日本のような消費者の財布の紐が硬いデフレ経済では、仕入コストを下げていかにマージンを多く乗せるかという守りの発想になりますが、インドネシアのような将来モノの値段が上がることを前提としたインフレ経済下では借金してでも安い今のうちに投資しておくという攻めの発想になります。 インドネシアのビジネス インドネシア市場でのビジネスで重要な要素は価格とブランド、コネの3つと言われますが、必ずしもこれらを持ち合わせない日本人はどのように戦えばよいのか。これはインドネシアに関わり合いを持って仕事をする人にとっての共通の問題意識かと思います。 続きを見る
インフレと金利の相関関係
インドネシアは世界でも定期預金(Deposit)の利率が高い国として知られていますが、近年(2021年)はGDP成長率とインフレ率ともに5%前後を推移し、2020年度もコロナ禍の影響で観光収入比率が高い隣国タイがマイナス成長する中でもプラス成長をキープする見込みであることから、ルピアの対ドルと対円レートは安定し、定期預金金利も3%を下回る低水準を保っています。
僕がインドネシアに来たのは1997年10月で、当時は多くの企業が金利の安い海外から外貨で借金して、金利の高い国内で投資を行うことで事業収益と金利収益を上げていましたが、アジア通貨危機をきっかけとした金融危機(Krisis Moneter 略してクリスモン)で、中央銀行による通貨防衛のための為替介入によって外貨準備が底をつき、ルピアの信用が崩壊寸前までいき、債務不履行に陥った企業倒産が相次ぎました。
ルピア安に伴う原油輸入価格上昇が国内物価を直撃し、タクシーに乗るたびに初乗り料金が上がっていく感覚すらありましたが、1か月定期預金の金利が20%とか30%とか冗談のような利子がつき、初めて通帳に印字された利子の金額を確認したときに、インドネシアで生活する上で金利を意識することがいかに重要かを認識しました。
2021年5月現在のBCA銀行の定期預金金利2.85%という低水準にあるのは(日本と比較すると高金利ですが)、為替が安定しているからこそ預金者は為替差損のリスクを考慮しなくても済む分、銀行が提示されるレートも低くなるという安心感の裏返しなわけです。
インドネシア人は金利と為替に対する意識が高い
このようにインドネシアで生活すると日常生活の中で為替とか金利を意識する場面が日本に比べて圧倒的に多いのですが、インドネシア人は車やスマホなどの資産を中古市場で売買する経験を持っていることからも、子供の頃から為替や金利について考える癖(教養)が身についているのではないかと感じるときすらあります。
2000年代前半はインフレ率が10%を超える年もあり、デノミネーション(おそらく1,000分の1への切り下げ)の議論が出ては消えてを繰り返していましたが、当時は日本人の間からもインドネシアがジンバブエのようなハイパーインフレになって経済が混乱するのではないかという不安の声が聞こえました。
しかし今思うと、当のインドネシア人達はインフレ時に金利が上がる相関関係を利用した裁定取引(モノの一時的な価格差が生じた際に割高なほうを売り割安なほうを買い、両者の価格差が縮小した時点でそれぞれの反対売買を行うことで利益を獲得する取引)で儲けてやろうというピンチをチャンスと捉えるプラス思考の人が多かったのかもしれません。
以前、前年度末に円建て支払い額のルピア転額が確定した後に、新年早々にルピア口座から円転して日本に送金したところ、円がルピアに対して急上昇した最悪のタイミングに当たってしまい、為替損で利益が吹っ飛びマイナスになったことがあり、あのときもインドネシア人なら絶対やらかさないミスだなあと思ったものでした。
利鞘で稼ぐか金利で稼ぐかの違い
おそらく自分が日本で商売をしていたら、いかに仕入コストを下げてマージンを大きく乗せて売ることでより大きな利鞘を稼ぐという発想しかなかったと思うのですが、これは消費者の財布の紐が硬いデフレ経済では、コスト削減による「守りの経営」をするということになります。
一方でインドネシアのようなインフレ市場での商売では、将来モノの値段が上がることを前提として、今のうちに買っておこう、投資しておこうという、金利の安い今のうちに借金してでも投資して売上を伸ばそうという「攻めの経営」といえると思うのです。
ただしインドネシアの場合には、インフレによって下がったルピアの価値と為替差損を補うものが銀行の預金金利と単純化して考えることができるとはいえ、物価と為替と金利以外にも法改正や汚職など企業モラルの低下、社会不安といった予測しにくい不安定要素もあるところがビジネスを難しくしています。