「インドネシアの労務・法律」と聞いて思い浮かぶのは頻繁に発生する労働者によるデモ、手厚い権利で労働者を保護する2003年の労働法、産業の高度化を目指し外資の参入意欲を高めるためのオムニバス法による雇用条件の柔軟化などです。
労働法(UU No 13 Tahun 2003 労働に関するインドネシア共和国法律2003年第13号)に外国人労働者の雇用についての規則がありますが、いかにもインドネシアらしいのが外国人は人事業務に就くことを禁じられていることであり、建国五原則パンチャシラの下で民族の多様性を重視するためには、インドネシア人を評価できるのはインドネシア人のみという理念が反映されているのだと思います。
インドネシアの雇用関係は労働法に基づき、労働者が手厚く保護されていると言われてきましたが、オムニバス法によって退職金の減額(現行最大32カ月分⇒ 最大25カ月分)と経営側の裁量による最低賃金の設定(国の実質経済成長率とインフレ率の和 ⇒ 経営側が各州の経済成長率またはインフレ率に沿った最低賃金を設定)という労働法の2大聖域に踏み込む改正が盛り込まれました。
当ブログでは僕と同じようにインドネシアに関わり合いを持って仕事をする人が、日常生活やビジネスの現場で出会うさまざまな事象のコンテキスト(背景)の理解の一助となるような労務や法律についての記事を書いています。
労働法により手厚く保護される労働者の権利
インドネシア各州の最低賃金(Upah Minimum Provinsi)は、インフレ率やGDP上昇率を加味して決定されますが、毎年のように発生する労働団体による激しい賃上げデモの影響で、製造業を中心とした国内企業は企業活動に支障をきたしています。
インドネシアを含む東南アジアの格差社会には、昔ながらの労働階級とブルジョアジー間の階級闘争色が強いのは、企業はオーナー同族経営が多いため「会社の利益=収奪」のイメージが強く、シンプルに二元論化されやすいからだと思います。
本来、会社の利益は資本家(投資家)のものであり、投資家に還元されない分は再投資にまわされるか、労働者の待遇アップに使われるかして、世の中に還元されていきますが、利益剰余金として内部留保(配当金には利益準備金として別管理)されると、お金が市中で流通しなくなり日本のようにデフレになります。 インドネシアの格差社会と資本論 【労働者と経営者と資本家の関係】 会社の利益は資本家のものであり、資本家に還元されない分は再投資または労働者の賃上げにより世の中に還元されていきますが、インドネシアの労働争議で階級闘争色が強いのは、同族経営が多いため「会社の利益=収奪」のイメージが強くシンプルに二元論化されるからです。 続きを見る
インドネシアの労働法の適用範囲と雇用関係を終了させるプロセス
雇用関係を終了させるプロセス
- 雇用関係の終了(解雇)時に支払うべきは退職手当(uang pesangon)勤続功労金(uang penghargaan masa kerja)受け取るべき権利喪失の保障(uang penggantian hak yang seharusnya diterima)。
- 労働法(UU No 13 Tahun 2003)に州または県/市地域の最低賃金を下回ってはいけないという規定があるが、需給関係から最低賃金以下でも働きたいという労働者もいるので必ずしも守られるとは限らない。
- 労働法の適用主体は賃金を支給して労働者を雇用する事業体であり、たまたま法人(Badan Hukum)であれば会社だが、個人間雇用契約、個人事業主との契約にも適用される。
- 雇用主側から最低賃金以下でこき使われたあげくクビを切られると、次の仕事を探すための時間とコスト分の損失を被るため、労働者側は労働組合を作り労使紛争(ストライキ)で対抗。
- 10人以上の労働者を雇用する経営者はいずれも、就業規則(PP=Peraturan Perusahaan)を作成し、ジャカルタに7箇所ある最寄の労働移住省(Dinas Tenaga Kerja dan Transmigrasi)、通称DISNAKERに提出して承認を得る必要があるが、経営者と労働組合との間で労働協約(PKB=Perjanjian Kerja Bersama)がある場合には就業規則は必要ない。
- 解雇(PHK=Pemutusan Hubungan Kerja)された労働者が、不当解雇だとして雇用者をDISNAKERに訴え出た際の争点となるのが、この就業規則や労働協約の解釈の仕方の相違。
【PHK(Pemutusan Hubungan Kerja 解雇)の条件】
- 警告書(Surat Peringatan)をSP1⇒SP2⇒SP3と3回食らうと解雇
- 就業規則(PP=Peraturan Perusahaan)への重大な違反の場合はいきなりSP3を通告
- 試用期間3ヶ月内に能力不適格として解雇。一度雇用契約を結んでしまうと労働者の権利が強くなる代わりに、雇用者側に3ヶ月間の猶予として見極め期間が与えられる。
【インドネシアは労働者の権利が手厚く保護されていると言われる場合の最大の理由が退職金制度。】
- 1年未満:退職手当1ヶ月分
- 1年~2年未満:退職手当2ヶ月分
- 2年~3年未満:退職手当3ヶ月分
- 3年~4年未満:退職手当4ヶ月分+勤続功労金2ヶ月分
- 6年~7年未満:退職手当7ヶ月分+勤続功労金3ヶ月分
- 8年~9年未満:退職手当9ヶ月分+勤続功労金4ヶ月分
労働法(最低賃金・解雇・退職金)の適用範囲と就業規則
労働法を遵守すべき主体は「 法人の形態を取る取らないに係わらず、個人、パートナーシップまたは法人が所有する事業体であり、私企業・公営企業の別なく、賃金または別の形態の報酬を支給して労働者を雇用するあらゆる事業体(一般規定)」側にいる雇用主(Employer=Pemberi Kerja)であり、「個人、経営者、法人または他の形態の者で、賃金または他の形態の報酬を支払って、労働力を雇用する者」を指します。
事業主が労働者を雇用する際の条件となるものが就業規則(PP=Peraturan Perusahaan)であり、「10人以上の労働者を雇用する経営者はいずれも、就業規則を作成する義務を負い、最寄の労働移住省(Disnaker=Dinas Tenaga Kerja dan Transmigrasi)に提出し承認を得る必要がありますが、経営者と労働組合との間で別途労働協約(PKB=Perjanjian Kerja Bersama)がある場合には就業規則は必要ありません。
解雇(PHK=Pemutusan Hubungan Kerja)された労働者が、不当解雇だとして雇用者をDISNAKERに訴え出た際の争点となるのが、この就業規則や労働協約の解釈の仕方の相違になります。
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インドネシアの労働法の適用範囲と雇用関係を終了させるプロセス
インドネシアの労働者は労働法によって手厚く保護されているとはよく言われる理由は、勤続年数によって大きく膨らむ退職金や会社都合での解雇の難しさにあります。
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労働法の外国人就労規則
外国人就業の前提条件に技術力(専門知識)を有しインドネシア人に移転すべきものであると明記されているということは、インドネシアに恒久的施設PE(Permanent Establishment)として事業所を構える以上、そこでは納税の義務とインドネシア人への技術移転の義務が発生すると言えるわけです。
自分で仕事をしないことは自分で仕事をすることよりも大変で、自分の刀を抜く(自分で仕事をする)のは後でその何倍もの仕事をしてもらうためにやるということです。
【労働法の外国人就業規則】
- 外国人就業の前提条件に技術力(専門知識)を有しインドネシア人に移転すべきものであると明記されているということは、インドネシアに恒久的施設PE(Permanent Establishment)として事業所を構える以上、そこでは納税の義務とインドネシア人への技術移転の義務が発生する。PEは事業を行う一定の場所等でありPEの有無は企業が海外で事業を行う際に、その活動から生じる所得が進出国の税務当局の課税権に服するか否かを決定する重要な指標となる。
- インドネシアで6ヶ月以上就労する外国人に対してBPJS-Kesehatan(健康BPJS - 医療保障(JK))とBPJS-Ketenagakerjaan(労働BPJS - 労働災害補償(JKK)/ 死亡補償(JKM) / 老齢保障(JHT))への加入義務が課される。固定賃金の5%、固定賃金の上限が7jutaなので最高で7jutax5%=35万ルピアの負担
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インドネシアの外国人就業規則から考える日系サービス業のビジネスモデル
インドネシアに恒久的施設PE(Permanent Establishment)として事業所を構える以上、そこでは納税の義務とインドネシア人への技術移転の義務が発生します。
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裁判所への刑事訴訟(acara pidana)と民事訴訟(acara perdata)
警察への被害者による刑事告訴(pengaduan kriminal)または第三者による刑事告発(pelaporan kriminal)とは、被害者が刑事処分を求めて警察に申告することです。
裁判所(pengadilan)への民事訴訟(acara perdata)は損害賠償金の支払いを求めて弁護士(pengacara)を通じて裁判所に民事裁判の申し立てを行う行為で、刑事訴訟(acara pidana)は国家を代理した検察官(kejaksaan)が行います。
Pencemaran Nama Baik(名誉毀損)として告訴されると、警察からSurat Perintah Dimulai Penyidikan(捜査令状 SPDP)が届くようです。
インドネシアの法律は民法(Hukum Perdata)と刑法(Hukum Pidana)とに分かれているが、KPK(Komisi Pemberantasan Korupsi)は独立機関(Lembaga Independen)であり、立法・行政・司法の機関が関与すると疑われる疑惑については、本来検察(Kejaksaan)が行う捜査・起訴(裁判にかけること)をKPK独自で実行する権限があります。
ちなみに刑事訴訟と民事訴訟は当事者が違います。
- 被害者が警察に刑事告訴、または第三者が刑事告発する。
- 警察が捜査して容疑者(被疑者)を逮捕し、留置所に入れる。
- 48時間以内に検察に送検され拘置所に入れる。書類送検の場合は容疑者は自宅に帰される。
- 立件とは、検察官が「刑事事件において検察官が起訴する(公訴を提起する)に足る要件が具備していると判断して、事案に対応する措置をとること」
- 起訴は検察が原告となって刑事訴訟を起こすための手続き 起訴されてはじめて被疑者は被告人となる。提訴とは関係当事者が裁判所に民事訴訟を起こすこと。
- 控訴は第一審の判決に対して不服がある場合にとる手続で、上告とは控訴審(第二審)に対してするものです。
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インドネシアでのオンライン上での名誉毀損の事案
インドネシアではSNSの普及により選挙や政治活動において相手を貶めることを目的とした偽情報の流布が行われるようになったことで、オンライン上での名誉毀損に関する告訴のニュースを目にするようになりました。
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インドネシアで汚職事件に対するKPK(汚職撲滅委員会)の位置づけ
KPKはメガワティ政権時に発足した組織であり、国家の歳入を借款や海外援助ではなく税収で賄う健全な国家財政基盤を築く上で大きく貢献してきました。
インドネシアはKorupsi(汚職)とKolusi(談合)とNepotisme(縁故主義)を合わせてKKNと略しますが、本来の意味は Kuliah Kerja Nyata(学生インターン仕事)だということを忘れてしまうほど汚職のニュースが多いわけですが、それを撲滅すべく監視しているKPKも調査能力の低下や、インドネシア国家警察 Polri(Kepolisian Republik Indonesia)との汚職捜査の行使権争いで評判が落ち、2019年10月の改正汚職撲滅法でその権限が縮小されています。 インドネシアで汚職事件に対するKPK(汚職撲滅委員会)の位置づけ インドネシアの法律は刑法(Hukum Pidana)と民法(Hukum Perdata)に分かれていますが、KPKは独立機関(Lembaga Independen)であり、立法・行政・司法の機関が関与すると疑われる疑惑については、本来検察(Kejaksaan)が行う捜査・起訴(裁判にかけること)をKPK独自で実行する権限があります。 続きを見る
国民協議会MPRから国民議会DPRへの立法権の移行
インドネシアでは1998年にスハルト大統領が退陣した後、2001年から2002年のメガワティ政権時に三権分立のうちの立法権が国民協議会MPRから国民議会DPRに移され、これにより国家の権威の最高機関は事実上DPRとなりました。
三権分立が確立した実行主体の最高権力
- 行政:大統領
- 司法:最高裁判所MA(Mahkamah Agung)
- 立法:国民議会DPR
ユドヨノ大統領時代の大統領直接選挙で本格的な民主主義がはじまり、ジョコウィ大統領で完全な民主主義国家の仲間入りしました。 インドネシアの国民協議会MPRから国民議会DPRへの立法権の移行 三権分立のうちの立法権がMPR(Madjelis Permusjawaratan Rakyat)からDPR(Dewan Perwakilan Rakyat)に移ったのはメガワティ政権時であり、ニュースでMPRという言葉自体を聞く機会が減りました。 続きを見る