サイフォン式で抽出する際の香りを楽しみたいインドネシアのトラジャ(Toraja)のコーヒーは、強烈なボディに酸味を併せ持つ香りの豊かさで知られており、キーコーヒーが農園を開きトアルコ(TOraja ARabika COffee)トラジャブランドを開発した日本にもなじみ深いブランドです。 インドネシアのコーヒー 「インドネシアのコーヒー」と聞いて思い浮かぶのはオランダ植民地時代に持ち込まれたコーヒーノキを起源とするプランテーション、北回帰線と南回帰線の間に東西に連なるコーヒー栽培に適した地理的風土、多数の高原地帯で栽培され風味も味わいも異なるご当地コーヒーなどです。 続きを見る
日本のキーコーヒーが農園と精製工場を整備してブランド化したトアルコトラジャ
現在ジャカルタはショッピングモールが乱立し、ブロックMのパサラヤ(Pasaraya)はすっかりうら寂れてしまいましたが、今だに5階の民芸品売り場の奥に存続し続けているカフェトラジャ(Kafe Toraja)は、かつてはインドネシア語を勉強しながらカラオケ屋のお姉さんと待ち合わせする日本人のおじさん達のたまり場と化していました。
お姉さんと待ち合わせしていると、同じお姉さんから呼び出された面識のない日本人のおじさんと相席になって気まずい思いをしたことや、お姉さんに人目もはばからずイチャイチャされて、子供連れの奥様にゴミでも見るような目で睨まれたことは一度や二度ではありません。
カフェトラジャの名物は、目の前でサイフォン式で淹れてくれるトラジャコーヒーであり、アルコールランプで熱されて発生した蒸気圧で水が上昇し、ランプの火を消したあとに、コーヒーの粉と一体化した黒い液体が、地球の重力に抗うことなく下に落ちていくコーヒー抽出のプロセスを見ることが楽しくて、コーヒー自体の味は正直どうでもいい感じでした。
ただ僕の一世代上の方(1960年代生まれ)から、まだコーヒーを抽出する機械が普及していなかった時代に、喫茶店のコーヒーと言えばサイフォンが当たり前だったという話を聞いて、当時の喫茶店では味の均一性を保つのが難しいコーヒーを、初心者バイトでも美味しく淹れるためにサイフォンは便利な器具だったようです。
スラウェシ島は山岳地帯が多く「トラジャ」という言葉自体が、そこに住むブギス族の言葉で「高地の人々」という意味があり、コーヒー農園があるタナトラジャ県は、ほぼ赤道ド直下に位置し、日本のキーコーヒー(Key Coffee)が高地のウマ地区(Uma)に農園と精製工場を整備し、トアルコ(TOraja ARabika COffee)トラジャコーヒーというブランドで日本に広めたのは有名な話です。
キーコーヒーは、パサラヤの地下1階フードコート横に、厨房をカウンター席で四方から囲むような対面販売のショップを開いており(今は普通のテーブル席のようです)、昔は日本と同じコーヒーがインドネシアでも飲めるとあって、夜のブロックMに繰り出す前にここでコーヒーを飲んで時間をつぶす日本人のたまり場と化していました。
そして電灯の明かりに群がる虫を狙うヤモリのよう、カラオケ屋の営業のお姉さんが出現してくるので、自分もよく世間話と下ネタを通してインドネシア語を勉強させてもらいましたが、赴任したばかりの日本人が私のように『夜のブロックM大学』でインドネシア語を学んだつもりになると、基礎が固まらず効率が悪いので最初は家庭教師をつけるか語学学校に通うかして、体系立ったカリキュラムを元にインドネシア語を勉強したほうがいいと思います。
ちなみにキーコーヒーのライバルであるUCC上島珈琲は、スマトラ島北部のリントン地区の農園からマンデリンコーヒーを日本に広めたことで知られています。
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UCC上島コーヒーで有名なインドネシアのマンデリン・リントンのコーヒー
インドネシアではアンボン、マドゥーラと並んで気性の激しい民族と言われるバタック族のマンデリン・リントンのコーヒーは、UCC上島コーヒーが農園を開いたことで有名になり、マンデリンが持つ強烈なボディに、若干まろやかさと甘みをつけたような上品な味わいがします。
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スラウェシ島のトラジャコーヒーの風味の傾向
インドネシアのコーヒーとしては、アチェ・ガヨ、マンデリンと並ぶ名の知れたスペシャリティコーヒーのブランドであり、赤道直下の標高1,200m以上の山岳地帯で栽培される、大粒のコーヒーチェリーから精製されるコーヒーは、コーヒー独特のアロマが強烈で酸味も強く、空き腹の状態で飲むと胃がキツくなる感じがするので、ケーキや和菓子を食べながら飲むのに最適なコーヒーだと思います。
風味の傾向
- 香り ★★★
- 苦み ★
- 酸み ★★★
- コク ★★
- 甘み ★
トラジャコーヒーの銘柄は、日本のキーコーヒーの農園があるウマ地区の名前がついたトラジャ・ウマ、コーヒーの集積地であるカロシ村(Kalossi)の名前を冠したトラジャ・カロシ、高地サパン(Sapan)地区で生産されるトラジャ・サパンなどがあり、いずれも強烈な香りと重厚なボディが特徴的であるため、ゴボゴボと音を立てながら液体が上り下りする際に放つ香りを楽しめるサイフォンで淹れるのが最適なのかもしれません。
2024年4月にスラウェシ島北部に位置するルアン島のルアン火山(Gunung Ruang)が大噴火を起こしましたが、プレートテクトニクス理論の観点から、大陸プレートの下に海洋プレートが潜りこむことで火山活動が誘発され、噴火により粒子が細かく保水性の高い火山灰層が、品質の高いコーヒー栽培に適した環境だったことで、タナトラジャをはじめとするインドネシア全土が世界的なコーヒーの産地となったわけです。