インドネシアのビジネス環境

インドネシアの事業競争監視委員会(KPPU)の権限【独占的慣行の禁止と不公正な事業競争法違反で制裁金を課されたGrab】


独占禁止法違反で制裁金を課されたGrab

7月2日、インドネシア事業競争監視委員会KPPU(Komisi Pengawas Persaingan Usaha)は、Grab Indonesia(PT Solusi Transportasi Indonesia)がパートナーであるレンタカー会社PT.TPI(PT Teknologi Pengangkutan Indonesia)の登録ドライバーに対して、一般のドライバーよりも優遇措置を与える差別的慣行(praktik diskriminasi)を行っていたと判断し、独占的慣行の禁止と不公正な事業競争法違反(Larangan Praktik Monopoli dan Persaingan Usaha Tidak Sehat)に該当するとして、Grabに29.5Milyar、PT.TPIに対して19Milyarの制裁金を課しました。

この問題が発覚したのは、去年2019年10月に北スマトラのメダン(Medan)で、PT.TPI共同組合(koperasi)に属さない、特別レンタカー団体Oraski(Organisasi Angkutan Sewa Khusus Indonesia)所属のGrabのドライバーによって、PT.TPI共同組合ドライバーが優先してオーダーが入るようGrabから優遇措置を受けており、自分達が不当な扱いを受けているという報告がKPPUになされたのが最初です。

アプリケーションプロバイダー企業であるGrabのパートナー企業PT.TPIとは、自分の車を持っていない人がTPIの共同組合に加入し、共同組合にレンタルフィーを支払うことで車を借りて、Grabのドライバーとして働くことが出来る組織の運営会社で、このTPI共同組合ドライバーが一般のドライバーよりもアプリ上で優先的にオーダーが入るようになっていたと疑われていました。

またGrabドライバーは週2Jutaの売上目標を達成した場合、70万ルピアの手数料(komisi)を受け取り、そこから20%をGrabに控除されますが、TPI共同組合加入ドライバーは控除されないという優遇措置を受けており、結果としてTPI共同組合への加入者数を増やし、非TPIドライバーの割合を減らすことになり、これが独占的慣行と不公平なビジネス競争と判断されたものです。

KPPUはGrabとPT.TPIに対して30日以内に制裁金を支払うよう命じていますが、これはKPPUが第三者の指揮・監督を受けない独立機関だからできる素早い対応であり、同じく独立した国の捜査組織である麻薬委員会BNN(Badan Narkotika Nasional)や汚職撲滅委員会KPK(Komisi Pemberantasan Korupsi)に通じるものがあります。

事業競争監視委員会(KPPU)の権限と独占禁止法の概要

1998年に政治経済の混乱と暴動による治安の悪化に対する国民の不満に屈する形で、32年間に渡るスハルト独裁政権が終わり、当時の副大統領だったハビビ氏が大統領に昇格し、その後1999年にグスドゥール(ワヒド)政権、2001年にメガワティ政権と政権が移行する中で、インドネシア憲法や法律は民主化に合わせて改正されていき、その過程で「独占的行為及び不公正な事業競争の禁止に関するインドネシア共和国法1999年第5号」が1999年3月に制定・公布され、2000年9月から施行されました。

このいわゆる「独占禁止法」の執行機関が政府及び第三者の指揮・監督を受けない独立機関であるKPPUであり、独占的行為又は不公正な事業競争を引き起こすこととなる協定について調査・評価し、審問(裁判や政府機関等による決定に先立つ法的手続き)を実施し、最終決定を下し行政上の措置を課すという非常に強い権限を持っており、今回のGrabとPT.TPIに対する行政制裁金の賦課がこれにあたります。

独占禁止法(独占的行為及び不公正な事業競争の禁止に関するインドネシア共和国法1999年第5号)で禁止される協定

  1. 寡占
    他の事業者との間で商品又はサービスの生産又は販売を共同で支配する協定を締結することは禁止。
  2. 価格拘束
    競争者との間で同一関連市場において消費者が支払うこととなる特定の商品又はサービスの価格を決定する協定を締結することは禁止。
  3. 排他的行為
    競争者との間で他の事業者が国内又は国外市場において同一の事業を行うことを妨害することとなる協定を締結することは禁止。
  4. カルテル
    競争者との間で特定の商品又はサービスの生産又は販売を調整することにより、価格に影響を与えることを意図した協定を締結することは禁止。
  5. トラスト
    他の事業者との間で商品又はサービスの生産又は販売を支配することを意図して、合弁会社若しくはより大規模な企業を設立し、又は個々の会社若しくはその構成員を存続させることによって協力する協定を締結することは禁止。
  6. 買手寡占
    他の事業者との間で関連市場における商品又はサービスの価格を支配するために、購入又は受給を共同して支配することを意図した協定を締結することは禁止。
  7. 垂直的統合
    他の事業者との間で特定の商品又はサービスの、直接又は間接の生産工程に含まれている複数の製品の生産を支配することを目的とした協定を締結することは禁止。
  8. 排他的協定
    他の事業者との間で商品又はサービスの受領者が、特定の相手方又は特定の地域に対してのみ当該商品又はサービスを再販売し、又は再販売しないものとする協定を締結することは禁止。
  9. 外国事業者との協定
    外国に所在する者との間で独占的行為又は不公正な事業競争を引き起こすこととなる内容を含む協定を締結することは禁止



おすすめ記事一覧

1

よく会計の世界では「利益と減価償却でキャッシュを作る」と言われ、これは企業のキャッシュの源泉が利益と減価償却の二種類あるという意味なのですが、減価償却費はキャッシュの流出のない費用であり、P/L上の当期利益額よりも実際には減価償却費分だけキャッシュは多く残っているという数字遊びをしているだけで、物理的にキャッシュが生み出されるわけではありません。

2

毎月の生産でいくらコストがかかったかを計算する原価計算(実際原価)業務は、インドネシアではシステム化されている事例は少なく、細かく計算すれば時間がかかり、どんぶり勘定だと見たい情報が見られず、コロナ禍の影響で時間に余裕が出来た今は収益改善という観点から原価計算のやり方を見直す絶好の機会です。

3

ジャカルタでは、2019年4月にMRT地下鉄の第1期区間(総延長15.7km)が正式開通しましたが、コロナ禍の中にあった今年6月に、現在の始発駅であるPlaza Indonesia前のBendaran HI駅から、北ジャカルタのKotaまでの6.3km、西ジャカルタのアンチョールの車両基地までの5.2kmの総延長11.5km(11駅)を第2期区間として工事が開始されました。

4

2014年に誕生したジョコウィ政権は、事あるごとに中国寄りと言われ、2015年に中国と日本が受注合戦を繰り広げ日本の新幹線方式での導入が確実視されていたジャカルタ~バンドゥン高速鉄道案件では、インドネシア政府が手のひら返し中国案に鞍替えし、日本を袖にしたのは記憶に新しいところですが、南シナ海の南方にあるナトゥナ諸島周辺の排他的経済水域(EEZ)は、中国が主権を主張する「九段線」と呼ばれる境界と重複しており、中国漁船が公船を伴って活動する違法漁業問題で中国と対立しています。

大統領選挙で考えたギャップにハマるということ 5

ギャップにキュンとするというのは人間の本能みたいなもので、ジョコウィの私利私欲のない素朴なおじさん像と、その実強力なリーダーシップを発揮する実務派という内面が、一見普通の人だが実はスゴイというギャップ好きのインドネシア人に大ウケして、大衆は一種の集団催眠状態にあるようです。

情報の質のレベル 6

見える化された結果を共有化することで問題点が共通認識されますが、共有化が進むことで情報の持つ希少価値が薄れて困る人間がいる場合、有益な情報を独占することでポジションを高めようという政治力が働きます。

7

日本人がインドネシアに来ると、インドネシア人ののんびり加減にイライラするというのは昔からよく聞く話で、インドネシア在住日本人にとってのバイブル的小説である深田祐介著「ガルーダ商人」の中でも、インドネシア宗教省の高官が日本人とインドネシア人を自宅に招待する際に、インドネシア人向けの招待状には、遅刻することを前提にパーティ開始時間を三十分早く書いておくという記述があるほどです。

宗教によって異なる「死んだらどうなる」の考え方 8

キリスト教もイスラム教もともにユダヤ教から派生した宗教であり、それぞれイエス・キリスト(本人が神)またはアッラーという唯一無二の神を信じます。

株価操作なんてインドネシア株では当たり前 9

株価は売り注文と買い注文により変動し、大量の売り注文を買う注文がたくさん入れば、他の投資家達は「俺も俺も」と続くことで株価が上がります。

心臓に毛が生えたインドネシア人のずうずうしい転職活動を応援してみた 10

インドネシア人は秘密の話は誰かに暴露しないと精神の安定を保てない人が多いため、内緒の話に情報の希少性は少なく信憑性も低いことが多いので、「ここだけの話」という枕詞付きで聞かされる話は話半分に聞いておいたほうがいいかもしれません。

日系企業のインドネシアでの存在意義 11

今のまま日本の人口減が続けば、内需は縮小の一途をたどるわけで、そうなると日本国内市場だけで生き残るのは難しいと判断する国内企業が、海外市場に活路を見出そうとするのは必然です。

チャンスはあるが勝てる分野を見つけるのが難しい 12

実際にインドネシアに住んでみて、自分で動いて人と話しをして、現地の事情を少しずつ理解していくにつれて、インドネシアで起業することが意外と手強いことに気づき、その難しさの原因は、高い送料と関税であったりローカル企業との競争であったり、就労ビザ(IMTA)や外国人技能開発基金(DPKK)などのランニングコストの高さであったりします。

インドネシアのシステムインテグレーション業界 13

先日JETRO(日本貿易振興機構)さんと、インドネシアの中小企業のIT投資について意見交換させていただく機会をいただいたのですが、そこで「システム投資のコストメリットはどのように説明できるのか」という、システムインテグレーターの存在価値にも関わる重要な問題提起がありました。

肉体と精神と心と魂 14

「Body and Soul」といえば、昨日の内閣改造に伴う人事で内閣府政務官に内定した自民党の今井絵理子参議院員がメンバーだったSPEEDのデビュー曲であり、インドネシアの老舗女性ファッションブランド名でもあります。

ジャカルタのラーメン市場 15

僕がインドネシアに初めて来たのが1997年10月、インドネシア語は分からないし、仕事は辛いし、周囲の人間は理不尽だし、一時期日本に帰りたくて仕方がない時期がありましたが、当時自分をかろうじてインドネシアに繋ぎ止める心の支えとなっていたのが、協栄プリンスビル(今のWisma Keiai)の日本食レストラン「五右衛門」であり、ここでキムチラーメンを食べることが唯一の楽しみと言っても過言ではありませんでした。

ブランド力、技術力、資金力の3要素 16

1998年のジャカルタ暴動後、ルピアが暴落し海外からのドル建て債務を抱えた国内企業が利子の支払いに苦しんでいた頃、僕は外貨が獲得できるインドネシアでの新しいビジネスを探していました。

日本とインドネシアの間でのタイムマシン経営が通じなくなっている件 17

先進国と後進国との間にある流行のタイムラグを利用して、先進国での成功例を後進国で実践するビジネスモデルをタイムマシン経営といいますが、インターネットの普及に伴い情報がフラット化してしまい、モノと情報のタイムラグが限りなく小さくなった今、先駆者である中小零細同業他社が乱立し市場が出来上がったところに、後発の大手が参入し先発零細を駆逐していく、という典型的な負けパターンにはまります。

サリナデパートとマクドナルド 18

本日5月10日を最後にインドネシアのマクドナルド第1号店であるサリナデパート店(Sarinah)が閉店になりますが、ジャカルタのショッピングモールが新しいコンセプトでモダンにリニューアルされ続ける中で、僕がインドネシアに来たばかりの20数年前には、若者の待ち合わせ場所の定番でもあったサリナデパートやブロックMのパサラヤ(Pasaraya)などは完全に時代に取り残されてしまいました。

不景気の歴史 19

僕がインドネシアに来てからこれまで何度か経済不況を見てきましたが、今回の新型コロナウィルスの感染拡大により、間違いなく景気後退しますので、数年後にはこれがコロナショックとかコロナ不況とか呼ばれるようになるのかもしれません。

日本のバブル経済崩壊後とインドネシアの通貨危機後 20

自分が大学に入学したのがバブル経済末期の1991年、土地も株価もMAX爆上げして、三菱地所がアメリカの象徴であるロックフェラーセンタービルを買収し、ジュリアナ東京でワンレンボディコン(登美丘高校ダンス部のバブリーダンスみたいなやつ)のお姉さん達が扇子振って踊っている時期でした。

内需と外需の自国経済に及ぼす影響 21

公共事業投資を行っても、お金が企業内や個人の貯蓄に滞留してしまい国内消費が増えないのが日本の状況であり、国内消費は増えても消費材の輸入品比率が高く、国内資産が海外に流出しているのがインドネシアの状況です。

2019年の総選挙を前にインドネシア政治史のおさらい 22

来年の大統領選挙(Pemilu Pilpres Pileg Indonesia 2019)に向けての選挙運動(Kampanye)を解禁するにあたり、投票用紙に印字される順番はジョコウィ現職大統領・マフル副大統領候補組が1番、プラボウォ大統領候補・サンディアガウノ副大統領候補組が2番と決まりました。

コーヒーをもっと楽しくもっと美味しく 23

インドネシアは北回帰線と南回帰線をはさむコーヒーベルトに位置するコーヒー栽培に適した国で、1602年の東インド会社の進出を契機にオランダの植民地支配が300年以上続き、その間アラビカ種のコーヒーが持ち込まれ、気候のいい高原地帯で栽培が開始されました。

インドネシア人の悪魔祓い 24

人間誰しも自分の中に悪魔が潜んでおり、それが何らかのきっかけで表面に出て来るという考え方自体には、背景に宗教が有るか無いかの違いだけで、基本的に理解できる話であり、それを信じるか信じないかは別として、そういう考えがあることを認めることは大切なことだと思います。

-インドネシアのビジネス環境

© 2020 バテラハイシステム Powered by STINGER