ビジネス環境が流動的なインドネシアで立てる戦略と戦術の方向性

2020/09/16

朝のジャカルタ

インドネシアのように法や規制が頻繁に変わり、資本の力で後発のライバルが市場でシェアを伸ばし、パワーバランスが一瞬で崩れるビジネス環境では、全体像としての戦略はバックワード志向で考えても、先の展開が見えない状況での戦術はフォワード志向で立てざるを得ません。

気候に影響される時間軸に対する感覚

日本人がインドネシアに来ると、インドネシア人ののんびり加減にイライラするというのは昔からよく聞く話で、インドネシア在住日本人にとってのバイブル的小説である深田祐介著「ガルーダ商人」の中でも、インドネシア宗教省の高官が日本人とインドネシア人を自宅に招待する際に、インドネシア人向けの招待状には、遅刻することを前提にパーティ開始時間を三十分早く書いておくという記述があるほどです。

特にジャワ人は「幸福と調和を重視する思考が気質や行動に表れる」と言われるほど、何事にも悠然と構えている人が多いとされ、時間に追われるように疲れた面持ちで仕事をしている日本人からすると、彼らの明るく楽しそうな表情が眩しく映るだけに、自分の価値観が否定されたような気にもなるわけですが、この「幸福と調和を重視する思考」を育んだものこそ、国土が赤道直下に位置することの恩恵である年中暖かい亜熱帯性気候です。

温暖で十分な降雨量があるため二毛作、三毛作で米が収穫でき、飢え死を心配するほどの危機感を感じる必要がないのがインドネシア人で、冬の到来を前に稲刈りを終えないと年貢は納められないは、自分たちの食い扶持は確保できないはで、死活問題になるのが日本人であり、この気候の違いが時間軸に対する感覚に影響しているものと思われます。

日本は田植えの後、草取り、病害除去とかきちんとやらないと冬が越せないので稲刈りを基準に後引きで年間計画を立てるが、インドネシアは三毛作できるので失敗してもやり直しがきくので今を基準に刹那的に楽しむ。同じ農耕民族でも四季の有無が性格に影響したのかもですね。

製造業での生産計画策定方法として、出荷日から工程ごとにかかる手番日数を後ろにずらした結果、遅くともいつから製造を開始しないと出荷に間に合わないという考え方をバックワード志向(ジャストインタイム)と呼び、モノが社内を流動する期間をできるだけ短くして変動リスクを押さえようという、今のようなコロナ禍の中で一番理想的な考え方です。

一方で今から製造を開始すれば最速でいつ出荷できるという考え方をフォワード志向と呼び、好景気で工場をフル稼働にしないと出荷が追い付かないときに適した手法でありますが、早く作りすぎると出荷されるまでの長期間、製品在庫が社内に滞留し倉庫スペースを占有する結果となります。

バックワード志向はトヨタ生産方式の基本的な考え方で、いかにも日本人的な発想だと思うのですが、インドネシアのほとんどの製造業の現場では、フォワード志向での生産計画に基づいて生産が行われ、作りすぎを防ぐために最大在庫数制限(MAX在庫)を設けているのが特徴です。

ビジネスでは戦略はバックワード志向でも戦術はフォワード志向

相手の性格を知るための一つの指標として、空港には出発時間の何時間前くらい前に到着するかを聞くといいのですが、僕のように搭乗時間3時間前には到着して、空港のカフェで時間を潰しながら心の準備をしないと気が済まない人間もいれば、僕のインドネシア人パートナーのように、搭乗30分前のギリギリに到着し、ファイナルコールが鳴り響く中で搭乗する人もいます(たまに乗り遅れます)。

資格試験であれば、試験日も資格を取得することによって得られるメリットも明確ですが、ビジネスの場合は達成したい目標自体は明確でも、それを実現するための投資や営業活動、プロダクト開発が市場のニーズに合致するのか、費用対効果はあるのかが分からないため、やる前に躊躇したり、やっている途中で心折れて挫折したりすることが当然にように起こります。

コロナ禍で仕事のやり方は変わらざるを得ず、それで効率化が進むのならいいことだと思うが、それでも何でやるのか明確に説明できないが、やった先に何か見えてくるんじゃないかという宗教的な部分は必ず残ると思う。

やってみないと分からないことと、やらなくても分かることを明確にすることが重要だと頭では分かっていても、無駄なことだと思っていたことが、やってみたらいい勉強になったという経験は過去にも何度も起こっており、実際にやる前に気が重くなる仕事ほど、終わったあとは意外といい経験になったと充実感を感じる傾向すらあると思います。

特にインドネシアのような法や規制が頻繁に変わり、資本力によって後発のライバルがあっという間に市場でシェアを伸ばし、パワーバランスが一瞬で崩れることが普通に起こりうるビジネス環境では、全体像としての戦略はバックワード志向で計画が立てられても、先の展開が見えない状況での戦術はフォワード志向で立てざるを得ないのではないでしょうか。

  • この道を行けばどうなるものか 危ぶむなかれ
    危ぶめば道はなし 踏み出せばその一歩が道となる
    迷わず行けよ 行けばわかるさ

アントニオ猪木の人生を切り拓くための名言ですが、コロナ禍の影響で先が見えないビジネス環境では、一歩前に進みながら方向修正を加えて行く、「座して死を待つよりは、出て活路を見出さん(諸葛孔明)」というフォワード志向が必要になるものと思います。