インドネシアのムシャワラ文化と日系企業への影響

2021/05/11

インドネシアのジャワ

日本企業は意思決定が遅いとよく指摘されますが、インドネシアにはムシャワラ精神が労働法や会社法に明記されています。この精神は、利益やスピードよりも話し合いによる合意を重視する農耕社会の価値観です。そのため、在インドネシア日本企業は益々慎重な企業風土が出来上がるのではないでしょうか。

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この記事でわかること

  • インドネシアのムシャワラ精神は労働法や会社法に明記されています。
  • GDP5,000ドルの法則により、マレーシア、中国、タイは有望市場とされています。
  • インドネシアの人口は世界有数の人口で、GDPは5年以内に5,000ドルを超えると予測されています。
  • パンチャシラはインドネシアの多民族・多宗教社会の統合に寄与しています。
  • インドネシアのムシャワラ文化は意思決定を遅らせ、日系企業に影響を与えています。

日本で成功した製造業向けソリューションはどの国で通用するのか?GDP5,000ドルの法則とは

日本で多くの販売実績を誇る製造業向けソリューション製品は、1人当たり名目GDPが5,000ドルを超えた国で売れはじめるという法則があります。アジアで日系製造業が進出している国々の一人当たり名目GDPを比べると、マレーシア・中国・タイが高く、インドネシアはその次、ベトナムがそれに続きます。この法則に基づけば、マレーシア、中国、タイは売上が見込まれる市場と言えます。

事例:中国とタイで売上を伸ばし、アジアの販売拠点を確立した営業マンが、次のターゲットとしてインドネシアに派遣されました。インドネシアは世界有数の人口規模を持ち、1人当たり名目GDPは上昇基調にあり、製造業ソリューションが売れやすいとされる水準への到達が意識されています。彼はジャカルタに赴任し、現地代理店と共に工業団地の日系企業を訪問しました。

要点:インドネシアは人口ボーナスを享受する巨大市場であり、将来的な成長が期待されますが、現地での営業活動は中国やタイと異なる手応えを感じることがあります。

インドネシアの日系企業数は1,489社で、製造業が871社あります。人口ボーナスが続くとされるこの市場は大きな魅力です。マレーシアの日系企業数は1,385社で、製造業は691社です。人件費や地政学的問題から、東南アジア拠点としては適していないと判断されています。

多民族・多宗教国家インドネシアの統治理念「パンチャシラ」とアダット文化の深層

インドネシアの行動様式や思考様式に影響を与える要素として、民族と宗教が挙げられます。インドネシアには300以上の民族が存在し、これらはアダット(Adat)と呼ばれる生活共同体の慣習や規範によって分けられています。アダットは言語や文化、歴史的運命を共有する集団を形成し、主観的な基準でグループ化されています。

イスラム教の基本的考えでは、立法者は神のみであり、人間は神の命令を解釈し実行することに専念します。これにより、法の下の平等や国民主権を是とする民主主義と相入れない部分があり、他の宗教との共存が課題となっていました。

1945年、スカルノ初代大統領は憲法の前文に建国5原則パンチャシラ(Pancasila)を起草しました。第一原則ではイスラム教を国教とせず「唯一神への信仰」と規定し、宗教間の融和を図りました。また、第四原則で民主主義を規定し、イスラム教と民主主義の共存を目指しました。

スハルト大統領は1965年からパンチャシラ教育を強化し、学校教育に取り入れました。例えば、ある人は小・中・高の12年間、毎週月曜日の集会でパンチャシラ五原則を暗唱していました。

事例:6月1日はパンチャシラの日(Hari Lahir Pancasila)ですが、祝日となったのは2016年からです。古くからインドネシアにいる人にとっては、突然の祝日として驚かれることもあります。

要点:パンチャシラはインドネシアの多民族・多宗教社会の統合に寄与し、スハルト政権下での教育を通じて国民に浸透しました。

スハルト政権時代のパンチャシラの政治利用については議論がありますが、多民族国家としてのインドネシアの存在はパンチャシラの精神によるものです。エルサレムでのニュースを見ながら、多様性を尊重するインドネシアから世界の紛争や差別問題の解決のヒントが得られるかもしれないと考えます。

事例:イフタール中の人が多い中で、私はバタックの豚肉料理を食べていますが、多宗教多民族の人々が尊重し合っているインドネシアは、世界の紛争や差別問題の解決の姿を先取りしているのではないでしょうか。

伝統的合意形成方法ムシャワラと全会一致のムファカット

パンチャシラの第四原則「合議制と代議制における英知に導かれた民主主義」は、伝統的農耕社会の対話を通じて民族主義的解決を目指すムシャワラを指します。ジャワ人の気質は「幸福と調和を重視する思考が気質や行動に表れる」と評され、国家の調和を維持するために、具体的な決定を遅らせることもあります。この精神はパンチャシラだけでなく、労働法2003年13号の第7部の「労働協約」にも明記されています。

事例:可決されたオムニバス法案(UU Cipta Kerja)は、海外直接投資を増やすために規制緩和や行政許認可の簡素化を目的としています。しかし、労働者の退職金の減額や最低賃金の設定に関する変更に反対するデモが拡大しました。

要点:これは国家の経済的利益を優先し、民族間の合意による平和というムシャワラの精神をないがしろにしているという反発です。

インドネシアのムシャワラ文化が意思決定を遅らせる理由と日系企業への影響

インドネシアでのビジネスの難しさの一つに、ムシャワラの精神があると考えています。他国で実績のあるプロダクトがインドネシアで売れない理由の一つは、相手の意思決定が遅いことです。これは社内調整に時間がかかり、全員の合意を優先するためです。

事例:日本企業は意思決定が遅いと指摘されますが、インドネシアではジャワ農耕社会のムシャワラ精神が労働法や会社法に明記されるほどです。このため、在インドネシア日本企業は慎重派集団になる可能性があります。

要点:インドネシアと日本の文化が融合した企業風土が、意思決定をさらに慎重にしています。

インドネシアでの日系企業をターゲットにしたB2Bビジネスが難しい理由には、市場規模や投資予算の規模以外に、意思決定に時間がかかる文化が影響している可能性があります。