インドネシアの伝統ろうけつ染めバティックがユネスコの世界無形文化遺産に認定されて以来、毎週金曜日はバティック着用を奨励するバティックデーに指定されました。バティック制作は銅板製のチャップまたはチャンティンによる手描きで蝋付けする2通りの防染技術があります。 インドネシアの生活事情まとめ|文化・健康・交通・買い物・宗教まで ネットで何でも情報は収集できる時代ですが、他人からの情報は基本的に点でしかなく、コネクティングドット(点と点を繋げること)は自分の頭の中でしかできません。また新しいアイデアを生み出したり複雑なことを考えるためには、過去の経験に基づく知識が頭に記憶されている必要があります。 続きを見る
インドネシアの蝋結染(ろうけつ染)バティックが世界無形文化遺産に認定された背景と地域ごとの伝統モチーフ
インドネシアのバティックが世界無形文化遺産に認定されたのが2009年10月2日、当時マレーシア政府が製作した観光プロモーション動画の中に、まごうことなきインドネシアの代表的文化であるバティックやバリ舞踊を、自国文化であると誤解されるような映像があったことで、私のまわりのインドネシア人は公然とマレーシアを文化泥棒呼ばわりし、国家間でも険悪な雰囲気がありました。
それだけにユネスコによる「バティック宗主国」認定でインドネシア全土が歓喜し、毎週金曜日が洋服ではなくバティックを着ましょうというバティックデーに指定され、インドネシア人のバティックに対する誇りと愛着が一気に高まったものと記憶しています。
中部ジャワの王室の古典的モチーフであるSoganが特徴的なジョクジャカルタやソロのバティック、プラナカン文化(中華系移民による文化)の影響を受けて色鮮やかな鳥や草木が描かれるチレボンのバティック、ムカデなどの多足類や昆虫が描かれるインドラマユのバティックなど、バティックの魅力はインドネシアの地域の特色を表したモチーフにあります。
インドネシア各地のバティック工房を巡る旅と伝統技法
1997年10月に初めてインドネシアに来て以来、ジャカルタでIT関連の仕事をしながら、毎週末の夜行トラフェル(Travel=乗り合いミニバン)でジョクジャカルタのブリンハルジョ(Beringharjo)市場やソロ(Solo)のクレウェール(Klewer)市場、チレボン(Cirebon)のトゥルスミ(Trusmi)地区などのバティック工房に1泊2日の仕入旅行を繰り返していました。
2000年7月、ジョクジャカルタの工房で、銅板製のチャップまたはチャンティン(Canting)を使って手描きで蝋付けする2通りの防染技術でバティック製作をしている現場を見学させてもらいましたが、現在では下地に表現されるモチーフがモダンになったり、染料の品質が改良されたりはしているとはいえ、基本的な製作工程は変わらないはずです。
当時6jutaほどしたニコンのデジタルカメラで撮影した画像ですが、残念ながら今のスマホカメラにも遠く及ばない画質です。
1.1. 手描きバティックのモチーフ決定と蝋による防染
モチーフを鉛筆で描きます。手描きバティックは作者の芸術性が強く問われますので、手間暇かかる分値段は高くなります。
チャンティン(canting)を使ってモチーフに沿って蝋を付けていく。染色工程で、色がついて欲しくない部分を蝋でガードします。全体的に黄色のSogan模様はソロのススフナン王室(Susuhunan)でよく見られます。
この写真のバティックは既に数回の染色で大部分に色がついており、最後の仕上げに細かい部分に蝋を塗っているところです。1.2. チャップ(CAP)バティックのモチーフ決定と蝋による防染
たくさんのモチーフの銅板チャップが棚に並べられています。
モチーフをかたどったチャップで蝋を仕込みます。茶色いのは塗料ではなくて蝋です。チャップも最近(2000年7月当時)は機械で行われることが多くなりましたが、まだまだ職人さんの熟練の技は健在です。
釜の中にはどろどろの蝋が入っています。これはチャップに蝋をつける瞬間です。白地のSogan模様はジョクジャカルタのスルタン王室(Sultan)でよく見られます。2. 染色工程
蝋で防染し終わったバティックは蝋が固まるまで乾かします。
色を残したい部分だけ蝋でガードしたバティックを色桶に入れて染色します。ベースの色から細かいモチーフ部分の色の順に蝋塗りによる防染と染色を繰り返します。
染色したバティックは日光の当たらない場所で陰干しします。3. 蝋落し工程
色が布に完全になじんだ後でぬるま湯で擦らないように蝋を落とします。
蝋塗りによる防染、染色、蝋落としの繰り返しがバティックの鮮やかを生み出します。
この工房では全部で12人の職人さんが工程ごとに分かれて共同作業によりバティック布を製作しています。ジョクジャカルタで見たバティック絵画の制作工程
1998年から2000年にかけて日本へのバティックサロン布がバカ売れしていた当時、二匹目のドジョウを狙った新たな商材としてバティック絵画を売ろうとジョクジャカルタの工房を訪ねたのが2000年7月のこと。製作現場を見学させてもらいましたが、色付けしたくない部分を蝋で覆って、筆で色付けしていく作業は結構手間がかかっていると感心した記憶があります。
1. バティック絵画のモチーフ決定と蝋による防染と染色
バティック布の工房からベチャに乗って5分くらいの近所にある工房です。
デザイナーが描いたモチーフにあわせて蝋を付けていきます。
筆で色をつけていく作業はすべて人手によって行われます。2. 乾燥工程
色をつけた絵を木枠にはめて乾かしているところです。
各工程にかなりの時間がかかるのです。
ワヤン(影絵)もあります。3. 蝋落とし
モチーフに沿って塗られていた蝋をお湯で落とすと、布地の白がモチーフの線となって現れます。
蝋落とし作業で使われるバケツやたらいが積んでありました。
膨大な数の作品が飾ってあります。これらはジャカルタ向けが2割、8割はヨーロッパを中心とした海外向けとのことです。