渋滞の中現場を訪問する行為はライバルが「渋滞が酷いから訪問は止めよう」と考えることに対する差別化になりうる。金銭的な見返りだけでなく、新しい技術の習得や実績のためなど、満足度や期待値といったオフバランスの資産にどれだけ価値を見出し蓄積できるかどうかが重要。 インドネシアのビジネス インドネシア市場でのビジネスで重要な要素は価格とブランド、コネの3つと言われますが、必ずしもこれらを持ち合わせない日本人はどのように戦えばよいのか。これはインドネシアに関わり合いを持って仕事をする人にとっての共通の問題意識かと思います。 続きを見る
マグレ当たりが長く続かない理由
2001年から2007年の間、バリ島からバティックサロン(腰巻)布とイカット布を大量に日本に輸出していたことがありますが、当時日本ではインドネシアでの仕入相場も知られておらず、原価の4~5倍のこちらの言い値で飛ぶように売れていました。
別に何か確信があってバティックサロンに目をつけたわけではなく、たまたま身近で手に入るバティックやイカットの布を、当時日本最大のアジア雑貨のオンラインショップに提案してみたところ、たまたま先方がかかえていた慢性的な在庫不足というド真ん中のストレートの問題を、こちらの豊富で迅速な供給能力でジャストミートした結果、場外ホームランによって双方が大きな利益を上げることができました。
ただ理由もよく知らないままひたすら取引先の需要を満たすべく、仕入と発送を繰り返していたさなかに、今度はバリ島のクタ近辺でよく売られていたパレオという腰巻用の布の注文をもらい、これもバティックと同じ腰巻だしサイズも同じだし、これまたどんどん売れるだろうと確信して大量に仕入れたところ、その後さっぱり売れず自宅倉庫に在庫の山として眠り続けることになりました。
この失敗の原因を今となって考えてみるとこういうことだと思います。
- ジャワ島で製作されるハンドメイドのバティック布と違ってバリ島産のパレオは値段がばれている。
- 日本のアジアブームに乗っかるにはデザインがモダン過ぎてエスニック感が足りない。
- バティック布の日本での用途がクッションカバーやシャツ縫製やテーブルクロスだったが、パレオは向かない。
要は思いがけず商品がたまたま売れるマグレ当たりが絶対後まで続かないのは、売れた理由が自分でわからないので時代の変化についていけず、次どうやって売るかがわからないからです。
実体験を元にシミュレーションする
今自分が対象とする顧客層のニーズがどのように変化しているかを分析した上で、それをどうやって調達して(開発して)どうやって売ろうかと考え、何を売るかをニーズに合わせて変化させていく力とは、実体験に基づく経験から判断の確度を高めることで養われる力に他なりません。
例えばブログを書くとき、ネタ切れを起こしやすいのはだいたいリアルの世界で何も行動を起こさない日々が続いたときであり、休日も家にこもってネットで動画ばっかり見ているときです。
オンラインでいろんな情報を見て経験したような気分だけで、それを元に文章を書いたとしても、背景に情景が浮かんでこない現実味のない薄い文章になってしまうのです。
オンライン化が進みネットでの情報収集が主流になった今、裏付けに乏しい二次情報や三次情報を元に時代の変化を分析しようとする場合、実体験に基づく記憶が多いほど、可能なシミュレーションのパターンが増えるという点において、オフラインで差別化していることを意味しています。
ネット社会の発展によりオンラインでの情報収集が主流になりつつある現在では「書を捨てよ町へ出よう(寺山修司)」ならぬ「ネットを捨てよ町へ出よう」、オンライン情報が氾濫するほど、情報についての判断力の源泉となる実体験に基づく持ち駒を増やすために、現場での経験が重要になるのは間違いないと思います。
渋滞が参入障壁となって競合を少なくする
2019年1月現在、Tol Jakarta-Cikampekの渋滞が益々激しくなった結果、僕の平均的な平日の時間割りはこんなことになっています。
- 睡眠:6時間
- 食事:1.5時間
- 仕事:6時間
- 運転:6時間
- その他:4.5時間
西ブカシのオフィスから行く先はCibitung、Cikarang、Karawangの工業団地が多く、だいたい平均して往きが2時間半、帰りが3時間半とすると1日の4分の1は運転していることになり、Twitterでのつぶやきはどうしても渋滞関連の愚痴に偏りがちになります。
インドネシアのネット回線事情は劇的に改善され、街中なら普通に下り10Mbpsくらいのスピードが出ますので、ZoomやWebEXというWEB会議ツールを使って、現場のお客さんとオンラインでコミュニケーションをとることは十分可能かもしれません。
だからこそ敢えてオフラインで責任者に直接会って仕様変更の相談を受けたり、プロジェクトの遅れに対する不満を聞いたりし、運用担当者から個人的な要望を聞いたり、操作方法についての質問にその場で答えたりするために現場を訪問するサービスの価値が相対的に上がります。
時間をかけて現場を訪問するという行為は労働集約的行為であるため、時間が有限である以上は1人あたりの生産効率に限界がくるのは目に見えていますが、逆張りの理屈で考えると他社が「渋滞が酷いから客先訪問は止めよう」と考えることに対する差別化になりうるわけです。
以前僕はバリ島から家具やバティックなどを日本に輸出する仕事をしていましたが、競合他社が在庫リスクを押さえエージェント型のビジネスを行っていたのに対して、僕は機会損失をゼロにするために在庫型のビジネスにこだわりました。
- 他社は在庫リスクを恐れエージェント型のビジネス⇒自分は在庫を持ち機会損失をゼロにする。
- 他社は渋滞による時間コスト削減のためオンライン型のビジネス⇒自分はオフラインでサービスの価値を向上させる。
まあ最終的にはこの会社はクローズしてしまったわけですが、7年間意地を通した在庫ビジネスという逆張りの思想はいまだに間違いではなかったと思っています。
インドで最も普及しているTallyという業務システムの導入に携わっている日本人の友人が、生活環境が過酷なニューデリーでビジネスを続ける最大の理由が、他に日系企業向けのサポートをする競合がいないからという、隙間戦略の本質的メリットを語っていました。
頻繁にお客さんに顔を見せて安心してもらうこと、お得意さんを最大限に大切にすること、こんな昭和の香りがする昔の証券営業マンが言うような営業の鉄則は、ネット社会の今でこそ再度注目に値します。
オフバランスの資産の蓄積
ここで一つ問題があるのですが、渋滞の中を苦労してオフラインの訪問をしたからといって、必ずしもお客さんの予算、客単価が上がることはないのです。富士山の山頂では缶ジュースが400円くらいするのは、輸送コストが高くついているからですが、Tol渋滞の先にある工業地帯だから高いサービス費用を見積もれるわけではありません。
そうなるとサービスを提供する側である我々は固定費を削減するのはもちろん、お客さんの予算から逆算して見積もりを作っていかないと仕事が取れなくなるということです。
その際に重要になるのが金銭的な見返りだけでなく、新しい技術の習得のためとかプロジェクトの実績のためとか、満足度や期待値といったオフバランスの資産にどれだけ価値を見出し、蓄積できるかどうかということになります。
あまり大きな赤字はさすがに無理だとしても、金銭的に損がないトントンの価格でもやるだけのメリットがあるという判断は、工数を計算しコストを積み上げるやり方だけでは出来ません。
僕はシャイで人見知りする人間であり、3人以上の飲み会とか逃げ出したくなるタイプですが、お客さんと対面でシステムの話をするのは大好きです。
やはり最大のオフバランス資産はお客さんと対面で話しをすることによって得られる気づきとか経験であり、それを楽しいと思えるかどうか。このブログも10年近くやっていますが、仕事も遊びも楽しくないと続かないのは同じです。