インドネシアの中小零細事業者向けSaaSサービスのjurnalとmajooの在庫管理機能の違いは、小売業向けか飲食業向けかの違いと言えます。また製造業向けシステムとは品目マスタに対する考え方が異なり、この違いが設計の違いとなってUI/UXに反映されます。 インドネシアのビジネス インドネシア市場でのビジネスで重要な要素は価格とブランド、コネの3つと言われますが、必ずしもこれらを持ち合わせない日本人はどのように戦えばよいのか。これはインドネシアに関わり合いを持って仕事をする人にとっての共通の問題意識かと思います。 続きを見る
インドネシアの巨大な中小零細事業者向けサービス市場
2021年時点で、インドネシアには871万件の中小零細業者UMKM(Usaha Mikro Kecil dan Menengah)が存在すると言われ、国内総生産PDB(Produk Domestik Bruto 英語でGDP)の60.3%を占め、総労働力の97%の生活を支えています。
1. Mikro: Rp300juta
2. Kecil: Rp.300juta-Rp.2.5M
3. Menengah:Rp.2.4M-Rp50M
2022年のUMKM数は871万件、インドネシアの中小向けB2Bはまだまだ手薄だと思います。
おのずと国内のみならず海外のITスタートアップ企業も、この巨大市場へのサービス展開を狙っており、POS(point-of-sale)・決済・デリバリーなどのフロントオフィス業務や、会計・人事給与・税務などのバックオフィス業務を支援するシステムを、SaaS型のサービスとしてローンチしています。
リテールや飲食店は数が多く入れ替わりが激しいので、今後も継続的な需要が期待されますが、現在のところSaaSサービスの数が絶対的に少ないため、今後もITスタートアップ企業によって、UMKM向けの新しいSaaSサービスがローンチされていくものと予測されます。
主だったSaaSサービスとして、会計・販売・購買・在庫管理機能を実装するMekariグループのjurnal(Rp.399,000/月から)、インドネシアのUMKMの中のFnB(Food and Beverage)業界の65%にあたる30,000件で使用されているPOS+在庫管理のMoka(Rp.299,000/月から)、会計・販売管理・購買管理・在庫管理+POSという飲食業に必要なすべての業務をサポートするサービスをRp.129,000/月からはじめられるmajooなどがあります。
Gojekに買収されたクラウドPOSシステムプラットフォームMoka
2020年4月にインドネシア最大の配車・決済サービスのGojekが、中小店舗向けのPOS(Point Of Sales)プラットフォームMokaを買収し、レストラン・カフェなど飲食業の販売・支払いというフロント業務自動化サービスに進出しました。
POSは商品の販売・支払いが行われるその場で、商品に関する情報を単品単位で収集・記録し、商品売り上げ情報を把握し、それに基づいて売り上げや在庫をリアルタイムで管理するシステムで、身近な例ではコンビニのPOSレジが挙げられます。
そしてMokaの管理画面からGostoreというツールを使いmygostore.comのサブドメインとしてスマホ用オンラインショップが簡単に作成でき、そこからMokaの在庫管理と売上管理が利用できるだけでなく、FacebookやInstagramからショップへ誘導しやすい仕組みが構築できます。
去年、情報通信省(Kemkominfo=Kementerian Komunikasi dan Informatika Republik Indonesia)がGojekと協力して零細事業主の商材をオンライン上に載せることでEC市場を拡大するという話があったものの、6,400万件とも言われる零細事業主すべてをオンラインマーケットプレイス上に載せるわけにもいかず、現実的かつ具体的なスキームが不明でしたが、その答えがもしかするとGostoreなのかもしれません。
GojekはGostoreというサブドメイン区切りのWEBショップ自動生成ツールを提供し、事業主が店頭にある商品をアップし、SNS上での販促は事業主自身の努力に依存するという話であれば筋が通ります。
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インドネシアでのオンラインでの観葉植物販売ビジネスの可能性
コロナ禍で自宅で過ごす時間が増えたインドネシア人の間で観葉植物栽培がブームになっています。インドネシア政府は地方のインフラ整備と情報リテラシー教育による潜在的EC登録事業者の掘り起こしを行っており、地方の栽培業者がECを利用した販路拡大を行っています。
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2021年5月にGojekは最大のオンラインマーケットプレースTokopediaと事業統合してGotoグループが誕生しとたことで、インドネシアのEC市場はGotoの一人勝ち状態と言っても過言ではないと思いますが、インドネシアの生活習慣に密着したサービス開発力とシステム開発力だけでなく、市場拡大のための営業力の強さが彼らの凄さです。
バックオフィス業務のプラットフォームを展開するMekariグループ
会計(Jurnal)、人事給与計算(Talenta)、税務(KlikJajak)など、中小企業のバックオフィス業務用クラウドソリューションの事業展開していた企業同士が吸収合併を繰り返してMekariグループとなり、現在のUI/UXとしては、ベースとなるプラットフォームjurnalからAdd-Onという形で各種機能を追加して連携させます。
現在のjurnalは会計のみならず、販購買管理機能と在庫管理機能と統合されていますので、既にERPプラットフォームと言えますが、上述のPOSシステムMokaとも簡単にAdd-Onという形で接続できます。
インドネシアの中小企業向け会計プラットフォームと言えばAccurateやZahirという老舗ローカルシステムが大きなシェアを占めていましたが、後発のjurnalが一気にシェアを広げるきっかけとなったニュースが、銀行口座との自動連係機能だったように記憶しています。
Cash Link機能を使うことで、PaypalやWiseで引き出し先の銀行口座へのリンクを作るのと同じ感覚で、現預金勘定(Cash Bank)ごとに、簡単に銀行口座にリンクできそうです(14日間お試しライセンスなので実際にリンクまでは試していない)。
銀行口座の動きがjurnal上に自動仕訳され、会計上の現預金の動きと口座の動きを照合する作業がなくなるということは、理論的には期中の会計業務がなくなり、ヒューマンエラーも排除されることで、期末の決算整理もほぼ自動化され、スタッフレベルの会計担当者が不要になります。
(2023年3月追記)
実際にはjurnalの銀行口座連携機能は、jurnal上の取引と銀行口座の取引履歴のリコンサイルを目的としており、口座の動きから自動仕訳を起こす機能はありません。
2021年8月現在、インドネシアのSaaS業界はGotoグループを中心とした再編成の波が続いており、B2C、D2Cと中心としたGotoグループが本格的にB2Bへ進出する場合には、これまでの東南アジア最大のデカコーン企業体にまで成長した経緯からしても、Mekariは有力なM&A先となるはずです。
小売・飲食業種向けクラウド型サービスjurnalとmajooの在庫管理の特徴
僕は2005年から2007年まで、バリ島のデンパサールとサヌールでブティックをやっていた時期があるのですが、当時は仕入れた商品それぞれにコードを付けて、仕入値と売値と利益を右列に並べて表にして在庫管理をしていました。
そして現在、jurnalの試用ライセンスでシステム評価をしている最中ですが、モノの入庫に合わせて品目コードを付番し、仕入値・売値・利益・サイズ・仕入先などの必要な情報を追加し、在庫が掃けたら表から削除するという業務オペレーションを想定した在庫管理画面を見て、当時のブティックでやっていた在庫管理を思い出しました。
もちろんリピート品に関しては在庫が0になってもコードを残しておいて、次の入庫のタイミングで同じ品目コードで管理してもいいのですが、服やアクセサリーなどは品目コード自体よりも、商品名・仕入先・仕様・仕入値などの属性のほうが管理上重要な指標となるため、同じ品目コードで管理し続けるメリットは少ないのかもしれません。
2020年4月にインドネシア最大の配車・決済サービスのGojekに買収されたMokaは、UMKMの飲食業界でのシェアを拡大しており、これに対して2019年に設立された後発のmajooは、低価格+高機能で差別化を図ろうとしており、Moka+jurnalで実現する場合に最低Rp.498,000/月かかる機能をRp.129,000/月~Rp.249,000/月で実現できるようです(価格表に基づくおおよその判断で詳細比較まではしておりません)。
jurnalの在庫管理が仕入値・平均価格・直近の仕入価格・売値などの金額を軸とした小売店業務に最適化された設計になっているのに対して、majooの場合は期首在庫・入庫・出庫・期末在庫というモノの移動(Mutation)を意識した受払表形式になっています。
入庫状況と出庫状況を一定の期間で切り取って把握しやすく、さらに在庫管理(Inventori)のメニュー中に発注管理がPembelian Stok(PO)というサブメニューとして置かれ、購買はあくまでも入庫のための手段という発想からして「何個買って何個使ったから何個残っている」を分かりやすくした飲食業の食材管理に最適化されているのかもしれません。
現在弊社のお客様は製造業中心ですが、繰り返し生産を前提としたマスプロダクション工場の在庫管理では、1つの製品を製造するために同じ材料を何度も入荷し、生産数量に必要な材料の所要量を計算する必要があるため、製品と原材料の紐付きが定義できるように事前に品目マスタを整理する必要があり、これがリテール・飲食業種向けの在庫管理システムとの設計思想の違いとなってUI/UXに表れます。