インドネシア製造業の課題と可能性: 脱中国の受け皿

2020/08/06

ジャカルタ

インドネシアは、製造業の脱中国の受け皿としてベトナムに劣る点があります。それは賃金や土地の割高、投資手続の複雑さです。しかし、インドネシアも中部ジャワのBatangに工業団地を造ったり、2020年10月にDPR(国民議会)で可決されたオムニバス法で投資環境を改善したりして、海外直接投資を増やす努力をしています。

インドネシアの政治・経済・社会の成長構造と戦略を示す図解

インドネシアはなぜ発展するのか?政治・経済・社会を支える構造と成長戦略

スカルノ大統領時代は共産主義政策が推進され、西側諸国からの投資が減少しました。スハルト大統領は西側諸国との関係を強化し、工業化を進めましたが、石油依存から脱却できませんでした。1998年のアジア通貨危機後、インドネシアは民主主義国家と…

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この記事でわかること

  • インドネシアは中部ジャワのBatangに工業団地を設置し、投資環境を改善しています。
  • インドネシアの人口は2億7千万人で、少子高齢化の影響が少ないです。
  • 2020年のインドネシアの平均土地価格は1平米あたりRp. 317万で、ベトナムよりも高いです。
  • インドネシアの出生率は2.3で、日本の1.36を上回っています。
  • インドネシアは2019年に一人当たりGNIが4,050ドルに上昇し、上位中間所得国に格上げされました。

チャイナプラスワンで注目されるインドネシア製造業の現状と課題

2010年以前、日系企業の東南アジア進出の拠点は主にタイやシンガポールでした。インドシナ半島の国々に既に生産や販売拠点を持つ企業にとって、インドネシアは次の前線基地として注目されることが多かったです。他方で、これまで中国を中心に海外展開していた製造業が、チャイナプラスワンの観点から東南アジアにリスク分散先を求める際、インドシナ半島を飛び越えてインドネシアに拠点を構えるケースも増加しました。

インドネシアは2億7千万人(2020年)の人口を抱え、日本とは対照的に少子高齢化の影響が少なく、日系製造業にとって非常に魅力的です。しかし、UMK(最低賃金)の値上がりや頻発する労働争議がカントリーリスクとして常態化し、雇用機会の創出に影響を与える可能性があります。

2010年以降、日本向けのオフショア開発案件がインドネシアで注目されていましたが、2020年ではほとんど聞かれなくなりました。これは人件費の上昇により、他の東南アジア諸国、例えばベトナムやタイと比較して人件費が相対的に高くなったことが最大の要因です。

チャイナリスクの高まりと製造業の脱中国加速の背景

2015年以降、中国でスパイ活動に関与した疑いで拘束された15人以上の日本人のうちの1人が、2020年7月1日に刑期満了となり帰国しました。中国に関しては、武漢が発生源とされる新型コロナウイルスに関する情報操作の疑い、2020年6月30日に可決された香港国家安全維持法(香港国安法)による言論統制、尖閣諸島周辺の接続水域に80日連続で中国海警局の船が航行するなど、2020年上半期は物騒なニュースが続きました。

チャイナリスクという言葉が聞こえ始めたのは、2010年9月の尖閣諸島での中国漁船衝突事件や2012年9月の中国反日デモの頃です。中国を中心に海外展開していた製造業は、当時からチャイナプラスワンという観点で東南アジアにリスク分散先を求めていました。2016年11月には、米中貿易赤字の解消を公約に掲げてアメリカ大統領に就任したトランプ氏が、2018年3月以降、中国製品への関税引き上げを発動しました。これに対して中国も報復関税をかけ、米中摩擦が発生しました。このため、アメリカ向け製品を中国で製造する工場は、追加関税の回避のために東南アジアへ製造拠点をシフトする動きが加速しました。

経済成長続くインドネシアと国際評価が下がる日本の現実

2020年にHSBCホールディングスが発表した「各国の駐在員が住みたい国ランキング」で、日本は調査対象33カ国中32位という結果が注目を集めました。偶然にも31位がインドネシアであり、日本の国際評価の低下が浮き彫りになりました。スイスのIMDが毎年発表する世界競争力ランキングでは、1989年に1位だった日本が2019年には30位にまで下落しており、これもまた日本の国際的な評価の変化を示しています。

一方、インドネシアでは新型コロナウイルス感染拡大の影響で多くの労働者が職を失いましたが、2020年7月に世界銀行が発表した国の分類によると、インドネシアは上位中間所得国に格上げされました。これは一人当たり国民総所得GNIが2019年に4,050ドルに上昇し、過去数年にわたってGDP成長率を平均5%前後に維持してきたことが評価された結果です。これにより、インドネシア経済に対する外国投資の信頼が強化されることが期待されています。

インドネシアは過去15年間で貧困率が10%を下回り、中産階級人口が増加していますが、まだ多くの人々が経済的安全を保障されていない状況です。政府は国際競争力を高め、産業能力を向上させ、経常収支赤字を削減するための構造改革を推進する必要があります。

2019年の日本の出生率は1.36であるのに対し、インドネシアは2.3と高い水準を維持しています。2030年にはGDPで日本を追い抜くとも言われていますが、日本人が誇るQOL(生活の質)の面でも、駐在員のランキングを見る限りでは認識を改める時期に来ているかもしれません。インドネシアに長く住み事業を行う身としては複雑な気持ちになります。

事例:インドネシアの中産階級の増加と貧困率の低下は、経済成長の一例です。

要点:日本とインドネシアの経済的評価の変化は、国際的な競争力と生活の質に影響を与えています。

コロナ禍で四半期マイナス成長を記録したインドネシア経済と過去の通貨危機との違い

2020年、コロナ禍により各州政府が実施した行動制限や企業活動の縮小の影響で消費や投資が減少しました。これにより、インドネシアは1999年以降、四半期ベースで初めてのマイナス成長を記録し、スリ財務大臣(Sri Mulyani)が事前に予測していたマイナス5.08%を上回るマイナス幅となりました。

2020年第四半期GDP成長率は前年比5.32%マイナスで、コロナによる移動制限が最大の原因です。景気対策として6、7月に政策金利を下げ、低金利の局面になりました。一方、通貨危機時はドルとの固定相場維持のため高金利政策が取られ、IMFに高金利を約束させられた結果、定期は年利30%以上という水準でした。

インドネシアの不景気の話になると1998年の通貨危機と比較されますが、当時はヘッジファンドの空売りにより外貨準備が底をつき、ルピア相場暴落が起点でした。今回は通貨も金利も比較的安定している中での経済活動の一時的停止に伴う不景気です。中央銀行による金利を下げる景気浮揚策や、移動制限の影響が大きかった旅行産業や運輸産業を支援するキャンペーンなどが実施されていきます。

事例:1998年の通貨危機では、外貨準備の枯渇とルピア暴落が主因でしたが、今回はコロナ禍による一時的な経済活動の停止が主因です。

要点:コロナ禍では低金利政策が取られ、通貨危機時とは異なる対応が求められました。

ジャカルタ

インドネシアの高金利政策と通貨危機の背景

1998年の通貨危機時、インドネシアはルピア暴落を阻止するために高金利政策を採用しました。インドネシアの実質GDP成長率は2019年まで5%程度を維持し、インフレ率は3%を超えていました。日本の実質GDP成長率は0.8%で、インフレ率…

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脱中国の製造業誘致競争でベトナムと競り合うインドネシアの課題と可能性

中部ジャワのBatang

2003年のSARS、2005年の鳥インフルエンザ、2009年の豚インフルエンザ、2020年の新型コロナウィルスなど、様々な感染症が世界を騒がせてきました。これにより、産業の脱中国化の動きが加速し、各国の製造業が移転先としてインドネシア、タイ、ベトナムなどを検討しています。

今後の発展性を考えると、最大のライバルはベトナムです。ベトナムは地理的にマレー半島に位置し、近隣国へのアクセスが容易です。また、ベトナム北部は中国文化圏に属しており、漢字や儒教の影響を受けています。インドネシアが競争に勝つためには、より魅力的な投資環境を提供する必要があります。

ベトナムはオフショア開発拠点として発展してきたため、優秀な技術者が多く、日系IT企業も多く進出しています。しかし、製造業の歴史はインドネシアの方が長く、製造業システムの技術者の質と数はインドネシアが優れています。
製造業の脱中国の受け皿としてベトナムが選ばれる理由は、賃金や土地の割高、投資手続の複雑さです。インドネシアも中部ジャワのBatangに工業団地を造り、オムニバス法で投資しやすくする努力をしています。

2020年のインドネシアの平均土地価格は1平米あたりRp. 317万で、タイのRp. 303万、ベトナムのRp. 127万に比べて割高です。賃金水準もタイとほぼ同じですが、ベトナムよりも高いため、各国は土地と最低賃金が安い地方に工業団地を整備しています。

在アジア日系製造業の作業員・月額基本給(Jetroより)

インドネシア政府は労務コストや土地価格の割安感が海外企業にとって魅力的な投資環境の重要な要素であると考え、中部ジャワのBatang工業団地を推薦しています。ここは国際貿易港であるスマランに近く、メーキングインドネシア4.0の中で提示されている北部ジャワ自動車産業ベルト構想の重要な拠点になる予定です。

ジョコウィ大統領

メーキングインドネシア4.0: 技術集約型経済への転換

メーキングインドネシア4.0は2018年にジョコウィ大統領が発表した国家戦略です。この戦略は経済成長率を5%から6~7%に引き上げることを目指します。製造業GDP寄与率を2030年までに25%にすることを目標としています。

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インドネシアの最大の魅力は「成長が続く分厚い国内消費市場」です。しかし、2019年のベトナムの人口も9,621万人と一億人に迫る勢いで、既に巨大な国内市場を形成しつつあります。海外投資の誘致競争において、インドネシアは内需頼みではいられない状況です。