インドネシアのビジネス環境

インドネシアの組織で必要なリーダーシップとは【群盲象を評す】


物事は見よう考えようによって評価が変わる

先日9月9日、アニスジャカルタ特別州知事は、新型コロナ感染拡大により市内のcovid-19受け入れ病院のICU(集中治療室)が満床になりそうな状況を憂慮して、6月から続いていたPSBB(大規模社会制限)段階的緩和による移行期間を中止し、来週14日(月)から2週間を目途にPSBB再強化を行うことを発表しました。

これにより国民の生活に直結する特定11分野以外の企業には在宅勤務が義務付けられ、再び飲食店でのイートインも禁止となることで、ジャカルタの消費活動は確実に落ち込み、弊社が顧客とする日系製造業の生産活動にも影響を及ぼしますので、弊社も年末にかけて苦しい状況になることが予想され、良いことと言えば市内主要道路への侵入制限する奇数偶数規制が解除される移動が楽になることくらいでしょうか。

(2020年9月13日追記)
アニス州知事は政財界からの反発を受けて、従業員をやむを得ず出勤させる場合には出社率を25%以下に抑えることを義務付けるという一定の配慮を示しました。

日本政府による緊急事態宣言(4月8日~5月6日)解除後に、東京都が独自に延長していた緊急事態宣言の場合、7月の都知事選に向けた小池知事のスタンドプレーじゃないかという穿った見方をしましたが、インドネシアで景気後退による企業倒産や失業者の増加のニュースが連日報道される中で、今回の決定を発表すれば間違いなくジャカルタ市民からの反発(失望)のほうが多いことは予測できるわけで、それを覚悟の上ということであればアニス知事の決断を尊重せざるを得ません。

一方でジャカルタ在住日本人には駐在員、永住希望者、自営業者など様々な立場の人がおり、所属する会社の業種や規模、役職が違えば物事の考えようが違うため、今回の決定に対する評価が変わるのも当然であるとはいえ、コロナウィルス感染拡大阻止のための決定に対してSNS上で評価が分かれる様子を見て、ふとインド発祥の「群盲評象」という有名な寓話を思い出しました。

6人の盲人に象を触らせてそれが何かを当てさせる試みで、そのうち足を触った盲人は「柱みたい」と答え、尻尾を触った盲人は「綱みたい」と答え、鼻を触った盲人は「木の枝みたい」と答え、耳を触った盲人は「扇みたい」と答え、腹を触った盲人は「壁みたい」と答え、牙を触った盲人は「パイプみたい」と答えたことに対して、王様が「君たちは6人は全員正しい。食い違っているのは君たちが象の異なる部分を触っているからであり、象は全ての特徴を備えている」と答えたそうです。

経済優先か感染拡大阻止優先か、物事は考えようによって評価が変わるものですが、そもそもPSBBを再開して感染者が減ったとしても、緩和すればまた増えるわけだから、ウィルスを封じ込めること自体が無意味という意見がインドネシアでは少ないような気がします。

発表自体が唐突なタイミングで行われた感が強かったことに対して「方針がブレブレ」と否定的見る意見と「このままではマズイと感じたから迷わず方針撤回するのはブレではなく英断」と肯定的に見る意見があるのは、学校から見える3本の煙突を裏山から見たら重なって1本に見えるのと同じことであり、物事を一面的に見て判断を下すと本質を見間違う恐れがあります。

インドネシアで日本的な「背中で見せる」リーダーシップは通用するのか

インドネシアは1999年の法律改正にともなうOtonomi daerah(地方分権)によって首長の権限が大きくなったことも、今回のように地方自治体の首長が突然大胆な決断を下す素地になっていると思うのですが、アニス知事自身はもともとアメリカのメリーランド大学で公共政策学の修士号、北イリノイ大学で政治学の博士号を取得し、選挙討論会の司会や第一次ジョコウィ政権で教育文化大臣を務めるなど、高い教養のある人です。

いろんな見よう考えようをするメンバーを統率するリーダーシップとは、インドの王様のように、6人の盲人が違う部位を触って異なる評価をしても、6人とも正しい評価だと認めた上で、全員が象だと評価できるように導いていくことであり、組織集団を取りまとめるという意味でジャカルタ州知事は大きな会社の社長さんみたいなものだと思います。

僕が日頃お付き合いさせていただいているインドネシアの日系製造業の現地法人の社長さん達は、製造現場や管理業務部門の出身の方が多く、これまで営業出身の社長さんにお会いしたことは5回くらいしかなかったように記憶しています。

インドネシア人の特性として、言葉は悪いですが野生動物の群れのように、強大な力(技術)を持つボスライオンやボス猿にひれ伏す傾向があり、製造業の現場だけでなく僕が身を置くIT業界でも技術を持つ人間こそが尊敬され、技術を持たない人間が軽くみられる傾向があります。

人間関係を大事にする日本社会におけるリーダーシップの形の一つとして「自分が格好悪い姿を見せてでもがむしゃらにやる姿」で人を引っ張る的な面もありますが、書面契約を重視するインドネシア人の場合、抽象的な熱意だけでは人を動かしにくく、その意味で営業畑出身の社長さんがインドネシアで苦労するとおっしゃるのも理解できるのですが、日本本社の意図として営業出身の社長さんを現地法人のトップに据える目的は、ひとえに事業拡大にあるのではないでしょうか。

駐在員コストをいかに抑えるかが利益確保のための重要課題となりつつあるインドネシア現法において、全体的に駐在員の数を減らす方針の会社が多く、何人もの駐在員を置けない中小企業では、一人駐在プレイングマネージャー(プロ野球の監督兼選手みたいな)として、社長自ら先陣を切って現場に出たり外回りをする企業も多く、その場合は現場出身とか営業出身とかは関係なく、組織を統率するリーダーシップには、意外と日本的な「背中で見せる」やり方が有効なのかもしれません。





おすすめ記事一覧

大統領選挙で考えたギャップにハマるということ 1

ギャップにキュンとするというのは人間の本能みたいなもので、ジョコウィの私利私欲のない素朴なおじさん像と、その実強力なリーダーシップを発揮する実務派という内面が、一見普通の人だが実はスゴイというギャップ好きのインドネシア人に大ウケして、大衆は一種の集団催眠状態にあるようです。

情報の質のレベル 2

見える化された結果を共有化することで問題点が共通認識されますが、共有化が進むことで情報の持つ希少価値が薄れて困る人間がいる場合、有益な情報を独占することでポジションを高めようという政治力が働きます。

インドネシアのスタバの店員にありがたい人生の教訓を教わった件 3

いつものスタバでいつものアイスコーヒーを注文していると、だいたいなじみの店員が「今日は珍しい時間に来たねー」とか「今日もいつものアイスでいいのかなー」とか馴れ馴れしくフレンドリーに話しかけてきます。

宗教によって異なる「死んだらどうなる」の考え方 4

キリスト教もイスラム教もともにユダヤ教から派生した宗教であり、それぞれイエス・キリスト(本人が神)またはアッラーという唯一無二の神を信じます。

株価操作なんてインドネシア株では当たり前 5

株価は売り注文と買い注文により変動し、大量の売り注文を買う注文がたくさん入れば、他の投資家達は「俺も俺も」と続くことで株価が上がります。

心臓に毛が生えたインドネシア人のずうずうしい転職活動を応援してみた 6

インドネシア人は秘密の話は誰かに暴露しないと精神の安定を保てない人が多いため、内緒の話に情報の希少性は少なく信憑性も低いことが多いので、「ここだけの話」という枕詞付きで聞かされる話は話半分に聞いておいたほうがいいかもしれません。

日系企業のインドネシアでの存在意義 7

今のまま日本の人口減が続けば、内需は縮小の一途をたどるわけで、そうなると日本国内市場だけで生き残るのは難しいと判断する国内企業が、海外市場に活路を見出そうとするのは必然です。

チャンスはあるが勝てる分野を見つけるのが難しい 8

実際にインドネシアに住んでみて、自分で動いて人と話しをして、現地の事情を少しずつ理解していくにつれて、インドネシアで起業することが意外と手強いことに気づき、その難しさの原因は、高い送料と関税であったりローカル企業との競争であったり、就労ビザ(IMTA)や外国人技能開発基金(DPKK)などのランニングコストの高さであったりします。

インドネシアのシステムインテグレーション業界 9

先日JETRO(日本貿易振興機構)さんと、インドネシアの中小企業のIT投資について意見交換させていただく機会をいただいたのですが、そこで「システム投資のコストメリットはどのように説明できるのか」という、システムインテグレーターの存在価値にも関わる重要な問題提起がありました。

肉体と精神と心と魂 10

「Body and Soul」といえば、昨日の内閣改造に伴う人事で内閣府政務官に内定した自民党の今井絵理子参議院員がメンバーだったSPEEDのデビュー曲であり、インドネシアの老舗女性ファッションブランド名でもあります。

ジャカルタのラーメン市場 11

僕がインドネシアに初めて来たのが1997年10月、インドネシア語は分からないし、仕事は辛いし、周囲の人間は理不尽だし、一時期日本に帰りたくて仕方がない時期がありましたが、当時自分をかろうじてインドネシアに繋ぎ止める心の支えとなっていたのが、協栄プリンスビル(今のWisma Keiai)の日本食レストラン「五右衛門」であり、ここでキムチラーメンを食べることが唯一の楽しみと言っても過言ではありませんでした。

ブランド力、技術力、資金力の3要素 12

1998年のジャカルタ暴動後、ルピアが暴落し海外からのドル建て債務を抱えた国内企業が利子の支払いに苦しんでいた頃、僕は外貨が獲得できるインドネシアでの新しいビジネスを探していました。

日本とインドネシアの間でのタイムマシン経営が通じなくなっている件 13

先進国と後進国との間にある流行のタイムラグを利用して、先進国での成功例を後進国で実践するビジネスモデルをタイムマシン経営といいますが、インターネットの普及に伴い情報がフラット化してしまい、モノと情報のタイムラグが限りなく小さくなった今、先駆者である中小零細同業他社が乱立し市場が出来上がったところに、後発の大手が参入し先発零細を駆逐していく、という典型的な負けパターンにはまります。

サリナデパートとマクドナルド 14

本日5月10日を最後にインドネシアのマクドナルド第1号店であるサリナデパート店(Sarinah)が閉店になりますが、ジャカルタのショッピングモールが新しいコンセプトでモダンにリニューアルされ続ける中で、僕がインドネシアに来たばかりの20数年前には、若者の待ち合わせ場所の定番でもあったサリナデパートやブロックMのパサラヤ(Pasaraya)などは完全に時代に取り残されてしまいました。

不景気の歴史 15

僕がインドネシアに来てからこれまで何度か経済不況を見てきましたが、今回の新型コロナウィルスの感染拡大により、間違いなく景気後退しますので、数年後にはこれがコロナショックとかコロナ不況とか呼ばれるようになるのかもしれません。

日本のバブル経済崩壊後とインドネシアの通貨危機後 16

自分が大学に入学したのがバブル経済末期の1991年、土地も株価もMAX爆上げして、三菱地所がアメリカの象徴であるロックフェラーセンタービルを買収し、ジュリアナ東京でワンレンボディコン(登美丘高校ダンス部のバブリーダンスみたいなやつ)のお姉さん達が扇子振って踊っている時期でした。

内需と外需の自国経済に及ぼす影響 17

公共事業投資を行っても、お金が企業内や個人の貯蓄に滞留してしまい国内消費が増えないのが日本の状況であり、国内消費は増えても消費材の輸入品比率が高く、国内資産が海外に流出しているのがインドネシアの状況です。

2019年の総選挙を前にインドネシア政治史のおさらい 18

来年の大統領選挙(Pemilu Pilpres Pileg Indonesia 2019)に向けての選挙運動(Kampanye)を解禁するにあたり、投票用紙に印字される順番はジョコウィ現職大統領・マフル副大統領候補組が1番、プラボウォ大統領候補・サンディアガウノ副大統領候補組が2番と決まりました。

コーヒーをもっと楽しくもっと美味しく 19

インドネシアは北回帰線と南回帰線をはさむコーヒーベルトに位置するコーヒー栽培に適した国で、1602年の東インド会社の進出を契機にオランダの植民地支配が300年以上続き、その間アラビカ種のコーヒーが持ち込まれ、気候のいい高原地帯で栽培が開始されました。

インドネシア人の悪魔祓い 20

人間誰しも自分の中に悪魔が潜んでおり、それが何らかのきっかけで表面に出て来るという考え方自体には、背景に宗教が有るか無いかの違いだけで、基本的に理解できる話であり、それを信じるか信じないかは別として、そういう考えがあることを認めることは大切なことだと思います。

-インドネシアのビジネス環境

© 2020 バテラハイシステム Powered by STINGER