インドネシアの高品質コーヒーの代名詞マンデリン・トバのコーヒー

2017/05/22

トバ湖

インドネシアの高品質コーヒーの代名詞マンデリン・トバ(Mandailing Toba)のコーヒーの特徴は、ダークチョコレートのフレーバーの濃厚なボディと評されることが多く、酸味控えめなので甘いケーキや和菓子との相性は抜群です。

インドネシアで最も多くのコーヒーが生産されるスマトラ島

北スマトラ州の州都メダン(Medan)の南90kmの標高900mにあるトバ湖の周辺にはマンデリン族(Mandailing)やバタック族(Batak)が住んでいますが、豊富な水と涼しい高原の気候はコーヒー栽培に適しており、そこで生産されるアラビカ種のコーヒーの銘柄がマンデリンと命名され世界的に有名になりました。

もともとオランダ植民地時代に持ち込まれて普及したアラビカ種のコーヒー栽培が、1908年のさび病の大流行によってコーヒー農園が大きな被害を受けた結果、さび病に強く低地でも生産できるロブスタ種に置き換えられる中、北スマトラのトバ湖北のマンデリン族によってアラビカ種の生産が受け継がれてきました。

マンデリンというブランドにはトバ湖周辺で栽培されるマンデリン・トバと、トバ湖南のリントン・ニフタ地区(Lintong Nihuta)のバタック族によって栽培されるリントン・マンデリンの2種類がありますが、単に「スマトラ・マンデリン」と呼ばれる場合はマンデリン・トバを指すことが多いようです。

私は以前、日系商社が経営するメダンのコーヒー加工工場の生産管理システム導入の仕事に携わったことがありますが、コーヒーチェリーの皮や果実を落とす洗浄工程や、大きさに応じて区分けする選別工程のほとんどが手作業で行われ、グレードに応じて生豆が出荷されているとのことでした。

インドネシアを代表するコーヒーブランドであるKapal Apiのコーヒーは本物の豆を使っていない偽物だと言う声をいろんな人から聞きますが、少なくとも東カラワンのSuryacipta工業団地内にある精製工場の周辺では、いつもコーヒーのいい香りが漂っています。

実際のところ、コーヒー豆の品質のグレードは1段階~10段階まであるようで、Kapal ApiやTop Coffeeなどの大衆向け汎用品コーヒーの場合は、販売価格を抑えるために1~2の低グレードの豆を使用しており、素材以上に美味しくするための加工技術が重要であるのだと思います。

マンデリンのコーヒー独特の香りと深いコク

インドネシアの高品質コーヒーの代名詞マンデリン・トバ(Mandailing Toba)のコーヒー

日本ではトラジャと並んで知名度が高く『ダークチョコレートのような』と評されるほろ苦いマンデリン独特の風味を引き出すために深煎り(ダークロースト)にされることが多く、コロンビアのブルーマウンテンがメジャーになる前は、世界一の評価を得ていたと言われるだけの風格があります。

ロブスタ種の豆と同じようにブレンドコーヒーのベースとして、またはカフェラッテやカプチーノでコーヒー風味を強めに押し出した濃厚なミルクチョコレート風味を出したい場合に適しており、うちの嫁さん曰くコラーゲンとクリーマーで真っ白にして、なおかつコーヒーの風味をしっかりと味わうにはマンデリン・トバが一番合っているそうです。

風味の傾向

  1. 香り ★★★
  2. 苦み ★★★
  3. 酸み ★
  4. コク ★★★
  5. 甘み ★

常夏のインドネシアですが、ジャカルタ市内のショッピングモール内やオフィスビル内はエアコンが効いてむしろ寒いくらいですから、休憩時間に冷え切った体に甘いjajanan(インドネシアのお菓子)とダークローストのマンデリンの組み合わせが抜群にマッチするので、『食後のコーヒー』というよりも『3時のおやつのコーヒー』に適した銘柄だと思います。

Djournal CoffeeGrand Indonesia西館GFにあるDjournal Coffeeは、インドネシアの若者文化の最先端を発信しつづけるコンセプト創作集団Ismayaグループによってプロデュースされ、店内フロアから見える厨房内の調理器具やインテリアなどが洗練されており、持ち帰り用コーヒー豆のペーパーバッグもセンスが良いため、日本からのコーヒー好きの出張者にマンデリン・トバの深煎り豆をインドネシア土産としてプレゼントしたことがあります。

店の名前が「Journal」ではなく「Djournal」と旧字体(ejaan lama)が使われることで、モダンクラシックなコロニアル調の雰囲気を演出しており、コーヒー好きを明言されていた出張者の方に、酸味少なめでコク深いマンドリン・トバを是非味わっていただきたいという思いと同時に、東インド会社やオランダ統治の歴史と関連が深いインドネシアのコーヒー文化を感じていただければという意図がありました。

マンデリンと言えばコクの深いビターなイメージがありますが、産地銘柄ごとの風味の傾向とは、あくまでも良質の豆を正しく保管し、丁寧に淹れた場合の特徴であり、豆の管理が悪かったり、古い豆を使っていたり、焙煎が浅過ぎたりすると、マンデリン独特の風味が消されて妙な酸味が残るアフターテイストが残ります。

世界最大のカルデラ湖(火山噴火によって形成された湖)で、琵琶湖の約2倍の大きさを誇るトバ湖は、7万5千年前にトバ火山の超巨大噴火で形成され、地球の寒冷化させる気候変動を引き起こしたと言われるほどスケールの大きい歴史を持っており、この火山灰堆積地層が吸収性と保水性の高いコーヒー栽培に適した環境をインドネシア全土に育んでいると言えます。