インドネシアは2023年10月に運用開始されたジャカルタ~バンドン高速鉄道(Kereta Cepat Jakarta-Bandung その後Whoosh=Waktu Hemat, Operasi Optimal, Sistem Hebatに名称変更)と、ジャカルタとスラバヤを結ぶ既存鉄道の準高速化計画を一体化させたいと考えていますが、準高速化計画で想定されている線路は軌道の幅が違うことから一体化は技術的に困難との見方が出ています。 インドネシアの政治・経済・社会 日本人のインドネシアについてのイメージはバラエティ番組で活躍するデヴィ・スカルノ元大統領夫人の知名度に依存する程度のものから、東南アジア最大の人口を抱える潜在的経済発展が見込める国という認識に変遷しています。 続きを見る
ジャカルタ~バンドン間高速鉄道プロジェクトを中国が受注するまでの経緯
2015年、高速鉄道プロジェクト受注合戦で日本は中国に負けました。正式には日本企業と中国企業という民間企業間の受注競争ではあるのですが、まあ傍から見れば実質的には国家間競争であり、日本は中国に完敗したわけです、残念。
日本人からすれば「インドネシアは品質よりも安さを選んだ、きっと後で後悔するはず」という捨て台詞の一つでも言ってやりたいのが素直な感情ではあると思いますが、口に出して言ってしまうと残念な感じになるのがなんともやりきれないところです。
インドネシアからのRFP(Request For Proposal)に基づいて日本と中国が提案書を出して、一旦白紙化されて、最後に中国案が採用されたということですが、一連の経緯についてはいろいろあるんでしょうが、うちの嫁さんと同じ名前のリニ国営企業相の「技術が唯一の基準ではない」というコメントは実に耳が痛い。技術的に優れたシステムが売れるのではなく、売り方のうまいシステムが売れますから。売れるシステムがいいシステムです。
人間誰しも本音と建前があり、私は本音と建前の使い分けの上手さこそが民度の高さだと思っているので、人前で感情を隠すことなく表に出す人が「あの人は裏表のない素直な人」という評価を受けることが理解できません。もっとも建前を自分の本音に合うように都合よく操作する腹黒いのも素直じゃなさすぎて困りますが・・・。
腹の中で思っていても口に出して言わないのルールだろ、というのが空気を読むということだとしたら、日本が失注後の後処理としてやるべきことは、到底実現不可能と言われている中国側の提案の問題点に対して、日本の提案がいかに優れているかを、感情抜きにキッチリ誰にでもわかりやすい形で事後報告として世界に発信することだと思います。
民間企業同士の受注競争なのでどこまで公開できるのか知りませんが、どうせまた同じように途上国の次の案件で中国と競ることになるんでしょうから、これをやらないとまた同じパターンにはまると思いますので、嫌がらせと思われるくらい具体的な検証結果で圧力かけていくべきだと考えます。
情報戦ってこういうことなんじゃないでしょうか?
一連の過程で伝わったニュースで驚いたのは、提案の段階で中国案の問題点を指摘し日本案を採用するよう説得したということ、これって日本人にとって結構苦手な行為だと思っていました。
また中国案採用決定を伝えられた後に「決定のプロセスが不明確で遺憾だ」と官房長官がきちんと談話を発表しました。日本人的には「インドネシアの決定を尊重する」とか声明出しそうなところですが、最後まで筋を通して良かったと思います。
問題はこれから先どうするかであり、インドネシアは引き続き日本に投資を求めると声明を出しているわけで、「なにをずうずうしいことを」と腹の中では思いながらも、長年に渡って先人が築き上げた友好関係を損なわず、リスクの高いポンコツ案件は忘れて、もっとカッチリした案件を落とさないことだと思います。
2020年当時の建設現場の状況
ジャカルタ~バンドン高速鉄道建設は、2015年に中国と日本が受注合戦を行い、円借款を利用した日本の新幹線方式での導入が確実視されていた中、中国の財政負担ゼロという提案にインドネシア政府が手のひら返しで乗っかり、日本の提案が蹴られた経緯がありますが、このとき日本からインドネシア側に提出された建設仕様書と同じものが中国からも提出されたという噂が流れるなど、したたかな中国企業の交渉に足元をすくわれた感が残り、日本人からはインドネシア政府に対して少なからぬ恨み節が聞こえてきたことを覚えています。
菅総理大臣が10月にインドネシアを訪問し、ジョコウィ大統領と会談しましたが、開通が遅れているジャカルタ~バンドン高速鉄道について、インドネシア側から日本への支援要請はなかった模様です。
2016年1月に起工式が行われたものの、土地の収用がなかなか進まず、2018年7月に1年以上遅れてようやく本格的な工事がスタートしましたが、当時はカラワンやチカラン方面の工業団地からの帰りに、TOL(高速道路)に沿って進められる建設現場で土台が掘られ、橋脚が置かれ、一部区間では既に橋桁も掛けられるなど、あまりの急ピッチで進められる現場作業を眺めながら、さすが中国資本は仕事が早い(安全かどうかは知らない)と感嘆したものでした。
そうはいえども大幅な出遅れを取り戻すことは出来ず、インドネシア中国高速鉄道社(KCIC)によると、当初の2019年の完成予定は、目標を2021年上半期(1~6月)に変更され、さらに新型コロナウイルス流行の影響で建設工事が一時ストップしたことから、さらにずれ込むことになりました。
2019年10月22日には、ジャカルタからバンドンを結ぶプルバレウニ高速道路(Jl. Tol Purbaleunyi)のKM130地点の近くの架橋工事で、現場を通っていた国営石油会社プルタミナの軽油のパイプに何らかの原因で穴が開き、漏れた油が発火し工事現場に敷設された燃料パイプで火災事故が発生し、くい打ち工事が一時中断になりましたが、あの日はTOL渋滞の影響が100km西のジャカルタまで及び、上下線ともに全く車が動かず、渋滞を回避する車が下道に殺到した結果、Cikarangの一般道まで大渋滞となりSNS上では「Cikarangで5時間車が動かないので徒歩で帰宅」という阿鼻叫喚の声も聞こえてきました。
ジャカルタ~スラバヤ間の既存鉄道の準高速化計画
2020年当時、完成予定が複数回延期されたことと、当初インドネシアに財政負担を求めない提案だったにもかかわらず予算オーバーとなったことを理由に、ジャカルタ~バンドン高速鉄道建設のコンソーシアムに、ジャカルタ~スラバヤの準高速化計画を進める日本を追加して、日本の協力で建設事業を推進させたい意向があるという非公式のニュースが流れると、先の受注合戦で裏切られたと感じていた日本人がSNS上で「ざまあみろ」「自業自得だ」というような声を上げて留飲を下げていました。
インドネシアはジャカルタ~バンドン間高速鉄道と、ジャカルタとスラバヤを結ぶ既存鉄道の準高速化計画を一体化させたいという考えを持っており、準高速化計画は既に日本とインドネシアが2019年9月に合意していますが、日本側にはインドネシアから高速鉄道延伸についての正式な要請は来ておらず、そもそも準高速化計画で想定されている線路は、軌道の幅が狭いことから、幅が広い高速鉄道との一体化は技術的に困難との見方が出ています。
事あるごとに中国寄りと言われていたジョコウィ政権ですが、当時はインドネシアの北端ナトゥナ諸島の排他的経済水域(EEZ)での、中国船による違法漁業問題で中国と対立していた時期で、日本としては「過去の経緯からすんなりとは協力できない」という立場であるとはいうものの、ジャカルタ~スラバヤの準高速化計画の合意という軽視できない問題もあるため、今後インドネシア側とは実利を最優先した交渉が展開されることが望まれます。
2023年10月に正式開業しWhooshに名称変更
2022年12月にバリ島で開催されたG20に合わせて高速鉄道の中国製車両がお披露目運転されるのではないかとも噂され、ちょうどスメダン手前付近の高速鉄道専用線で、銀のボディにオレンジのラインが入った真新しい中国製車両が徐行しているのを目撃したことがありますが、これがテスト走行だったのか、G20関連のパフォーマンスだったのかはわかりません。
バンドン高速鉄道(KCJB)は独立記念日の2023年8月17日に暫定開業(ソフトオープニング)し、翌日18日から10月まで運賃無料のままとされ、未完成の駅舎の完成を待って10月から有料開業されました。
2023年6月の試運転で最高速度時速356kmを記録し、車中で500ルピア硬貨が倒れない様子をニュースで見て、正直なところ完成度の高さに驚きましたし、8年前の受注時のゴタゴタの経緯もあって、多くの日本人には衝撃的なニュースであったと思います。