インダストリー4.0に対応するインドネシア産業の川下化と製造業の高度化

2019/06/09

ジョコウィ大統領

IT技術を使い生産性と品質の向上に繋げ、経済成長率を現在の5%から6~7%まで押し上げることを目標として、2018年にジョコウィ大統領より発表されたメーキングインドネシア4.0は、産業構造を変える国家優先取り組み事項であり、産業の川下化により原料輸出を禁止し国内で付加価値を付けることによる産業の高度化を目指します。

インドネシアでメーキングインドネシア4.0が提起された背景

1997年の最高紙幣5万ルピア札には当時の現職大統領スハルト氏の肖像がモチーフとなっていました。

1998年まで32年間続いていたスハルト政権化では、KKN(Korupsi汚職・Kolusi談合・Nepotisme縁故主義)が蔓延し、政治・行政面で多くの問題を抱えていたものの、経済面でのインドネシアの安定的発展は評価され、「ASEANの盟主」として国際社会に認知されていました。

  • スハルト独裁政権:ASEANの盟主
  • 1997年~1998年:アジア通貨危機による経済危機
  • 1998年~2004年:政治的経済的に民主化のプロセス
  • 2004年~2014年:ユドヨノ政権第1期第2期:民主主義国家としての経済成長・テロとの戦い
  • 2014年~2019年:ジョコウィ政権第1期:インフラ整備(高速道路・MRT/LRT・高速鉄道)
  • 2019年~2024年:ジョコウィ政権第2期:インフラ整備・工業化と川下化
    北部ジャワ自動車産業ベルト構想・スバン工業団地とパティンバン新港

タイ通貨危機に連鎖して発生したインドネシア通貨危機で疲弊したインドネシア経済ですが、民主化のプロセスの中で経済成長を果たしたものの、その後技術集約型経済(Technology Intensive Economy)へのシフトがうまくいかず、インドネシアの工業化は停滞し、スハルト独裁政権時代に20%を占めていた製造業GDP寄与率は16%にまで落ち込んでいます。

ジャカルタ

政治・宗教・金融・病気という異なる要因が絡むインドネシアの不景気

インドネシアは定期的に不景気になりますが、通貨危機に端を発した暴動(1998年)は政治的要因、爆弾テロ(2002年-2004)は宗教対立、リーマンショック(2008年)は金融問題、そして今回2020年のコロナ禍は病気と、主要因は毎回異なります。

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この製造業の再活性化のために、インダストリー4.0を推進することで、2018年から2030年までの経済成長率を現在の5%から6~7%押し上げ、製造業GDP寄与率を2030年までに25%に押し上げることを目標とした具体的な取り組みが、2018年3月にジョコウィ大統領と工業省により発表されたメーキングインドネシア4.0です。

本来インダストリー4.0とはIT技術を使い第四次産業革命を起こそうとする動きで、具体的にはIoTでハードとネットワークが繋がることで、よりすばやく正確なデータ収集と分析を行い、生産性向上や品質向上に繋げようと取り組みですが、インドネシア版インダストリー4.0であるメーキングインドネシア4.0では、IT技術だけでなく産業構造を変えるための国家優先的取り組み事項を挙げ、プロジェクトとして推進していこうという点で違いがあります。

第2チカンペック高速道は2019年12月下旬に開通しました。

具体的には高速道路、港湾、高速鉄道などのインフラ整備、法人所得税一時免税(タックスホリデー)に関する法整備、高度産業人材育成、R&D投資促進などが挙げられます。

  1. 原材料フローの改善(Perbaikan Alur Aliran Material.):
    • 国内加工による付加価値創出
    • 国内企業の原材料の現地調達率向上。
  2. 工業団地の再設計(Mendesain Ulang Zona industri.):
    • 東ジャワまで延長された高速道路沿いに北部ジャワ自動車産業ベルト構想。
    • 西ジャワのスバン(Subang)にパティンバン(Patimban)新港の開発(2023年予定)によるタンジュンプリオク港への一極集中の解消
  3. 持続可能性のための基準の策定(Akomodasi Standar Sustainability.):
  4. 中小零細企業の活性化(Pemberdayaan UMKM.):
  5. 国家デジタルインフラの開発・強化(Membangun Infrastruktur Digital Nasional.):
  6. 海外からの投資誘致(Menarik Investasi Asing.):
  7. 工業人材の能力強化(Peningkatan Kualitas SDM.):
  8. エコシステム助成(Pembentukan Ekosistem Inovasi.):
    • 政府・民間・大学によるR&A(研究開発)
  9. 技術開発投資に対するインセンティブの適用(Menerapkan Insentif Investasi Teknologi.):
  10. 政策と規制・制度の緩和(Harmonisasi Aturan Dan Kebijakan.):

資源国インドネシアの産業の川下化による高付加価値化

2019年5月に再選を果たしたジョコウィ大統領が、任期1期目に重点を置いていたのが高速道路や鉄道、湾岸開発などのインフラ整備であるとするならば、2期目の重点取り組み事項は産業の高度化を見据えた工業化と原材料のフローを変える川下化(hilirisasi)です。

資源国インドネシアの産業の川下化による高付加価値化hilir とはインドネシア語で「川下」を意味し、川下産業とは最終製品を製造・販売する産業であり、産業の川下化により原料の輸出を禁止し国内で加工し付加価値を付けることによる産業の高度化を目指します。

インドネシアはリチウム電池の原材料となるニッケルの世界的な産出国であり、スラウェシ島を中心に算出されたニッケルの95%以上を中国に輸出していますが、中国のニッケル精錬工場を誘致して電気自動車用(EV=Electric Vehicle)バッテリーの生産拠点化を目指しています。

ジャカルタ

首都移転後のインドネシアの経済発展を支える西ジャワ州

西ジャワ州はジャカルタの首都移転後のインドネシアの経済発展を支える自動車部品を供給する裾野産業の集積地域として期待されており、高付加価値産業を中心とした外資の誘致が進められていく予定です。

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日本の住友金属鉱山も、今後インドネシアでBEV(電気自動車)・HEV(ハイブリッド自動車)・PHEV(プラグイン・ハイブリッド自動車)・FCV(燃料電池自動車)が増えることを見越して、これらxEV用バッテリー生産向けのニッケル需要の増加を見越して、スラウェシ島の南東ポマラア地区(Pomalaa)にニッケル製錬所を建設する計画を2019年に発表する予定となっています。

xEV生産を中核とした北部ジャワ自動車産業ベルトの建設、スバン工業団地とパティンバン新港プロジェクトなどからも、インドネシアがメーキングインドネシア4.0の中核産業としてxEV産業を考えていることがわかります。

現在進行中の高速道路Tol Jakarta-Cikampekの高架化やLRT建設事業、高速鉄道建設などは、製造業の高度化にとって重要となる物流インフラ整備の一環であり、渋滞による経済損失をなくしスムーズな国際物流を実現するためのものです。

自動車産業の現状とxEV産業を核としたメーキングインドネシア4.0推進の課題

ジャカルタのスディルマン通りの渋滞

2018年の自動車生産台数は1,343,714台で前年比プラス10.4%(自動車生産台数速報 インドネシア 2018年)ですが、2019年1月~4月までの四半期累計は419,858台で前年比マイナス6.6%(自動車生産台数速報 インドネシア 2019年)と落ち込んでおり、自動車輸出はタイの110万台の4分の1に停滞しています。

ジャカルタのスディルマン通り

インドネシアの新車市場と中古車市場のコロナ禍による影響

中古車市場での取引が盛んなインドネシアでは、日本車のミドルクラスから下の大衆車は価格が下落しずらく、初年度で10%下落しその後少しずつ落ち、ミドルクラスから上の車は初年度で15%程度落ちるのが相場ですが、コロナ禍の今年は車の売却価格の下落が大きくなっています。

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インダストリー4.0によるxEV産業を中核とした製造業の高度化を目指すには多くの課題があり、それを解消するための具体的なプロジェクトがメーキングインドネシア4.0の優先取り組み事項です。

  • 生産性が低い⇒高度技能人材育成、IoT化
  • インダストリー4.0を実現する技術力を持つIT企業が少ない⇒バンドン工科大学(ITB=Institut Teknologi Bandungやスラバヤ工科大学(ITS=Institut Teknologi Sepuluh Nopember)などの優秀な学術機関との連携
  • 規制が多く外資によるR&Dの誘致に支障がある⇒外資規制(ネガティブリスト)の緩和
  • 輸出拠点の規模が小さい(タンジュンプリオク港に集中)⇒パティンバン新港
  • 渋滞による物流コスト⇒高速道路高架化、工業団地からタンジュンプリオク港までの専用直結道路建設、LRT建設による渋滞緩和
  • 一般家庭電力供給量が小さい⇒xEV優遇税制
  • 自動車部品産業の部品調達率が低い⇒産業の川下化で一次資源を国内で加工

内燃機関(ICE=Internal-Combustion Engine)の生産高度化、輸出拠点化とxEV産業の国産化を目指し、2035年までに生産400万台、輸出150万台を計画していますが、生産現場の生産性はタイに比べて20%も低く、インドネシアで生産するメリットが低いのが現状で、メーキングインドネシア4.0の柱の一つでもある高度技能人材育成とIoT化によって生産効率向上を目指しています。