インドネシアには南北回帰線の間に連なる国土と高原地帯の温暖な風土が生み出す産地特有のコーヒーが各地で生産され、コーヒーベルト地帯とも呼ばれています。インドネシアの地理や歴史、時事問題など周辺情報や背景について思いを馳せながら飲むスペシャリティコーヒーは格別です。 インドネシアのコーヒー 「インドネシアのコーヒー」と聞いて思い浮かぶのはオランダ植民地時代に持ち込まれたコーヒーノキを起源とするプランテーション、北回帰線と南回帰線の間に東西に連なるコーヒー栽培に適した地理的風土、多数の高原地帯で栽培され風味も味わいも異なるご当地コーヒーなどです。 続きを見る
自分にとってのスペシャリティコーヒーとは
日本に居ようがインドネシアに居ようがアフリカに居ようが、コーヒーを美味しく飲みたいと考えれば、以下のような「コーヒー」というキーワードで関連情報が知りたくなるかもしれません。
- 豆の種類
- 生産地
- 焼き方・挽き方・淹れ方
- 淹れるための機器
そしてたまたまインドネシアに縁がある人にとっては、「コーヒー」と「インドネシア」というキーワードでの関連情報に興味が出てくると思います。
- インドネシアのコーヒーの産地
- インドネシアでコーヒーが栽培され飲まれるまでの歴史
- 現在のインドネシアのコーヒー生産・消費・輸出に関連する時事問題
地理的にはインドネシアは北回帰線と南回帰線をはさむコーヒーベルトに位置するコーヒー栽培に適した国で、各地のコーヒーの味は品種はもちろん気候や土地によって変わってきます。
歴史的にはインドネシアは1602年の東インド会社の進出を契機にオランダの植民地支配が300年以上続き、その間アラビカ種のコーヒーが持ち込まれ、気候のいい高原地帯で栽培が開始されました。
時事的には現在インドネシアは世界第4位のコーヒー生産国であり、その生産の70%がスマトラ島で生産されており、全体の90%がロブスタ種でスペシャリティコーヒーの対象候補となるアラビカ種は10%しかありません。
栽培から流通までのプロセスにおいて一貫して高い品質の管理を受けることによって提供され、厳正なカッピングによる基準をクリアしたものがスペシャリティーコーヒーと呼ばれるようになって久しいですが、自分にとっての『特別なコーヒー』とは他人の評価ではなく、自分が『もっと楽しくもっと美味しく』飲めるコーヒーです。
高品質のコーヒーを飲みたければ有名なカフェに行くか、評価の高い豆を自分で淹れるかすればいいわけですが、そこにインドネシアの地理や歴史、時事問題など周辺情報や背景についての知識があれば、「この一杯のコーヒーが出来るまで」について想像を巡らせながら『もっと楽しく』飲めるんじゃないでしょうか?
インドネシアのコーヒーをもっと楽しくもっと美味しく飲むためには
仮に全く同じ産地で同じ時期に同じ条件でコーヒーチェリー(コーヒーの実)が収穫され、同じ条件で洗浄、選別、精製された生豆を、この場で焼いて挽いて淹れれば同じ風味・香味・味のコーヒーを飲むことができます。
しかし私たち最終消費者がコーヒー飲むまでには以下のような長い道のりがあります。
- コーヒーチェリーから生豆に精製⇒工場管理者の仕事
- 生豆の保存期間と保存環境⇒バイヤーの仕事
- 焙煎のされ方、焙煎後の保存期間と保存期間⇒焙煎士の仕事
- 粉砕(挽き方)・淹れ方⇒バリスタの仕事
- 淹れる⇒バリスタまたは消費者の仕事
バイヤーの豆を選ぶ能力と焙煎士の焼く技術とバリスタの能力が安定していれば「同じカフェで同じコーヒーを注文しても味が微妙に違う」ということは発生しませんし、仮にバイヤーの選んだ豆の品質にムラがあっても、焙煎具合で調整できる可能性があり、焙煎具合にムラがあっても挽き方や淹れ方でリカバーできるかもしれません。
このようにコーヒーカップに注がれてテーブルに置かれるまでの過程の仕事は別々の人が行うわけですから、信頼できるシングルオリジンの豆を買って自分で淹れるか、信頼できるカフェのバリスタやバイヤーを信じて飲むかして「この産地のコーヒーは深いコクの中にも微妙な甘味が感じられる傾向があるなあ」と評価するしかないわけですが、私の場合は「インドネシアのコーヒーをもっと楽しくもっと美味しく」飲むために知りたいことは以下のことです。
- 産地ごとの風味の傾向を知り
- その風味の傾向が生み出される風土の地理的特性を知り
- どのような歴史を経て現在のように流通するようになったか
インドネシアの産地特有のコーヒー飲み比べ
インドネシア国内に多くのコーヒー産地の銘柄があるのは、国土が赤道付近に東西に長く連なり高原地帯が多いという、コーヒー栽培に適した条件を満たす土地がたくさんあるからであり、これは他国には類を見ない特徴です。
赤道から北へ23度27分の緯線が北回帰線(夏至線)で、英語ではTropic of Cancer(蟹座)、南へ23度27分の緯線が南回帰線(冬至線)でTropic of Capricorn(山羊座)というのは、日本でいう夏至の時期には、太陽が黄道12星座(太陽の通り道である黄道上にある13星座のうちへびつかい座を除いた12星座)の蟹座の位置にあり、冬至の時期には山羊座の位置にあるからです。
ちなみにCancerといえば病気の『癌』ですが、古代ギリシア時代には『蟹座』という意味が先にあったようです。
インドネシアのコーヒーで産地特有の味わいを売りにしているものはほとんどアラビカ種ですが、虫に弱いので高地でしか生産できないという制約があるため、ジャワ島で虫に強くて低地でも栽培OKのジャワロブスタが、缶コーヒーなどの原料用として生産されるようになり、インドネシアのコーヒー生産量の9割を占めるようになりました。
ジャカルタにはスタバやMAXX Coffeeなどのチェーン店以外に、コーヒー好きのオーナーのこだわりを凝縮したカフェがいくつもあり、有名なところではスラバヤ通りのGiyanti Coffee Roastery、私が住むアパートThamrin Residenceの目の前にあるタナアバンのTanamera Coffeeなどで、こういう店は現地農場と密接なルートがあるので、自動的にシングルオリジン(農場単位の豆独自の味)の美味しいコーヒーが堪能できます。
クニンガンのMal Ambasadorの2階と3階は海賊版CDやスマホショップが入っていますが、フードコートのある4階にAroma Nusantaraというインドネシアのコーヒー専門店があり、ここはインドネシア各地域で仕入れたこだわりの豆が100gから買えるので、自宅でも「今日の夜飯は中華料理で油っぽかったので、口当たりスッキリ少し酸味の効いたWest Javaの豆を粗挽きにしよう」みたいにテイストの違いを味わいたい方にお勧めです。
8種類アラビカ種の豆を100gずつ購入(下記価格は2016年時点)して、毎朝交代で一巡飲み終えた感想です。本来ならペーパードリッパーとドリップポットを使ってお湯を少しずつ均等量ずつ注ぐのがベストですが、正直朝からそこまでこだわる時間がないので、気分に応じて豆を選んで、電動式臼式コーヒーグリンダー(コーヒーミル)で粒度を調整して、コーヒーメーカーで抽出しています。
- Aceh Gayo (Sumatra) Rp.38,500/100g
サラッっとしているがコーヒー独特のアロマが強く、多少酸味を感じる。ミルクを入れてアイスで飲むと美味しいかも。 - Toraja Uma (Sulawesi) Rp.38,500/100g
コーヒーのアロマと甘さのバランスが良く一番クセのないオーソドックスな味。よく言われる基本5味(甘味・旨味・苦味・塩味・酸味)がバランスよく含まれているコクのある味わい。 - Dark Roasted Toraja (Sulawesi) Rp.38,500/100g
Toraja Umaを深煎して、若干の苦味を前面に出して少し濃厚にした感じ。 - Bajawa (Flores) Rp.38,500/100g
Aceh Gayoに似ているがコーヒー独特のアロマはそれほど強くなく、若干甘い香りで酸味少な目のサラッっとした舌触り。 - Galunggung (West Java) Rp.38,500/100g
コーヒーの香りは強くないが舌に刺さるようなサラッとした独特の感じがあり、カップ1杯の飲み終わり頃に若干の心地良い程度の酸味を感じはじめる。ロブスタ種が多く栽培されるジャワ島で生産されるアラビカ種のコーヒー。 - Lampung (Sumatra) Rp.30,000/100g
コーヒー独特のアロマが強く多少のビターテイストを加えた感じ。「北のアチェガヨとマンデリン、南のランプン」と呼ばれているかどうかは知らないがインドネシアのコーヒーではスマトラ産が75%を占める。 - Wamena (Papua) Rp.49,500/100g
トラジャをもっとキリッっとさせたコーヒーの印象を直球ど真ん中で伝えるような味で、ホットのストレートまたはシングルオリジンで飲むにはこれが一押しかも。 - Mandheling (Sumatra) Rp.49,500/100g
ダークチョコレート風というのはよく使われる表現ですが、確かに濃厚さの中にほのかな甘みが感じられるようで、コロンビアのブルーマウンテンが有名になる前は、世界一の評価を得ていたと言われるだけの風格があります。クリーマーとコラーゲンを入れて真っ白にして飲むうちの嫁さん的にはマンデリンが一番らしい。
中央ジャカルタ スラバヤ通りのコーヒーショップ
骨董品店が軒を連ねる中央ジャカルタのスラバヤ通りにあるGiyanti Coffee、ユーミンの「スラバヤ通りの妹へ」という曲の『Rasa Sayang geh~』というフレーズは、インドネシアにゆかりのある人であれば、仮にその人が中島みゆき派だったとしても、高い確率で知っていると思われるフレーズであり、自分の場合インドネシアに来てから五輪真弓の「心の友」の次に覚えた日本の曲です。
最初に聞いたユーミンの曲が「守ってあげたい」(1981年11月に発売されたアルバム「昨晩お会いしましょう」に収録)であり、この「スラバヤ通りの妹へ」は同年の5月に発売された「水の中のASIA」に収録されている、ということはほんの半年の差で同時期に聴けなかったすれ違いの曲ということになります。
ジャカルタの少し上の年代の人に「ジャカルタに赴任したとき真っ先にユーミンの曲に出てくるスラバヤ通りを見に行ったよ」とうれしそうに語られても、年代的にぎりぎり共感できない世代ですが、もし当時11歳の自分がこの曲を聴けていたとしたら、スラバヤ通りをはじめて訪れた際に、幼馴染に再会したような感動を味わったかもしれません。
Satu arah(一方通行)のスラバヤ通りは、チキニ通りからまわりこんで線路の高架の手前で右折してすぐ左折という、近くてもアクセスが悪いロケーションで、日本からのお客さんから要望があったときくらいしか行くことはありません。
納車1ヶ月の新車を胡散臭い骨董屋の前に路駐してから、たぶんオーナーの関係者の名前がSUGIYANTI(スギヤンティ)という典型的なジャワ人の名前なんだろうなあなどと立ち入ったことを考えながら(真偽のほどは定かではありません)細い路地を抜けると、店内は既に観光客っぽいインドネシア人でごったがえしていました。
今回は店員一押しのTORAJA SAPAN(250g Rp116,017)とBLUE BATAK(250g Rp107,359)の豆を購入し、店内で甘いbronis(ブラウニー)と合わせていただいたのですが、香ばしくコク深いMandheling(マンデリン)を好んで飲む自分には、同じく酸味控えめで芳香豊かなトラジャサパンのほうが合うという予想に反して、気持ちだけ酸味が舌先に刺さる感じのブルーバタックも全然悪くないと感じたのは、Plaza Indonesiaの地下でパダン料理を食べた後だったからでしょうか。
一般的にコーヒーの味は形容詞で美辞麗句並べて説明するより『何と合わせて飲むか』を伝えたほうがイメージしやすいと考えているのですが、ケーキやどら焼きを食べるときは、ほのかに苦味が感じられるくらいのマンデリンやトラジャが適しており、日本食レストランのランチセットについてくるコーヒーとしては、やや酸味のあるブルーバタックがいいかなと思います。