生産スケジューラー

コロナ禍中のインドネシア日系製造業のIT導入の最新事情

2021/04/02

インドネシアのコロナ禍の中で、日系製造業様からいただいたシステム化(DX化)のご相談の傾向として、正確な原価管理とより多面的な収益管理の必要性と、納期遅れしない生産管理に対する意識の2点が挙げられます。

インドネシアのコロナ禍による製造業への影響

2020年3月にインドネシア初のコロナ感染者が確認され、4月の大規模社会制限(PSBB)で人の移動制限により消費が落ち込み、5月はPSBB継続のままラマダン月に突入。32%の日系製造業が国内・海外からの注文留保・減少・キャンセルで5割以上の減産。3月~5月の生産活動への影響は本当に大きかったと思います。

1998年の通貨危機、2002年頃から頻発した爆弾テロの影響による社会的不安、2008年のリーマンショックなど、インドネシアは何度か不景気の引き波に襲われるたびに、生産・流通・消費という実経済がダメージを受けました。そして民間企業によるIT投資は実経済回復から6か月遅れというのが私の体感です。

6月にPSBBを段階的に緩和する移行期間(PSBB Masa Transisi)に突入し、新しい生活様式(New Normal)という一つの区切りを迎えました。6月下旬から7月にかけて海外駐在員のインドネシアへの再入国ラッシュとなった時点で、私は製造業のIT投資が活性化し始めるのは早くても12月だと覚悟しました。

10月下旬頃からお問い合わせ、引き合いが少しずつ戻りはじめましたが、実際に案件となりDP(手付金)のInvoiceを発行できるまで1~2か月、入金まで更に1か月。現地企業をお客様とするサービス業の皆様のご苦労は想像を絶します。

日系企業の業績と投資戦略への影響

JETROの調査では、インドネシアの日系企業の2020年第二四半期の前年同月比売上減少が50%以上の企業が37%、20%~50%未満減少が27%を占めました。一方で2020年2月末時点の現預金の留保が月商の3ヵ月未満が55%でした。当然ながら今日明日の現金を生まないIT投資戦略に大きく影響します。

ところが意外にも今後の投資戦略にマイナスの影響は少なく、現地の需要や成長性が期待できる、収益拠点として重要な位置づけにあるという理由で、69%の企業が現状維持、12%の企業が拡張を考えており、縮小を検討している企業は15%に留まっていました。

コロナ禍中に開催した3回のセミナーのアンケートで挙げていただいた業務改善の取り組みとして

  • 生産ローテーション配置
  • 減産に対応した生産計画と自宅待機の徹底。賞与圧縮。
  • 管理部門効率化/スリム化、アウトソース化
  • 生産性の向上の改善活動。
  • 品種別製品マスターデータの見直し

ここから読み取れるのは原価管理と生産計画に対する意識の高まりであり、弊社へのお問い合わせの中にも現れました。

  • 見積もり価格に対して実績原価がオーバーする
  • 多面的で粒度の細かい収益管理の必要性
  • 出荷時の製品在庫不足
  • 受注と出荷の紐付きの把握
  • 出荷に間に合う現実的な計画

個別受注生産工場の原価集計

インドネシアの日系企業1489社中、製造業が871社(2019年11月)、そのうち二輪四輪関連企業は25%を占めます。

コロナ禍中にいただいたお問い合わせの中では、お客様の意識は

  1. 正確な原価管理とより多面的な収益管理の必要性
  2. 納期遅れしない生産管理の必要性

この2点に集中していました。

工場の生産方式は、受注NOごとに異なるコストが発生する個別受注生産と、連続大量生産で基本的に同じコストが発声する見込み生産(マスプロダクション)の2つに分れます。

個別受注生産は主に中小企業で行われ、実績データを蓄積することにより将来の見積もり精度を上げることを目的とします。

一品一様の個別受注生産工場では見積もり時点で詳細な設計図がなく、受注後に初めて発注側から届く詳細設計を元に正確な材料費が算出できるケースが多く、この場合見積もり提出時点で、予算原価を算出するために参照できる有益な過去実績がいかに多く体系的に蓄積されているかが重要になります。

インドネシアで個別受注生産を行う日系中小企業が、高い技術力を持つ、いわゆる他で代えが効かない「町工場の技」で市場を独占できるうちは、原価をどんぶり勘定で計算し多めに利幅を載せても受注出来ました。

今はローカル企業、その他中国・台湾・シンガポール・韓国企業との過当競争の時代です。

僭越ながら率直な感想を言わせていただきますと、高い技術力を持つにもかかわらず、過去(と言ってもほんの数年前)にインドネシアに工場を立ち上げるだけで勝手に引き合いが来た時代のコスト意識を引きづったままの企業様が、価格競争の時代となった今、非常に苦しんでおられるように感じます。

問題解決の手段としてDX化が必ずしも正とは思いません。ただFAX問題に象徴されるようにコロナ禍によって日本のDX化がいかに遅れているかが表面化し、既得権益、過去のしがらみがDXを遅らせる要因であることを、現場レベルで強く感じました。その裏には意思決定のスピード感の差があります。

インドネシアは既存システムの縛りや既得権がないために、EC・モバイルシステムの普及が急速に進みました。
日本も団塊の世代からベビーブーム世代へ新陳代謝が進むことで変革の意思決定のスピードは確実に上がります。
見たくない現実をしっかりと見据えた上で前に進むしかないのだと思います。

連続見込み生産の原価集計

コロナ禍中に多くの日系製造業様から原価管理の見直しにあたってシステム導入検討のお話を伺いました。
10年前に比べて製造拠点、販売拠点としてインドネシアの存在感が高まったこと、年々高騰する人件費の問題もあり、インドネシア現法のIT予算は昔に比べて承認されやすくなっているように感じます。

ここ数年でインドネシア日系企業の基幹業務は徐々にシステム化され、現時点でDX化の波が最も波及しにくい分野の一つが原価管理、特にマスプロ型の総合原価計算です。理由は総平均法や移動平均法など国際会計基準(IFRS)が認める原価算出方法を採用する前提として正確な生産実績が必要だからです。

総合原価計算の詳細は一言では語れませんが、それよりもコロナ禍で問われたことはもっと基本的な問題、「何のために正確に原価を把握するのか?」「それを使って何をしたいのか?」です。
企業活動の目的は社会的責任とか難しいことは置いとくとして、まずは利益の追求であり存続の条件でもあります。

利益は企業存続のための条件、もっと言うと現預金の確保、資本金100jutaで起業し毎月25jutaの固定費がかかる場合は、現金取引を前提としても4か月以内に売上を計上できなければゲームオーバーです。だからPHK(クビ)、Potong Gaji(減給)で資金がショートしないよう生き延びようとするわけです。

当然ながら単に原価を正確に把握するだけでは利益は1ルピアも増えません。重要なのはその原価がどれだけの利益を生み出しているか。オンバランス上の数字だけで言えばROI(投資利益率)であり、必然的ににコストセンターという考えからプロフィットセンターという発想への転換が必要になります。

ここでいう発想の転換とは製造原価を元にP/L上で売上総利益(粗利)を出し、販管費を差し引いて営業利益を算出し、P/Lの縦軸で原価の妥当性を判断するという管理会計的思考への転換ということです。
さらにコロナ禍の収益改善で求められるのは、P/Lの横軸を広げた多軸的な切り口からの分析です。

納期遅れさせない生産管理

コロナ禍中に多くの日系製造業様からいただいた業務改善課題の一つが「正確で多面的な原価管理」、もう一つが「納期遅れしない生産管理の必要性」でした。
製造業のの場合、原材料を仕入れて生産を行い製品が出来上がるまでを生産管理、客先から受注オーダーを受け出荷する業務を販売管理と分けます。

インドネシアの製造業でよく見られた業務パターンです。

  1. 営業に客先から受注オーダーと出荷スケジュールが届く。
  2. 出荷スケジュールに合わせて生産開始。
  3. 出荷日に製品在庫がなく、出荷部門があるだけ出荷、不足分は翌日に返済して出荷。
  4. 客先は出荷部門と直接コミュニケーションをとる。

この結果、営業の業務の範囲が狭まり、受注オーダーの管理中心になります。本来であれば営業は生産管理部と一緒に基準生産計画(製品の完成日基準)作成に関与し、出荷部門に出荷指示を出し、受注オーダーに対してどれだけ出荷されたか、どれだけ残っているかの管理、いわゆる受注残管理を行います。

本来は営業が客先へのInvoice発行を主導し、経理部門に売上伝票を渡すことで売上と債権計上の振替伝票をきってもらうべきところ、受注残管理が出来ないために出荷部門の業務完了待ち、連絡待ちとなります。この問題の元凶は出荷時に製品在庫がないこと、納期に合わせた生産が出来ないことにあります。

出荷時に必ずしも製品が完成していないため、顧客との窓口が営業ではなく出荷担当者になってしまう工場が多く、その結果受注オーダーと出荷スケジュール、生産スケジュール間(購買スケジュールも)が分断されてしまいます。この弊害として納期遅れが生じ、挽回(救出)生産により生産性が低下します。

コロナ禍で求められるDX化とは

システム化の目的が省力化、効率化、間違い防止だとすれば、今流行りのDX化とは既存システムの置き換えではなく【ITを使用すればこんな便利なことが出来るようになる】という業務改革と言えます。

台湾のデジタル担当大臣オードリー・タンは、マスク在庫がリアルタイムで確認できるアプリ「マスクマップ」を開発することで、国内のマスク不足による買占め、転売等を防ぎましたが、これに際して最先端の技術を駆使してシステムを構築したわけではなく、政府によるコロナ禍対応としてOSS(オープンソースソフトウェア)を使って、スピーディに臨機応変に運用できるコミュニティと運用体制を構築した事が評価されたわけです。

業務改革を行うためには現場のオペレーション改革が不可欠で、ITありきで現場のオペレーション改革を実現するコンセプトを作成することで、業務改善と収益改善を実現することが、DX化の意義深いところだと考えます。

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