ジャカルタ市内と郊外を結ぶ軽量軌道交通LRT(Light Rail Transit)

2019/04/19

ジャカルタLRT

ジャカルタ郊外から中心部への渋滞緩和を目的とし、東のブカシ(Bekasi)と南のチブブール(Cibubur)から、都心部のドゥクアタス(Duku atas)までを結ぶ軽量軌道交通LRT(Light Rail Transit)は、2023年8月に正式運行が開始されました。

スナヤン競技場(Gelora Bung Karno)

インドネシアの政治・経済・社会

日本人のインドネシアについてのイメージはバラエティ番組で活躍するデヴィ・スカルノ元大統領夫人の知名度に依存する程度のものから、東南アジア最大の人口を抱える潜在的経済発展が見込める国という認識に変遷しています。

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MRTとLRTの開通後に渋滞緩和が感じられるジャカルタ

2019年4月、ジャカルタ市内に大量高速交通MRT(英語のMass Rapid Transitまたはインドネシア語のModa Raya Terpadu)南北線が開通し、MRTのフェーズ2となるBundaran HIから北上してKotaまでの区間の工事も2019年に開始されています。

そして市内から郊外を結ぶ軽量軌道交通LRT(英語のLight Rail Transitまたはインドネシア語のLintas Rel Terpadu)のフェーズ1として、LRT Jabodebek(Jakarta-Bogor-Depok-Bekasi)とLRT Jakartaの2つが2023年8月に開通しました。

日頃から車を運転している私の体感ですが、MRTとLRTの開通後のジャカルタは、2015年に『世界の交通渋滞都市ワースト1位』という悪名を着せられたときに比べて、明らかに交通の流れが改善されており、新交通網整備事業が当初から目指していた慢性的な渋滞の解消という目的に着実に近づいていると言えます。

これまでジャカルタが抱えていた渋滞問題による潜在的な経済損失が解消されるだけでなく、車社会ではなく新交通網をベースにしたビジネスとライフスタイルが形成されるわけで、駅周辺の都市再開発やジャカルタ郊外の住宅地開発がより一層活発になり、経済効果は計り知れないものになります。

2019年当時はモノレールの残骸を尻目にLRT建設が進んでいました。

ジャカルタ郊外から都心部を結ぶLRT Jabodebek

ブカシなどジャカルタの東の郊外、チブブールなどジャカルタの南の郊外からのジャカルタへの車の流入量を減らし、Tol Jakarta-CikampekとTol Jagorawiの渋滞を緩和を目的として開始されたLRT建設プロジェクトは、国営建設会社(BUMN=Badan Usaha Milik Negara Konstruksi) であるPT ADHI KARYA(ADHI)が請負い、土地取得の必要がなく既存の交通システムの妨げにならないように、基本的には支柱による高架鉄道(Lintasan Elevated)方式を採用しました。

LRT Jabodebek フェーズ1

  • Cawang-Dukuh Atas : 11,05 km
  • Cawang-Cibubur : 14,89 km
  • Cawang-Bekasi Timur : 18,49 km

フェーズ2としてDukuh Atas~Palmerah~Senayan間、Cibubur~Bogor間、Palmerah~Grogol間が予定されており、これによりKuninganのRasuna Said通りやSenayanのAsia Afrika通りに残る、2004年に着工し2014年中止が決定されたモノレールプロジェクトの支柱の残骸がすべて撤去されることになります。

LRT路線図

Wikipediaより(クリックで拡大)

北ブカシ在住の私にとっても、LRTを上手に利用すれば、Tol渋滞のストレスフリーでジャカルタに到着するという恩恵を被れるはずですが、自宅から西ブカシ駅まで行って駐車場を探すという煩わしさを考えると、結局従来どおり車を使っているのが現状で、意外と同じような考えでLRTを使わないブカシ在住者も少なくないのかもしれません。

2019年当時、建設中の最寄駅となる西ブカシ駅、手前は建設中の高架式Tol

2019年当時、Gatot SubrotoからRasuna Saidへの直角カーブ部分

2019年当時、Kuningan Sentralから南方向をのぞむ

北ジャカルタの交通渋滞緩和を目的として建設されたLRT Jakarta

2016年6月から国営建設会社であるPT Wijaya Karya(WIKA)が建設工事を請負い、車両は韓国のHyundai Rotem社製を採用しており、インドネシアで最初に採用された連結式ボギー台車システム(Articulated Bogie)により、急な旋回でも安全に柔軟に走行できるように設計されています。

本来は2018年8月18日から開催されたアジア大会(Asian Games 2018)で、競技会場に向かう選手がLRT Jakartaを使用する予定でしたが、ジャカルタ州知事であるアニス氏(Anies Baswedan)が運行の安全が確保されないという理由で中止を決定しました。

  • Boulevard Utara(Kelapa Gading Mall)-Velodrome : 5,8 km(所要時間約15分)

2019年4月当時、北ジャカルタMal Kelapa Gading前から東ジャカルタRawamangunのPemuda通り近くのVelodrome間の建設工事は100%完了しており、あとはVelodrome駅でのTransjakarta(ジャカルタバス高速移動システム)のバス停とSky Bridgeの接続工事を待つのみという状況でした。

LRTジャカルタ路線図

LRT Jakartaより

LRT Jakarta保有の8セット(2セットは予備)の車両セットLRV (Light Rail Transit Vehicle) でもって、平日は6:00から22:00まで、土日は7:00から23:00の時間帯を、ラッシュ時は5分間隔、通常時は15分間隔で運行を予定しています。

第2フェーズとしてKoridor Kelapa Gadingから中央ジャカルタのDukuh Atasまでの17.3 kmが予定されており、LRT-JabodebekとLRT-JakartaはDuku Atasで接続されることになります。

Duku Atasは2019年4月に開通したMRT南北線への乗り継ぎ、2017年末に開通した空港鉄道であるRailink(Kereta Bandara)へもBNI CITY駅で乗り継げるため、ジャカルタの新しい都市交通システムのハブ的存在になるものと考えられます。

2019年当時、Kelapa Gading Mallの対面です。

2019年当時、Bundaran Kelapa Gadingでクロスに交差します。

2019年当時、Bundaran Kelapa GadingからMOI方面をのぞむ。

KRL Commuter Line(KRL Jabodebek)

国営鉄道会社PT Kereta Api Indonesia(KAI)が、ジャカルタ、ボゴール、デポック、タンゲラン、ブカシ(Jabodetabek)およびその周辺地域からの、汽車(Kereta Api)ではなく電車(Kereta Rel Listrik)の運行および非旅客輸送事業の運営のために、2008年9月に子会社PT KAI Commuter Jabodetabekを設立し、2017年にPT Kereta Commuter Indonesia名称変更しました。

KRL路線図

PT Kereta Commuter Indonesiaより(クリックで拡大)

北ジャカルタからブカシ方面に向かう地域はジャカルタ周辺部でも最も開発が遅れた地域で、住民数に比べて道幅が狭く舗装道路が傷んでいることによるノロノロ運転による渋滞も酷く、Commuter Line建設とあわせて駅周辺での公共交通指向型都市開発(Transit Oriented Development=TOD)が最も期待される地域だと思います。

2019年当時、Jl. Raya Bekasi通りTol入り口への曲がり角付近

2019年当時、Cakungバス停付近は渋滞ポイントになっています。

2019年当時、まだPulogadungのJIEP工業団地入り口手前までしか着工されていませんでした。