インドネシアのビジネス

パンチャシラとムシャワラがインドネシアのB2Bビジネスに与える影響

2021/05/11

日本企業は意思決定が遅いとよく指摘されますが、インドネシアには利益やスピードよりも話し合いによる合意を重視する農耕社会のムシャワラ精神が労働法や会社法に明記されるくらいなので、掛け合わされた結果として在インドネシア日本企業は益々慎重な企業風土が出来上がるのではないでしょうか?

宗教が異なる多民族を一つの国家としてまとめるためのパンチャシラ

人間の行動様式と思考様式に影響を及ぼすものを挙げるとするならば、インドネシアの場合は民族と宗教ではないでしょうか?

インドネシアに300以上あると言われる民族を分ける基準はDNAよりもアダット(Adat)と呼ばれる、生活共同体での親族や社会の過去の慣習や規範であり、これは言語・人種・文化・歴史的運命を共有し、同族意識によって結ばれた人々の集団が、歴史的運命とか同族意識とか、解釈でどうにでもなる主観的基準でグループ化されたものです。

そしてイスラム教の基本的考えとして立法者は神のみで、人間は神の命令(イスラム法=シャリーア)を解釈し実行することだけなので、本来の主権は神に帰属し、法の下の平等、国民主権を是とする民主主義と相入れず、さらにはその他5つの宗教、クリスチャン(Kristen)、カトリック(Katholik)、ヒンドゥ教(Hindu)、仏教(Buddha)、儒教(Konghucu=孔子)と共存させるかという問題がありました。

1945年にスカルノ初代大統領によって起草された憲法の前文にある建国5原則パンチャシラ(Pancasila)は、第一原則の中でイスラム教を国教とはせず「唯一神への信仰(国民は必ず自分の信じる宗教を常に信仰すること)」と規定することで宗教間の融和を図りながら、第四原則「合議制と代議制における英知に導かれた民主主義」の中で民主主義を規定することで、イスラム教と民主主義の共存を目指しました。
スカルノ大統領のイデオロギーを受け継ぐという国民へのアピールという目的もあったかもしれませんが、1965年からスハルト大統領は学校教育の中でパンチャシラ教育を強化したことで、うちの嫁はんも小・中・高の12年間、毎週月曜日の集会でパンチャシラ五原則を暗唱したと言っています。

スハルト長期政権時代におけるパンチャシラの政治利用についてはいろいろ言われることもありますが、世界に多民族国家は多くあれど、これだけ散らばった島々に違う民族、宗教、言葉の人たちが一つの国として存在しているという結果は、パンチャシラの精神抜きに語れないと思います。

今週はエルサレムでイスラエル当局によるパレスチナ人弾圧のニュースが流れてきますが、多宗教多民族の人々が、なんとか尊重し合ってまとまっているインドネシアは、世界の紛争や差別問題の解決の姿を先取りしているのではないかとすら思えるのです。

伝統的合意形成方法ムシャワラと全会一致のムファカット


パンチャシラの第四原則「合議制と代議制における英知に導かれた民主主義(Kerakyatan Yang Dipimpin oleh Hikmat Kebijaksanaan, Dalam Permusyawaratan / Perwakilan)」にある合議制(Permusyawaratan)こそがムシャワラと呼ばれる、伝統的農耕社会の対話の繰り返しにより民族主義的解決を目指すというものです。

ジャワ人の気質が「幸福と調和を重視する思考が気質や行動に表れる」と評されるように、国家としての調和を維持するためには、多数決や利益主義を超越して、繰り返される会話によって時には敢えて具体的な決定を遅らせることも厭わないのですが、この精神はパンチャシラだけではなく、労働法2003年13号の第7部の「労働協約(Perjanjian Kerja Bersama)」も明記されています。

2020年10月5日に可決されたオムニバス法案(UU Cipta Kerja=雇用創出法)は、海外直接投資を増やすために、規制緩和、行政許認可の簡素化など、企業の投資促進とそれに伴う雇用の創出を目的としていますが、労働者の退職金の減額(現行最大32カ月分⇒ 最大25カ月分)と経営側の裁量による最低賃金の設定(国の実質経済成長率とインフレ率の和 ⇒ 経営側が各州の経済成長率またはインフレ率に沿った最低賃金を設定)などに反対するデモが拡大しました。

これは国家の経済的利益を優先して民族間の前回一致による合意(ムファカット=Mufakat)による平和というムシャワラの精神をないがしろにしているという反発であるとも言えるわけです。

インドネシアでのビジネスにおけるムシャワラの影響

僕はインドネシアでのビジネスの難しさの一つがこのムシャワラの精神にあるのではないかと考えています。

他国で実績のあるプロダクトがインドネシアで売れない場合、理由の一つとして相手の意思決定が遅いことが挙げられますが、意思決定が遅いのは社内調整に時間がかかっているからで、これはスピードとか利益よりも全員の合意を優先するということで、昨今格差拡大とか分断化などの問題が露呈している資本主義の矛盾点の解決を示唆する英知とも言えるのかもしれません。

日本企業は意思決定が遅いとよく指摘されますが、インドネシアには利益やスピードよりも話し合いによる合意を重視するジャワ農耕社会のムシャワラ精神が労働法や会社法に明記されるくらいなので、掛け合わされた結果として在インドネシア日本企業は最強の慎重派集団になるのではないだろうか。

インドネシアでは日系企業をターゲットしたB2Bビジネスが難しいと言われる理由は、市場規模や海外拠点における投資予算の規模などいろいろあれど、大きな理由の一つとして意思決定に時間がかかる文化を持つ両国の合作としてのインドネシア現法の企業風土が、益々意思決定を慎重にさせていることがあるのかもしれません。

© 2021 インドネシアのITサービス会社 | バテラハイシステム Powered by STINGER