船上在庫やインボイス未到着在庫を業務システムで管理する場合、船が輸入国から出航時に資産を未着品勘定で計上し、委託販売のために発送された商品であれば積送品勘定に計上します。インドネシアではすべてGood In Transit(積送品)として扱われ、債務は仮買掛勘定に計上します。 インドネシアの会計システム インドネシアでキャッシュレス化が浸透し、銀行口座を通して行われた企業取引がすべてシステムに自動仕訳されることで日常的な記帳業務はなくなれば、人間がマニュアルで会計業務に絡む場面は少なくなることが予想されますが、頭の中に業務の基本を体系的に記憶することは重要だと考えます。 続きを見る
輸入では貨物よりもインボイスが先に到着する
海外からの輸入の場合、通常ならインボイスが先に到着し、事後に荷物が到着しますが、生産管理システムでは未入荷のインボイス登録はできません。
よって未入荷のインボイスを会計システムの債務A/Pから計上し、このとき生成される自動仕訳で輸送中の荷物の場合は未着品(Good-In-Transit)勘定に計上されるようにします。
インボイス到着時に会計のA/Pから自動仕訳
- Dr. Good-InTransit Cr. A/P trade
翌月以降に荷物が到着するタイミングで、生産管理システム上から入荷処理とインボイス登録を行い、入荷実績が会計システムにインターフェイスされます。
インターフェイスシステムが生産管理システムの入荷実績を元に、会計システムのA/Pインボイス登録履歴をチェックし、インボイスが登録済みであればGood-In-TransitをGoodsに振替える仕訳を生成し、会計システムの元帳(G/L)に登録します。
荷物到着時に入荷・インボイス登録処理よりG/Lに自動生成
- Dr. Goods Cr. Good-InTransit
最終的な決済処理は通常どおり会計システムのA/P消込機能で行ないます。
国内取引でインボイスが遅れて到着するケース
仕入先からの荷物到着後にインボイスが月内に到着すれば、普通に入荷処理とインボイス登録処理を行います。
インターフェイスシステムにて、生産管理システムの入荷実績を元に会計システムのA/Pインボイス登録履歴をチェックし、インボイスが登録済みであれば、会計システムのA/Pに登録します。
- Dr. Goods Cr. A/P trade
ところがインボイスが月をまたいで到着する場合はややこしくなります。
入荷した材料は即入庫し即投入したいので当然入荷処理を行いますが、システム上インボイス登録は月締め処理のために入荷と同月に行う必要があります。
また原価計算上も入荷即投入した材料は当月の製造原価に反映させたいので、月末にインボイスが届いていないにもかかわらずテンポラリーのインボイスを登録し、締め処理ならびに原価への反映を行う必要があります。
荷物到着時に入荷・テンポラリーインボイス処理より元帳(G/L)に自動生成
- Dr. Purchase expense Cr. A/P-In-Transit (A/P Accrued)
インボイスの到着をもって経過勘定A/P AccruedはA/Pに振替られます。
インボイス到着時に会計のA/Pから自動仕訳
- Dr. A/P-In-Transit (A/P Accrued) Cr. A/P trade
経過勘定(時間の経過とともに費用となったり収益となったりするもの)の代表として未払費用がありますが、A/P-In-Transit (A/P Accrued)は費用ではないので未実現債務、前計上債権、仮買掛など適切な訳を付けるのが難しいです。
建設仮勘定と仕掛品勘定
建設仮勘定(Construction in progress)は有形固定資産の建設・製作のために、工事の完成・建物の引渡等までに仮払い、もしくは前払いした工事費や材料費、労務費、経費を管理するための一時的な勘定科目です。
または工場の設備を日本から輸入する際に、FOBの本船渡し契約の場合は出港した時点で自社の資産となりますが、送料(Freight charge)やPIB(輸入申告書Pemberitahuan Impor Barang)に記載される関税(Bea Masuk)やPPh21などの税金、SPPB(通関許可書Surat Persetujuan Pengeluaran Barang)費用などのCIF費用(Cost, Insurance and Freight)が事後にかかってくるため、金額確定前段階では固定資産に組み入れず、建設仮勘定に一時計上します。
もっとも建設仮勘定は「自社で使う予定の固定資産」に限定し、「販売する商品」としての固定資産の建設途中のものは未成工事支出金(Cost of uncompleted contracts)として区別されますが、インドネシアでこれが分かれているケースはあまりないと思います。
そして将来販売する棚卸資産であれば仕掛品勘定(Work In Process)に計上します。
- Dr. 建設仮勘定 Cr.当座預金
- Dr. 有形固定資産 Cr. 建設仮勘定
在庫移動と在庫振替
非製造業向けERPパッケージシステムでは、在庫移動処理はあっても在庫振替処理はない場合が多く、これが非製造業向けシステムを製造業に適用する場合の制約となります。
製造業の場合、購入品はいろんなプロセスを経て形を変え製品として出荷まで至りますが、サブコン(外注)への在庫移動に伴い材料が仕掛品に変わるという要件を、会計モジュールとリンクした非製造業向けシステムで満たそうとする場合、以下のような制約が出てきます。
- 在庫移動でプロジェクトコードを付番してコスト管理することができない(費用が発生しないから)。
- 在庫移動で在庫管理上品目コードを変えることはできない(場所の移動のみだから)。
材料(R/M)のサブコンへの移動時にプロジェクトコードを付番しプロジェクトごとに仕掛品(WIP)として管理したいという要件は、在庫移動時に自動仕訳を発生させて元帳(G/L)上でプロジェクトごとに管理するということです。
ところが在庫移動ではシステム上費用は発生しないことが前提なので、プロジェクトコードを付番して仕掛品勘定(インボイス発行時に売上原価COGSに振り返る資産勘定)に費用として積み上げることができません。
サブコンへの物の移動時にプロジェクトコードを付番し、元帳でプロジェクトごとにコストを管理し、品目コードを変えるには、在庫振替により受けと払いの実績をセットで発生させる必要があります。但し払いと受けの2ステップの処理になるため、以下の2つの仕訳で振替を行うことになります。
- Dr. Temporary Cr. R/M
- Dr. WIP Cr. Temporary
仮に購入品を入荷するときに既にプロジェクトコードが決まっていれば、入荷時にプロジェクトごとに材料勘定に計上させることが可能であり、元帳上でプロジェクトコードを持たせることにより、プロジェクト単位のコスト管理が可能です。
材料として入荷した時点でプロジェクコードの紐を持っていますので、後は在庫管理上どのタイミングで仕掛品化させるかという問題になります。
ただ現実的には材料購入時にプロジェクトコードや製品グループ等の社内用途が確定できるケースが少なく、製番管理ならともかく一般的には受払いの過程で用途が確定するのが普通です。
費用・収益発生のタイミング
業務システムにおいて費用(収益)が発生するタイミングは以下の4つになります。
- インボイス発行時(資産プラス、売上プラス)
- 材料消費(R/M Usage)時(売上原価プラス、資産マイナス)
- インボイス受領時(のちに売上原価化する費用プラス、債務プラス)
- その他費用計上時(費用プラス、債務プラス)
この費用(収益)化するタイミングでプロジェクトコードを付番できるということになります。
在庫移動でプロジェクトコードが付番できない(費用化できない)となりますと、出荷時まで直接材料費に関してはプロジェクト単位のコスト管理ができないことになります。
サブコンで製造加工中に管理できるのは、期間中に発生する製造間接費(Factory Overhead=FOH)や労務費のみであり、出荷時にはじめて直接材料費も含めた全体のCost管理表が完成することになります。
サブコン側で別途発生する材料費等は、サブコンからのインボイス到着時にプロジェクトコードを付番でき、売上原価に振替えることができます。
- Dr. Expense work 100 Cr. A/P 100
- Dr. COGS 100 Cr. Expense work 100
出荷時
- Dr. Shipping Clearing 100 Cr. Inv. Item 100
Invoice発行時
- Dr. A/R 100 Cr. Sales 100
- Dr. COGS 80 Cr. Shipping Clearing 80
相対勘定による相殺処理
輸送費やその他費用もプロジェクトコードを付番され仕掛品に積み上げられ、売上計上時に仕掛品の累積が売上原価化します。
- Dr. Biaya transportasi 100 Cr. Petty Cash 100
上記のように取引時点では費用プラス資産マイナスの仕訳が発生しますが、この費用は仕掛品として、将来売上原価に反映されるべきものです。
言い換えると費用の発生と同時に仕掛品の評価額が上がることを意味します。
- Dr. WIP 100 Cr. Transportasi Payable 100
上記のようにContra account=相対(あいたい)勘定は特定の勘定をオフセット(相殺)するものであり、Biaya transportasi(費用)をTemporary account(P/L科目)を用いて仕掛品に振替えていますが、試算表(T/B)にはBiaya transportasiの残高が残っているためそのままP/Lに掲載できます。
Temporary accountというContra accountがないとT/BからP/Lの明細が作れません。
Contra accountの代表例が貸倒引当金( Allowance for Doubtful)と減価償却累計額(Accumulated Depreciation)です。これらマイナス資産勘定で間接的に資産を減らすことによって、インボイス発生額に合ったAR金額を管理し固定資産の取得額を維持しながら、B/S上では差引き後のNetの金額を把握できます。
- Dr. 貸倒引当金繰入額(プラス費用) Cr. 貸倒引当金(マイナス資産)
- Dr. 備品減価償却費(プラス費用) Cr. 備品減価償却累計額(マイナス資産)
費用のプロジェクトへの配賦方法
直接材料費は出庫のたびにプロジェクトコードをキーに元帳上で自動的に管理されますが、労務費や製造間接費等は金額が判明した時点(月末など)にプロジェクトにコストを振り分けます。
労務費は従業員マスタに設定してある「時間単価x作業時間」でプロジェクトに対するコストを計上します。ただし時間単価は標準単価として1つしか設定できないので、休日出勤や残業時の単価の増加には、コスト計上時に手修正して反映させます。
- Dr. Salaries 200,000 Cr. Bank 200,000
- Dr. WIP 200,000 Cr. Payrol payable (contra a/c) 200,000
労務費も同じく仕掛品に振り分けるためのContra accountが必要になります。
月中に製品原価を確定するために労務費と経費を標準原価で計算する場合、月末に実際原価との差額を修正する仕訳が必要になります。
工事案件のキャッシュフローへの影響
インドネシアの工場では、製品の出荷後お客さんで検品完了報告を受けインボイスの発行が可能になるのは1週間後くらいになるのが普通です。しかし長期の工事案件の場合、進行基準で分割請求が可能である場合でも、出荷(サービス提供)からインボイス発行までの間隔が数ヶ月空いてしまうことがあります。
これは受注登録は完了しているが売上が立たないので受注残が溜まっている状態になります。売上(収益)にならないのでP/L上の利益が上がらない、後1ヵ月後にはインボイス発行できるのに・・・と思いながら真っ赤っかのP/Lを恨めしく眺めざるを得ないことになりかねません。
利益があろうとなかろうと固定費はほぼ毎月決まった額かかってくる、でも固定費支払いのために融資を受けることは極力避けたいので、経営者は営業に対してインボイスの発行をなるべく早めるようハッパをかける。そして営業は顧客から分割請求の許可をなんとか取り付けてホッと一息つく。
債権債務年齢表(Aging Report)が経営者にとって重要なのは、未来のキャッシュフローの予定が立つからです。ところが受注残にたくさん溜まっていると正確なキャッシュフローの動きが把握できなくなるので、受注登録の段階でインボイス発行スケジュールを入力させる仕組みが必要になるケースがあります。