インドネシアで小規模事業者がビジネスを行う上での差別化戦略

2021/10/10

ジャカルタの高層ビル群

革新的な自社製品を持たなくても、面倒でコストがかかり誰もやりたがらない仕事を敢えてやるだけで差別化は達成できるわけで、新たな差別化の方法を生み出し、環境の変化に合わせて事業戦略を柔軟に修正することで、市場での相対的優位性を維持できるものと考えます。

相対的優位性を持つための差別化の具体的手法である逆張り

弊社はインドネシアの製造業という絞られた業界にITサービスを提供しているのですが、営業活動はコールセンター経由のテレアポ、ダイレクトメール、セミナーによる集客などのアウトバウンド、そしてこのブログへのお問い合わせというインバウンドの2つです。

2020年4月頃から約1年半もの間続いた、新型コロナウィルスの蔓延による活動制限が解除されたのが2021年10月で、ZOOMやTeamsを通した非対面のミーティングが増え、B2CでもB2BではSNSマーケティングが主流となったようですが、業界の風土が比較的古い製造業という分野にあっても、X(旧Twitter)やFacebook経由で仕事のお話をいただくようになり、実際に案件にまで繋がることも増えてきました。

とはいえ基本的には営業活動の柱は電話をするか、メール書くか、セミナーをやるかであることには変わりなく、SNS上では全てがインバウンドだけでOK、非対面のまま案件が成約する時代とかいう話を聞くと、自分が違う世界線上にいるのではないかと不安になることもあります。

今日はCimanggisでプリセールス、WEB経由のインバウンド中心でも市場動向のアップデートのため電話営業は継続しています。生産状況、システム化の現状と予定、予算感、対応時の雰囲気など細かくメモしてリスト化、営業向きじゃないと言われた自分がこんなことやっているのですから分からないものです。

弊社も当初は初回ミーティングはオンラインで行うことで移動コストの削減を検討していましたが、結果としてそれでは商談の継続に繋がりにくいと感じ、その後保健アプリPeduliLindungi (2023年3月1日からSATU SEHATへ移行)によるワクチン接種証明書の提示を条件に外来客を受け入れる企業が増えたこともあり、極力直接訪問して対面で話をするようになりました。

結局はコロナ禍以前と状況は変わらず、渋滞による移動コストを受け入れることにはなるのですが、他社が在庫リスクを嫌うから敢えて在庫を持つ、利幅が薄い割に工数が多いため敬遠される仕事を敢えてやる、渋滞で時間と体力を消耗しガソリン代やドライバー代がかかるため敬遠される移動を敢えて積極的に受け入れるなど、市場での相対的優位性を持つための差別化の具体的な手法こそが逆張りだと考えています。

ジャカルタの渋滞

オンライン化が進むほどオフラインでの差別化が可能になる

渋滞の中現場を訪問する行為はライバルが「渋滞が酷いから訪問は止めよう」と考えることに対する差別化になりうる。金銭的な見返りだけでなく、新しい技術の習得や実績のためなど、満足度や期待値といったオフバランスの資産にどれだけ価値を見出し蓄積できるかどうかが重要。

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狭いインドネシア日系B2B市場では横の繋がりが重要

インドネシアの日系B2B市場で、日本本社のインドネシア現法という形で、ジャカルタの好立地のビジネスエリアにオフィスを構えて、日本から駐在員を派遣する会社の場合、主なターゲットは日本や他国での既存顧客のインドネシアへの横展開など、比較的金額が大きい案件になります。

一方で数は少ないですが弊社のような日本に本社を持たないPMDN(インドネシア国内投資会社)の完全独立系の会社もあり、信頼や実績の面で劣る分、コスト面でのメリットを強調しますので、有名どころとバッティングしない低価格帯市場にアプローチすることになります。

ジャカルタの渋滞

インドネシアの日系企業ガラパゴス市場での事業展開

日本の特殊な商慣習で守られ独特の進化や発展を遂げた日本市場はガラパゴスと呼ばれます。インドネシア国内にも日系ガラパゴス市場があり、日本人が日本語で対応するという参入障壁がありましたが、近年のローカル企業や他国企業の台頭でこの原則が崩れてきています。

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営業活動の方法ですが、在インドネシア日系企業1500社(うち製造業は800社程度)という数字は、電話をかけたりダイレクトメールを送ったりするアウトバウンドの営業をかける対象母数としては少なすぎますし、コロナ禍の今の時期にアポなしの飛び込み営業とか行うのはテロ行為みたいなものです。

弊社の場合今年2021年で4期目に入りますが、インドネシア市場で独立系日系IT会社が営業活動を行う上で重要なことは、横の繋がりをうまく利用することだと考えており、上述のとおり案件の価格帯によってある程度の棲み分けが出来ている状態なので、小さい側と大きい側は案件の規模に応じて仕事を回し合う関係を築くことが可能です。

そしてこの仕事を回し合う関係は業種が異なる企業との間でも成立し、例えば既に多くの顧問契約を結んでいるクライアントを抱える会計事務所やコンサルティング会社が、製造業向けITサービス市場に参入したいという場合に、彼らのネットワーク(営業力)とIT会社のノウハウとが協業することで、ウィンウィンの関係が構築できます。

ただしこのように小さい会社が大きい相手と協業させてもらうためには、自社の存在が業界の中で無視できない存在として一目置いてもらう必要があり、孔雀やインコが羽を広げて自分を大きく見せるのと同じように、自社の存在を実像より大きく見せるには、ネット上での露出戦略が効果的であることは間違いないです。

ネット上では噂が尾ひれを付けて拡散されがちですが、同じようにネット上でマメに活動報告を行っている会社を、人は実体よりも大きな存在だと感じるものであり、弊社が他社との共催で頻繁にオンラインセミナーを開催するのは、事後に活動報告をすることに大きな意味を感じているからです。

政治家が地元の選挙区の駅前で、通勤途中の人々が誰一人足を止めないにも関わらず、ミカン箱の上に立って政策を訴えるのは、自分の顔と名前を有権者の深層心理の中に焼き付けることで、いざ選挙の際には政策の違いまで精査することなく投票所に行く人々が、投票箱の前で自分の顔を思い出して、名前の上に丸を書いてもらうためです。

日ごろの露出の努力の結果、日系企業の担当者がIT案件が発生しそうなときに、自社の名前をフッと思い出してくれれば目論見通りなわけですが、新聞やネットメディアに頻繁に有料広告を出せばそれなりの費用がかかり、予算に制約がある独立系企業には限界がありますので、オンラインセミナーを頻繁に開催する、情報誌や業界の情報サイトに寄稿させてもらうなど、地道な積み重ね作業が避けられないわけです。

事業活動で軸がブレないことと柔軟に事業戦略を修正することとの関係

「事業を行う際には軸はブレてはいけないが柔軟性を持つことは必要」というのは、意味が分かるようで分からない言葉で、企業の場合であれば企業理念はブレずに、環境の変化に応じて、ビジネスモデルや事業戦略は柔軟性を持たせるということかと思います。

一言で言えば目標を達成するためなら手段は変化してもよいということなんでしょうが、一個人が脱サラする際には壮大な企業理念ありきというよりも、どのように収益を上げていくかというビジネスモデルがある程度明確になり、食べていける目処がついた時点で小さく起業するパターンがほとんどではないでしょうか?

例えば弊社の場合「現場の意見を汲み取り、気持ちに寄り添い、運用に伴走する。」という企業理念がありますが、それ以前に独立して食べていくためのビジネスモデルがあり、そもそも収益を出して食べていけなければ目標の達成など出来ません。

収益を出すためにいかに売上を上げるかは、革新的な絶対的価値を持つ製品を生み出せる場合は別として、サラリーマン時代に培ったコネがあるとか、業界内で基盤のしっかりした企業とコラボするとかが多いですが、面倒だったり難易度が高かったりするため誰も手を出さない分野を得意分野とすることで、相対的価値を生み出すという戦略もありえるわけです。

インドネシアには弊社も含めて6,400万件の中小零細業者UMKM(Usaha Mikro Kecil dan Menengah)が存在すると言われており、飲食業やサービス業を中心に事業閉鎖の話を聞くたびに気が重くなりますが、将来の先行きに不安を感じながらも、ブレてはいけない理念を再確認しながら、生き残るための差別化戦略を考えていきたいと思います。