インドネシアのビジネス

インドネシアの中小零細業者向けSaaSサービス【jurnalとmajooの機能比較で分かる在庫管理の設計思想の違い】

2021/08/07

インドネシアの中小零細事業者向けにSaaSサービスを展開しているjurnalとmajooの在庫管理機能の違いは、小売業向けか飲食業向けかの違いと言えます。また製造業向けシステムとは品目マスタに対する考え方が異なり、この違いが設計の違いとなってUI/UXに反映されます。

インドネシアの巨大な中小零細事業者向けサービス市場

2021年現在、インドネシアには871万件の中小零細業者UMKM(Usaha Mikro Kecil dan Menengah)が存在すると言われ、国内総生産PDB(Produk Domestik Bruto 英語でGDP)の60.3%を占め、総労働力の97%の生活を支えています。

UU Nomor 20 tahun 2008 tentang UMKMが定義する中小零細企業(Usaha Micro Kecil Menengah)の最大年間売上
1. Mikro: Rp300juta
2. Kecil: Rp.300juta-Rp.2.5M
3. Menengah:Rp.2.4M-Rp50M
2022年のUMKM数は871万件、インドネシアの中小向けB2Bはまだまだ手薄だと思います。

おのずと国内のみならず海外のITスタートアップ企業も、この巨大市場へのサービス展開を狙っており、POS(point-of-sale)・決済・デリバリーなどのフロントオフィス業務や、会計・人事給与・税務などのバックオフィス業務を支援するシステムを、SaaS型のサービスとしてローンチしています。

リテールや飲食店は数が多く入れ替わりが激しいので、今後も継続的な需要が期待されますが、現在のところSaaSサービスの数が絶対的に少ないため、今後もITスタートアップ企業によって、UMKM向けの新しいSaaSサービスがローンチされていくものと予測されます。

インドネシアの中小零細企業(UMKM)の数は全体の99%(大企業はわずか1%)、GDPへの貢献度は60%、労働力の97%を吸収する規模ですが、そのうちの90%が5年継続できず、理由の一つとして会計知識が無かったことが指摘されています。

主だったSaaSサービスとして、会計・販売・購買・在庫管理機能を実装するMekariグループのjurnal(Rp.449,000/月から)、インドネシアのUMKMの中のFnB(Food and Beverage)業界の65%にあたる30,000件で使用されているPOS+在庫管理のMoka(Rp.299,000/月から)、会計・販売管理・購買管理・在庫管理+POSという飲食業に必要なすべての業務をサポートするサービスをRp.129,000/月からはじめられるmajooなどがあります。

リテール・飲食業種向けSaaSサービスの在庫管理の特徴

僕は2005年から2007年まで、バリ島のデンパサールとサヌールでブティックをやっていた時期があるのですが、当時は仕入れた商品それぞれにコードを付けて、仕入値と売値と利益を右列に並べて表にして在庫管理をしていました。

そして現在、jurnalの試用ライセンスでシステム評価をしている最中ですが、モノの入庫に合わせて品目コードを付番し、仕入値・売値・利益・サイズ・仕入先などの必要な情報を追加し、在庫が掃けたら表から削除するという業務オペレーションを想定した在庫管理画面を見て、当時のブティックでやっていた在庫管理を思い出しました。

jurnalの在庫管理画面からインポート時に新規品目登録、既存品目の更新が可能。

もちろんリピート品に関しては在庫が0になってもコードを残しておいて、次の入庫のタイミングで同じ品目コードで管理してもいいのですが、服やアクセサリーなどは品目コード自体よりも、商品名・仕入先・仕様・仕入値などの属性のほうが管理上重要な指標となるため、同じ品目コードで管理し続けるメリットは少ないのかもしれません。

2020年4月にインドネシア最大の配車・決済サービスのGojekに買収されたMokaは、UMKMの飲食業界でのシェアを拡大しており、これに対して2019年に設立された後発のmajooは、低価格+高機能で差別化を図ろうとしており、Moka+jurnalで実現する場合に最低Rp.498,000/月かかる機能をRp.129,000/月~Rp.249,000/月で実現できるようです(価格表に基づくおおよその判断で詳細比較まではしておりません)。

インドネシアのクラウド型業務自動化プラットフォーム市場【フロントオフィス業務のGotoとバックオフィス業務のMekari】

インドネシアのSaaS業界はフロントオフィス業務を中心としてGotoグループが市場を拡大していますが、今後バックオフィス業務プラットフォームとの統合がある場合、クラウド会計jurnalを擁するMekariグループが有力な候補と言えます。

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jurnalの在庫管理が仕入値・平均価格・直近の仕入価格・売値などの金額を軸とした小売店業務に最適化された設計になっているのに対して、majooの場合は期首在庫・入庫・出庫・期末在庫というモノの移動(Mutation)を意識した受払表形式になっています。

majooの在庫管理は期首在庫・入庫・出庫・期末在庫という受払表を意識した設計。

入庫状況と出庫状況を一定の期間で切り取って把握しやすく、さらに在庫管理(Inventori)のメニュー中に発注管理がPembelian Stok(PO)というサブメニューとして置かれ、購買はあくまでも入庫のための手段という発想からして「何個買って何個使ったから何個残っている」を分かりやすくした飲食業の食材管理に最適化されているのかもしれません。

現在弊社のお客様は製造業中心ですが、繰り返し生産を前提としたマスプロダクション工場の在庫管理では、1つの製品を製造するために同じ材料を何度も入荷し、生産数量に必要な材料の所要量を計算する必要があるため、製品と原材料の紐付きが定義できるように事前に品目マスタを整理する必要があり、これがリテール・飲食業種向けの在庫管理システムとの設計思想の違いとなってUI/UXに表れます。