国内中小零細企業をeコマースに乗せることで、インドネシア製品の販売機会を広げようとい政府による奨励は、外国製品を買って国富を流出させるのではなく、国内付加価値の付いた製品を買うことを奨励し、国内でのお金の循環を良くするという自国優先主義と言えます。 インドネシアの政治・経済・社会 日本人のインドネシアについてのイメージはバラエティ番組で活躍するデヴィ・スカルノ元大統領夫人の知名度に依存する程度のものから、東南アジア最大の人口を抱える潜在的経済発展が見込める国という認識に変遷しています。 続きを見る
インドネシアのコロナ禍下での経済不況を乗り越えるための企業努力
2020年当時、コロナ禍下で企業の経営破綻や事業売却のニュースが続きましたが、私の印象に残っているのは5月15日にレナウンへの民事再生法の適用、5月19日にタイ航空が経営破綻し政府系大手航空会社初の更生手続き、6月18日に外食チェーン大手のペッパーフードサービスが主力の「ペッパーランチ」事業を売却(インドネシアではSushi TeiやBakerzinを展開するBOGA Groupが運営)、6月29日にカナダのサーカス劇団シルク・ドゥ・ソレイユが会社更生手続き、そして7月8日にアメリカ歴代大統領も愛用した最古の紳士服ブランドのブルックス ブラザーズ(BROOKS BROTHERS)が連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請などです。
インドネシアでは2020年4月までに解雇PHK(Pemutusan Hubungan Kerja)された従業員の数は700万人と言われており、Toravelokaが全従業員の10%に当たる100人を解雇、Grab(本社シンガポール)がインドネシアオフィスも含む全従業員の5%に当たる360人を解雇、GojekがGolife事業閉鎖に伴って全従業員の9%に当たる430人を解雇(PHK)が続くなど、コロナ禍下での従業員解雇や事業縮小の動きが続きました。
当時は弊社も技術者との契約更新停止、従業員の給料削減、外注サービスの内製化など、固定費の削減に苦心した時期ですが、世の中には従業員の立場を第一に考え、知恵を絞ってコロナ禍を乗り越えるための新しいビジネスを生み出した企業もあり、まったく頭の下がる思いでした。
- 店を続けて従業員も勤務継続または店を閉めて自宅待機で給料30%~50%補償(解雇しない)の選択肢⇒全員勤務継続。
- 冷凍食品の販売開始⇒売上増
- オンラインで購入するとドライバーにsembakoを寄付⇒利用者が自動的に社会貢献でイメージアップ
このコーヒーショップは2020年2月に売上が30%減少したようですが、2月といえばインドとインドネシアではコロナ感染者がまだ出ていなくて、これはインドカレーやインドネシア料理で使われるkunyit(ウコン)が抗体の役割をしているのではないかと、感染者が増加していた中国や韓国、日本を若干上から目線で見ていた時期であり、ところが3月2日にインドネシアで初めて確認された陽性患者が、マレーシアで日本人と接触したのが原因らしいと大統領自ら発表したことで、在住日本人の立場が一機に悪くなるという悪夢のような状況に陥りました。
その後4月にPSBB(大規模社会制限)が施行されると、店内イートインが出来なくなり売上が60%減少し、このコーヒー店のみならず多くの飲食店がデリバリーに生き残りを賭けようとしていました。
一方で寄付文化が庶民レベルで根付くインドネシアらしい素晴らしい相互扶助の発想だと思ったのが、オンライン上で商品を購入すると、自動的にドライバーへのsembako(Sembilan Bahan Pokok=9つの生活必需品である米、砂糖、油とバター、牛肉・鶏肉、卵、牛乳、とうもろこし、灯油、塩)の寄付がなされるというプロモーションであり、消費が自動的に社会貢献ができるという発想は、社会なくしては個人は存在しえないという、人間の社会的動物性に訴える高度なマーケティング戦略と言えるかと思います。
ジョコウィ大統領が推進した#BanggaBuatanIndonesia運動(インドネシア製品を誇りに思う)
コロナ禍による世界的不況の中、2020年5月14日にジョコウィ大統領は国家の弱点を認識し是正することはもちろん、インドネシア国民のクリエイティブで高品質な製品を製作する才能を強味と捉え、創造的な国内製品を優先的に買うことにより、国内経済の危機を乗り越えよう、そのためにまず最初に200万件の国内中小零細企業UMKM(Usaha Mikro Kecil dan Menengah)をeコマースなどのデジタルプラットフォームに乗せることで、インドネシア製品がより大きなマーケットで販売機会を得られるようにしようというのが#BanggaBuatanIndonesia運動でした。
#BanggaBuatanIndonesia運動には既存のオンラインマーケットプレイス、モバイルプラットフォーム、銀行などが協力しており、例えばBRI銀行からの中小零細企業に対して低利子での融資が提供され、GrabKiosで全国のワルン(屋台)をオンライン上に出店し、GrabMartでアンボン島の漁師から新鮮な魚を購入でき、GrabExpressに登録することで立地の悪い零細商店の商品を都市部の家庭まで配送できるなど、小規模なオフラインのビジネスをオンライン化することで販売の機会を拡大させ、コロナ禍による不況を乗り越えようとしました。
本来は輸出促進で外貨を稼ぎ、国力を強めたところで国内産業を強化するのが国家の経済発展のための必勝パターンかもしれませんが、コロナ禍不況のインドネシアは国内消費は増えても消費材の輸入品比率が高く、国内資産が海外に流出している状態であり、輸出が弱い分外国製品を買って国富を流出させるのではなく、国内付加価値の付いた製品を買うことを奨励し、国内でのお金の循環を良くするという自国優先主義になるのも仕方がないのかもしれません。
ただ当時のジョコウィ大統領が、国産品の購入を促すために「外国製品を憎め(benci)」と公式の場で発言したことが、日本を含む海外でも報道され、行き過ぎた自国優先主義を大統領自ら煽るような言動をしたとして物議を醸しました。