テレコムのビジネスエコシステムとは、社会の課題に対してグループ企業全体として取り組み、テレコムが保有する既存のオンライン接続基盤を生かしながら、デジタル技術を駆使して新しいビジネスプラットフォームを構築していくことです。
PSBB下で益々ブランド価値を上げたテレコムグループ
2020年4月10日のPSBB(大規模社会制限)施行後に不要不急の外出が制限され、モールが閉鎖され独立店舗でも店内イートインが禁止されたことにより、インドネシアのフード業界全体が大きなダメージを受けていますが、ほとんどの企業でWFH(Work From Home)が採用され、仕事や勉強、買い物など、自宅からさまざまな活動に対応できるようにライフスタイルがオンライン化されるに従い、通信事業者やオンライン学習サービス、案件管理やWEB会議機能を統括したコラボレーションプラットフォームのサービス事業体は売上を伸ばしています。
イギリスの独立系最大手のブランド価値評価コンサルティング会社であるBrand Finance社による2020年のインドネシア企業のブランド順位によると、トップのテレコム(PT Telkom Indonesia Tbk)が47.6億ドルで、前年の46.1億ドルから3%増加しています。
理由としては、テレコムの2019年の連結収益が18.66兆ルピア(前年比+3.5%)で、国営企業としてインドネシアの経済成長率+2.97%を超えていたこともありますが、それと同等にブランド価値を決定するブランド力指数(brand strength index)、ブランド使用料率(brand royalty rate)、ブランド収益(brand revenue)、企業ブランド(corporate brand)、製品ブランド(product brand)が総合的に評価された結果になります。
ブランド力世界一のAmazonが2,207.9億ドル(前年比+17.5%)、二位がGoogleの1,597.2億ドル(前年比+11.9%)、日本の首位はトヨタ自動車の580.7億ドル(前年比+11.1%)で、NTTグループは363.5億ドルとテレコムの7倍以上の評価価値がありますが、NTTグループは前年比で-12.8%落ち込んでおり、電気通信事業が経済発展を牽引するインドネシアという国の勢いの差を感じます。
テレコムグループ全体で見ると、本業である通信事業以外にコンテンツ配信やエンターテイメントなどのデジタルビジネスを強化しており、子会社であるインドネシア最大手の携帯通信キャリアのTelkomselの収益の70%は通信以外のデジタルサービスによるものであり、2020年第一四半期において16.3%(昨年同期比)の売上成長を遂げており、固定ブロードバンド事業のIndiHomeも19.7%成長するなど、グループ内の二大セクターの成長が連結収益に貢献しています。
PSBB期間中に、SNS上では重要なWEB会議中にIndiHomeの回線が切れるなど、通信サービスの不安定さに対する怨念の声が散見されましたが、西ブカシの我が家のIndiHomeはインターネットもTVも快適そのものです。
デジタルによるビジネスエコシステムの構築
国営企業省BUMN(Badan Usaha Milik Negara)大臣であるエリック・トヒル(Erick Thohir)氏は、父親がアストラグループの共同創設者の一人であり、自身はテレビ局、ラジオ局、新聞社などの総合メディアグループであるマハカグループを創設し、2013年に長友佑都選手が在籍していたインテル・ミラノを買収(2018年に全株式を売却済)したことで日本でも知られており、先週Eコマースのユニコーン企業であるBukalapakの共同創設者兼社長ファズリン・ラシッド氏(Fajrin Rasyid)34歳を、テレコムのDigital Business Directorに任命し話題になりましたが、日本で言うとスタートアップを成功させた起業家がNTTやKDDIの取締役になるイメージで、国営企業とは思えない意思決定の速さと大胆さが感じられました。
ファズリン氏が取り組もうとしているのは、テレコムの中での「ビジネスエコシステム」の構築であり、具体的には以下の4つを挙げています。
- 運用プロセスの変革(Transforming Operational Process)
⇒既存のプロセスの効率化を図るためのデジタル技術の応用。 - 顧客体験の変革(Transforming Customer Experience)
⇒様々なチャンネルを通して顧客のニーズを満たすためのデジタル技術の応用。 - ビジネスモデルの変革(Transforming Business Model)
⇒デジタルでない世界にデジタルプラットフォームを適用(クラウド・IoT・データセンター・決済など) - デジタルサービスの変革(Transforming Digital Service)
⇒消費者の細かいニーズに手が届くようなデジタル技術。
つまりテレコムが考える「ビジネスエコシステム」とは、社会の課題に対してテレコムだけでなくTelkomselやIndiHome、その他グループ企業全体として取り組み、テレコムが保有する既存のオンライン接続基盤を生かしながら、デジタル技術を駆使して新しいビジネスプラットフォームを構築していくということだと理解できます。
テレコムグループがNetflixのブロックを解除
今週2020年7月7日より、テレコムグループがアメリカからのビデオ・オン・デマンドサービスのブロックを解除したことにより、子会社である高速通信回線サービスプロバイダーIndiHomeと、携帯電話キャリアーのTelkomselの契約者がようやくNetflixにアクセス出来るようになりました。
とは言うものの僕のスマホのキャリアーである老舗弱小ProXLでは、以前から普通にNetflixを視聴出来ましたし、自宅ではネット接続用にIndihomeに契約してはいるものの、テレビをほとんどつけたことがないため、Netflixは2016年にインドネシアでサービスを開始していたにも関わらず、国内最大の携帯電話キャリアーであるTelkomselでは観られなかったという事実を知って驚いたくらいです。
今回のブロック解除の主な理由が、Netflix側によるインドネシア社会の規範に反すると考えられるコンテンツの削除ポリシーの改善と、ASEANのオンデマンド業界向けビデオサブスクリプションの自主規制コード(Self Regulatory Code for Subscription Video on Demand Industry)への準拠義務に基づいて、著作権を侵害し、児童ポルノ、テロ行為、差別的行為の要素を含み、知的財産権に違反するコンテンツを表示しないことに合意したことです。
これ以外にも、親のアカウントをPINロック機能でロックして、子供に有害なコンテンツをフィルタリングする機能の実装が評価され、さらにNetflixはローカルコンテンツを増やすことで、インドネシアの映画産業の発展に貢献することを約束しています。
ちなみに今回のテレコムグループとの合意には直接関係ありませんが、2020年7月からインドネシア国内に現地法人がないNetflixやAmazonなどの海外のEC会社も、恒久的施設(PE=Permanent Establishment)として、インドネシア国内の代理人を通してPPNの支払が義務化されていますので、今月末の契約者へのインボイスにPPN10%分が上積みして計上される可能性があります。
テレコムグループがNetflixのプロモーションをしやすい理由
テレコムグループがNetflixへのアクセスのブロックを解除した2020年7月7日のテレコムの株価が2.3%上昇していますが、これは今回の措置によりテレコムグループがビジネス上で大きな利益を得て成長することが見込まれているためであり、Telkomselの既存の1億6,200万人の携帯電話契約者と、Indihomeの730万人の固定ブロードバンド回線契約者情報を使って、ビデオ・オンデマンド(視聴者が観たい時に様々な映像コンテンツを視聴することができるサービス)をプロモーションすることで、Netflixのインドネシアへの浸透が急速に拡大すると考えられています。
通常Indihomeなどの高速通信回線プロバイダーはインターネット接続とTVとその他サービスをパケットという形で販売しており、例えばうちが今契約しているIndihomeのパケットは、インターネット速度20Mbpsに加えて、92のテレビチャンネル以外にiflixというNetflixの東南アジア版のビデオ・オンデマンドサービスが含まれていますが、ここにオプションとしてNetflixが入り込む可能性があります。
消費者はNetflix単独で契約するよりもパケットで契約するほうが安上がりであるため、テレコムグループとNetflixとの合意によりIndihomeがNetflixを放映出来るようになれば、既存のIndihome契約者に魅力的なサービスの提示が出来るのです。
国営企業TelkomとeBayの合弁企業が運営するオンラインマーケットプレイスblanja.comが閉鎖
Tol Jakarta-Cikampekを通ってジャカルタに行く途中で、スマンギ交差点の手前向かって左側にいつもblanja.comの大きな赤字の電光表示が目について気にはなっていたものの、この国営巨大通信会社Telkomが運営するオンラインマーケットプレイスを一度も利用する機会なく、昨日2020年9月1日に静かに閉鎖(サイトはあるが取引が出来ない状態)されてしまいました。
blanja.comではパッケージで包装された家庭用お惣菜などが充実していたということですが、Tokopedia、Shopee、Bukalapak、Lazada、Blibliなどのメジャーサイトに比べて圧倒的に知名度が低かったのは、アメリカ企業のeBayとの合弁会社であることでインドネシア国内での広告戦略で自由度が低かったこと、Telkomという国営企業であるが故に民間企業を打ち負かすほど露骨な広告費用をかけることが出来なかったからのようです。
インドネシアのEコマース市場には、2010年に日本の楽天もRakuten Belanja Onlineというブランドで進出しましたが、当時はインドネシアのEコマースビジネスの先駆者とも言えるTokopediaと、シンガポールに拠点を置くアリババ系のLazadaのシェアが圧倒的であり、当初はオンライン上でのカード決済の認可もおりていなかったように記憶していますが、残念ながら2016年にマレーシアとシンガポールと合わせてB2Cビジネスから撤退しました。
B2Cを止めてB2BとB2Gに集中するというピボット戦略
今回の閉鎖の最大の理由は、Telkomが国内企業または零細業者のEコマース参加を推進するビジネス分野に集中し、インドネシアのデジタル市場(Pasar Digital=PaDi)の発展に寄与するため、とアナウンスされており、具体的にはテレコムの既存のネットワーク基盤を利用して、業種の垣根を越えて関係性を持ちながら社会の課題を解決するビジネスエコシステムを構築するための新しいプラットフォームを開発することです。
またTelkomは民間企業だけでなく、教育文化省(Kementerian Pendidikan dan Kebudayaan=Kemendibud)と協力して、学校調達情報システム(Sistem Informasi Pengadaan Sekolah=SIPLah)を構築し、学校の備品やサービスの調達業務のオンライン化を行っており、このSIPLahシステムは学校の予算計画の実施においてオンラインマーケットプレイスに接続する機能を持っており、国からの学校運営補助金(Bantuan Operasional Sekolah=BOS)が教育文化省の指定どおり正しく使用されているかの監視できるよう設計されています。
これはTelkomがB2C(企業対消費者)ビジネスからB2B(企業対企業)またはB2G(企業対政府)ビジネスへ転換するということであり、このような市場のニーズとの乖離を認識し、自分が生き残れる分野を絞り込み、路線変更を行うことをピボット戦略(方向転換)といいます。
ピボット(pivot)とは英語で回転軸、つまり方向転換や路線変更を意味し、Excelのピボットテーブルでデータをグループ化した中で再集計し並べ替えたりするように、事業の低迷の原因追及と、今後の可能性のある新事業分野の選定を行います。
Telkomは既にGojekへの投資計画があるようなので、TelkomselユーザーにとってはGojekアプリとの連携サービスなどでますます利便性が高まることが予想されますが、Gojekの創業者かつ最高経営責任者(CEO)のナディム・マカリム氏(Nadiem Makarim)は第2期ジョコウィ政権で教育文化大臣を務めており、TelkomとGojekによるB2Gビジネスが寡占状態(少数の企業による独占)となれば、ビジネス機会の公平性という点で批判が出る可能性があります。