GOJEKやGrabなどオンラインアプリベースの配車ビジネスは、従来のオジェックのイメージをクリーンに刷新しただけでなく、買い物代行や出張マッサージ、クリーニングサービスなど、サービスの多様化による雇用を生み出すことで富の再配分を実現しました。
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インドネシアのビジネス
インドネシア市場でのビジネスで重要な要素は価格とブランド、コネの3つと言われますが、必ずしもこれらを持ち合わせない日本人はどのように戦えばよいのか。これはインドネシアに関わり合いを持って仕事をする人にとっての共通の問題意識かと思います。
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GOJEKドライバーの収入源である運賃とボーナス
2016年8月、GOJEKが5.5億ドルというまたまたでかい資金調達に成功したというニュースが出ていますが、この資金は短期間で収益を上げるためでなく、より多くの人にアプリをダウンロードさせるためのプロモのため、アプリ改善費用のため、GrabやUberや既存公共交通機関との価格競争でかかる爆安プロモやボーナスの元手に使われます。
斬新なビジネスモデルを提案し、短期間で急成長すると判断した投資家から資金調達して、短期間で製品をリリースして、収益を出すことは後回しにして、まずは市場への知名度の浸透を重視し、最低限の成果を上げながら、次の資金調達に繋げて、最終的に収益構造を安定させる、というのがスタートアップの成長だとすれば、GOJEKはまだまだ資本燃焼率をチェックしながら大気圏に向けて上昇中のロケットみたいなものです。
2015年のサービス開始当初の運賃一律10,000ルピアは衝撃的でしたが、当然ながら近距離遠距離一律10,000ルピアという運賃の80%の収入だけで、客のオーダを喜んでacceptするドライバーは居ませんので、GOJEK本社はポイント(走行距離)に応じてドライバーにボーナスという名前のsubsidi(補填金)を出します。
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インドネシアの電子マネーによるEC決済事情
中小零細業者にとってスマホ決済の利点は、決済時間の短縮、お釣りが不要、取引履歴が自動的に記録されることにより帳簿管理できること、売上を貯金するために銀行に行かずに済むことであり、GoPayはインドネシア全土にマイクロビジネスパートナーを増やそうとしています。
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2016年8月現在、僕がこれまで利用したことがあるのは、GO-FOOD(NEGIYAで牛タン丼買ってきてもらった)、GO-SEND(オンラインショップで買った服のサイズが間違っていたのを返品した)、GO-BOX(KuninganからThamrinまで引越し490,000ルピア)、GO-CLEAN(アパートの掃除とアイロンがけ)だけですが、先週の引越しで利用させてもらったGO-BOXは、荷物運びのお兄さん2人日で490,000ルピアという衝撃の安さでした。
それだけ資金調達がうまくいっているということかもしれませんが、去年の今頃は一般的なオフィスワーカーよりも高給取りと言われていたGOJEKドライバーも、登録者が増えすぎて前ほどは稼げなくなったようです。
GOJEKの収入は、乗車料金の80%+GOJEKからのボーナスで成り立ちますが、ボーナス体系はコロコロ変わり、GO-RIDEドライバーのボーナスは、以前は10ポイントで100,000ルピアだったのが、2016年8月現在は14ポイントで100,000ルピアと下がっています。
GO-RIDEドライバーは6kmで1ポイント獲得、GO-SENDドライバーは1回のオーダで即2ポイントをゲットできるため、いかに同一ルートで効率よくacceptしていくかが、1日あたりの売上アップに繋がります。
乗車賃は6kmで15,000ルピアで、ドライバーにとっては1ポイント=6kmです。
- 運賃からの収入:15,000ルピア x 80%=12,000ルピア⇒10ポイントで120,000ルピア
- ボーナス:10ポイント(60km)でボーナス100,000ルピア
1日あたり220,000ルピアの収入になります。
GOJEKドライバーは運賃よりもボーナスを期待している
2016年8月現在、GOJEKアプリも日々改善がされていますが、2015年のサービス開始当初の運賃爆安期間中はドライバーと客が結託して、月に30jutaも不正に稼ぐドライバーがいたそうです。
例えばGOJEKドライバーが、仲間の客にThamrin通りのオフィスからBekasiまで(約20km)行きたいというオーダを出させてacceptします。
ドライバーは、Thamrin通りにいる仲間の客をピックアップには行かず、1時間ほど時間をつぶしてから、ドライバーとその仲間の客の両方がcompletedすれば、20km分の3ポイント(1ポイント=6km)がゲットできます。
次にBekasiからDepokに行きたいというオーダを仲間の客に出させてacceptして・・・というのを繰り返すことで、1日あたり50ポイントをゲット、当時の5ポイントで100,000ルピアのボーナス獲得という制度により1jutaをゲット。
毎週火曜日と金曜日に、GOJEK本社からドライバーにお金が振り込まれるのですが、さすがに今のドライバー用アプリにはGPS追跡機能があるので、こんな大胆な手口は通用しないようです。
最近よく聞くのは、客がGOJEKをオーダしてからキャンセルしようとすると
- キャンセルしないでそのまま乗ったことにしてー
客側でオーダをキャンセルすると、客側にキャンセルフィーがかかりますが、GOJEKドライバーは客に
- キャンセルしないでそのまま乗ったことにすればキャンセルフィーかかりませんよ。その代わりレートに星5つつけてね。
とお願いします。
これは運賃の20%であるGOJEK社の取り分をドライバーが自己負担したとしても、代わりに星5つとポイントをゲットしてボーナスを大きくしたほうが得になるからです。
GOJEK本社としては、市場獲得のためには運賃を下げて価格競争力をもたせ、ドライバーのモチベーションをキープするためにボーナス制度をとらざるをえず、そうするとアプリの仕組みと実運用の間に抜け道が生じる、こういういたちごっこの中で、GOJEKの仕組みとアプリの改善が日々なされていきます。
生活の中に浸透してしまったGOJEKアプリ
2017年11月現在、ジャカルタの道路では緑のジャケットとヘルメットが目立ち、朝夕のビル周辺などでは帰宅する人を待ち受けるバイクが集まり、緑の集団が形成されます。
ドライバーの運転技術の問題や従来型タクシーとの共存など課題は残っていますが、インドネシア人の生活に浸透した利便性を損なわない解決策をインドネシア政府に主導してもらいたいものです。
自分は南ジャカルタのオフィスまでGO-RIDEでbonceng(バイクの2人乗り)出勤し、昼飯はGO-FOODでBaksoを配送してもらい、雨が降ったらGO-CARで帰り、タクシーも正規のMy Blue BirdアプリからではなくGO-BLUEBIRDからオーダーすることでGO POINTを稼ぎ、ジャカルタ市内の小包はGO-SENDで送ります。
スマホのプルサ(度数)のトップアップはGO-PLUSAからやることでまたまたポイントを稼ぎ、数年に一回の引越し時にはGO-BOXでピックアップを借り、嫁さんは週1回GO-CLEANを呼びアパートの室内はいつもピカピカ、アイロンがけまでやってもらい、駐車場の縁石にタイヤをぶつけパンクさせたときにはGO-AUTOで修理屋のおじさんを呼びました。
オンラインアプリベースの配車ビジネス(transportasi berbasis aplikasi online)では日本の3歩先を行くインドネシアでは、Grab TaxiとGOJEKが二大サービスになりますが、いずれもバイタクの白タク(インドネシアでは暗タクtaxi gelapと呼ぶ)として、従来型のタクシー(taxi conventional)やオジェックから市場を強奪した感が否めません。
交通大臣はオンラインタクシーと従来型タクシーが公正な競争ができるようにする規制改正案として、オンラインタクシーに識別ステッカー貼り付けを義務付けるよう発表しており、この2017年11月から施行されるはずなのですが、いまのところそれらしきステッカーを貼った車をみかけません。
労働生産性を向上させ富の再配分を実現したGO-SEND
昨日(2017年11月4日)Thamrinの自分のアパートからSenayanの友人のアパートまでWIFIモデムをGO-SENDで発送したのですが、宛先住所と名前、電話番号、内容物を入力してORDERすれば近くにいるGO-RIDEドライバーがピックアップに来て、集積所を通さずそのまま宛先直送してくれるまさにピア・ツー・ピアのシステムで、送料わずかRp. 16,000でした。
以前はジャカルタ市内の住所に小包や資料など送る際でも、TIKI(インドネシアで有名な配送業者kurir)の預かり店を探して、車で持っていって、フォームに記入して料金払って、という半日がかりの作業だったのに、今ではスマホでピックアップ、配送、トラッキング、支払いまですべて完結します。
自分はシステムの仕事をしている時間こそが付加価値を生み出す直接作業時間であって、この移動とか配送という仕事は本来自分にとって極力減らしたい間接作業時間にあたり、このGOJEKアプリのサービスのおかげで1週間の自分の業務効率が明らかに向上しており、これがジャカルタ都市圏3千万人分累積すると、国家としての経済効果が計り知れないことが想像されます。
日本でいえば高齢者や女性、外国人労働者による労働市場への参加機会の拡大によって、先細りする労働者人口を補うことが必要になりますが、インドネシアの場合は、そこらじゅうで怠けているように見えながら、実は仕事をしたくてたまらないオジェックの運転手という遊休労働力(潜在労働力)に、オンラインアプリを通した労働市場への参加を実現します。
一般的にマクロ経済的な富の再分配とは、税制改革や社会保障制度、公共事業など、行政の主導の下に実施されますが、GOJEKという民間事業が雇用機会を創出し、富の再配分(所得再分配)までも実現しようとしています。
経済活動のオンライン化と地域密着型経済活動の衰退
その一方で消費者の購買行動がオンラインアプリ上へシフトしたことにより、地域に根差した既存商店の売り上げが落ちて閉店に追い込まれるという問題も指摘されており、日本でイオンのような大型ショッピングモールが地域商店街や駅前商店街という地方文化を破壊すると言われるケースと似ています。
国民が豊かになる一方でその恩恵にあずかれない人も必ず出るわけで、そこは貧困対策、福祉政策として政治的に取り組むべき問題であり、残念ながら現在のジョコウィ政権が取り組みが甘いと批判されている点でもあります。
かつてそこらじゅうで暇していたオジェック(バイタク)をオンラインで繋ぎ、時間とコストばかりかかって生産性の低い移動や配送という作業を、スマホの操作だけで彼らに外注してしまうことで業務効率の向上と富の再配分をいっぺんに実現してしまいました。
日本のような先進国で既存サービスに技術革新で新しいサービスに置き換える場合は、規制というソフト面でもインフラというハード面でもスクラップアンドビルドの過程に一定の時間が必要になりますが、インドネシアのような発展途上国の場合はスクラップせず直接ビルドできるため、技術革新の社会への浸透が非常に早く、国家全体の成長の過程が日々ドラスティックに進んでいるのを感じます。