インドネシアの外国人就業規則から考える日系サービス業のビジネスモデル

2017/04/10

入国手続き

インドネシアに恒久的施設PE(Permanent Establishment)として事業所を構える以上、そこでは納税の義務とインドネシア人への技術移転の義務が発生します。

インドネシアにおける外国人就労の条件と日系企業の最適な成長モデルとは

インドネシアでの外国人就業規則は労働法2003年法律第13号の第8章第45条(pasal 45 ayat [1] huruf a UU No. 13/2003)にて規定されており、その中で最も重要なのは以下の条文です。

bersedia membuat pernyataan untuk mengalihkan keahliannya kepada tenaga kerja Warga Negara Indonesia khususnya TKI pendamping;(インドネシア人労働者、特に外国人の後継となるインドネシア人に専門知識の移転を誓約する準備があること。)

このように外国人就業の前提条件に技術力(専門知識)を有しインドネシア人に移転すべきものであると明記されているということは、インドネシアに恒久的施設PE(Permanent Establishment)として事業所を構える以上、そこでは納税の義務とインドネシア人への技術移転の義務が発生すると言えるわけです。

ビジネス環境がこうであればインドネシアの日系企業のビジネスモデルは自ずと以下のように遷移することになります。

  1. 日本人が仕事を取ってきて日本人が案件を管理し作業を行う(設立直後)
  2. 日本人が仕事を取ってきて日本人が案件を管理しインドネシア人が作業を行う(拡大期)
  3. 日本人が仕事を取ってきてインドネシア人が案件を管理しインドネシア人が作業を行う(安定期)
  4. インドネシア人が仕事を取ってきてインドネシア人が案件を管理しインドネシア人が作業を行う(成就間近)

発展途上国であればどこも似たようなものだと思いますが、この第二第三段階あたりを目標として、案件管理や技術はすべてインドネシア人に移譲する前提で日本人は技術営業に特化し、その最終系として第四段階の完全なローカル化が成就するというのが、日系企業の健全なライフサイクルであると思います。

外国人就労者に加入が義務化された新社会保障制度(BPJS)

外国人雇用の手続きは労働省(Kementerian Ketenagakerjaan)の管轄であり、以下の3点セットが定番で必要になります。

  1. 外国人雇用計画書 RPTKA(Rencana Penggunaan Tenaga Kerja Asing)の策定と承認
  2. 外国人労働許可 IMTA(Izin Mempekerjakan Tenaga Kerja Asing)のの承認取得
  3. IMTA取得の条件の一つ外国人労働者雇用補償金(DKP-TKA)き毎月100ドルを政府に前払い

このうち外国人労働者雇用補償金(DKP-TKA)の額100ドルというのは、私がインドネシアに来た1997年から変わっておらず、アメリカドルがいかに安定しているかを物語っていますが、これに加えて2015年10月から以下のBPJSへの加入義務が課されるようになりました。

インドネシアで6ヶ月以上就労する外国人に対してBPJS-Kesehatan(健康BPJS)とBPJS-Ketenagakerjaan(労働BPJS)への加入義務が課される。

かつてのJAMSOSTEKからBPJSに移行し、社会保障をより充実させることを目的とした新制度ですが、BPJSが適用される医療機関は限定されており、多くのインドネシア人患者と同じように、在住外国人がBPJSを利用するのはなかなか大変のようで、私はまだ利用したことがありません。

  • BPJS Kesehatan
    1. 医療保障(JK)
      固定賃金の5%のうち4%が会社負担、1%が労働者負担
      ただし固定賃金の上限が7jutaなので最高で7jutax5%=35万ルピアの負担
  • BPJS Ketenagakerjaan
    1. 労働災害補償(JKK)
    2. 死亡補償(JKM)
    3. 老齢保障(JHT)
    4. 年金(Jaminan Pensiun) 外国人加入義務なし
      固定賃金の3%のうち会社負担が2%、労働者負担が1%
      ただし固定賃金の上限が7jutaなので最高で7jutax3%=21万ルピアの負担

インドネシア進出企業が直面するコスト増と人材戦略の最適解とは

外国人雇用のコストが益々上がり、2017年のジャカルタのUMP(Upah Minimum Provinsi 州が定める最低賃金)もRp.3,355,750(2025年3月はRp5,396,761)と上がり続ける今、インドネシアに進出しようとする日系企業(特にサービス業)にとって描くビジネスモデルの中では、いかに間接費を下げると同時に生産性を上げるかという問題がのしかかってきますが、このためにはインドネシア人技術者とインドネシア人管理者比率を高めると同時に、日本人は技術営業として新規案件獲得と既存顧客のフォローに徹することになります。

  1. 日本人コストの分散(案件に対して平準化)
  2. インドネシア人技術者の環境お膳立てによる生産性向上

インドネシアで長く仕事をしてきて、昔から変わっていない考えの一つに「自分で仕事をしないことは自分で仕事をすることよりも大変」というのがありまして、これは自分の刀を抜く(自分で仕事をする)のは後でその何倍もの仕事をしてもらうためにやる、ということ。

これには技術力云々の話ではなく周囲の風当たりを受けても意に介しないだけの打たれ強さを持つと同時に、自分というリソースに対して常にレバレッジを働かせるために使うことを意識していないと、特定案件の中に埋没し、現地リソースの最適活用がなされず、対コストの生産性は下がることになりかねません。