計上
生産実績計上時にBOM(部品構成表)に設定してある標準必要量を自動投入するバックフラッシュ方式であれば、工場内にあるすべての現品は生産管理システムの品目コードで識別できますが、投入するタイミングと生産実績が上がるタイミングにズレがある場合、品目コードには集約されない工程在庫が現場に存在することになります。
- 品目コードのある仕掛品
- 品目コードのない工程内仕掛品
材料は入荷しただけでは費用化しませんが、加工費が上乗せされ仕掛品となった時点で会計上は当月発生費用(費用)となり、月末になっても製品になりきれず仕掛品として滞留していれば、仕掛品在庫(資産)に計上され、そして仕掛品在庫は製品となった時点で当月製品製造原価となり、月末になっても売れ残って滞留していれば製品在庫(資産)に計上されます。
材料倉庫と工場までが生産管理で製品倉庫以降が販売管理
生産管理システムの機能は大きく以下の3つに分類されます。
- 購買管理(材料倉庫)
- 製造管理(工場)
- 販売管理(製品倉庫)
そして場所で保管される現品が生産に関わるモノか販売に関わるモノかによって以下の2つに分類されます。
- 生産管理(材料倉庫と工場)
- 販売管理
製品の製造実績が計上されるタイミングで現品は生産場所から販売場所に移動し、ここから先は販売管理の範疇に属します。