UCC上島コーヒーで有名なインドネシアのマンデリン・リントンのコーヒー

2017/05/23

バタック族

インドネシアではアンボン、マドゥーラと並んで気性の激しい民族と言われるバタック族のマンデリン・リントンのコーヒーは、UCC上島コーヒーが農園を開いたことで有名になり、マンデリンが持つ強烈なボディに、若干まろやかさと甘みをつけたような上品な味わいがします。

トバ湖周辺のマンデリン族やバタック族が住む高原地帯

インドネシアで『バタック人』と聞くとどうしても無骨で荒々しいイメージを持つ人が多いことは否定できず、例えばジャカルタのオフィスにバタック出身の人間が居て「彼はバタック人だよ」と言われるときはだいたいが(あの気性の激しいことで有名な)という意味を言下に含んでおり、女の子の場合は逆に(ああ見えても実はバタック人)というギャップ萌え的な誉め言葉になる場合が多いと思います。

トバ湖以前私が搭乗した、マレーシア資本のLLC(Low Cost Carrier)であるエア・アジアの国内線での客室乗務員の紹介で「当機の後部にお座りのお客様をお世話させていただきますのは、バタック人のNoviです」とアナウンスされると、乗客から一斉に笑いが起こったと言えば、なんとなくインドネシア人がバタック人にどういうイメージを持っているかが理解できると思います。

イスラム教徒のジャワ人など多数派民族から言わせると、バタック人は「犬を食べる異教徒(カトリック)」という固定観念があるのも確かで、バタック人の女の子にとってはどうしてもいじられる材料になりやすいようですが、インドネシア人は異教徒や異民族との共生に慣れており、幸いなことに私自身は一線を越えたいじめや誹謗中傷にまで発展した事例を周囲で聞いたことはありません。

インドネシアのスーパーで豚肉含有製品はB2(BaBi)コーナーに集約されています。犬の隠語はB1でバタック語のBiangから来ているようです。さすがにスーパーにB1はありませんが先日Kali Malang沿いのLAPO屋(バタックの豚肉料理)で「B1とB2あります」と一括りにされた看板を見て複雑な気持ちになりました。

バタック料理の代表的な豚肉料理LAPOにはサンバル・アンダリマン(Sambal Andaliman)という鮮やかな緑のペースト状サンバルが付いていて、痺れるような辛さで頭皮が汗だくになりますが、豚チャーシューにめちゃくちゃ合う辛さで絶品です。

このバタック族のマンデリン系の種族であるマンデリン・バタック族(Mandailing Batak)がトバ湖南のリントン・ニフタ地区(Lintong Nihuta)の農園で栽培するコーヒーのうち、精製工程を改良を重ねた最高グレードのものがリントン・ブルーバタック(Lintong Blue Batak)という銘柄で出荷されています。

このリントン・ブルーバタックは、アラビカ種の中でも歴史が古く改良が加えられていないティピカ種(Tipika)という純血種であるため、どうしても病気に弱く収穫量が少なく、当然流通量自体が少なくてジャカルタのカフェでもめったにお目にかかれることはありません。

弊社所在地のブカシ地区はイスラム人口比率が高く比較的保守的な土地柄ですが、大手ディベロッパーによる職住一体型コンセプトの新興開発地区では、豚肉料理や酒屋の看板を大通り沿いにも見かけるようになり、緩やかなイスラム大国と評されるインドネシアの時代の流れを感じます。

世界最大のイスラム教徒人口を有するインドネシアで、ビールを飲みながらバタックの豚肉料理を食べられるというのは、多宗教多民族の人々がお互いを尊重し合うことで初めて成立するわけで、これは世界の紛争とか差別問題の解決の姿を先取りしているんじゃないかとすら思えます。

マンデリンのコクの強さを上品に包み込む味わい

コーヒーの味わいはスペシャルティコーヒーとしての豆の産地、豆の焙煎具合、保存のされ方、そして目の前のバリスタによる豆の挽き具合と淹れ方の順列組み合わせによって変わってくるとはいえ、マンデリンリントンの場合はマンデリン独特の濃厚なボディと香りに、若干まろやかさと甘みをつけた上品な味わいで、UCC上島珈琲が目をつけて農園を開き、日本にマンデリンの美味しさを広めただけのことはあり、高級品として輸出にまわされる分が多いようです。

インドネシアでは気性の激しいバタック族のマンデリン・リントンのコーヒー

トバ湖に浮かぶサモシール島(Samosir)のアンバリタ(Ambarita)にあるバタック族の伝統的家屋で、高床式の鞍型(Saddleback)屋根が特徴的です。

風味のバランスがとれており、マンデリンのコクの深さに加えて少々の甘味と微量の酸味があるので、食後のお口直しのぜいたくなコーヒーとしてぴったりだと思います。

私が考えるインドネシアのコーヒーが素晴らしい理由の一つとして、各地のスペシャルティコーヒーは風味に個性があるため、『食後のお口直しならマンデリン・リントン』『油っこい食事の後は酸味強めのトラジャ』『甘いお菓子に合わせるならアチェ・ガヨ』など、状況に応じて産地のコーヒーを飲み分けられることです。

風味の傾向

  1. 香り ★★★
  2. 苦み ★★
  3. 酸み ★
  4. コク ★★★
  5. 甘み ★★

リントン・マンデリンの中でもマンデリン系バタック族によって栽培されるブルーバタックは、ジャカルタの骨董品街スラバヤ通りにある、コーヒー通の間では有名なGIYANTI COFFEE ROASTERYで飲むことができます。

店内は観光客でごったがえしており、ザワザワとせわしないのが難点ですが、ブルーバタック自体はマンデリン特有のボディの強さに、しっとりほのかに甘いフレーバーを放ち、思わず自宅用に豆250gテイクアウトしました。

インドネシアのコーヒーベルト地帯

南北回帰線の間に連なるインドネシアのコーヒーベルト地帯

インドネシアには南北回帰線の間に連なる国土と高原地帯の温暖な風土が生み出す産地特有のコーヒーが各地で生産され、コーヒーベルト地帯とも呼ばれています。インドネシアの地理や歴史、時事問題など周辺情報や背景について思いを馳せながら飲むスペシャルティコーヒーは格別です。

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ジャカルタで最も有名なカフェの一つであるGIYANTI COFFEE ROASTERYのあるスラバヤ通りは、ユーミンの1981年5月に発売されたアルバム「水の中のASIA」に収録された有名な曲「スラバヤ通りの妹へ」の舞台となり、少し古い世代のジャカルタ駐在員の間では有名な曲です。