西パプア州の先住民族ダニ族が住む山岳地帯ワメナ地区で生産されるパプア・ワメナ(Papua Wamena)のコーヒーは、山岳民族の荒々しいイメージとは異なり、コーヒーの味を直球ど真ん中で伝える芳醇で酸味少なく飲みやすいコーヒーです。 インドネシアのコーヒー 「インドネシアのコーヒー」と聞いて思い浮かぶのはオランダ植民地時代に持ち込まれたコーヒーノキを起源とするプランテーション、北回帰線と南回帰線の間に東西に連なるコーヒー栽培に適した地理的風土、多数の高原地帯で栽培され風味も味わいも異なるご当地コーヒーなどです。 続きを見る
インドネシアの最も東に位置する西パプア州
現在ニューギニア島の東半分はパプアニューギニアという独立国家(首都ポートモレスビー)で、西半分がインドネシアの西パプア州となっており、自分が中学生の頃の地理の授業ではイリアンジャヤと習った記憶があります。
この地理の先生が中学一年の担任の先生で、特にインドネシアの地政学を専門にされていたのかどうかは定かではありませんが「スマトラ、ジャワ、ボルネオ」と口癖のようにツバ飛ばしながら連呼する様子が、多感な十代前半の少年の脳裏に鮮烈に残ってしまい、おかげさまでインドネシアでは一般的にボルネオ島ではなくカリマンタン島と呼ばれることに未だに違和感があります。
以前インドネシア人の友人が西パプア州へ出張に行ったとき、「Nasi Gorengが1皿5万ルピアもした」という物価の高さに驚いていましたが、これは地域内での食材の生産、調達が難しく、他島からの供給に頼っている以上、運送コストが反映されたものです。
色黒なインドネシア人の中にあってパプアの人はさらに色黒で、髪の毛もチリチリで明らかに異なる民族の風貌をしているので、日本人である自分からすると正直なところパッと見で身構えてしまうところがあるのですが、うちの嫁さんの教会にはパプア出身の人もたくさんおり、話してみるとめちゃくちゃいい人ばかりで、嫁さんの妹がサタン(悪魔)に取り付かれたときに精神的にフォローをしてくれたのもパプアの人でした。
インドネシアでは時折政治家や国粋主義団体によるパプア系住民に対する差別的発言をきっかけにデモや暴動が発生し、ジョコウィ大統領の経済優先で反差別に対する政策が不十分であるとして、パプア州独立を求める民族運動に発展する火種となっています。
またインドネシア領西パプア州が位置するニューギニア島は地理的に太平洋プレートとの接点に位置しており、スマトラ島からジャワ島、ヌサトゥンガラ諸島までがユーラシアプレートとの接点になっていることから、インドネシアは国全体がバランスボールの上に存在している感じがします。
東側パプアニューギニアのマナム火山は、1974年以降活発な火山活動を続けており、2022年3月にも大規模噴火を起こし、噴煙は高度1万5000m超に達しました。
芳醇(ほうじゅん)で酸味少なく飲みやすいパプア・ワメナのコーヒー
インドネシアのコーヒーは産地ごとに風味の傾向が異なり、精製方法や焙煎度合いによってさらに複雑な風味を出すことができますが、自分はパプア・ワメナのコーヒーこそが最もバランスが取れた誰が飲んでも美味しいと言わせる飲みやすいコーヒーであると感じています。
風味の傾向
- 香り ★★
- 苦み ★★
- 酸み ★
- コク ★★
- 甘み ★★
コーヒーが栽培されるのは先住民族であるダニ族が住む山岳地帯であるワメナ地区であり、どうしてもカリバニズムとか魔女狩りとかを信奉する、コテカ(ペニスケース)を装着した野蛮な裸族のイメージが拭えないのですが、パプア・ワメナのコーヒーはクセなくマイルドで非常に飲みやすく、拍子抜けするほど洗練された上品な味わいがあります。
スカルノハッタ空港の新第三ターミナルには、One Fifteenth CoffeeやArdent Archipelagoなど、上質なスペシャルティコーヒーを淹れてくれるカフェがいくつも入り、コーヒー好きにとっては嬉しい限りですが、前回ロンボク島に行く前にパプア産のシングルオリジンをカリタ・ウェーブ式(Kalita Wave)で淹れてもらいました。
カリタは横浜を本拠地とするコーヒー機器総合メーカーで、ドリッパーの表面が波打っていることでフィルターの間にスペースを空けるため、お湯が偏ることなくスムーズにドリップされ、底に穴が3つも空いているのでコーヒーの苦味が出てくる前にお湯が落ちることで、すっきり飲みやすいコーヒーに仕上がるのが特徴です。
私がインドネシアに来たばかりの1997年は、アチェ州で自由アチェ運動(GAM=Gerakan Aceh Merdeka)とインドネシア国軍との衝突がテレビニュースで頻繁に見られた時代であり、2002年5月には旧ポルトガル植民地下だった東ティモールがラモス・ホルタやシャナナ・グスマオを指導者として実際にインドネシアから独立を果たし、そして現在最も独立のリスクが高いと言われているのが西パプア州です。
インドネシアには西部標準時(WIB)、中部標準時(WITA)、そして日本と同じタイムゾーンにある東部標準時(WIT)という3つのタイムゾーンがありますが、今日2023年1月1日を最初に迎えたのがWITの西パプア州であり、地政学的重要性からもインドネシアがパプアの独立を認めることはあり得ず、政府による反差別に対する規制(法令や条例の中での明文化の有無は問わず)が求められます。
2022年から流通が開始された10万ルピア札の裏側に、西パプア州の世界的観光地ラジャ・アンパット (Raja Ampat)が描かれたのも、たびたび出てくるパプア分離独立運動の火種を抑え込み、インドネシアの結束をアピールしたい政治的背景があるのかもしれません。