生産効率向上と共生社会の両立を目指すインドネシア経済の付加価値化

2021/08/16

ジャカルタのバジャイ

本来の産業の高度化のプロセスとは、付加価値を生まないブローカー的機能をIT技術に置き換え、より大きな付加価値を生み出す社会を築き上げていく過程で、経済活動のチェーンに入り損ねた人々を切り捨てるのではなく、救済する共生社会を目指すことだと考えます。

インドネシアにはブローカーが多い

先日旧知のインドネシア人から「話があるから」と呼び出され、嫌な予感がしながらも若干斜に構えながら話を聞いてみると、案の定怪しいビジネス案件を持ちかけられました。

時節柄インドネシア人からコラボ話をいただくことが多く、最初に立派な会社案内を見せられ、大きなお金の単位と政府機関とのコネの話が出てきた時点で眉に唾がつきます。商品が何かだけ分かれば1個当たりの儲け、何個売れば回収できるかはこっちで勝手に計算するので相手の武勇伝はスルーします。

輝かしい実績満載の会社案内は、どうやら前職の会社の時のものらしく、彼自身は政府や民間企業のニーズを取りまとめ、効率よく割り振っていくのが仕事で、営業会社を経営していると言われれば聞こえがいいですが、要は「ブローカー」「せどり師」のことで、インドネシア語でcalo(チャロ)と呼ばれます。

以前は駅や自動車試験場などにチャロがたくさん居ましたが発券や更新の手続きのシステム化により禁止されました。

「インドネシア人はすぐにブローカーになりたがる」というのは昔の友人が言ったセリフで、僕の周りのインドネシア人の中にも、友達とか兄弟、親戚(saudara)のコネを使ってビジネスをしているという人が居ますが、内容は右から左へ横流しする過程で中抜きするブローカー的な話ばかりです。

確かにインドネシアは血縁社会で、saudaraが指す範囲が異常に広いため、紹介されたsaudaraについて詳しく聞いてみたらほぼ他人だろ、と突っ込みたくなるケースが多々ありますが、普通に考えてビジネスに使える有力なコネを持っている人間がそこら中に居るとは考え難いのです。

今スバン県が熱い!都市開発関係の日本人が一杯だ、スバン県にはコネがあるから何でも俺に相談しろ、とスバン県在住のスンダ人に言われたので、俺日本の福岡出身で今はブカシ在住で仕事しているけど福岡にもブカシにもコネなんか一つもないよと遠まわしに皮肉を言ったがたぶん伝わってないと思う。

昔バリ島でアロワナ愛好者の会で集まったバリ人メンバーの3割近くが中古車販売のブローカーだったときは驚きでしたが、もしかすると本当に有力なコネを持っている人間にとっては、元手なしの電話一本でお金儲けできる商売なのかもしれません。

経済活動の中で卸売業や小売業は、生産者と消費者との間に入って、生産者が継続的に生産のための投資ができるように、消費者が購入する前に生産者にお金を払うことで、生産者にとっての売れ残りのリスクを吸収してあげる金融機能を担っていますが、中間業者の数が多いほど経済活動は複雑になり、消費者が負担するコストは増えることになります。

ブローカーが生み出す付加価値とは、消費者が欲しい商品を探すために要する時間コストを削減する調達機能と言えるのかもしれませんが、本来ならより安く商品を買いたい消費者がブローカーに支払うコミッションは、より商品を探しやすい効率的な社会であれば、本来払う必要のなかった機会損失とも言えるわけです。

夜のスディルマン通り

インドネシア人と日本人がコラボするのが難しい理由

インドネシア人が日本人とのコラボで期待するのは日本人社会に対する営業力とかコネであり、お互いがWin-WInの関係になるアイデアはなかなか出てこず、コラボありきのビジネスはだいたい失敗します。

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付加価値を積み上げる経済活動の基本形

インドネシアでは2021年7月から始まった緊急活動制限(PPKM Darurat)とレベル4社会活動制限(PPKM Level-4)により、消費者の物理的な移動が制限されたことで消費支出が減少し、供給側である製造業では消費者市場からの需要減少に加えて、出社人数制限により生産が落ち込んだことで、製造業の景況は二輪四輪部品市場を中心として停滞が顕著です。

(2021年8月24日追記)
ジョコウィ大統領は、新規感染者数の減少などを理由に、ジャカルタ首都圏、バンドン都市圏、スラバヤ都市圏などのレベル4社会活動制限を、24日から30日までレベル3に下げると発表しました。

WFHで自宅で過ごす時間が長くなった消費者は、TokopediaやShopeeなどオンラインマーケットプレイスで買い物し、GoFoodやGrabFoodなどのオンラインデリバリーで食事を調達するようになり、消費行動が非接触型のオンライン中心にシフトしたことで、必然的に多くの実店舗がオンラインに参入することとなり、インドネシアのB2C(企業個人間取引)とD2C(消費者直接取引)市場は群雄割拠の様相です。

コロナ禍ではマスク着用、公共場所への入館時の検温、物理的距離の維持やパーティションの設置など、生活様式が大きく変化しましたが、消費者と生産者がインターネットを通じて直接取引し、今度は消費者が生産者となって食べ物を販売するなど、オンライン上にモノと食べ物が溢れた時代として記憶されるのではないかと思います。

市場にモノと食べ物が溢れたことで消費者が飽きっぽくなると、市場に溢れる製品のライフサイクルは短くなり、日進月歩で変化する消費者の需要に応えるために次々と新しい製品が市場に出てきますが、一般的にはサプライチェーン上の川下側である消費市場の需要変動の振れ幅は、川上である製造側に行くほど波及効果が大きくなります。

ムチがしなるように需要変動の振れ幅が先端に行くほど大きくなる現象をブルウィップ効果と言いますが、製造側では製品ライフサイクルの短命化に合わせて製造ロットが細分化され、製造業を顧客とする材料やスペアパーツのサプライヤーは多品種少量生産に合わせて、多頻度少量ロットの納品を要求されます。

無駄な在庫を一切持たないことで世界的に有名なジャストインタイムの生産を基本とするトヨタ生産方式ですら、部品を供給する側の下請けメーカーの在庫コスト(安全在庫分の保有リスク・納品先の近くに借りる倉庫費用など)や、遅納が許されない運送業者の負担の上に成立しています。

サプライチェーン上の川上から川下へと付加価値を積み上げながらモノや情報が流れていく様子を経済活動とすれば、経済活動の安定は川上で水が溢れないように懸命に努力する人々の苦労の上に成立しています。

インドネシアの課題である経済活動の付加価値化

2019年に第二次ジョコウィ政権が始まってから頻繁に耳にするインドネシア語に「hilirisasi(川下化)」があり、これは川上産業である原料輸出を止めて、原料を国内で加工し付加価値を付けることで、最終製品の製造・販売を行う川下産業を育成することで経済活動の付加価値化を目指すということです。

昨年10月にDPR(国民議会)で可決されたオムニバス法案(UU Cipta Kerja=雇用創出法)は、まさにこの付加価値産業をインドネシア国内に育成するために、海外直接投資を阻害する要因だった労働者の権利重視の雇用条件を緩和する法律であり、国内で付加価値を付けて経済活動を高度化するための法改正が労働者にとっては改悪だっため、連日のように過激なデモが発生しました。

労働組合のデモはイスラム団体と結びつき先鋭化しやすい。

僕がインドネシアに来た1997年頃、Korupsi(汚職)とKolusi(談合)とNepotisme(縁故主義)の頭文字をとったKKN(カー・カー・エヌ)という言葉が日常生活の中の話題で頻繁に出てきて、政治経済の中に不正が蔓延るのは仕方がないといった典型的な後進国的雰囲気すら漂っていましたが、スハルト長期政権が崩壊し、2003年には汚職撲滅委員会(KPK)が発足し、汚職摘発のニュースがテレビで放映されるようになると、国民の意識は明らかに変わっていきました。

インドネシア独立記念塔

世代交代により行政機関と民間企業で不正浄化が進むインドネシア

スハルト長期政権時代に日常化したKKN(Korupsi汚職・Kolusi談合・Nepotisme縁故主義)は、汚職撲滅委員会KPK(Komisi Pemberantasan Korupsi)により浄化が進められており、行政機関の透明化に並行して民間企業間の商習慣もクリーンになることが期待されています。

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経済活動の中でブローカー的行為が調達機能を果たすことで、モノと金の循環を活性化する面もありますが、インドネシアの歴史的経緯としてブローカー行為がKKNとセットで語られることが多く、本来であれば中間業者が少なくて済む経済基盤があることが理想です。

本来の産業の高度化のプロセスとは、付加価値を生まないブローカー的機能をIT技術に置き換え、より大きな付加価値を生み出す社会を築き上げていく過程で、経済活動のチェーンに入り損ねた人々を、どこかのメンタリストのように「ホームレスの命はどうでもいい」と切り捨てるのではなく、救済する共生社会を目指すことだと考えます。