インドネシアにおけるAmazonやNetflixなど海外EC事業者への課税強化

2020/05/16

ジャカルタのビル群

インドネシアでサービスを展開する海外EC事業者は、支払いがアメリカのサーバーを通してアメリカ法人になされるために、インドネシアで付加価値税(PPN)を支払っていないと指摘されており、インドネシア国内で売上を計上する以上、その会社は恒久的法人(BUT=Bentuk Usaha Tetap)であり、課税事業主(PKP)として納税の義務が発生することになります。

日本の消費税とインドネシアの付加価値税PPN

日本の消費税は消費時の付加価値の移転に伴う税という意味合いで、消費者側が負担し店側に徴収と納税義務のある税であり、インドネシアの付加価値税はサプライチェーン上での付加価値の移転に伴う税という意味合いで、サプライチェーン上の企業に徴収と納税義務がありますが、最終消費者が11%を負担するという点では同じです。

Wisma BNI46

インドネシアのサプライチェーンの中で付加価値税PPNと所得税PPhを負担する主体

サプライチェーンの中で前払されたVATは、販売活動によってVAT11%を請求しない末端の消費者が負担していることになり、消費者から税務署への支払いを各事業者が代行している結果になります。

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駄菓子屋さんも卸問屋さんからお菓子を仕入れるときに消費税11%を支払っていますので、子供達に消費税分を入れて売らないと利益が減ってしまうのですが、消費税分自己負担してでも売上をキープしたいと考える駄菓子屋さんはいまだに消費税を付けないし、消費税が付いている駄菓子屋さんでも、年間売上高が1,000万円未満なら納税せずに売上げとして計上(自分でもらう)しても良い事になっているので、本来税務署に納めるべき消費税分を懐に入れても法律上問題はないわけです。

  • 消費税納付額=課税売上高×11%-課税仕入高×11%

インドネシアでは税務伝票Faktur Pajak(Tax Invoice)を発行、集計して納税額を計算して、付加価値税PPN(Pajak Pertambahan Nilai )を納める企業を課税事業者PKP(Pengusaha Kena Pajak)といい、年間売上高が48億ルピア以上の企業はPKP登録が義務付けられています。

  • 付加価値税納付額=課税売上高×11%-課税仕入高×11%

弊社が会計と税務処理を委託しているローカルコンサルタント会社は、PKP登録をしなくて済むように複数の会社に売上を分散させて、年間売上高を48億ルピア以下に抑えているのですが、これはコンサルタント業という職種柄、仕入れがほとんど発生せず、課税仕入高11%分を控除できないためです。

本来なら弊社のようなIT企業も仕入がほとんど発生しないので、PKP登録しないほうが付加価値税を納税しなくて済むので良さそうなものですが、顧客である日系製造業様は、課税売上高にかかる11%からより多く相殺するために、PKP企業としか取引をしない方針になっているため、必然的に弊社もPKP登録が必要になります。

インドネシアルピア

インドネシアで課税事業者(PKP)登録申請に必要な書類

課税事業者PKPは付加価値税PPNの課税を受ける法人であり、課税対象品目BKPや課税対象サービスJKPの売上の11%(PPN-Out)と仕入の11%(PPN-In)の差額を付加価値税として納税します。

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税務署の立場からすれば、年間48億ルピアの売上がない大多数の企業の付加価値税の手続きまではとても手が回らないというところかと思います。

また付加価値税を課税されない物品やサービスとして、鉱物資源(原油、天然ガス、石炭、鉱石等)、基本必需品(米、籾、トウモロコシ、サグ、大豆、塩、精肉、卵、畜産乳、果物、野菜)、ホテル、レストラン等で提供される飲食物、医療、金融、教育などのサービスなどがあります。

海外EC事業者に対する課税の問題

インドネシア国内に現地法人を持たず、海外のサーバーを通してインドネシア居住者から電子商取引(Perdagangan Melalui Sistem Elektronik=PMSE)で売上を上げる海外企業に対する付加価値税(PPN)と所得税(PPh)をいかに課税するかは以前から問題になっていました。

インドネシアに現法はないが国内売上がデカいNetflixやZOOMなど海外のEC会社もPE(恒久的施設)として扱い、インドネシア代理店を通してETT(電子取引税)を支払わせると、2月に国会に出されたオムニバス法の中に記載ありました。日本からインドネシア向けECサービスを展開する会社に影響ありそう。

インドネシア国内で事業を行う場所を表す概念である恒久的施設(PE=Permanent Establishment)、インドネシア語でBadan Usaha Tetap (BUT)は、法人または個人事業主として所在地証明書(Domisili)を登録している場所であり、営業許可書(SIUP=Surat Izin Usaha Perdagangan Menengah)または事業基本番号(NIB=Nomor Induk Berusaha)に紐づく納税者登録番号(NPWP =Nomor Pokok Wajib Pajak)を元に納税しますが、NPWPを持っていない海外企業に対してどのように課税するかという問題です。

試算によるとこれらのEC事業者から本来徴収できるはずのPPNの機会損失額はRp10.4 Triliun(約750憶円)に上ると言われていますので、コロナ禍で税収の落ち込みが予測されるインドネシアにおいて、財務大臣(Menteri Keuangan)のSri Mulyani氏とインドネシア国税総局DJP(Direktorat Jenderal Pajak)は、完全に海外のEC事業者に照準を合わせた感じです。

7月からNetflixやZOOMに対してPPN付加価値税を徴収

インドネシア国内に現地法人はないが、国内売上が大きいNetflixやAmazonなど海外のEC会社もPEとして扱われ、インドネシア国内の代理人を通してPPNを支払わせると、2月に国会に出されたオムニバス法の中に記載ありますが、該当する海外EC業者の定義は連結グループ売上高、国内売上高、国内での契約ユーザー数などの基づいて最終決定されるはずです。

そして財務大臣の指定を受けた国外の販売者、国外のサービス提供者、国外の電子システムを通じた取引の運営者は、大臣令Nomor 48 /PMK.03/2020に基づいて、7月1日から、契約者から支払われた11%分の管理、税務署への納付および申告のために、インドネシア国内の代理人を付加価値税徴収者(Pemungut PPN)として任命することができます。

4年前にアホックジャカルタ特別州知事が、同じようにインドネシアへの納税がされていなかったUberやFacebokに対して「インドネシアで売上を上げるんだったら現地法人を作れ」と言っていましたが、今回は現地法人がなくてもPE扱いされ、インドネシア国内の代理人を通じて納税がされなければ、国内通信からブロック(Diblokir)するぞと警告されています。

今回の大臣令によって、インドネシアに現地法人を持たず、日本からインドネシア向けECサービスを展開する会社に影響が出るものと思われます。

付加価値税(PPN)はインドネシアで納税すべきという見解

インドネシア国内利用者から契約料を稼ぐNetflixやZOOMなどの海外EC事業者は、自国において法人所得税を納税している可能性が高いため、租税協定の観点からインドネシア側に現地法人がない場合にはPPhを納税させるのは難しいかもしれません。

租税協定は所得税の二重課税の回避、国際的な脱税の防止を目的に国家間で締結されるもので、インドネシアは世界60か国以上と租税協定を締結していますので、居住者証明書(DGT)を税務署に提出することで、インドネシア側で免税または減免を受けることができます。

ジャカルタ

業務システム導入時に知っていると得するインドネシア税法の知識

業務システム導入時に知っていると得する税法の知識としては付加価値税であるPPNと所得税PPHであり、特にインドネシアの税制の特徴は所得税PPh体系が複雑であることです。

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しかしB2Cビジネスにおいて最終消費者への売上時に発生するPPN(付加価値税)は、実質的に日本の消費税と同じ意味をもち、動画ストリーミング契約料金の11%をインドネシア国税に納税すべきという理屈が成立します。

また租税協定の適用によって、インドネシア国内のPEとして認定できず所得税を課すことが出来ない場合にも、以下の重要な経済的存在(Ketentuan kehadiran ekonomi signifikan)の基準を満たすEC事業者にはETT(Electronic Transaction Tax)が課税されます。

  • Peredaran bruto konsolidasi grup usaha sampai dengan jumlah tertentu.
    (一定金額以上の連結売上を計上する場合)
  • Penjualan di Indonesia sampai dengan jumlah tertentu.
    (一定金額以上のインドネシア国内での売上がある場合)
  • Pengguna aktif media digital di Indonesia sampai dengan jumlah tertentu.
    (一定数以上のインドネシア国内での契約者数を持つ場合)

このように今年1月31日にDPR(国民評議間)に提出された「税オムニバス(法草案PERPPU-1(Peraturan Pemerintah Pengganti Undang-Undang)」)では、PE扱いできない海外EC事業者でも「重要な経済的存在」であればETTを課税するとありましたが、3月5日付けの政令Nomor 48 /PMK.03/2020では「重要な経済的所在」もPE認定し、7月1日からインドネシア国内の代理人を付加価値税徴収者(Pemungut PPN)としてPPNを徴収するとしています。

海外からインドネシア国内に物やサービスを販売する企業が付加価値税を払わないことの問題

2020年10月1日から、海外のデジタルサービス会社28社(Facebook、Twitter、ZOOM、Shopeeなど)が強制徴収事業者WAPU(Wajib Pungut)に指定され、付加価値税の納税義務が発生し、あわせて海外からオンラインマーケットプレイスを通じて、インドネシアに物やサービスを販売する事業者の付加価値税も、オンラインマーケットプレイス側がVAT徴収役(pemungut PPN)として国税に直接納税することになりました。

Shopeeを通して商品を販売する海外事業主に対して、Shopeeが付加価値税11%の徴収者(pemungut PPN)となり、Shopeeが国税DJPに納税する。現在まで28の海外デジタルサービス会社(Amazon, Facebookなど)が課税事業者WAPU(Wajib Pungut)に指定されている。

VAT徴収役(Pemungut PPN)に指定されているのは、政府機関や国有企業BUMN(Badan Usaha Milik Negara)などであり、例えば弊社のような課税事業者PKPが政府機関に対して売上を上げる際のInvoiceには、付加価値税を乗せず政府機関側が国税に直接納税します。

今回強制徴収事業者WAPU(Wajib Pungut)に指定された海外のデジタルサービス巨大企業28社が、インドネシア国内にモノやサービスを販売する際の問題点の1つは、インドネシア税法で付加価値税の納税を免除される48億ルピアという制限に比べて、売上額があまりにも巨額であること、2つ目は国外にあるため仕入時の付加価値税も負担していないことです。