スターバックスを模倣したインドネシアのJ.COドーナッツのブランド戦略

2020/09/17

J.COドーナッツ

インドネシアのJ.COドーナッツは、庶民が道端の屋台にたむろって話し込む東南アジア全般の文化に適合しながらも、スターバックスが提唱した都会のアッパーミドル層にとってのサードプレイスという概念を模倣したブランド戦略により、急成長を遂げました。

スターバックスの「サードプレイス」という概念を模倣して成長したJ.COドーナッツ

僕がインドネシアに来た1997年当時に、どこにでもあるファーストフードの店として印象に残っているのはマクドナルド、KFC、ピザハットそしてダンキンドーナッツの4つであり、ダンキンと言えばドーナッツが激甘で、コーヒーに砂糖をスプーン3杯も4杯も入れて飲む甘党インドネシア人でさえも「ダンキンは甘すぎるから嫌い」と公言する人が多かったように記憶しています。

J.COドーナッツとダンキンドーナッツの比較(tirto.idより

2005年にサロンチェーン大手のJohnny Andreanが、アメリカ系のクリスピークリーム(Krispy Kreme)のインドネシアでのフランチャイズ展開を前提に進めていた話を土壇場でキャンセルし、それまで学んだ製造方法に関する知識を元に、J.COドーナッツをオープンさせたという仁義なきゴシップネタが当時話題となりました。

それでもJ.COは「ドリンク注文でグレーズ1個無料」という戦略が大当たりして、同時期に進出したクリスピーを差し置いて、あっという間にインドネシア全土に店舗網を広げていきました。

2007年当時バリ島に在住していた頃、KutaのSimpang Siur前のモールにJ.COがオープンした時、クリスピークリームより安く種類が多く、ミスドっぽい「もち風生地」のドーナッツもあり、やっとインドネシアで美味しいドーナッツが食べられるようになったと時代の流れを感じたものでした。

リッポーモール10年ぶりくらいに来た。高校生のとき、最寄り駅だった西鉄久留米駅(福岡)構内のミスドの売上が、日本一を連続記録更新中だったことが、久留米市民の間ではブリジストンと中野浩一と同レベルの自慢のネタとなっていました。

1985年にダンキンがインドネシアに進出してから20年間に、国内の主要都市を中心に200以上の店舗網を広げ「ドーナッツは硬くて重くて甘い」というイメージを作り上げていましたが、J.COの柔らかく軽い食感はドーナッツのイメージを一新すると同時に、明るく開放的な店内でスマトラ、スラウェシ、ジャワなどの厳選された豆を使った本格的なコーヒーを飲むという新しい行動様式が生まれ、インドネシアのカフェブームの黎明期を支えたものと記憶しています。

Dunkin Donutsがインドネシアに進出したのが1985年、まだJCOもKrispy Kremeもなかった時代に「ドーナッツは重くて甘い」というイメージを作り上げ、コーヒーに砂糖をスプーン3杯入れて飲むインドネシア人も「ダンキンは甘すぎるから嫌い」と公言していたのに、今や甘さ控え目の商品が増えた印象。

スターバックスが提唱する「サードプレイス」という概念は、ファーストプレイスである自宅、セカンドプレイスであるオフィス、そしてスタバは3番目のリラックスできる場所になるというものですが、J.COのコンセプトも単なるドーナッツ屋ではなく、高品質のドーナツとコーヒーを提供し、心のこもったサービスで、人々がリラックスできる快適な場所を提供しようという点で、スターバックスのコンセプトを模倣したものです。

PSBB2とは無縁のブカシのJ.CO、コーヒーRp.23,000にグレージー1個付いてきて、吹き抜け空間にバーのように設計された電源付きテーブルで長居OK、スタバほど洗練された店員さんではないが、おしゃれ空間での「普通の女の子」による接客が居心地を良くするコスパ最強の顧客体験。

スターバックスに酷似したJ.COドーナッツのブランド戦略

今やJ.COドーナッツはインドネシア国内とマレーシア、シンガポール、フィリピン、サウジアラビア、中国で232店舗(2019年7月時点)にまで拡大しており、一目で判別できる特徴的なオレンジのロゴにより認知度を高める徹底的なブランド戦略は、緑の人魚のロゴで世界中に認知度を高めたスターバックスの戦略そのものです。

2013年時のスタバ旧ロゴ(CityWalkスディルマン店)

しかもJ.COのロゴは2005年当時のスタバの旧ロゴに酷似しており、サイズも形もほぼ同じ縁取りのある円の中に、人魚の代わりに君臨する孔雀のシンボルは、時代を超越したドーナツの美しさと優しさを象徴しており、ロゴの中にはJ.COの文字だけを入れてCoffeeやDonutsを表記しなかったのも、消費者の記憶に残りやすく、飽きにくくするためにシンプルさを追求した結果です。

23年前まで僕が日本に住んでいたときは、牛肉は国内和牛が最高、魚も国内の天然ものが一番で、オーストラリア産牛肉や韓国産アサリなんか危なくて手が出せないみたいな雰囲気でしたが、これがインドネシアでは全く逆で、服も食べ物もアクセサリーも海外から輸入品(barang impor)こそが高品質の証であり、J.COという名前もロゴもサードプレイスというビジネスコンセプトも、知らない人が見たらアメリカあたりから来た輸入ブランドと見紛うくらい洗練されています。

サロンチェーン大手のジョニーアンドレアン系列のJ.COの意味はJohny Corporation Donuts & Coffee、2005年オープン当時の消費者は海外ブランドを信頼する傾向がより強かったことからモダンでエレガント、シンプルで覚えやすい名前にした。昔のスタバのロゴにそっくり。

もともと庶民が道端の屋台にたむろって話し込むのは、インドネシアだけでなく東南アジア全般の文化でしたが、都会に住むアッパーミドル層の若者が集まれる場所、オフィスワーカーが立ち寄ってノートPCを開いて仕事をしたり、客との待ち合わせして商談できるような場所として、コーヒーを飲みながらドーナッツが食べられるチェーン店型の安定した品質の空間を提供したのがJ.COであり、新しいドーナッツ店というよりも新しいライフスタイルの提案だったわけです。