駐妻さんのほとんどは旦那さんのインドネシア駐在を機に仕事を辞めて帯同されており、非常に魅力的な人材が多いことがSNSの普及によって公になりました。安易な移民政策ではなく埋もれた人材が活躍しやすい仕組みづくりこそが最初に取り組むべき課題だと考えます。 インドネシアの政治・経済・社会 続きを見る
インドネシア在住日本人駐在員妻さんという埋もれた人材
2019年現在、日本の外務省のデータによると、インドネシアの在留邦人数はここ数年ほど1万9千人前後を推移しており、男女比率は約2対1です。
男は基本就労が目的ですが、6,000人以上にのぼる女性の中には、既に就労されている方もいらっしゃいますが、大半は家族帯同で来られた駐在員妻さん、いわゆる「駐妻さん」ではないかと思います。
駐妻さんのほとんどは、元は日本で仕事をしていたが、結婚または出産を機に退職された方もいれば、日本で共働きだったものの旦那さんのインドネシア駐在を機に、仕方なく仕事を辞めて帯同された方もいらっしゃいます。
これもったいないと思うんですよ。働く意欲があるのにインドネシアに帯同するから退職、子育てがあるから働けないというのは。
日本では1985年に職場環境における採用・昇進・解雇などの面で男女とも平等に扱う男女雇用機会均等法が制定されましたが、令和の今でこそイクメンという言葉がもてはやされるほど男性の育児について語られるようになったとはいえ、それでも第一子出産後の6割の女性が「育児と仕事の両立によるストレス」を原因として退職することを余儀なくされます。
今はSNS上で駐妻さんと会話させていただく機会もあるのですが、ウィットに飛んだ頭の良さそうな方が非常に多く、中にはフランス語を専攻されていた方や、バリバリのリケジョだった方など一芸に秀でた方に出会うことも珍しくありません。
まだSNSがない20年前(1997年~1999年頃)の話、「よろずインドネシア掲示板」のオフ会では、駐在員、自営業者、現地採用者など働いている人だけでなく、駐妻さんも参加されていました。
当時からジャカルタで子育てや家事のために帯同されていた駐妻さんが、実は過去に煌びやかな見まごうばかりの社会人としてのキャリアをお持ちだったりすることは普通にありました。
女性は旦那さんの転勤に伴って退職を余儀なくされたのですから当然ですよね。
お話しているうちにすぐにこれは只者じゃない、という超頭の切れる駐妻さんは昔から当たり前のように存在していたわけですが、男の立場としては知りたくない、見たくないというのが本音だったわけです。
男のコケンにかかわるっていうヤツです。
それがSNSの発達のおかげで、インドネシアにも実は超絶優秀な駐妻さんがたくさん存在することがおおやけにバレてきているのだと思います。
インドネシアの社会の第一線で活躍する女性
東南アジアでは女性が勤勉で男は怠け者が多い、というのは昔から言われてきたことですが、実際にインドネシアに住んで仕事をしていると、インドネシア人女性は相対的に男に比べて優秀だと思います。
だいたい日系企業でも女性管理職の数は日本に比べて圧倒的に多く、経理、購買などお金が絡む部署では女性スタッフの比率が圧倒的に高いのは間違いないはず。
インドネシアは、女性の働きやすさという点においては、日本とは比較にならないほど先進的であり、そもそも旦那が転勤するからとか、妊娠したからとか、子供が生まれたからとかいう理由で退職するという発想自体がありません。
これはインドネシアでは企業が産休と出産後の職場復帰に対する理解が強いこと、親に子供の面倒を見てもらえる環境があること、メイドやベビーシッターを雇いやすい環境であることが大きく影響しています。
実際にインドネシア人女性が離婚した後、家族を養うために子供を実家の両親に預けて、ジャカルタで働いているというケースは非常に多く、結婚したあとも家族間の助け合いの精神の強さは日本の比ではありません。
日本の女性の地位向上に尽くした人物としては、1945年に婦人参政権を実現した市川房枝が有名ですが、インドネシアの女性の地位向上に貢献した最も有名な人物は、19世紀末のオランダ領東インド時代のカルティニ(Raden Adjeng Kartini)で、彼女の誕生日4月21日はカルティニの日として指定され、毎年Googleインドネシアのサイトの図柄に登場します。
日本では女性の内閣総理大臣はまだ誕生していませんが、インドネシアでは2001年に初代大統領スカルノ氏の長女であるメガワティ氏が第5代インドネシア大統領に就任しています。
当時のワヒド大統領(グス・ドゥル)の罷免により、副大統領だったメガワティ氏が大統領に昇格したものですが、女性だから大統領として不適格だ、などという声は当時聞かなかったように記憶しています。
日本の政治家で政権与党で重要な役割を果たした女性政治家と言えば、2001年に小泉内閣で外務大臣を務めた田中真紀子氏くらいしか思い浮かばないのですが、その人格や能力が国民からどれだけ尊敬を集めたかと言えば疑問が残ります。
インドネシアではジョコウィ政権(2014年~2019年)の重要なポストに優秀な女性閣僚が就いており、かつて世界銀行の執行役員(Direktur Pelaksana Bank Dunia)を務め、ユドヨノ政権(2004年~2014年)、ジョコウィ政権で財務大臣を歴任しているスリ・ムルヤニ(Sri Mulyani)氏は「鉄の女」と評されるくらい明晰な頭脳と強靭な精神力を持ち合わせていると賞されています。
2019年のG20財務大臣会議で福岡にもいらっしゃいましたが、世界中から集まった財務大臣が束でかかっても負けないくらいの優秀な女性です。
そして違法操業の中国漁船を問答無用で爆破したことで日本でも有名な、第一次ジョコウィ政権(2014年~2019年)で海洋水産大臣を務めているスシ・プジアストゥティ(Susi Pudjiastuti)氏。
海産物の卸業で成功し、セスナ機による航空運送会社Susi Airを設立し、漫画ゴルゴ13にも強硬派女性大臣として登場したスシ氏の右足にはフェニックスのタトゥーが彫ってあるそうです。
女性が働きやすい環境づくりの必要性
2018年11月に日本政府は単純労働を含む外国人労働者の受け入れを拡大する出入国管理法改正案を閣議決定しましたが、実質的な移民政策だーと随分騒がれたわりには、有効な代替案についての議論はなかったように記憶しています。
少子高齢化に伴う生産年齢人口の縮小が進む中、単純労働人材のみならず高スキル人材も不足しており、日本国内のIT企業ではアジアの優秀な人材を日本に呼び寄せることも珍しくなくなりました。
憲法改正や消費税10%の議論も大事でしょうが、生産年齢人口の社会保障負担が増加し続ければ、日本の年金・医療制度が崩壊し国を滅ぼしかねないため、少子化対策と同時に労働市場の柔軟化、埋もれた人材の就労促進が急務です。
- リモート勤務による場所を選ばない働き方の推進
- 専業主婦や高齢者など潜在的人材の発掘
駐妻さんの場合は最大で旦那さんの任期期間は帯同されるわけだし、日本から遠い東南アジアの途上国に帯同するだけのバイタリティと、過去の会社勤めや子育てで積んだ社会経験がありますので、インドネシアに現法を持つ日本企業にとっては、非常に魅力的な人材に出会う機会があるのではないかと思います。
インドネシアで家を空けて外に働きに出るのは難しい場合には、自宅に居ながらリモートワークで日本の会社の仕事をするという形も、今後増えてしかるべきワークスタイルだと思います。
駐妻さんがインドネシアで就労しインドネシアで収入を得るには、労働許可書IMTA (Izin Mempekerjakan Tenaga Asing)と滞在ビザC312を取得する必要がありますが、インドネシアに居ながら日本の仕事をし、日本からの収入が日本の口座に振り込まれる場合は、家族帯同ビザC317で仕事をすることは問題ありません。
ただその場合は日本での確定申告が必要にはなります。
※帯同ビザで日本の会社の仕事を行うことに対して、インドネシアの税務署から問題視される可能性は否定できませんので、日本大使館等の公的機関にご確認ください。
日本も安易な海外からの移民推奨により社会保障の負担を増やすよりも、働きたいが働けない女性や高齢者という埋もれた人材が活躍しやすい仕組みづくりこそが、まず最初に取り組むべき課題だと考えます。