オンライン注文重視へ転換するインドネシアのマクドナルド

2020/09/19

マクドナルドインドネシア

インドネシアの生活様式に合わせたブランド戦略をとってきたマクドナルドは、新型コロナウィルス感染拡大に伴うPSBB(大規模社会制限)施行による外食制限の影響を受け、店舗への購買力吸引重視からオンライン注文重視というビジネスモデルの転換を迫られています。

ホテルインドネシア前広場

インドネシアのビジネス

インドネシア市場でのビジネスで重要な要素は価格とブランド、コネの3つと言われますが、必ずしもこれらを持ち合わせない日本人はどのように戦えばよいのか。これはインドネシアに関わり合いを持って仕事をする人にとっての共通の問題意識かと思います。

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インドネシアの生活様式に合わせ食文化を取り入れたマクドナルド

新型コロナウィルス感染拡大に伴うPSBB(大規模社会制限)施行下のジャカルタで、日本の戦後賠償引当の借款を資金として1963年に建設が開始され1967年にオープンした、インドネシア最初の大型デパートSarinah(サリナ)が、新しいビジネス戦略に合わせた改修工事を開始していますが、1991年にテナントとしてオープンし、2009年に衛生上の問題で営業停止処分を受け、一時期買収により名前がTony Jack変わったものの、その後復活し営業を再開してきたマクドナルドの第1号店が、新生サリナデパートのコンセプトに合わないとして2020年5月10日に閉店になりました。

30年近くの間、単なるファーストフード店の枠を超えて、幅広い年代と人種の人間が待ち合わせ、商談、勉強、ナンパ、仮眠など多種多様の目的を持って集まる社交場的役割を果たしてきたのは、一重にロケーションの利便性、安価な価格設定、大人数で集まりやすい広くて開放的な店内、顧客が追加注文または次回の購入時に注文したくなるメニューを提案するクロスセリング、ミレニアル世代(1981年以降に生まれ、2000年以降に成人を迎えた20代前半から30代後半くらいの年齢の人々)やZ世代(1990年中盤以降生まれの10代から20代前半くらいの年齢の人々)の生活様式に溶け込んだ存在だったからです。

スラバヤ通りのカフェで、インドネシアのコーヒーは赤道付近の火山灰層の肥沃な土壌で栽培され、ハニー製法で風味が最大限に残された豆を挽き立てで飲むから、アロマと風味が芳醇でアフターカップの余韻が爽快なんです、と解説した後「私はMacのコーヒーが一番好きです」の一言で片付けられた思い出。

マックのコーヒーは、決してインドネシアが世界に誇るマンデリンやトラジャなどの上質のスペシャリティコーヒーと比べるまでもありませんが、わずかRp.11,000という価格からすれば決して不味いというレベルではないし、日本のアメリカンコーヒーのような軽い感覚で、普通に2~3杯無料のおかわりを飲めるし、シーズンプロモとして頻繁に出される甘いパイに合わせると、その苦みで甘さが中和されてむしろ飲みやすいとさえ言えます。

CikarangのMacにて。お誕生日会の準備らしい。

一日の大半を学校や職場というセカンドプレイス(ファーストプレイスは自宅)で過ごすミレニアル世代やZ世代が、出勤前や昼休み、帰宅前の限られた時間に、限られた予算の範囲で集まって時間を潰すサードプレイスとして都合のよいロケーションにマクドナルドは立地しており、授業時間や勤務時間が始まった後のアイドルタイムには、プレイグラウンドとおまけ付きのハッピーミールで子供連れの主婦層の顧客ロイヤルティを獲得した結果、小学生低学年くらいまでの子供達はマクドナルドで誕生会を開いてもらうのが夢だと語るくらいです。

Macでバーガー食べる人あまり見なくて、周りはみんなチキン食べてるので、売れ筋No1というPaNas Specialご飯とチキンと卵のセットRp.37,000、親子丼みたいで昼飯としては腹持ちしそうだが、人待ちの時間潰しにはポテトが欲しい。

インドネシア人の多くは白米を食べないと昼飯を食べたことにならないと考える人が今でも多く居ますので、KFCやA&Wなど当地のファーストフード店は必ず白米付きのセットを用意しており、マクドナルドの人気ランキングでも1位アイスクリーム、2位PaNasセット、3位Happy Meal(子供用セット)という、インドネシアの食文化を反映した結果になっており、朝マックにはブブールアヤム(お粥)やナシ・ウドゥック(Nasi Uduk)というインドネシア人に馴染み深いメニューもあります。

MacでブブールアヤムRp.11,000、アジア的なメニュー。コーヒーもRp.11,000、店内で3杯くらいおかわりするつもりだったが、ブカシの店内飲食は11時から。

店舗への購買力吸引からオンライン注文というビジネスモデルの転換

ロバートキヨサキ著「金持ち父さん貧乏父さん」の中で提唱されているキャッシュフロークワドランドという概念は、世の中には労働収入と権利収入という2通りのお金の稼ぎ方があって、従業員や自営業者は自分の時間を切り売りして労働収入を稼ぎ、ビジネスオーナーは他人の時間を使って、投資家は他人のお金を動かして権利収入を稼ぐというものでした。

僕はバリ島で輸出で生計を立てていた時期にシリーズ全巻を購入し、その影響でインドネシア株や投資信託(Raksa Dana)を購入したりジャカルタのマンガドゥアのキオスに投資したりしましたが、後になって実は作中のエピソードのほとんどが作り話だと聞いてがっかりしたものですが、マクドナルドを例にビジネスのシステムを作ることの重要さを説いた記述には、頭の中にもやっとしていたものが明確に言葉で説明されていました。

マクドナルドより美味しいハンバーガーを作ることが出来る人はたくさんいるが、マクドナルドよりすぐれたビジネスシステムを作ることが出来る人はいない

あまり言い過ぎるとねずみ講か新興宗教の勧誘っぽくなるのですが、有名な「パブロとブルーノの物語」でブルーノが一生懸命水汲み作業で報酬を稼ぐ間にパブロは水路を作って村に水を引き込むシステムを作るという話と同じで、マクドナルドは30年近くもの間、ミレニアル世代とZ世代のセカンドプレイスに近いロケーションに引き込み、顧客ロイヤルティを高めるというビジネスモデルを築き上げてきました。

しかし2020年9月現在、PSBB2下でオンライン授業とリモートワークが再度義務付けられるようになり、ジャカルタでは店舗内での飲食が再度禁止されていますが、第一四半期の売上は昨年比65%減となり、今年に入って世界中でも200以上のマクドナルドの店舗が閉鎖されており、これまでの店内飲食を前提としたビジネスモデルからオンラインでの注文、WOS(Web Order System)を中心にしたビジネスモデルへ転換しようとしています。