インダストリー4.0を実現するインドネシアのスマートファクトリー

2019/12/15

ジャカルタの夕暮れ

製造業のDX化によってインダストリー4.0が具現化されたものがスマートファクトリーという概念であり、具体的にはMES(製造実行システム)により生産効率の向上と製造コスト削減のために現場レベルの情報を収集・管理を行い、さらにMOM(生産製造オペレーション管理)による自動化を推し進めます。

自動車組み立て工程

インドネシアの生産管理システム

インドネシアの市場環境は製品寿命の短命化による多品種少量生産、需要変動、人件費上昇、非日系企業との競争など益々厳しくなっており、生産管理システムの導入やIoTによる設備の稼働管理など、生産性向上によるコスト削減を目標としたDX化が推進されています。

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ERPからMESを経てMOMへの移行

2019年12月4日から7日まで毎年恒例JIExpo Kemayoranで開催されるインドネシア最大の製造業展示会「Manufacturing Indonesia 2019」に、生産スケジューラ―Asprovaを紹介するブースを出展させていただきましたが、インドネシアの二輪四輪産業が落ち込んでいることもあり、例年に比べて客足が悪かったように感じましたが、そのかわりシンガポールや韓国などアジアの国からのIoTや工場のオートメーション化に関するシステム営業のために多くの人がブースに来店しました。

彼らの話の中で共通して言えたことは、製造業システムは生産管理、生産計画、販売購買管理、在庫管理というビジネス機能によって区分される統合基幹業務システム(Enterprise Resource Planning=ERP)から、人や機械といった製造現場レベルの管理に重点を置いた製造実行システム (Manufacturing Execution System=MES)へとシフトしており、今後は計画・スケジューリング・製造管理・工数管理・品質管理など一連の生産プロセスを統合化し、自動化・無人化を進める生産製造オペレーション管理(Manufacturing Operations Management=MOM)に移行していくということです。

ERPからMESを経てMOMへの移行インドネシアでMESという言葉は、生産実績や工数実績を入力するためのPCやタブレットなどの現場端末的な意味合いが強いため「生産スケジューラ―とはMESの機能の1つなのか?」という質問に対し最初は「NO」と答えていたのですが、途中で現在のMESという言葉は従来のERPシステムの機能を現場目線で再編成したものを指していることに気づき「YES」と答えるようにしました。

シンガポールの製造業ITベンダーが提案してきた、インダストリー4.0を具現化するスマートファクトリーを実現するための最新のソリューションでは、製造設備や検査機器に接続され制御管理を行うPLC(Programmable Logic Controller)から現場情報をリアルタイム収集するIoT技術のみならず、生産計画をセットするだけで製造からNG発生時の機械交換などの全てを自動化・無人化できると聞いて、製造業システムのトレンドの過渡期に来ていることを実感しました。

システム化の目的が省力化、効率化、間違い防止だとすれば、昨今の注目ワードであるDX化とは、既存システムの置き換えではなく「ITを使用すればこんな便利なことが出来るようになる」という業務改革と言えます。

業務改革を行うためには現場のオペレーション改革が不可欠で、ITありきで現場のオペレーション改革を実現するコンセプトを作成することで、業務改善と収益改善を実現することが、DX化の意義深いところです。

製造業のDX化によって具現化されるものがスマートファクトリー(Smart Factory)という概念ですが、従来の生産管理システムや実行管理システムの用語が再編成された上で定義されているため、その概要は非常に掴みにくくなっています。

余談ですが、日本のWEBサイトではよく目にする「Smart Factory」という言葉に対して、相手の反応がどうもイマイチでキョトンとされることが多かったのですが、どうもこれは和製英語らしく日本以外の国の人には通じないということを後から知りました。

新しいMESの定義

米国のMES推進団体であるMESAによると、MESは上位のERP層と下位のPLC層の間に位置し、生産スケジュールに基づいて作業員(ヒト)に作業指示を出し、原材料や仕掛品など(モノ)の動きをリアルタイムで監視し、生産設備(機械)に直結し稼働状況や異常発生を把握します。

  • ERP:工程単位、部門単位の管理⇒正確な情報管理(モノの動き)
  • MES:機械単位、作業単位の管理⇒生産効率向上と製造コスト削減(ヒトの工数、機械の稼働状況)
  • MOM:MESの自動化を進めたもの

ERPとMESの違いをざっくり言うと管理の単位の違いとなりますが、製造業の至上命題である生産効率の向上と製造コスト削減のために、現場レベルの情報を収集・管理を行うのがMESであり、さらにデジタル化による自動化を推し進めスマートファクトリー化をするのがMOMです。

以下のようにMESには11の機能があると定義されていますが、そのうち作業スケジューリング、生産資源の配分と監視、作業手配・製造指示については、従来の生産スケジューラ―が得意とする分野であり、それ以外の項目はERPが管理する情報をより現場の作業レベルで再編成した内容になっています。

  1. 作業スケジューリング(Operations/Detail Sequencing)
  2. 生産資源の配分と監視(Resource allocation and status)
  3. 作業手配・製造指示(Dispatching production unit)
  4. 実績分析(Performance analysis)
  5. 保全管理(Maintenance management)
  6. 工程管理(Process management)
  7. 品質管理(Quality management)
  8. データ収集(Data collection/acquisition)
  9. 製品の追跡と生産体系の管理(Production tracking and genealogy)
  10. 作業者管理(Labor management)
  11. 文書管理(Document control)

MESやMOMの発展とはあくまで情報管理の手法の高度化であり、最終的には製造業の使命である「良品を遅れずに納品すること」に繋がるものでなければなりません。

DX化による製造業のスマートファクトリー化は、国家の輸出競争力を高めることで国富を増やすという重要な国家戦略の一つとして位置付けられており、現に世界の新興国は軒並みインダストリー4.0を自国独自に合わせて再定義した上で、製造業の高付加価値化と国際競争力強化に取り組んでいます。

日本語を話すインドネシア人の多さ

日本語を話すインドネシア人の多さ今回の製造業展示会ではJETROのジャパンパビリオンの一角にブースを出させていただいたのですが、その関係もあって日系の製造業やサービス業に勤めるインドネシア人の来訪者が多く、その中でも流暢な日本語をしゃべる人が多かったのには驚きました。

近年はグローバル化の波に飲まれ変わってきているとはいえ、いまだにインドネシアの日系企業の多くは、過去の実績に基づく信頼関係を重視する商慣行や日本語オンリーというようにある意味ガラパゴス化しているため、インドネシア人にとってみれば逆に日本語が話せれば、そこでワンチャンスが狙えるという特殊な市場が形成されています。

ブースに来訪する日本語ペラペラのインドネシア人は「大阪に3年住んでました」とか「技能実習生として浜松に居ました」とか嬉しそうに教えてくれるのですが、最近は過酷な労働や賃金未払いなど技能実習制度の闇の側面がクローズアップされることが多いため、こちらから「日本の生活は楽しかったですか?」と聞くのを随分躊躇しました。

幸いなことに今回日本語でお話したインドネシア人の皆さんすべてが日本での楽しい思い出だけを語ってくれましたが、技能実習生として日本語能力を磨き、そのまま日本に滞在し、都市旅行ガイドや通訳を行うというたくましいインドネシア人の影響で、インバウンドビジネスの相場が暴落しているという新たな問題も出ているようです。

インダストリー4.0に対する具体的取り組みであるメーキング・インドネシア4.0

インダストリー4.0(Industry 4.0)はIT技術を使い第四次産業革命を起こそうとする世界的な動きですが、ソフトウェア側中心に実装されたIT技術をハード側に移管し、ハードとネットワークが繋がることで、よりすばやく正確なデータ収集と分析を行い、生産性向上や品質向上に繋げようということです。

インドネシアの場合、2030年までに世界の10大経済国に入ることを目標として、インダストリー4.0に対する取り組みとしてメーキング・インドネシア4.0(Making Indonesia 4.0)という10個の国家優先取り組み事項を2018年4月に工業省から発表しています。

  1. 原材料フローの改善:
    • 国内加工による付加価値創出
    • 国内企業の原材料の現地調達率向上。
  2. 工業団地の再設計:
    • 東ジャワまで延長された高速道路沿いに北部ジャワ自動車産業ベルト構想。
    • 西ジャワのスバン(Subang)にパティンバン(Patimban)新港の開発(2023年予定)によるタンジュンプリオク港への一極集中の解消
  3. 持続可能性のための基準の策定:
  4. 中小零細企業の活性化:
  5. 国家デジタルインフラの開発・強化:
  6. 海外からの投資誘致:
  7. 工業人材の能力強化:
  8. エコシステム助成:
    • 政府・民間・大学によるR&A(研究開発)
  9. 技術開発投資に対するインセンティブの適用:
  10. 政策と規制・制度の緩和:

2000年代にインドネシアの製造業は技術集約型へのシフトがうまくいかず、製造業のGDP寄与率もスハルト政権下での20%から16%まで下がり、メーキングインドネシア4.0によって製造業の再活性化のために2030年までに25%まで引き上げることで、経済成長率を現在の5%から6~7%に引き上げる目標を立てています。

ペーパレス化とIoT化によって業務システム導入の仕事がどのように変化するか

最初にやるべきことはペーパレス化による3次元を介さない情報の2次元化、具体的にはP/OやインボイスなどのEDI(Electronic Data Interchange)化、タブレット入力やシーケンサからの自動計上による生産実績収集などです。

情報をデジタルネットワークに乗せるまでに発生しうる間違いは2種類あります。

  1. 紙に書いた情報をシステムに入力する際の転記間違い。⇒ペーパレス化
  2. システムへの入力間違い。⇒IoT化

1番目のペーパレス化は業務改善の一環として費用をかければ十分実現可能な課題であり、これによって転記間違いの可能性は完全に排除されることになりますが、2番目のシステムへの入力間違いの排除のためには、製造ラインのIoT化推進により人間による情報入力作業自体を完全になくす必要があります。

つまり業務システムのありかたという観点から見た場合に、インダストリー4.0によって製造業が実施する具体的改善策でインパクトが大きいのはペーパレス化とIoT化であり、このときに業務システム導入という仕事の内容も変わってくると考えられます。

  • いかに情報にアクセスし統合するか
    IoTにより業務改善に必要な情報はすばやく正確に収集されますので、これらの情報をいかに収集して一元化するか。システム間インターフェイスの開発が必要になります。
  • いかにすばやく正確に情報を収集するかより、どのように分析し見せるか
    生産実績もリアルタイムで自動収集され、棚卸しもRFIDタグ(Radio Frequency IDentifier)により一瞬のうちに正確に実施されるようになると、タイムリーで正確な情報はシステム上に存在する前提となり、データの見える化・共有化・体系化により、業務改善に有効活用されるためのシステムが必要となります。

そしてメーキング・インドネシア4.0によってインドネシアの製造業の高付加価値化と国際競争力強化を実現するには、自社工場内だけではなくサプライチェーン全体での信頼性、柔軟性、応答性という性能向上が必要になります。

この場合サプライチェーン上で経済活動を行う企業間でのシステム連携が求められるため、企業内の業務システムは一層サプライチェーン上流の仕入先、下流の顧客との関係を前提に設計・実装されることになると考えます。