VPS化とクラウド化で必要になる技術

2014/12/12

インドネシア中央銀行ビル

2023年現在、インドネシアの日系企業でもサービス、システム開発、ファイル共有などをクラウド環境で運用する事例が増えていますが、物理的リソースをソフトウェアで分割統合する仮想化という大きな技術革新がもたらしたコスト削減なくして、ここまで普及することはなかったと思います。

ASPからクラウドへ

2014年現在、インドネシアでもクラウドという言葉を聞くようになって久しいですが、最大の要因はネットワークインフラ環境が加速度的に改善されたことだと思います。

90年台後半にダイアルアップ接続によるインターネットが普及をはじめた頃は、WEBの利用と言えば情報収集のためのWEBサイト閲覧が大半でしたが、WEBの利用が社外から社内イントラネットに普及し、グループウェア等を中心とした社内WEBシステムを構築する動きは、IT環境が日本に比べてはるかに遅れているジャカルタですら比較的早かったと思います。

今考えるとWEB上でアプリを利用するという流れはこのあたりから始まったように思いますが、ここまでは社内LAN内の世界の話であり、当時ですらCAT5の100MBpsのLANケーブルは普及していましたから、社内でWEBアプリを構築するための垣根は意外と低かった訳です。

ちなみに自分の場合もジャカルタで最初にやった仕事がASP(Active Server Pages)による工場の基幹システムデータのBI化(Business Intelligence)でした。

そして2000年前半になるとついにASP(Application Service Provider)というサーバーサイドで準備されたアプリケーションサービスを提供するビジネスが生まれ、いわば「分散化から集中化」という先祖帰りが起きはじめます。

日本の会社で働いていた頃には「これからは分散化の時代だね」などとまことしやかに言われておりましたから「なんでまた集中化なの?」という風に当時は随分と違和感を感じたもんですが、結局ネットワークインフラの壁に阻まれASPは普及しませんでした。

さらに数年後にはASPの次なる波であるSaaS(Software as a Service)がやってきますが、それでもネットワークインフラの壁はまだまだ高く、ASPよりも普及したとはいえVPN(Virtual Private Network)等を使ったプライベートネットワーク域内での普及に留まったように思います。

ASPやSaaSとクラウドはエンドユーザー側からすると違いを意識することもなく、要はインターネットやVPNを介してアプリケーションサービス、開発環境、インフラ環境などを利用するということです。これがサービス提供側からすると仮想化という大きな技術革新によって価格破壊を実現したものがクラウドの大きな特徴になります。

2011年のタイの洪水や東日本大震災で企業の情報資産をデータセンター等の運用するという流れが一気に加速したと思いますが、仮想化技術の発達によりVPS(Virtual Private Server)サービスが普及し、低コストで安全にサーバーの運用が行えるようになりました。

で、ここまで時系列的に世の中の趨勢を列挙して何を言いたかったかと言いますと、これからのご時勢、SI(System Integration)という仕事にはどんな技術知識が重要になっていくのかということ。

自分はこれまでSIの仕事をざっくり大雑把にインフラ系(ハード)と業務系(ソフト)と分けていましたが、それぞれの中身が変わっていくということだと思います。

例えばインフラ系であれば、ファイルサーバーやアプリケーションサーバーを自社内に構築するというよりも、VPSを使って外部の仮想サーバー運用するための環境設定の知識が重要になります。

業務系であれば世の中はクラウド化でエンドユーザーにとっては上げ膳据え膳、より便利になっていくわけなんですが、クラウド化しても変わらない技術、置き換えの効かない技術というのは結局必要になってくるわけです。

それが業務アプリに対する知識、WEBフレームワーク・プラットフォーム上での開発技術、そして基幹システムに蓄積されたデータを使ってBI化するためのアダプターやインターフェイスを開発するフロントエンドの知識なんだと思います。

業務のボリュームに合ったシステム

インドネシアで業務システム導入の仕事をやっていると、お客さんに対して技術面から言えば「このシステムは御社にとっては機能が多すぎてもてあましはしないですかね」と心の中で心配してはいても、営業面を考慮すると「今後の事業規模拡大を見越してカッチリしたシステムを導入しておいたほうがいいですよ」と推奨せざるを得ないジレンマにたびたび陥ります。

販売予測や内示情報から生産計画・調達計画を作成でき、単なる管理ツールの枠にとどまらず、事業戦略作成上の材料となるKPI資料(Key Performance Indicators 組織の目標達成の度合いを定義する補助となる計量基準)を作成できる、高機能で高価なシステムには、実は見えないところに以下の使用注意書きが添付されています。

  1. システムのコアとなるマスタは正確に入力してください。
  2. 実績は正確にタイムリーに入力してください。
  3. システムを運用するスタッフは、十分意識も技量も高い人を選定してください。
  4. このシステムにより生じた損害・逸失利益に関して、当社は一切責任を負いません。

これらの条件を満たしてはじめてシステムの効果が存分に発揮されるのですが、Upah Minimum Kabupaten (UMK 最低賃金)が高騰し、間接部門の人件費削減が重要課題となっているインドネシアの日系製造業で、IT選任担当者を置くほど余裕のある工場は少なく、高機能なシステムを導入したものの使いこなすことができず非常にコスパが悪い。。。

個人で車を買うときには、収入に見合った車はホンダCR-VではなくトヨタAvanzaである、という判断できるのに、企業としていざシステムを導入するときには、何故かフェラーリを買ってしまい、そのへんのプルタミナのPom bensin(ガソリンスタンド)でオクタン価88のPremiumガソリンを入れて、V型12気筒エンジンがパーということが起こりえます。

システム導入を安く済ませコスパを上げる

お客側では豊富な業務知識・経験を元にこんなシステムを構築したい、という思いはあっても、それをシステムという形に表現するにはSI費用 or ライセンス費用、プラス導入支援費用がかかります。

  1. スクラッチ開発
  2. オープンソースをカスタマイズ
  3. パッケージ
  4. SaaS(クラウド)型
  5. PaaS(Platform as a Service)で自動生成

SI業者による業務システムのサービス提供の形はなんであれ、お客がコスパを重視する以上、基本機能のみ短期間で導入し不足する機能は必要に応じてアドオンすることにより、人月費用のかかる開発期間を短縮してコストを下げるという提案をすることになります。

PaaSによる開発工数削減

SaaS(Software as a service)もPaaS(Platform as a service)もクラウドサービスの形態の違いであり、一言でいうとシステムをインターネット上で使うか、開発して使うかの違いです。

SaaSの場合、業務システム自体は既にサービス提供会社にて開発済みのクラウド専用システムであり、自社でライセンスを購入したWEBベースの会計システムを、データセンター上に置いてVPN接続によりプライベートクラウドとして利用するというのはSaaSには該当しません。

インドネシアでも、近年のインターネット通信速度向上により、会計、給与計算、人事管理等のSaaSサービスを「クラウド型業務システム」として提供している会社が出てきており、ライセンス一括購入、社内にサーバーを置いて管理するオンプレミス型から、クラウド型への流れは益々進んでいくと思いますが、やはりポイントはソフトウェア使用料をどれだけ低く設定できるかになると思います。

自分はインドネシアの日系企業はシステム投資をコスパの観点からもっとシビアに考える時代が数年以内に来ると思っているので、将来「昔はン千万円クラスのシステムを一括導入していた時代もあったなあ」と回顧することになるかもしれません。

一方でPaaSでは、サービス提供会社が開発した業務システムでは自社の業務形態に合わないので、独自に開発したいが開発期間を短縮してコストは抑えたい場合に利用される、はずなのですが業務システムPaaSサービスでこのレベルをクリアできるものは、今現在少ないと思います。

Salesforceやサイボウズが提供する開発プラットフォームは、現在のところ主にCRMなどの対顧客Webサービスの開発が対象ですが、PaaS化の流れは業務システムのような更新系システムの分野にも、近い将来広まってくると思います。