インドネシアの事業競争監視委員会(KPPU)の権限

2020/07/04

事業競争監視委員会(KPPU)

インドネシアの独占禁止法の執行機関が独立機関である事業競争監視委員会KPPU(Komisi Pengawas Persaingan Usaha)であり、独占的行為又は不公正な事業競争を引き起こすこととなる協定について調査・評価し、審問を実施し、最終決定を下し行政上の措置を課すという非常に強い権限を持っています。

独占禁止法違反で制裁金を課されたGrab

2020年7月2日、インドネシア事業競争監視委員会KPPU(Komisi Pengawas Persaingan Usaha)は、Grab Indonesia(PT Solusi Transportasi Indonesia)がパートナーであるレンタカー会社PT.TPI(PT Teknologi Pengangkutan Indonesia)の登録ドライバーに対して、一般のドライバーよりも優遇措置を与える差別的慣行(praktik diskriminasi)を行っていたと判断し、独占的慣行の禁止と不公正な事業競争法違反(Larangan Praktik Monopoli dan Persaingan Usaha Tidak Sehat)に該当するとして、Grabに29.5Milyar、PT.TPIに対して19Milyarの制裁金を課しました。

事業競争監視委員会(KPPU)は、Grabがパートナーのレンタカー会社PT.TPIの登録運転手に対して、その他の運転手よりも優先的にオーダーが入るよう操作していたことが、独占的慣行の禁止と不公正な事業競争法違反にあたるとして、Grabに29.5M、PT.TPIに19Mの罰金を課した。

この問題が発覚したのは、去年2019年10月に北スマトラのメダン(Medan)で、PT.TPI共同組合(koperasi)に属さない、特別レンタカー団体Oraski(Organisasi Angkutan Sewa Khusus Indonesia)所属のGrabのドライバーによって、PT.TPI共同組合ドライバーが優先してオーダーが入るようGrabから優遇措置を受けており、自分達が不当な扱いを受けているという報告がKPPUになされたのが最初です。

アプリケーションプロバイダー企業であるGrabのパートナー企業PT.TPIとは、自分の車を持っていない人がTPIの共同組合に加入し、共同組合にレンタルフィーを支払うことで車を借りて、Grabのドライバーとして働くことが出来る組織の運営会社で、このTPI共同組合ドライバーが一般のドライバーよりもアプリ上で優先的にオーダーが入るようになっていたと疑われていました。

またGrabドライバーは週2Jutaの売上目標を達成した場合、70万ルピアの手数料(komisi)を受け取り、そこから20%をGrabに控除されますが、TPI共同組合加入ドライバーは控除されないという優遇措置を受けており、結果としてTPI共同組合への加入者数を増やし、非TPIドライバーの割合を減らすことになり、これが独占的慣行と不公平なビジネス競争と判断されたものです。

KPPUはGrabとPT.TPIに対して30日以内に制裁金を支払うよう命じていますが、これはKPPUが第三者の指揮・監督を受けない独立機関だからできる素早い対応であり、同じく独立した国の捜査組織である麻薬委員会BNN(Badan Narkotika Nasional)や汚職撲滅委員会KPK(Komisi Pemberantasan Korupsi)に通じるものがあります。

事業競争監視委員会(KPPU)の権限と独占禁止法の概要

1998年に政治経済の混乱と暴動による治安の悪化に対する国民の不満に屈する形で、32年間に渡るスハルト独裁政権が終わり、当時の副大統領だったハビビ氏が大統領に昇格し、その後1999年にグスドゥール(ワヒド)政権、2001年にメガワティ政権と政権が移行する中で、インドネシア憲法や法律は民主化に合わせて改正されていき、その過程で「独占的行為及び不公正な事業競争の禁止に関するインドネシア共和国法1999年第5号」が1999年3月に制定・公布され、2000年9月から施行されました。

このいわゆる「独占禁止法」の執行機関が政府及び第三者の指揮・監督を受けない独立機関であるKPPUであり、独占的行為又は不公正な事業競争を引き起こすこととなる協定について調査・評価し、審問(裁判や政府機関等による決定に先立つ法的手続き)を実施し、最終決定を下し行政上の措置を課すという非常に強い権限を持っており、今回のGrabとPT.TPIに対する行政制裁金の賦課がこれにあたります。

独占禁止法(独占的行為及び不公正な事業競争の禁止に関するインドネシア共和国法1999年第5号)で禁止される協定

  1. 寡占
    他の事業者との間で商品又はサービスの生産又は販売を共同で支配する協定を締結することは禁止。
  2. 価格拘束
    競争者との間で同一関連市場において消費者が支払うこととなる特定の商品又はサービスの価格を決定する協定を締結することは禁止。
  3. 排他的行為
    競争者との間で他の事業者が国内又は国外市場において同一の事業を行うことを妨害することとなる協定を締結することは禁止。
  4. カルテル
    競争者との間で特定の商品又はサービスの生産又は販売を調整することにより、価格に影響を与えることを意図した協定を締結することは禁止。
  5. トラスト
    他の事業者との間で商品又はサービスの生産又は販売を支配することを意図して、合弁会社若しくはより大規模な企業を設立し、又は個々の会社若しくはその構成員を存続させることによって協力する協定を締結することは禁止。
  6. 買手寡占
    他の事業者との間で関連市場における商品又はサービスの価格を支配するために、購入又は受給を共同して支配することを意図した協定を締結することは禁止。
  7. 垂直的統合
    他の事業者との間で特定の商品又はサービスの、直接又は間接の生産工程に含まれている複数の製品の生産を支配することを目的とした協定を締結することは禁止。
  8. 排他的協定
    他の事業者との間で商品又はサービスの受領者が、特定の相手方又は特定の地域に対してのみ当該商品又はサービスを再販売し、又は再販売しないものとする協定を締結することは禁止。
  9. 外国事業者との協定
    外国に所在する者との間で独占的行為又は不公正な事業競争を引き起こすこととなる内容を含む協定を締結することは禁止