インドネシアのデジタル広告市場の規模は両国のGDP比率と同じく日本の5分の1程度で、今後この差は縮まっていくことが予想されます。現在政府省庁のインフルエンサーへの予算が増加していますが、民主主義を間違った方向に導く危険性も指摘されています。 インドネシアの政治・経済・社会 日本人のインドネシアについてのイメージはバラエティ番組で活躍するデヴィ・スカルノ元大統領夫人の知名度に依存する程度のものから、東南アジア最大の人口を抱える潜在的経済発展が見込める国という認識に変遷しています。 続きを見る
政府省庁のインフルエンサーへの予算が増加
汚職監視団 ICW(Indonesia Corruption Watch )によると2014年から2020年までに費やされたインフルエンサーへの予算はRp.90.45Milyar(6.5億円)に上るが、インフルエンサー選定方法と予算の割り当ての過程が不明瞭なので、本当に金額に見合った効果があるのかと指摘がなされています。
現在のインドネシアのデジタル広告市場の規模は4000億円程で、2兆円を超える日本の5分の1程度の規模なのですが、これはインドネシアのGDP1兆ドルに対して日本の4.9兆ドルという比率に一致しており、2011年の両国のGDPの差は10倍あったこと、デジタル広告が2015年頃から急速に伸びていることから考えても、今後両国の差は急速に縮まっていくことが予想されます。
現在デジタル広告の中心は従来型のリスティング広告(検索連動型広告)やスポンサー広告ですが、InstagramやTwitterなどのSNS上で多くのフォロワーを持ち、人々の購買活動に大きな影響を与えるインフルエンサーを介して、企業や商品、サービスの情報を拡散するインフルエンサーマーケティングの比重が高まっています。
いまでこそインドネシア人のSNSの中心はInstagramですが、2008年~2012年頃にFacebookが爆発的に普及した時、インドネシア人は「友達の友達は皆友達」的な共同体意識が非常に強く、カリスマ的リーダーに追従する忠誠心が強い民族だ、と確信しました。
要はネット上での拡散性が強い国ということなんですが、2020年のインターネット人口が中国の8.5億人、インドの5.6億人に次ぐ1.7億人ともいわれるインドネシアに進出する日系のデジタル広告事業のスタートアップも、おそらく最も注力しているのはインドネシア人の間に影響力を持つインドネシア人、または日本人のインフルエンサーと企業とを結ぶインフルエンサーマーケティング代理店事業ではないでしょうか。
インドネシアの省庁のほとんどがインフルエンサーへの予算を配分しており、国民の草の根レベルでもわかりやすい言葉で政府の広報を補完する役割を期待されていますが、営利ではない政府広告の効果測定のKPIとしてのエンゲージメント率はあるものの、問い合わせ数とか受注件数とかのコンバージョンを明示的に示しにくいため、どうしてもその効果に対する批判を受けやすくなります。
インフルエンサーの政治利用の弊害
誰を選ぶかという選定過程や予算配分の不透明さや、効果に対する疑念以外に問題だと指摘されているのは、政府が恣意的に操作された情報で国民を啓蒙する危険性であり、インフルエンサーがステマ(Stealth Marketing)として利用されないためには、国民が広告の主体を正しく認識できるように政府広告と分かる表示や免責事項の明示の徹底が必要ということです。
昨年4月の大統領選挙では、プラボウォ陣営ソーシャルメディア活動家(Pegiat media sosial)でもあるムストファ・ナフラワルダヤ氏が、Twitterでフェイクニュースを流布したとして情報・電子商取引法違反などの容疑で逮捕されたり、情報戦というよりフェイクニュースによる足の引っ張り合いがあからさまに行われ、インドネシアでHoaks(英語のHoax)という言葉が定着するほどでした。
インフルエンサーの政治利用は民主主義を間違った方向に導く危険性もあるという指摘は、メディアや野党にとっての格好の攻撃の材料にもなりうるため、政権側としてもインフルエンサーの利用は、より明示的に国益になりやすい観光産業に対して積極的に予算配分がされています。
コロナ禍後の経済立て直しのためにインドネシアの観光プロモーション予算としてRp.72Milyarという大金が取られており、これにはインフルエンサーの手数料、プロモーション、観光地の紹介費用などが含まれていますが、海外有名アーティストの広告料は総じて高額で、アジアで絶大な人気を誇る韓国のグループBTS(Bangtan Boys)の場合はRp.139.3Milyarで、ウィスヌタマ観光・創造経済相は「インドネシアには支払えない額だ」と明言しています。