インドネシアでの製造業システム導入という仕事

2009/11/29

ジャカルタ

2008年のリーマンショックで世界的に景気が低迷する中、インドネシアは比較的軽微な影響しか受けなかった最大の理由は、国内で付加価値産業が育っていないことで輸出競争力が弱く、内需主導型経済だったからだと言われており、1人当たりGDPも2020年のコロナ禍まで5%前後で堅調に成長していました。ちょうどその時、バリ島での輸出会社の経営者からジャカルタでのIT会社の社員に転身した当時の心境を記した内容です。

スナヤン競技場(Gelora Bung Karno)

インドネシアの政治・経済・社会

日本人のインドネシアについてのイメージはバラエティ番組で活躍するデヴィ・スカルノ元大統領夫人の知名度に依存する程度のものから、東南アジア最大の人口を抱える潜在的経済発展が見込める国という認識に変遷しています。

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ジャカルタでの製造業システム導入という仕事(2009年)

インドネシアは日本の製造業にとっての一大生産拠点であり、ジャカルタ周辺には総合商社系の工業団地が複数存在する。

私はジャカルタ中心部のオフィスから、これら工業団地の工場を訪問することが多いのだが、金融危機(2008年のリーマンショック)を乗り越えた2009年11月現在、工場は増産ラッシュ、生産ライン増強で超多忙ということ。製造業に限って見れば景気がいいのは間違いないようだ。

インドネシアの株価はアジアで最も高い上昇率をみせ、他国に比べて比較的安定していると言える。証券会社の数が増え、個人投資がちょっとしたブームになっている。

はっきり言ってインドネシア人は「額に汗せずクーラーの効いた部屋でPC1台あれば金が稼げる」というふれこみに非常に弱い。よって個人投資家へのオンライントレーディングの普及は非常に早い。

日本の友人の話では、日経新聞には毎日のようにインドネシア投資の話題が掲載されているということだが、当地のIT業界に身をおく人間からしてみると、そのような動きによる恩恵がいまいち感じられない。

もしかして我々だけ蚊帳の外に居るのではないかなどと笑えない冗談が出るほど新規案件をとるのは難しい。

IT業界への景気の波は半年遅れでやってくると言われているので、ちょうど来年あたりから受注も増えてくるのではないかと期待している。

現在私は日系システム会社の技術担当という肩書きで仕事をしている。具体的にはERP(統合業務アプリケーション)パッケージや生産スケジューラーのプリセールスと導入、ネットワーク構築作業などである。

システム会社といっても自分でプログラムを組むような仕事は非常に少なく、せいぜいパッケージソフトのプラグイン(追加モジュール)を作ったり、スクリプトで簡単なカスタマイズをするくらいである。

仕事に必要なものはシステムのハードとソフトに関する知識、生産管理や会計など業務アプリケーションの知識、そしてインドネシア語である。

バリ島で家具の輸出業をしていた頃との比較(2009年)

2007年まで世界的な観光地バリ島で家具や布製品の輸出業を行っていたが、日本の不景気の影響と供給元を中国にシフトする流れから完全に立ち行かなくなり撤退。

以前働いていたジャカルタのシステム会社に出戻りでお世話になっている。180坪のプール付きの家で犬と熱帯魚に囲まれたお気楽な生活に別れをつげ、現在はジャカルタ中心部のアパートの19階から毎朝マイカー通勤する普通の会社員生活をしている。

ジャカルタに戻る前はこの生活のギャップに耐えられるだろうかという不安もあったが、住めば都、人間意外とどこにでも適応できるものである。

日本に比べてインドネシアはシステムによるビジネスフローの標準化は随分と遅れている。

近年上昇率が高いと言われる人件費も、日本に比べると格安であるため、高額なシステム投資を行うよりたくさん人を雇って人海戦術を取るほうが得というのも一つの真理である。

また業務系システムを高額な投資金額に見合うほど使いこなすのは、一定レベルの人材を確保していたとしてもなかなか難しく、結局は業務フローは分断されたまま、ただの帳票出力システムになってしまっているケースも多い。

最近は2000年前半に導入済みの高額なERPシステムを、償却期間が過ぎたタイミングでダウングレードして、会計まわり以外はすべてExcel処理に戻すという会社も出ている。

バリ島で独立して仕事をしていた頃に比べて現在の従業員としての立場で一番異なるのは「金の心配をしなくてよい」ことである。

不景気の今はなんとか案件を増やして生き延びようというような深刻な会話を日常的交わしていたとしても、結局は「人の金」「人の会社」であり、従業員には会社の業績が良くとも悪くとも自動的に給料が振り込まれる。

ただこういう不景気時の経営者の心情は非常に理解できるつもりではいるので「自分のことより会社の利益を第一に」などと奇麗事は言わないまでも、少なくとも会社の利益とキャッシュフローについてかなり真剣に考えている。

要は「利益を出さないと悪いなあ」という気持ちが常に働いているわけである。もともと好きなシステムの仕事ということもあるが、独立して仕事をしていた時に培われたコスト意識が強いので、経営者にとっては仕事熱心で使いやすい社員ではないかと思う。

こういうことを自分で言うのは馬鹿みたいだが、被雇用者から雇用者になり、そしてまた被雇用者に戻った心情を説明するのに判り易いと思ったので僭越ながら書かせていただいた。

当地の日本人同士の会話の中で、インドネシア人との付き合い方というのは非常に話題になりやすい。

その中でいかに多くの日本人がインドネシア人との付き合いでストレスを感じているかに驚かされる。会社での立場や生活環境によって違ってくるとは思うが、やはり異なる文化環境で育ってきた人達と、日本人と同じような感覚で付き合うのは無理がある。

相手の悪いところを指摘してあげて、改善させてあげようと考えることは時には必要なことだと思うが、インドネシア人にこれをやろうとすると自分自身がストレスを抱え込み、かえって関係が悪くなることがある。

相手のいいところを見て仕事に能力を発揮してもらう環境を作ってあげれば、意外と自分で考えて動いてくれるものである。