インドネシア製造業へのコロナ影響と再入国状況

2020/07/06

ジャカルタ

2020年から2021年にかけて、インドネシアの新型コロナウイルス感染拡大が製造業に与える影響は、ベトナム、タイ、インドと比較してどの程度なのでしょうか。各国とも二輪四輪産業が受ける影響は大きいですが、新しい生活様式に対応したライフスタイルの変化がもたらす特需にも期待が寄せられています。

インドネシアの政治・経済・社会の成長構造と戦略を示す図解

インドネシアはなぜ発展するのか?政治・経済・社会を支える構造と成長戦略

スカルノ大統領時代は共産主義政策が推進され、西側諸国からの投資が減少しました。スハルト大統領は西側諸国との関係を強化し、工業化を進めましたが、石油依存から脱却できませんでした。1998年のアジア通貨危機後、インドネシアは民主主義国家と…

続きを見る

この記事でわかること

  • インドネシア駐在員の再入国時期は2020年7~9月が42%で最多です。
  • インドネシア製造業では2020年4月に生産量が前年比8割減少しました。
  • インドネシアの新車販売台数は2020年4月に9割減少しました。
  • インドネシアでは2020年7月5日時点で累計感染者数64,958名です。
  • インドネシアの製造業はデジタル技術導入を進めています。

全体像が見えにくいインドネシア駐在員の一時帰国と再入国予定の状況

インドネシア駐在員のSNSや個人ブログなどを確認すると、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、帯同家族だけが一時帰国するケースや、駐在員本人も後追いで一時帰国するケース、インドネシアに残留するケースなど、さまざまな状況が見られました。全体像としては以下のような状況です。

ジェトロのアンケート結果(362社)に基づく駐在員のインドネシア再入国時期は以下の通りです。

  1. 2020年6月:23%
  2. 2020年7~9月:42%
  3. 2020年10月以降:5%
  4. 再入国の予定なし:2%
  5. 未定:31%

意外にも一時帰国から本帰国への切り替えは少ないようです。

ジェトロのアンケート結果に基づくインドネシアへの再入国を決める要因は以下の通りです。

  1. 感染者数増加が沈静化した時期
  2. PSBB解除
  3. インドネシアの入国規制の緩和
  4. 日本の渡航規制の緩和
  5. 医療環境の改善
  6. 業績安定化の見通しが立った時期

これらの要因が揃わないと再入国の時期がずれ込む可能性があります。

全体の50%の企業が駐在員を一時帰国させており、そのうち6割が2020年9月までにインドネシアに再入国を予定しています。しかし、その判断基準として最も重視されるのは「感染者数増加が沈静化した時期」であるため、新規感染者が増え続ける現状からすると、再入国の時期がずれ込むことも考えられます。

「日本の渡航規制の緩和」を指標とする企業がそれほど多くなかったのは意外ですが、外務省から発表される感染症危険情報によると、インドネシアは「レベル3:渡航は止めてください。(渡航中止勧告)」の最大警戒レベルのままです。

コロナ禍の製造業の生産・操業状況

2020年4月、自動車業界では前年比で生産量が8割減、販売が9割減という衝撃的なニュースがありました。製造業全体でも、通常時の5割未満の生産に落ち込んだ企業が50%を超え、特に大企業でその傾向が顕著です。

2020年5月時点の通常比での生産量

  • 3割未満:36%
  • 3割以上5割未満:16%
  • 5割以上8割未満:20%
  • 8割程度:12%
  • 通常どおり:12%

生産量の減少に伴い、40%以上の企業で稼働時間が5割未満となりました。多くの企業が「国内・海外顧客からの注文量留保・減少・キャンセル」を理由に挙げていますが、「海外サプライヤーからの納品遅延・停止」を挙げる企業は少なく、これは意外な点でした。

たまねぎの価格が5倍以上に跳ね上がったことが問題視されましたが、2002年~2003年のSARS時のようなサプライチェーンの停滞による製造ラインの停止は、今回のCovid-19ではそれほど発生しませんでした。

生産・操業縮小への対応として、「在庫調整」や「稼働率の抑制あるいは向上」を挙げる企業が多い一方で、「生産管理・運営管理への投資」や「自動化・省人化への投資」などのIT投資を行う企業もありました。これは製造業システム開発会社にとっては救いです。

また、全体の80%近くの企業が在宅勤務を導入しており、70%以上の企業は労働組合との賃金減額交渉を行っていないことから、日系企業の人を大事にする文化がインドネシアでは残っているのかもしれません。

コロナ禍での製造業の業績

製造業においては、全体の45%以上が5割以上の売上減少を経験しており、大企業ほど売上減の比率が高い状況です。一方で、非製造業では中小企業ほど売上減が大きくなっています。

PSBB施行後(2020年4月~6月)の日系企業全体(非製造業も含む)の前年同月比での売上変化

  • 50%以上減少:37%
  • 20%~50%未満減少:27%
  • 1%~20%未満減少:17%
  • 変化なし:12%

2020年2月末時点のキャッシュが平均月商の何か月分かという質問に対する回答では、6ヶ月以上の超優良企業が17%、3ヶ月以上6ヶ月未満の優良企業が18%、1ヶ月以上3ヶ月未満の平均的な企業が39%、1ヶ月未満の厳しい状況の企業が15%でした。追加的な資金手当てとしては、銀行からの融資が受けにくい中小企業が多く、親会社からの親子ローンが多いようです。

今後の投資戦略への影響については、現地の需要や成長性が期待できる収益拠点として重要な位置づけにあるため、69%の企業が現状維持、12%の企業が拡張を考えており、縮小を検討している企業は15%に留まっています。

累計感染者数わずか355名(回復者340名)、死者0名、4月17日以降の新規感染は海外からの帰国者のみで市中感染0名のベトナム。累計感染者数3,190名(回復者3,071名)、死者58名、6月の感染者数ほぼ1桁台継続中のタイ。6月のPSBB緩和と7月のロックダウン緩和で、感染者が絶賛増加中のインドネシアとインド。

ベトナム - 日系企業数1,848社うち868社が製造業(2019年7月時点)

2020年7月5日までの累計感染者数は355名(回復者340名)で、死者は0名でした。4月17日以降の新規感染は海外からの帰国者のみで、市中感染者数は0人です。これは、3月22日に外国人の入国を停止し、4月1日から社会隔離措置を実施したベトナム政府の迅速な感染防止措置の成果です。徹底した水際対策、情報開示、感染者が出た場合の追跡、検査、隔離、治療が行われました。

2020年1月から5月の新車販売台数は前年同期比34.5%減の8万3千台で、自動車生産台数は41.6%減の7万4千台と落ち込みました。一方、スマホやサーバー用製品、パソコンやスマートフォン用部品の需要が増加した結果、第1四半期(1~3月)の電子・電機の生産は前年同期比14.3%成長しました。しかし、GDP成長率は第1四半期で3.82%増にとどまり、リーマンショック以来、過去10年で最低の水準となりました。

タイ - 日系企業数5,444社うち2,346社が製造業(2017年5月時点)

2020年7月5日までの累計感染者数は3,190名(回復者3,071名)、死亡者数は58名でした。3月26日に非常事態宣言が発令され、外国人の入国は原則停止され、夜間外出禁止措置が実施されました。その結果、6月の感染者数はほぼ1桁台で推移し、6月15日に夜間外出禁止が解除されました。

2020年5月のタイの新車販売台数は前年同月比54%減の4万418台で、4月の自動車生産台数は前年同月比83.6%減の2万4,711台と大幅に落ち込みました。一方で、コンピューター部品やHDD、電気制御盤などの電子・電機の生産はベトナムと同様に堅調です。しかし、2020年第1四半期のタイGDPはマイナス1.8%で、6年ぶりのマイナス成長となりました。

インドネシア - 日系企業数1,489社うち871社が製造業(2019年11月時点)

2020年7月5日までの累計感染者数は64,958名で、回復者は29,919名、死亡者数は3,241名でした。1日当たりの新規感染者数は1000名から1500名で増加傾向にありました。4月2日には外国人の入国が原則停止され(KITAS保有者を除く)、4月10日から大規模社会制限(PSBB)が継続されましたが、6月から段階的に解除されています。

2020年4月の新車販売台数は9割減少し、生産台数も8割減少しました。2020年の年間自動車出荷台数目標は108万台から60万台に引き下げられる厳しい状況です。しかし、Making Indonesia 4.0に合わせて、生産管理や運営管理におけるデジタル技術の導入、自動化・省人化のための設備・システムの導入への投資を継続する企業もあります。

インド - 日系企業数1,441社うち720社が製造業(2018年10月時点)

2020年7月5日までの累計感染者数は697,000名(回復者424,000名)、死亡者数は19,693名で、7月1日からのロックダウン緩和に伴い感染者が急増しています。この影響で、日系企業駐在員の8割が日本に一時帰国しました。

2020年4月の新車販売実績はゼロで、自動車産業の稼働率はコロナ前の10%程度に低下しています。もともと自動車産業は不調で、2019年度の乗用車販売は前年度比17.9%減の277万台でした。金融機関の貸し渋りや自賠責保険料の引き上げ、2020年4月の新環境規制(BS6)を見込んだ買い控え、さらにロックダウンが影響しました。

ロックダウンの影響で、2020年4月~5月の失業率は23%台に上昇し、実質GDP成長率予測は-4.3%です。しかし、電子機器市場は好調で、年平均成長率26.7%を記録しています。電子機器の約90%を輸入に依存しているため、輸入依存からの脱却を急いでいます。