固定資産の償却で、定額法(Straight-line method)は初期の費用負担を抑え利益を早く出し、定率法(declining balance method)は早め費用化して利益を抑えて節税する目的があります。
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インドネシアの会計システム
インドネシアでキャッシュレス化が浸透し、銀行口座を通して行われた企業取引がすべてシステムに自動仕訳されることで日常的な記帳業務はなくなれば、人間がマニュアルで会計業務に絡む場面は少なくなることが予想されますが、頭の中に業務の基本を体系的に記憶することは重要だと考えます。
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インドネシアの固定資産管理
インドネシアで固定資産管理システムが導入されている会社は少なく、ほとんどの日系企業が固定資産台帳をExcelで以下の情報を管理しています。
- 固定資産コード
- 取得日
- 取得価額
- 固定資産種別:建物 構築物 車両運搬具 備品
- 償却方法:定額法 定率法
- 耐用年数:4年 8年 12年 20年
- 償却開始日
- 償却完了予定日2.分類情報:主に帳票出力の切り口となり会社によって分け方が異なる
- 場所
- 部門
- グループ
インドネシアで固定資産として費用計上できる品目は耐用年数によって分類されています。
- カテゴリー1(耐用年数4年:定率50%・定額25%)
オフィス機器(PC・プリンター・机・椅子など)・携帯電話など - カテゴリー2(耐用年数8年:定率25%・定額12.5%)
社用車・ACなど - カテゴリー3(耐用年数12年:定率12.5%・定額6.25%)
成形機・プレス機など - カテゴリー4(耐用年数20年:定率10%・定額5%)
このような「いつ、いくらで取得したか」「どれだけ償却期間が残っているか」といった情報管理と、この情報に基づいた月末の自動償却仕訳生成が固定資産管理システムの機能です。
固定資産管理システムの機能
取得管理(acquisition)
固定資産管理システムで取得入力をすることで、ERPの債務管理に債務仕訳を発生させる場合もあります。逆にERPの購買管理から入荷処理することにより、固定資産管理システムの固定資産台帳に自動的に登録される場合もあります。
- Dr. 車両運搬具(資産の増加) Cr. AP(負債の増加)
Vehicle-Production Account payable
固定資産の購入がIDRだけでなくUSDやYENの外貨で行なわれるケースでは、減損処理(impairment)は取得時の通貨で行なう必要があるため、取得時に生成する仕訳には通貨コードが必要です。
償却管理(depreciation)
有形固定資産は建物、構築物、車両運搬具、備品等の区分に分類され、Excelで定率法または定額法で計算した分類ごとの集計金額を、間接法でマイナス資産として計上する仕訳を作成します。
これはB/S上の固定資産の取得価額の下に「いままでいくら償却したか」という償却累計額を記載するための、月末の決算整理仕訳の中で行われます。
- Dr. 備品減価償却費(費用の増加) Cr. 備品減価償却累計額(マイナス資産の増加)
Depreciation (SGA) Accumulated depreciation
無形固定資産(ソフトウェアなど)の場合は直説法で資産を費用化します。
- Dr. 無形固定資産償却(費用の増加) Cr. ソフトウェア(資産の減少)
Amotization (SGA) Intangible fixed asset
移動管理(transfer)
固定資産の移動の際に費用は発生しませんが、部門別、ライン別、機械別などの任意の集計単位で損益管理を行なう場合、集計グループの付け替えのための相殺仕訳が必要になります。
- Dr. 車両運搬具(資産の増加) Cr. 車両運搬具(資産の減少)
Vehicle-SGA Vehicle-Production
会計システム上で、資産の部門別集計を行なう場合はG/L上の固定資産科目に部門コードが必要になります。
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収益費用アプローチによる損益法と資産負債アプローチによる財産法
損益法での当月利益は「月末の収益-月末の費用」ですが、財産法での当月利益は「(月初の資産-月初の負債)-(月末の資産-月末の負債)」という資本の増分であり、両方とも同額になります。
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減損管理(impairment loss)と特別損失管理(extraordinary loss)
減損処理は利益操作に繋がりやすいため慎重に行なうべきですが、日本では認められていない減損した固定資産の戻し入れがIFRSでは認められています。
これはIFRSでは企業資産の実態を明確に反映させた財務諸表を求めるためであり、一旦評価が下がった資産でも評価が再び上がれば、それを資産評価額として反映させるべき、というある意味筋の通った主張ではありますが、むやみに減損処理が行なわれること自体が好ましくないようです。
- Dr. 減損損失(費用の増加) Cr. 減損損失累計額(マイナス資産の増加)
Impairment loss Accumulated impairment loss
除却管理(retirement)と廃棄管理(disposal)
除却とは使用をやめて別管理状態にし貯蔵品扱いにすることであり、廃棄は評価額なしに固定資産廃棄損(費用勘定)に計上することです。
- Dr. 減価償却累計額(マイナス資産の減少) Cr. 車両運搬具(資産の減少)
Accumulated depreciation Vehicle-SGA - Dr. 減損損失累計額(マイナス資産の減少)
Accumulated impairment loss - Dr. 廃棄損(費用の増加)
Loss on disposal
売却管理(sales)
売却価格が売却時の残存価額(Remained value)より高ければ売却益(profit on sales)、低ければ売却損(loss on sales)を計上します。
- Dr. 減価償却累計額(マイナス資産の減少) Cr. 車両運搬具(資産の減少)
Accumulated depreciation Vehicle-SGA - Dr. 減損損失累計額(マイナス資産の減少)
Accumulated impairment loss - Dr. 未収金(資産の増加)
accrued income - Dr. 売却損(費用の増加)
Loss on sales
リース管理(Lease)と建設仮勘定(Construction in Progress)管理
固定資産だけでなく、リース資産の契約開始から満了まで、支払金額や再リースなどの契約管理も固定資産管理システムの機能に含まれます。
また有形固定資産の建設・製作のために、工事の完成・建物の引渡等までに仮払い、もしくは前払いした工事費や材料費、労務費、経費を管理するために、建設仮勘定(Construction in progress)仕訳を生成します。
仕掛品と建設仮勘定の違いですが、乱暴に言えばそれが売り物かそうでないかの違いくらいに認識していればいいと思います。
棚卸資産は材料から仕掛品を経て製品となり売られていきますが、売るためのものではないが材料として購入し仕掛品を経て製品として社内の資産となるものがあり、その代表格が金型ではないでしょうか。
設備はFOB契約によって、日本で船積みされて船上在庫となった時点で建設仮勘定に計上され、インドネシアに到着後、工場に搬入され使用開始された時点(事業の用に供した日)で固定資産化され、耐用年数に基づき減価償却されていきます。
- Dr. 建設仮勘定 Cr. AP
- Dr. 有形固定資産 Cr. 建設仮勘定
一方で金型は、金型材料を購入し現在面を加工しはじめた時点で建設仮勘定に計上され、金型仕掛品を経て完成品金型化した時点で、固定資産に振替えられ会計上減価償却が始まります。
建設仮勘定は減価償却対象外の資産の一時保管場所みたいなもので便利ですが、あまり不自然に長く滞留していると監査対象になります。
償却計算方法
インドネシアの場合、償却計算はおおよそ月次で行なわれますが、今月1日と31日に取得した同じ取得額の固定資産の使用期間が、31日間と1日間と大きく異なるにも関わらず、今月の償却額が同じになってしまうという1票の格差ならぬ1日の格差を問題視する場合は、日次で償却額を計算する場合もあります。
ただし月次計算の場合、月内取得の固定資産は一律で1ヶ月間使用したものとして償却計算されますので、当然日次計算よりも多く費用計上されるため、税務上は有利になります。
定額法(Straight-line method)
定額法は初期の費用負担を抑えることができるため、利益を早く出したいような創業期やそれを重視する事業者に向いています。
- 減価償却費=取得価額×償却率
定率法(declining balance method)
インドネシアは現在好景気であり、売り上げが順調に伸びている会社にとっては早め費用化して利益を抑えて節税すると同時に投資額の資金回収を早めることができます。
関係ないですが、僕の愛車はいまやインドネシアの国民車と言っても過言ではないトヨタAvanzaでして、ちょうど1年前に165jutaくらいで買ったのですが、今売ればたぶん145juta(20juta落ち)くらいです。
ただ来年売るときにさらに20juta落ちる訳ではなく140juta程度になり、定率法も同じように最初はガクッと落ちるがあとはゆっくり落ちるといった考え方です。
- 減価償却費=未償却残高(取得価額-償却累計額)x償却率
現物ラベルと固定資産台帳のリンク
システム上の「何がどこにあるのか」「いついくらで購入したものか」といった固定資産台帳という形での在庫情報と、実物に貼られた現物ラベルを紐付けるために、固定資産コードをバーコード化したものが、現物ラベルとして使われるケースが多いです。
流動資産と固定資産と貯蔵品(消耗品費)を区分する基準
インドネシアでは日本と同様に現金化の可否(1年以内)という基準で流動資産と固定資産に区分され、消費時に費用計上する流動資産を貯蔵品(Supplies)または消耗品費(Supplies Expense)に計上し、通常は生産管理システム上での受払を発生させません。
流動資産
- 当座資産(現金・預金)
- 棚卸資産(材料・仕掛品・製品)
- 繰延資産(研究開発費)
固定資産
- 有形固定資産(減価償却累計額を使って間接法で償却)
- 無形固定資産(直接法で資産を減額)
貯蔵品
- Dr. Supplies(貯蔵品) Cr. Cash
- Dr. Supplies Expense(消耗品費) Cr. Supplies(貯蔵品)
金型の場合、耐用年数が1年未満であっても取得価額が大きいため固定資産のカテゴリー1に分類されます。ただ取得価額が小さい補助型等は取得時に消耗品費にされることもあれば、金型とひとくくりにされ固定資産として処理する場合もあります。
固定資産ですから間接法でマイナス資産として計上する仕訳を行ないます。つまりB/Sの固定資産の購入金額の下に「いままでいくら償却したか」「いままでいくら損失計上したか」という累計額を記載します。
- Dr. Depreciation 10 Cr. Accumulated depreciation 10
(製造間接費) (マイナス資産)
金型を固定資産計上する方法は2種類あります。
- 建設仮勘定に計上し事業の用に供した時点で固定資産に振替える
- 費用計上し他勘定振替で固定資産に振替える
会計と税務の違い
会社の儲けた金額は企業会計上は利益、税務会計上は所得です。P/Lに計上した交際費が必ずしも経費として落とせる(損金計上する)とは限りませんし、税務会計上は償却済みの車が売却されて企業会計上特別損益に計上される場合もあります。
- 利益=収益-費用
- 所得=益金-損金
早々に費用計上して税金を減らしたい、でも費用化が早すぎるとマイナスになるだけなので、できるだけ早く均等に利益が減るように償却したい。一方で税務署は費用化されて利益を圧縮されると徴収できる税金が少なくなるため長い耐用年数を求める。これが会計(経営)と税務が違うということですが、会計と税務を別管理は複雑なので本来は一致させるのが望ましいはずです。
固定資産システムで管理されるのは税務上の会計であり、固定資産に関わる税法によって分類され適切に償却される必要がありますが、一方で金型管理システムで製造現場でのショット実績に基づく償却額を管理することで、償却期間内で発生した廃棄に伴う固定資産廃棄損や売却に伴う雑収入(残存価額)を自動計算できます。
実際の経理部の会計処理では、固定資産管理システムで計算した評価額と、金型管理システムで計算した評価額は別管理されます。
金型管理システムの機能
金型管理システムのコアはは命数管理に基づく償却管理であり、内製金型の場合は完成時、購入金型の場合は入荷時に受け(Good Receive)が発生し、プレスや成形実績に基づくショット実績で払い(Good Issue)が発生し、1ショットあたりの材料単価と標準加工単価をかけて償却額を計算します。
内製金型の場合、金型材料から仕掛品、完成品になるまでの受払実績を管理し、通常の棚卸資産と同じく、月末締め処理後に原価計算を行います。
完成品金型については金型マスタ上に標準命数・材料単価・標準加工単価を保持し、受払実績(入荷/完成/ショット)を金型受払テーブルに記録し、最新情報を金型在庫テーブルに保持します。
月末に締め処理を行い金型残高テーブル(バランスマスター)に締情報を保持します。償却受払表では金型の残存簿価を翌月の月初残として繰り越します。
受払を管理し、履歴に修正が発生した場合には時系列に洗替で償却再計算をする必要があるところは固定資産管理システムと似ています。