インドネシアの外国人就業規則から考える日系サービス業のビジネスモデル

インドネシアのビジネス環境

インドネシアの外国人就業規則から考える日系サービス業のビジネスモデル 【労働法2003年法律第13号が基本】


日系企業にとってのインドネシアでのビジネス環境の特徴

インドネシアでの外国人就業規則は労働法2003年法律第13号の第8章第45条(pasal 45 ayat [1] huruf a UU No. 13/2003)にて規定されており、その中で最も重要なのは以下の条文です。

  • bersedia membuat pernyataan untuk mengalihkan keahliannya kepada tenaga kerja Warga Negara Indonesia khususnya TKI pendamping;(インドネシア人労働者、特に外国人の後継となるインドネシア人に専門知識の移転を誓約する準備があること。)

このように外国人就業の前提条件に技術力(専門知識)を有しインドネシア人に移転すべきものであると明記されているということは、インドネシアに恒久的施設PE(Permanent Establishment)として事業所を構える以上、そこでは納税の義務とインドネシア人への技術移転の義務が発生すると言えるわけです。

ビジネス環境がこうであればインドネシアの日系企業のビジネスモデルは自ずと以下のように遷移することになります。

  1. 日本人が仕事を取ってきて日本人が案件を管理し作業を行う(設立直後)
  2. 日本人が仕事を取ってきて日本人が案件を管理しインドネシア人が作業を行う(拡大期)
  3. 日本人が仕事を取ってきてインドネシア人が案件を管理しインドネシア人が作業を行う(安定期)
  4. インドネシア人が仕事を取ってきてインドネシア人が案件を管理しインドネシア人が作業を行う(成就間近)

発展途上国であればどこも似たようなものだと思いますが、この第二第三段階あたりを目標として、案件管理や技術はすべてインドネシア人に移譲する前提で日本人は技術営業に特化し、その最終系として第四段階の完全なローカル化が成就するというのが、日系企業の健全なライフサイクルであると思います。

新社会保障制度(BPJS)が外国人労働者規制に繋がる

インドネシアへの入国や滞在については法務局出入国管理局いわゆるイミグレ(Direktorat Jenderal Imigrasi)が担当であり、従来はパスポートに押される滞在許可ITAS(LIMITED STAY & RE-ENTRY)とKITAS(Kartu Izin Tinggal Terbatas)が必須でした。

現在必須なのがパスポートに押される滞在許可ITAS ONLINEと滞在許可証明書「LIMITED STAY PERMIT(ONLINE) 」であり、身分証明証としてのカードが廃止されたとはいえ、イミグレでの写真撮影と指紋押捺は従来どおり行われています。

一方で外国人雇用の手続きは労働省(Kementerian Ketenagakerjaan)の管轄となり以下の3点セットが定番で必要になります。

  1. 外国人雇用計画書 RPTKA(Rencana Penggunaan Tenaga Kerja Asing)の策定と承認
  2. 外国人労働許可 IMTA(Izin Mempekerjakan Tenaga Kerja Asing)のの承認取得
  3. IMTA取得の条件の一つ外国人労働者雇用補償金(DKP-TKA)き毎月100ドルを政府に前払い

このうち外国人労働者雇用補償金(DKP-TKA)の額100ドルというのは自分がインドネシアに来た19年前から変わっておらず、アメリカドルがいかに安定しているかを物語っていますが、これに加えて2015年10月から以下のBPJSへの加入義務が課されるようになりました。

  1. インドネシアで6ヶ月以上就労する外国人に対してBPJS-Kesehatan(健康BPJS)とBPJS-Ketenagakerjaan(労働BPJS)への加入義務が課される。

かつてのJAMSOSTEKからBPJSに移行し、社会保障をより充実させることを目的とした新制度が、建前はどうであれ外国人労働者の規制として働くというのはいかにもインドネシアらしいのですが、他のアジア諸国と比べても製造拠点・消費市場としての潜在性が高いインドネシアだからこそ自分を「安売りしない」という市場の原理が働いていると言えると思います。

  • BPJS Kesehatan
    1. 医療保障(JK)
      固定賃金の5%のうち4%が会社負担、1%が労働者負担
      ただし固定賃金の上限が7jutaなので最高で7jutax5%=35万ルピアの負担
  • BPJS Ketenagakerjaan
    1. 労働災害補償(JKK)
    2. 死亡補償(JKM)
    3. 老齢保障(JHT)
    4. 年金(Jaminan Pensiun) 外国人加入義務なし
      固定賃金の3%のうち会社負担が2%、労働者負担が1%
      ただし固定賃金の上限が7jutaなので最高で7jutax3%=21万ルピアの負担

ビジネスモデルの中で必要な意識

外国人雇用のコストが益々上がり、インドネシア人のUMK(Upah Minimum Kabupaten 最低賃金)もRp.3,355,750(2017年3月現在のジャカルタ)と上がり続ける今、インドネシアに進出しようとする日系企業(特にサービス業)にとって描くビジネスモデルの中では、いかに間接費を下げると同時に生産性を上げるかという問題がのしかかってきますが、このためにはインドネシア人技術者とインドネシア人管理者比率を高めると同時に、日本人は技術営業として新規案件獲得と既存顧客のフォローに徹することになります。

  1. 日本人コストの分散(案件に対して平準化)
  2. インドネシア人技術者の環境お膳立てによる生産性向上

インドネシアで長く仕事をしてきて、昔から変わっていない考えの一つに「自分で仕事をしないことは自分で仕事をすることよりも大変」というのがありまして、これは自分の刀を抜く(自分で仕事をする)のは後でその何倍もの仕事をしてもらうためにやる、ということ。

これには技術力云々の話ではなく周囲の風当たりを受けても意に介しないだけの打たれ強さを持つと同時に、自分というリソースに対して常にレバレッジを働かせるために使うことを意識していないと、特定案件の中に埋没し、現地リソースの最適活用がなされず、対コストの生産性は下がることになりかねません。





おすすめ記事一覧

大統領選挙で考えたギャップにハマるということ 1

ギャップにキュンとするというのは人間の本能みたいなもので、ジョコウィの私利私欲のない素朴なおじさん像と、その実強力なリーダーシップを発揮する実務派という内面が、一見普通の人だが実はスゴイというギャップ好きのインドネシア人に大ウケして、大衆は一種の集団催眠状態にあるようです。

情報の質のレベル 2

見える化された結果を共有化することで問題点が共通認識されますが、共有化が進むことで情報の持つ希少価値が薄れて困る人間がいる場合、有益な情報を独占することでポジションを高めようという政治力が働きます。

インドネシアのスタバの店員にありがたい人生の教訓を教わった件 3

いつものスタバでいつものアイスコーヒーを注文していると、だいたいなじみの店員が「今日は珍しい時間に来たねー」とか「今日もいつものアイスでいいのかなー」とか馴れ馴れしくフレンドリーに話しかけてきます。

宗教によって異なる「死んだらどうなる」の考え方 4

キリスト教もイスラム教もともにユダヤ教から派生した宗教であり、それぞれイエス・キリスト(本人が神)またはアッラーという唯一無二の神を信じます。

株価操作なんてインドネシア株では当たり前 5

株価は売り注文と買い注文により変動し、大量の売り注文を買う注文がたくさん入れば、他の投資家達は「俺も俺も」と続くことで株価が上がります。

心臓に毛が生えたインドネシア人のずうずうしい転職活動を応援してみた 6

インドネシア人は秘密の話は誰かに暴露しないと精神の安定を保てない人が多いため、内緒の話に情報の希少性は少なく信憑性も低いことが多いので、「ここだけの話」という枕詞付きで聞かされる話は話半分に聞いておいたほうがいいかもしれません。

日系企業のインドネシアでの存在意義 7

今のまま日本の人口減が続けば、内需は縮小の一途をたどるわけで、そうなると日本国内市場だけで生き残るのは難しいと判断する国内企業が、海外市場に活路を見出そうとするのは必然です。

チャンスはあるが勝てる分野を見つけるのが難しい 8

実際にインドネシアに住んでみて、自分で動いて人と話しをして、現地の事情を少しずつ理解していくにつれて、インドネシアで起業することが意外と手強いことに気づき、その難しさの原因は、高い送料と関税であったりローカル企業との競争であったり、就労ビザ(IMTA)や外国人技能開発基金(DPKK)などのランニングコストの高さであったりします。

インドネシアのシステムインテグレーション業界 9

先日JETRO(日本貿易振興機構)さんと、インドネシアの中小企業のIT投資について意見交換させていただく機会をいただいたのですが、そこで「システム投資のコストメリットはどのように説明できるのか」という、システムインテグレーターの存在価値にも関わる重要な問題提起がありました。

肉体と精神と心と魂 10

「Body and Soul」といえば、昨日の内閣改造に伴う人事で内閣府政務官に内定した自民党の今井絵理子参議院員がメンバーだったSPEEDのデビュー曲であり、インドネシアの老舗女性ファッションブランド名でもあります。

ジャカルタのラーメン市場 11

僕がインドネシアに初めて来たのが1997年10月、インドネシア語は分からないし、仕事は辛いし、周囲の人間は理不尽だし、一時期日本に帰りたくて仕方がない時期がありましたが、当時自分をかろうじてインドネシアに繋ぎ止める心の支えとなっていたのが、協栄プリンスビル(今のWisma Keiai)の日本食レストラン「五右衛門」であり、ここでキムチラーメンを食べることが唯一の楽しみと言っても過言ではありませんでした。

ブランド力、技術力、資金力の3要素 12

1998年のジャカルタ暴動後、ルピアが暴落し海外からのドル建て債務を抱えた国内企業が利子の支払いに苦しんでいた頃、僕は外貨が獲得できるインドネシアでの新しいビジネスを探していました。

日本とインドネシアの間でのタイムマシン経営が通じなくなっている件 13

先進国と後進国との間にある流行のタイムラグを利用して、先進国での成功例を後進国で実践するビジネスモデルをタイムマシン経営といいますが、インターネットの普及に伴い情報がフラット化してしまい、モノと情報のタイムラグが限りなく小さくなった今、先駆者である中小零細同業他社が乱立し市場が出来上がったところに、後発の大手が参入し先発零細を駆逐していく、という典型的な負けパターンにはまります。

サリナデパートとマクドナルド 14

本日5月10日を最後にインドネシアのマクドナルド第1号店であるサリナデパート店(Sarinah)が閉店になりますが、ジャカルタのショッピングモールが新しいコンセプトでモダンにリニューアルされ続ける中で、僕がインドネシアに来たばかりの20数年前には、若者の待ち合わせ場所の定番でもあったサリナデパートやブロックMのパサラヤ(Pasaraya)などは完全に時代に取り残されてしまいました。

不景気の歴史 15

僕がインドネシアに来てからこれまで何度か経済不況を見てきましたが、今回の新型コロナウィルスの感染拡大により、間違いなく景気後退しますので、数年後にはこれがコロナショックとかコロナ不況とか呼ばれるようになるのかもしれません。

日本のバブル経済崩壊後とインドネシアの通貨危機後 16

自分が大学に入学したのがバブル経済末期の1991年、土地も株価もMAX爆上げして、三菱地所がアメリカの象徴であるロックフェラーセンタービルを買収し、ジュリアナ東京でワンレンボディコン(登美丘高校ダンス部のバブリーダンスみたいなやつ)のお姉さん達が扇子振って踊っている時期でした。

内需と外需の自国経済に及ぼす影響 17

公共事業投資を行っても、お金が企業内や個人の貯蓄に滞留してしまい国内消費が増えないのが日本の状況であり、国内消費は増えても消費材の輸入品比率が高く、国内資産が海外に流出しているのがインドネシアの状況です。

2019年の総選挙を前にインドネシア政治史のおさらい 18

来年の大統領選挙(Pemilu Pilpres Pileg Indonesia 2019)に向けての選挙運動(Kampanye)を解禁するにあたり、投票用紙に印字される順番はジョコウィ現職大統領・マフル副大統領候補組が1番、プラボウォ大統領候補・サンディアガウノ副大統領候補組が2番と決まりました。

コーヒーをもっと楽しくもっと美味しく 19

インドネシアは北回帰線と南回帰線をはさむコーヒーベルトに位置するコーヒー栽培に適した国で、1602年の東インド会社の進出を契機にオランダの植民地支配が300年以上続き、その間アラビカ種のコーヒーが持ち込まれ、気候のいい高原地帯で栽培が開始されました。

インドネシア人の悪魔祓い 20

人間誰しも自分の中に悪魔が潜んでおり、それが何らかのきっかけで表面に出て来るという考え方自体には、背景に宗教が有るか無いかの違いだけで、基本的に理解できる話であり、それを信じるか信じないかは別として、そういう考えがあることを認めることは大切なことだと思います。

-インドネシアのビジネス環境

© 2020 バテラハイシステム Powered by STINGER