インドネシアの新車市場と中古車市場のコロナ禍による影響

2020/05/21

ジャカルタのスディルマン通り

中古車市場での取引が盛んなインドネシアでは、日本車のミドルクラスから下の大衆車は価格が下落しずらく、初年度で10%下落しその後少しずつ落ち、ミドルクラスから上の車は初年度で15%程度落ちるのが相場ですが、コロナ禍の今年は車の売却価格の下落が大きくなっています。

スナヤン競技場(Gelora Bung Karno)

インドネシアの政治・経済・社会

日本人のインドネシアについてのイメージはバラエティ番組で活躍するデヴィ・スカルノ元大統領夫人の知名度に依存する程度のものから、東南アジア最大の人口を抱える潜在的経済発展が見込める国という認識に変遷しています。

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インドネシア国内自動車市場の潜在能力

コロナ禍によるPSBB(大規模社会制限)実施前の1月から3月までの自動車出荷台数の累計は、前年同期と比べて15.9%下落した260,804台で踏みとどまっていましたが、PSBBの施行後の4月に至っては、前年同月比で90.7%減の7,871台となり、2020年の年間自動車出荷台数目標が108万台から60万台まで引き下げられました。

2020年の東南アジアのGDP成長率予測はカンボジアの6.8%、ミャンマー6.7%、ベトナム6.5%、フィリピン6.1%、ラオス5.8%、インドネシア5.1%、マレーシア4.5%、タイ2.7%というように、インドネシアは下から数えたほうが早いくらいで「潜在的巨大市場」としてもてはやされることの多いインドネシアですが「本当にそれに見合うポテンシャルがあるのか?」という疑問の声が出てもおかしくない状況だと思います。

しかしインドネシアの国内自動車市場の潜在能力を知るための指標として分かりやすいのが「インドネシアの全人口2億6千9百万人のうち、わずか3.7%に過ぎない9百9十万人のジャカルタにおいて、国内自動車出荷台数の約2割が占められている」という事実であり、生産年齢人口が従属人口の2倍以上ある人口ボーナス状態が2030年まで続くという予測と掛け合わせると、ジャカルタ以外の潜在的購買層がいかに厚いかが分かります。

特に全人口の6割が集中していると言われているジャワ島のジャカルタ以外の地域の潜在購買能力は非常に高いと考えられます。

ジャボデタベック(JaBoDeTaBek)域内の人口

  • ジャカルタ:9,900,000人
  • ボゴール:5,800,000人
  • デポック:6,700,000人
  • タンゲラン:5,800,000人
  • ブカシ:4,500,000人

合計32,700,000人

インドネシアでは車やバイクの購入は、日本以上に資産形成的意味合いが強く、現在はPSBBで外出機会が減ったことや将来に対する先行き不安感から需要が減っており、企業や個人の金策手段としての車の売却が増えたことで中古車価格が下落中ですが、コロナ禍前の感覚では大衆車の新車は1年目で10%価格が落ち、それ以降は5%ずつ落ちていくというもので、日本では廃車になるような10万~15万Km走った車も中古車市場で普通に売られています。

この調子で廃車になることなく中古車市場に流れ続けていけば、いずれ街中の道路が車で飽和しそうなものですが、上記のとおりジャカルタ以外の地方や他島に受け皿はいくらでもあることが分かります。

僕もインドネシアで中古車を4回買ったことがありますが、2007年にジャカルタで買ったジープCJ-7(1980年製)は、走行中にブレーキとラジエーターが壊れ、クニンガンのRasuna Said通りで大事故を起こしそうになったことがありますので、古い車種や洪水被害が大きかった年に売り出される水没車には十分気を付ける必要があります。

自動車輸出の潜在的競争力

東南アジアの中でインドネシアの人口は2億6千万人を超えダントツに多いのですが、フィリピンが既に1億人を超えており、ベトナムが9,000万人超え、ミャンマーが6,000万人超えと、近隣諸国にも有望な市場が成長していますので、年間100万台以上を輸出するタイに比べて、年間30万台前後という脆弱な輸出競争力が高められれば、インドネシアの自動車出荷台数は飛躍的に増える可能性があります。

僕は学生時代の旅行も合わせて何度もタイを訪問したことがありますが、インドネシアで石を投げればToyota AvanzaかDaihatsu Xeniaに当たるというくらいMPV車が多いのに比べて、タイでは荷台後部に「TOYOTA」とか「ISUZU」とかの文字を強調したピックアップトラックが多いのが印象的でした。

国内向けに多く製造される車種は生産コストが下がりますので、それがそのまま輸出競争力に反映された結果、タイの輸出車の50%近くをピックアップトラックが占め、インドネシアの輸出先の60%近くがアジア向けであるのに対し、タイの輸出先はアジアのみならず、オーストラリア、中東、ヨーロッパなどに程よく分散されているのが特徴です。

幸いなことにインドネシアの自動車製造体制の強味であるMPV車の需要が、近年アジアやオーストラリアで高まる傾向があり、オーストラリアとの距離がタイよりも近く地理的な優位性があることを考えると、領海問題やインドネシア国内でのオーストラリア人の薬物犯罪者への死刑執行など、政治的な軋轢が発生しやすい間柄とはいえ、物流コストの低減を売りにMPV車の輸出を推進していく余地があります。

インドネシアの現在の年間自動車生産能力は220万台あると言われており、今後の自動車産業のxEV産業化に伴い、内燃機関(ICE=Internal-Combustion Engine)の生産高度化による輸出拠点化を実現し、2035年までに生産400万台、輸出150万台を目標としていますが、生産現場の生産性はタイに比べて20%も低く、インドネシアで生産するメリットが低いのが現状です。

インドネシアの国家優先事項の10個の指針である「メーキングインドネシア4.0」の中1つである「原材料フローの改善(Perbaikan Alur Aliran Material.)」とは、川上側(材料調達側)で材料部品の現地調達化により材料コストを下げることで粗利益率(限界利益率)を高め、川下側(完成品側)は国内加工による付加価値創出により、両方向での利益追求のアプローチを進めるということです。

現在中古車価格の下落率が上昇している

新型コロナウイルスの影響で自動車の販売市場であるジャカルタも、生産拠点であるブカシ、カラワンのある西ジャワ州もPSBB(大規模社会制限)が施行され、需要と供給の両方が停滞したことで、2020年4月のインドネシアの自動車の生産台数が前年同月に比べて79.6%減(104,847台⇒21,434台)、国内販売台数は90.6%減(84,059台⇒7,871台)と大幅に減少しました。

インドネシアの自動車出荷台数は、2013年の122万台をピークに下降気味であり、2019年が103万台で、コロナ禍の影響を受ける今年は目標の108万台から60万台と大幅下方修正されましたが、それでも達成するのは厳しいようです。

中古車市場での取引が盛んなインドネシアでは、日本車のミドルクラスから下の大衆車は価格が下落しずらく、初年度で10%下落しその後少しずつ落ち、ミドルクラスから上の車は初年度で15%程度落ちるのが相場です。

ところがここ数年インフレ率が年平均3.5%くらいと低い水準を推移しているのと、コロナ禍による企業の資金繰り対策と個人の生活費捻出のために供給が増加する一方で、先行き不安感からくる買い控えにより需要が減少した影響で、車の売却価格の下落が激しくなっており、大衆車を5年乗った後の売却価格は取得価額の25%-30%落ちのイメージだったのが、今は35%-40%落ちくらいになっています。

今僕が乗っている大衆車の代表格、Toyota Avanza Veloz 1.3 ATは、2016年に202jutaで買ったものですが、2020年現在の中古売買価格は、これまでの感覚から見積もると150juta前後で売却できるはずなのですが、現在の相場では130juta前後まで下落していました。

一方で同クラスの新車価格は230juta前後まで値上がりしているため、Tukar tambah(新車の支払い代金として現在の車を売却して差額の現金を支払うこと)するとしても100juta以上の持ち出しが発生し、こんな相場では益々買い替え需要が下がるものと考えられます。

2016年までは下落率(償却率-インフレ率)が年平均5%くらいだったのに、ここ数年はインフレ率が平均が3.5%程度まで低水準だったところに、コロナ禍から来る買い控えが重なり年平均8%くらいまで上昇している計算になります。

インフレの影響を受けず価格が上がり続ける名車がある

日本は長期のデフレ傾向で20年前から物価はほとんど上がっていないようですが、インドネシアに住んでいると、不動産や車などの資産の購入の際には自然とインフレや金利の影響を気にするようになります。

かつて「車は買ったときより高く売れる」のが当たり前の時代があり、これは車の価格下落率(償却率-インフレ率)をプラスに押し上げるくらいインフレ率が高かった1998年~1999年頃の話で、確かに中古車市場で取得価額より高く売れていました。

ところが償却率ともインフレ率とも無関係に、古ければ古いほど価格が上がり続けている車がたまにあって、一例がToyota FJ-40ランドクルーザーです。

昔、友人が買い替えのために車を売ったとき、買った値段より高く売れたと言っていたが当時のインフレ率が30%-35%で償却率より大きければ十分あり得る話。ただそんなの関係なく価格が上がり続ける車があって一例がToyotaランクルFJ-40。2005年に65jutaで買った1980年式は現在3~4倍に値上がりしている。

2007年にバリ島からジャカルタに移転する際に泣く泣く手放したこの車は、オーストラリア人から買った時の値段が65jutaでしたが、同モデルの現在の相場を見ると200juta~250jutaで取引されているようです。

中古車エージェントを営むバリ人の友人が「ハードトップ(Toyota FJ-40ランクルの通称)は時代遅れしない(tidak ketinggalan zaman)」と言っていたように、4Lのモンスターエンジンを搭載するこの車は、現在でも事故車の牽引や発電機の搬送などに使用され、東ジャワのブロモ山ツアーでは急こう配の山道や悪路を軽々と走破してくれます。

そして特筆すべきは、リッターあたり4km~5kmしか走ってくれないというエシカル(倫理的=環境保全や社会貢献)の時代を逆行する燃費の悪さを補ってあまりある非の打ち所がない外観、直線と曲線が交差する芸術的なフォルムは、130年という自動車の歴史の中で、世界のToyotaによって奇跡的に産み落とされた最高傑作であると今でも信じて疑いません(おおげさ)。