製造業IoTで「モノとインターネットが繋がる」とは、製品など生産財の実績数量・時間や、機械など資本財の保全情報の収集を指しますが、予知保全のために稼働管理や傾向管理を行い、データを機械停止の防止や性能劣化の原因分析に役立てることが生産性向上に直結します。
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インドネシアの生産管理システム
インドネシアの市場環境は製品寿命の短命化による多品種少量生産、需要変動、人件費上昇、非日系企業との競争など益々厳しくなっており、生産管理システムの導入やIoTによる設備の稼働管理など、生産性向上によるコスト削減を目標としたDX化が推進されています。
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担当者同士の物理的接触を最小限に抑えるペーパレス化
弊社ではこれまでペーパレス化こそがインドネシアの日系企業の業務改善のために最初に取り組むべき課題であると、当ブログや工業団地での定期セミナーなどでも主張してきましたが、それは紙の節約によるコストダウンはもちろん、実績データの紙への転記間違いを防ぐことが最大の理由でした。
その時のお客様の反応としては「今すぐにというわけにはいかないが、次に予算があるときに取り組みたい」という、前向きではありながらも緊急の課題ではないというものが多かったわけですが、新型コロナウィルスの感染拡大により、ペーパレス化は緊急の課題として扱われるべき事案となりました。
製造指図や生産日報を担当者に手渡すためには、物理的に相手の席まで接近する必要がありますが、工場内で飛沫感染や接触感染によるクラスターが発生した場合には、ライン停止はもちろん最悪の場合には操業一時ストップも考えられるので、物理的接触を最小限にするための対策の優先度は上がらざるを得ません。
現在のところインドネシアでの新型コロナウィルスのクラスター感染は、モスクなど宗教施設での集団礼拝時や病院での院内感染が多いのですが、PSBB(大規模社会制限)と合わせてMudik(帰省)が禁止されているとはいえ、少なからず親族や知人との接触の機会はあると考えられますので、レバラン休暇明けの工場稼働再開時の感染拡大の不安は拭い去られていません。
紙やPCなどモノを介した間接的な接触を最小限に抑えるIoT化
工場内で相手との物理的接触を最小限に抑えたとしても、紙や鉄などのモノに付着したコロナウィルスは数時間は生存できるとも言われており、他人が触った紙や共用PCにウィルスが付着していれば間接接触感染のリスクは残りますので、究極的には物理的な作業や機械の操作を最小限にし、作業の過程を自動化させる仕組みが必要になります。
具体的には生産管理システム上での在庫管理のための生産実績収集は、機械のカウンターからシーケンサーを通して情報を自動的に連携させ、これまで生産管理システムの外で管理されていた機械の稼働管理は、パトライト(あんどん)にIoTゲートウェイとセンサーを付けることで稼働時間や停止時間を取得するなどのIoT化の推進がこれに該当します。
ただしコロナ禍の影響による減産と売上減少のために、来年度の予算で最初に減らされるのはIT投資分野である可能性も高いので、IoT投資の予算が下りない場合でも、モノを介した間接的な接触の機会を減らすという目的に特化するのであれば、情報の入力を個人のAndroidスマートフォン上から行う仕組みの導入だけでも、間接接触感染のリスクは抑えることが出来ます。
図らずしもコロナ禍はインドネシアの製造業のペーパレス化とIoT化を後押しすることが予想され、今後は生産計画作成からスケジューリング、製造管理、工数管理、品質管理、稼働管理など一連の生産プロセスを統合化し、自動化、無人化を進める生産製造オペレーション管理(Manufacturing Operations Management=MOM)を目指す動向が、生産効率向上のためにもウィルス感染リスク低減のためにも益々注目されることになりそうです。
インドネシアで製造業IoTが必要な理由
インドネシアでシステム営業のために工業団地のお客様を訪問すると、これまで担当者の方からよく言われるセリフとして「うちの社長(会長)は機械には積極的に投資するがシステムへの投資は消極的」というのがありました。
これは日本への輸出のみとかインドネシアの日系企業のみとか、特定の顧客クラスタからの右肩上がりの受注を貰えた時代に、生産能力増強一辺倒の事業戦略を取ることでインドネシアで生き抜いてきた中小のオーナー会社でよく聞く話です。
ところが現在のように大口顧客からの大ロットの受注を安定的に保障されるとは限らず、複数顧客から小ロットの受注を積み上げていかないと業績をキープできない時代には、製造業の至上命題である生産性向上によるコスト削減により競争力を上げていく努力が必要にあります。
これはインドネシアの国内産業全般の海外への輸出競争力にも言える話であり、実際にインドネシア国内の自動車生産能力は300万台以上あるにも関わらず、生産は100万台弱のまま停滞しているのは輸出競争力がないことが最大の理由です。
国富を増やすには輸出競争力を高めることが不可欠であり、そのためにIT技術により生産性向上を目指すべく、インドネシア政府はインダストリー4.0のインドネシア版であるメーキングインドネシア4.0を提唱してきたものの、具体的ガイドラインが提示されないままです。
2020年2月現在は「機械には投資するがシステムへの投資はちょっと」という時代から「やらないと世界で戦えない」という認識に変わりつつある転換期であると思いますが、製造業でIoTを導入する目的とは、材料・仕掛品・製品などの生産財を効率よく流動させるための機械や人など資本財の情報を収集することです。
製造業IoTの内容
製造業のIoTで「モノとインターネットが繋がる」という場合のモノとは「生産財(industry goods)」と「資本財(capital goods)」であり、生産財の内訳は材料・仕掛品・製品など、資本財の内訳は機械や人です。
そして生産財について収集する情報は投入数と生産数、歩留まり数とNG数などの「成果」であり、資本財について収集する情報は直接時間(稼働時間と作業時間)と間接時間(停止時間)、温度や回転数などの「状況」です。
- 成果:生産財の実績情報⇒投入数・生産数・歩留まり数・NG数
- 成果:生産財の品質管理情報⇒NG理由・NG画像情報
- 状況:機械の保全情報⇒直接時間(稼働時間)・間接時間(停止時間)・温度・回転数・ストローク数
- 状況:人の保全情報⇒直接時間(作業時間)・間接時間(休憩時間)
これらが製造業IoTで生産財や資本財から収集される情報であり、1と2は従来型のERPシステムでの管理対象でしたが、3と4は製造実行システム(MES)の管理対象であり、その目的は生産効率を向上させるための判断材料とすることです。
設備機械のメンテナンス(保全)管理
保全とは機械が壊れないように日頃からメンテナンスすることであり、保全部(maintenance)の仕事はプレス機のショット数や稼働時間から定期的にスペアパーツ(部品)交換などのメンテナンスを行う「予防保全」と、機械に問題が発生する兆候を予測する「予知保全」に分かれます。
弊社では既存のパトライトやアナログメーターをそのまま数値データに変換し、予知保全のためのデータ解析を行い、機械の稼働率や性能変化を「見える化」することで、稼働管理と傾向管理を実現させるIoTシステムをご提案しています。
- 稼働管理⇒パトライトに設置した光センサーから点灯情報を取得し稼働時間を収集する。
- 傾向管理⇒温度計、電流計などのアナログメーターを画像分析し数値データに変換する。
収集されたデータを将来の機械停止の防止や、性能劣化の原因分析や因果関係分析に役立てることが生産性向上に直結します。
ポイントは既存のアナログ機器をIoT対応機器に買い替えることなく、IoT導入をお手軽にスモールスタートできることであり、本格的な機器の買い替え時期までを中継ぎ的に安価なIoTの導入が可能です。
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インドネシアの製造現場の設備稼働管理と保全管理
Signal Chainにより製造設備の稼働状況を様々なデバイスから正確に自動的に取得するIoT技術で、PCやモニタから稼働履歴や稼働傾向をリアルタイム把握できます。
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総合設備効率(OEE)
機械の稼働率の指標として生産管理システムから算出する指標として総合設備効率OEE(Overall Equipment Effectiveness)がありますが、これは生産効率を時間稼働率(Availability factor)、性能稼働率(Performance factor)、良品率(Yield)という3つの側面から計算される生産効率の総合的な指標です。
- OEE=時間稼働率x性能稼働率x良品率
- 時間稼働率=Net稼動時間÷Gross稼働時間
稼動予定時間のうち実際に設備が稼動している時間の割合 - 性能稼動時間=(サイクルタイムx出来高)÷Net稼動時間
製造速度(本来の能力)に対する実際の製造速度の比率 - 良品率=良品数÷生産数
全生産数に対する良品数の割合
要は機械がどれだけキチンと動いて(時間面)、機械本来の能力をどれだけ発揮して(速度面)、どれだけ正確に生産したか(良品率)の3つの側面から、機械の生産への貢献度を測る指標になります。