インドネシアローカル市場向け事業で重要な横の繋がり

2020/02/20

ジャカルタのスディルマン通り

インドネシア進出よりも事業継続が難しい理由は、日本のブランド力の優位性の低下や市場拡大を阻害する価格問題であり、ローカル市場向け事業に人脈が重要であるとすれば、趣味やボランティア活動などの本業以外の集まりの場で自分の付加価値をアピールするのは効果的です。

ブランドの問題(日本ブランド力の相対的な低下)

先日客先である製造業のインドネシア人統括マネージャーからこんなことを言われました。

インドネシアの取引先は1週間納期の約束で1か月後に入荷で頭痛い、日本の取引先は3週間納期の約束で1週間後には入荷するので安心、韓国の取引先は1週間納期の約束で「おおよそ」1週間後に入荷するので仕事がやりやすいと言われ、安心感よりスピード感が重視される時代の流れを感じた。

これは日本企業のサービスが低下しているということではなく、日本企業が旧態依然で変化しない一方で、韓国企業がスピード重視して世の中に合わせてきたということなんでしょう。

2020年2月現在、実際にここ20年で日本人のインドネシアでの立ち位置は「アジアの先進国から来た技術と機会を与えてくれるありがたい存在」という尊敬の対象から「若干落ち目の旧経済大国から商売の機会を探しに来たライバル」という警戒の対象に変わりました。

これも日本人の質が落ちたというわけではなく、インドネシアや韓国、中国などライバル国の経済、文化的地位が上がり、日本の相対的な地位が下がっているということです。

日本人が過去の栄光にすがって東南アジアで日本ブランドで勝負してもそっぽをむかれるだの、東南アジアからの旅行者が日本を旅行する最大の理由は物価が安いからであって魅力的な国であるからではないだの、日本と東南アジアの逆転現象を示唆するような刺激的なニュースまで出るようになりました。

先日のアカデミー賞で韓国のポンジュノ監督が映画「パラサイト 半地下の家族」で作品賞を受賞しインドネシアでも大きな話題となり、海外ポップアーティストはBTSが大人気で、ショッピングモールでも韓国焼肉やチーズフォンデュが若者の胃袋を鷲掴みにしているし、本当に「日本頑張れ」と言いたくなります(お前もな)。

Youtubeで「インドネシア人に聞く日本人の印象」みたいなチャンネルを見て、規律が取れている、技術が先進的、男がハンサムで女は美人、などインドネシア人の優しさからくる社交辞令が並んでいたのがせめてもの慰めでした。

価格の問題(進出より継続が難しい)

ひと昔前はインドネシアで事業を起こすのは簡単で、日本で事業を起こすのに比べたらゆるふわなので、インドネシアで成功しない人間はどこに行っても成功しない、とまで言われました。

インドネシアへの進出をサポートするコンサル会社は既にたくさんありますので、インドネシアに全く知見のない企業または個人がインドネシアで事業を開始するのは比較的簡単ですが、進出コンサルは「進出まで」が仕事であり、実際に大変なのはその後の「継続」(または実行支援)です。

インドネシア進出後に市場規模の拡大に悩んで(なぜうちよりしょぼいローカル製品が売れてるの?)と疑問に思うようになり、それでも変にやり方を変えて失敗すると本社に責められるので今まで通りのやり方を維持し、必然的に撤退に至るというのは悲しい話。

ジョコウィ政権が2020年今年中に制定を目指している「雇用創出に関するオムニバス法(複数の法案をセットにしたもの)」には、外国投資の足かせの一つである労働者優位の労働法の改正が盛り込まれており、現行労働法で守られている労働者の権利を死守しようとする労働団体との軋轢が生まれています。

また税法改正により法人税を現行25%から20%まで引き下げ、PPN報告遅れの罰金を2%(年利24%)から1%へ引き下げるなど、進出ではなく事業継続にとっての規制緩和が進んでいます。

つまり法規制面では、現在はむしろ企業側にとっての追い風が吹いているのであり、新規事業を継続していくにあたり問題となるのはローカル企業との競争という営業面での問題です。

消耗品や食べ物など資産性のないものは、まずは価格が安くないとインドネシアでは厳しいのかなと思います。品質は二の次、そこそこで十分だからとにかく安く、みたいな。逆に資産性のあるものは再販価格を気にするから一定のブランドが重要になるのかなと。

昔バリ島のデンパサールのモールでブティックを開いてたとき、対面にあるローカルブティックに価格の品揃えも負けて、客で賑わうライバルを横目に悔しい思いをしていたのですが、うちのブティックで「在庫一掃セール」と称してジーンズ3着を5万ルピアで叩き売るという反撃(というか暴挙)に出たことで、客の流れが一機に変わり、ライバル店の従業員までうちの行列に並ぶ始末でした。

インドネシア人は消耗品に関してはいちいち品質を確認しないので、最も手っ取り早く効果的な集客方法はシンプルに「値引き」です。

現在でも日本企業は資産性のある四輪二輪、工業用機械などの分野では、インドネシア市場で一定のプレゼンスを保っていますが、消費財やソフトコンテンツなど、スタートアップが得意とするであろう商材に関しては、品質とローカル需要のギャップによる価格競争力の弱さが原因で苦戦するケースがほとんどかと思います。

ジャカルタのパンチョラン

インドネシア市場で安売り競争を回避するためのランチェスター戦略

インドネシア市場の難しさはコストであり、先駆者は後発の大資本の安売り戦略に駆逐されるので、ターゲットとなる分野と顧客層を限定して(局地戦)、生産能力を極限まで向上させ(武器効率)、安易な多角化はせずに愚直に得意分野を攻め続ける(局所優勢)のが有効だと考えます。

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人脈の問題(同業種異業種問わず横の繋がりを意識する)

インドネシアで事業を行う以上、巨大なインドネシアローカル市場を目指すというのは誰もが持つロマンだと思うのですが、これまで錦の旗のごとく掲げていた日本ブランドの効力が縮小し、ローカル企業との価格競争に巻き込まることが避けられない今こそ、事業を持続的に成長させていくためには、ジャパニーズビジネスマンとしての真価が問われているとも言えるのかもしれません。

そしてインドネシア人、特に中華系インドネシア人はローカル市場への事業展開において、ブランド力でもなく価格でもない、第三の要素である人脈(コネ)がいかに重要かを説きます。

「インドネシアでの事業はコネだよ」とインドネシア人にテンプレの如く言われるたびに(冗談じゃない、コネなしで上手くいくことを自分が証明してやるわ)と思いながらも、結果のないまま何年も経ってしまったのでやはりコネなのかなと思い始めています😅。

蛇の道は蛇、インドネシア市場にはインドネシア人をというのは十分理解できる話ではありますが、インドネシアローカル市場向けの事業には人脈が重要だと言われても、人脈を作るのってそんな簡単な話ではないですよね?

営利目的で地位や名誉あるインドネシア人に近づいても相手にされるわけないので、まずは相手に対して自分が付き合うに値する付加価値を持っていることをアピール(営業)する必要があり、それ以前に自分自身に付加価値がないとお話にならないわけであり、これこそが事業を始める前に手を付けるべきことかと思います。

自分の付加価値をインドネシア人事業家にアピール出来る場として、JETROや東京都中小企業振興公社(Tokyo SME)主催のビジネスマッチングや展示会などのイベントがありますが、僕の経験上インドネシア人事業家が集まりそうな趣味の団体に加入して、一緒に趣味に没頭するのが人脈作りに繋がりやすいです。

日本人社会でもそうですが、オフィスよりも酒の席のほうが相手の話を引き出し易かったり、たばこ部屋での一服中に重要な事案が決定されたりするのと同様に、業務時間外の警戒心が緩んだ状態の時のほうが相手の懐に入りやすい。

うちの嫁はんが所属していた写真愛好家の集まりがそうでしたが、カメラと周辺機材にはお金がかかるので、必然的にある程度の裕福な人たちが多く、TVプロデューサー、警察署長、女歯科医など、嫁はんの送り迎え役である自分も随分食事を奢ってもらったものですw

自転車、車、アイドル、ゲーム、ペット・・・なんでもいいので、国籍や地位や名誉に関係なく誰もが夢中になれる趣味の集まりには、必ず本業に関わり合いのある人と知り合う機会があります。

冗談のようで本気の話なんですが、ローカル市場向け事業に人脈が重要であるとすれば、正攻法の営業活動以外に、本業以外の趣味やボランティア活動などの得意分野の集まりの場で自分の付加価値をアピールできる繋がりを探すのが手っ取り早いと考えます。

一言で言えばこれは同業者間、異業種間を問わず横の広がりを大切にするということであって、仕事が入る経路をより多く確保するために、オンライン、オフライン両方で常に自分の存在感をアピールしておくことが重要だということです。

そして一番重要なことは仕事抜きで趣味を楽しみ没頭し極めること。人脈捜しなどという営利目的の行為は必ず相手にバレますし、何より趣味が楽しめなくなるという悪循環に陥ります。