月末の債権債務の為替評価替えの際に、資産の前月比での損得が重要であれば切離法によりインボイス価格を最新の評価額に更新し、取得時と比べて損得いくらかが重要であれば洗替法により翌月初に洗替して取得時評価額に戻します。
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インドネシアの会計システム
インドネシアでキャッシュレス化が浸透し、銀行口座を通して行われた企業取引がすべてシステムに自動仕訳されることで日常的な記帳業務はなくなれば、人間がマニュアルで会計業務に絡む場面は少なくなることが予想されますが、頭の中に業務の基本を体系的に記憶することは重要だと考えます。
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会計と税務の温度差
2015年7月からインドネシアの国内取引は基本ルピアベースで行うことをインドネシア中央銀行(Bank Indonesia 以下BI)より義務付けられています。
しかし先日訪問したバンドゥンの客先の会計担当者によると、BIに申請して許可を取ることにより特定の取引先との取引は例外的にドルベースで行なうことを認められるそうで、この申請のためにジャカルタのBIに行って来たそうです。
ただしこれはあくまでグレーな処置であり、BIの基本方針には変わりはなく、申請する会社や取引先の規模や取引量などの制約があると思われます。
ところが税務の面ではインドネシアの税務署(Kantor Pajak)でドルベースの報告を行なうことが認められた場合、5年間はドルベースの報告を継続しなければならないというルールがありますので、例えば2011年1月から会計処理を始めた会社は2016年12月末の第5期終了までドルベースの税務報告が義務付けられます。
つまりBI主導による会計のルピアベース化の流れは、税務署方針との間に温度差があるわけで、このとき何が問題になるかと言えば、会計システムを2016年1月からルピアベースに変更した場合でも1年間はドルベースの財務諸表や税務報告が必要になることです。
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インドネシア国内取引のルピア化に伴う機能通貨変更
月末の債権債務の為替評価替えの際に、資産の前月比での損得が重要であれば切離法によりインボイス価格を最新の評価額に更新し、取得時と比べて損得いくらかが重要であれば洗替法により翌月初に洗替して取得時評価額に戻します。
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この会計上の基本となる通貨が機能通貨(Base currencyまたはFunctional currency)であり、税務署への報告用通貨を表示通貨(Presentation currency)といいます。
外貨取引の際に発生する為替差異
1年間の税務署への報告義務を果たすために表示通貨ベースへの換算が必要になるということは、会計業務の中で3つの為替換算の流れ「外貨~機能通貨~表示通貨」が発生することになります。
- 外貨から機能通貨へ(取引レート使用により差額発生しない)
- 債権債務決済時の為替差損益(発生レートと決済日レートの差額発生)
- 為替評価替え(資産負債項目を月末レート換算による差額発生)
- 機能通貨から表示通貨へ(資産負債項目は月末レート換算による差額発生)
月末レートでの債務A/P為替評価替えによる為替差損益は未実現利益(Forex Gain-Unrealized)と呼ばれますが、これは未実現利益が「含み益」にあたるからであり、ある時点での潜在的な(評価上の)利益額でしかありません。
一方で債務A/P決済時の為替差損益は実現利益(Forex Gain-Realized)として区別されるのですが、これは決済や転換(ドルベースならドル転)することにより確定する為替差損益が何を起因としているか(どのInvoice、どの仕訳から発生しているか)を明確にする必要があります。
但し取引レートとして前月末レートを均一レート(Flat rate)として使用している場合は、A/P決済時のレートは既に前月末レートですので実現利益は発生しません。
表示通貨ベースへの換算のタイミング
機能通貨ルピアベースの財務諸表を、表示通貨ドルベースに変換する目的は、上述のように税務報告のためであったり、連結財務諸表(Consolidated financial statement)作成用だったります。
複数機能通貨を持てるシステムの場合は、取引入力のたびに複数機能通貨ベースの仕訳を生成しますが、表示通貨への換算は月末(または期末)のバッチ処理で行なわれ、変換レートは取引レート(historical rate)か期末レート(Last rate)か平均レート(Average rate)のいずれかになります。
- 複数機能通貨システム(取引レート)
取引通貨(円)
├ 機能通貨(ルピア)
└ 機能通貨(ドル) - 単一機能通貨システムでの表示通貨への換算(期末レート)
取引通貨(円) - 機能通貨(ルピア) - 表示通貨(ドル)
変換レートが取引レートがである場合、仕訳レベルでの変換が行なわれるということですが、上述の決済時の為替評価損益や月末の為替評価替は、外貨である円の為替変動がルピアに及ぼすインパクトを修正した結果であり、表示通貨であるドルに対しては意味のない仕訳です。
よって月末のバッチ処理で正確な表示通貨への換算を行う実装は非常に困難であり、これが上述の複数機能通貨対応システムとの違いになります。
インドネシアでの会計システム導入のポイント
国際財務報告基準(International Financial Reporting)対応
インドネシアの日系企業で使用されている会計システムは、低価格帯のローカルベンダー製、中価格帯の外国製(アメリカ・日本・ヨーロッパ)、そしてSAP(ドイツ)など高価格帯のシステムというように大枠で分かれます。
インドネシアでの会計システム導入時には、まずシステムの国際会計基準IFRS(International Financial Reporting Standards)への対応が必要といわれるようになって久しく、インドネシアでは比較的早くからIFRS対応を意識することが推奨されており、収益費用認識基準、時価評価、固定資産の減価償却方法など、IFRSへの意識は日本より高いと思います。
IFRSは投資家や債権者に対して企業価値評価のために必要な情報を提供することを目的としています。
そのために固定資産の減損・再評価、売却可能な金融資産などを時価評価して、貸借対照表B/Sを正確に作成することにより、その企業が投資に見合う利益を生み出せる資産状況にあるかどうかを明確にするものです。
日本本社の連結決算のためにIFRSに基づく財務報告が必要になる一方で、インドネシア側では税務署がこれに対応しているとは限らないので、税務については引き続き独自の基準で報告を作成する必要があります。
そのため会計システムでは、複数基準元帳機能を実装し、会計仕訳単位で日本本社用とインドネシア決算用とに振替ができることが理想です。
為替レート
インドネシアで会計システムを導入する時に一番に考慮する税制は付加価値税VAT (Value Added Tax) であり、インドネシアではPPN ( Pajak Pertambahan Nilai)と呼ばれます。
企業は外貨建て取引に関わる税金の計算は、税務署(Kantor Pajak)が毎週公表するTax Rateを使用する必要があるため、会計システムには取引レートとTax rateの2つを持たせる必要があり、システムの為替レートマスタには通貨ごとの取引レートに加えてTax Rateの設定を行い、取引入力の際に該当するレートを参照する仕組みが必要になります。
外貨取引に適用する為替レートについては、前日のレートをDailyに適用する場合(Spot Rate)と、前月末レートで当月適用レートを固定する場合(Flat Rate)のどちらになりますが、前者の場合は債権債務の決済時に為替差損益仕訳を自動生成する仕組みが必要になります。
そして月末に次月に繰越す債権債務や現金預金等について月末レートで再評価を行う為替評価替(Revaluation)をシステム上で行ないます。
Faktur Pajak(Tax Invoice)発行機能
インドネシアは帳簿方式ではなくInvoice方式を採用し、Faktur Pajak (Tax Invoice)に基づいて税額を計算しています。
納税、還付請求時にインボイスに必ずセットで添付するFaktur Pajak が必要ですが、そのフォームは非定期で変更されるので、変更のたびにシステム上でフォーマット調整が必要になります。
Faktur Pajak に基づいてPPNの支払いまたは還付の額を計算し、売上の際に課したPPN(Output)と購入の際に課されたPPN(Input)とを相殺して、売上PPNの方が多ければ納税、購入PPNの方が多ければ還付請求できます。
(2019年8月追記)Faktur PajakはE-Fakturシステムから出力するため、会計システム上でレイアウト調整する必要はなくなりました。
多通貨会計システムの特徴
企業取引は会計上は取引通貨(Original currency)で記帳されますが、元帳(General Ledger=G/L)に転記(Posting)される際に機能通貨(Base currency)に換算され、元帳上では取引通貨と機能通貨の両方の金額を保持します。
インドネシアでは機能通貨はルピアかドルの2種類のみ認められており、取引入力は取引通貨で仕訳を起こし、元帳への転記時に機能通貨に換算し、損益計算書(P/L)とB/S(貸借対照表)は機能通貨で作成し、税務署への報告書も機能通貨(ルピアかドルのみ)で報告します。
多通貨取引と言っても当然ながら税金は自国通貨であるルピアで支払うので、外貨取引の際に発生する税金支払い額は、税務署が(Kantor Pajak)が毎週水曜日に公表するTaxレートを使ってルピア換算します。
システムが多通貨会計対応なら以下の機能が必要になります。
- 取引通貨で入力し、元帳上で取引通貨と機能通貨の金額を保持
- 決済時に為替差損益仕訳(実現損益計上)を自動生成する(取引レートとして前月末レートを使用する場合は実現損益は発生しない)。
- 月末に行う為替評価替(未実現損益計上)機能があること。
そして日本本社向けにルピアと円の2つの財務諸表を提出する必要がある場合、機能通貨がルピアのシステムで円建て財務諸表を作成するためには、取引仕訳ごとに円以外を外貨とみなす仕訳を同時生成する必要があります。
つまりルピア建てとドル建ての試算表(Trial Balance=T/B)を作成するためには元帳を分ける必要があります、と言いたいところですが市販パッケージでこの複数機能通貨対応のものは少ないです。
ただしIFRS対応の必要性が高まるにつれ、複数機能通貨のニーズも高まってくるものと思われます。
外貨建て取引仕訳を修正するための相殺仕訳を切る場合には、取引時のレートを入力しないと取引通貨ベースでは0でも機能通貨ベースで残高が残ってしまうので注意が必要です。
機能通貨を変更(ドルからルピア)する場合は、過去の債権債務取引の実現為替損益仕訳(発生日レートと決済日レートの為替差損益)と未実現為替損益仕訳(発生日レートと当月末レートの為替差損益)をすべて削除することで、取得時点の評価額に戻し、決済時点の為替レートで消し込んだ上で、新機能通貨(ルピア)に対して発生する実現為替差損益を計上します。
(2019年8月追記)インドネシア中央銀行は2015年7月から、為替レート安定のために国内の現金および非現金の取引を自国通貨(ルピア)建てにすることを義務付けました。
仕入と決済時の為替差損益処理
機能通貨がルピアの会社が100円の仕入(債務A/P発生)を行い、発生時のレート(1円=Rp.98)に比べて決済時には円高(1円=Rp.100)になった場合の仕訳は以下のようになります。
Invoice到着時(A/P発生) 1円=Rp.98
- Dr. 仕入 ¥100 Cr. A/P ¥100
(¥100x98=Rp.9,800)
決済時 1円=Rp.100 円高ルピア安になった
- Dr. A/P ¥100 Cr. Bank JPY ¥100
(¥100x98=Rp.9,800) (¥100x100=Rp.10,000) - Dr. Forex loss Rp. 200
A/Pを取引通貨と機能通貨で消込むために決済時も仕入時のレートで評価します。
この場合、A/P発生時の¥100(¥100xRp98=Rp.9800)から決済時の¥100(¥100xRp100=Rp.10,000)への値上がり分Rp.200を為替差損として計上します。
貸借に別通貨建て勘定を設定できる会計システムでは取引通貨ベースではバランスしませんが、機能通貨ベースで必ずバランスさせる必要があります。
会計システムの元帳のみを導入する場合には、決済仕訳時にシステムは自動的に為替レートマスタの当日レートを見に行ってしまいます。
これをA/P発生時のレートを適用させ債務の消し込みを行った上で、決済時レートに基づく換算額との差額についての為替差損益仕訳を発生させるために、仕訳入力画面の借方項目にA/P発生時のレートに手修正できる機能が必要になります。
売上と入金時の為替差損益処理
同じく機能通貨で必ずバランスさせることを意識して機能通貨で為替差損益を計上します。
A/R(Account Receivable 売掛金)発生時の$1,000($1,000xRp9000=Rp.9,000,000)から入金時の$1,000($1,000xRp.9,200=Rp.9,200,000)への値上がり分Rp.200,000を為替差益に計上します。
Invoice発行時(債権A/R発生) $1=Rp.9,000
- Dr. A/R $1,000 Cr. 売上 $1,000
決済時は$1=Rp.9,200 ドル高ルピア安になった
- Dr. Bank $1,000 Cr. A/R $1,000
($1,000x9200=Rp.9,200,000) ($1,000x9000=Rp.9,000,000) - Cr. Forex Gain Rp.200,000
月締め直前のA/R, A/P為替評価替(Revaluation)
A/PとA/Rの月末残高を翌月に持ち越す場合、月末レートで再評価してあげる必要があります。
月中のレートが前月末レートで固定されている場合は、A/RとA/Pの残高をそのまま一括して為替再評価できますが、取引日ごとにレートが異なる場合は取引発生時のレートに対して為替評価換算する必要があります。
為替評価替による為替差損益を年度初め評価額に対する差額として計上する場合は、毎月末締め直前に取引通貨のあるB/S資産を月末レートで評価替した後、翌月初に相殺(Re-class)します。
Invoice到着時(買掛発生) 1円=Rp.98
- Dr. A/P Accrued ¥100 Cr. A/P(買掛) ¥100
A/P発生時の¥100(¥100xRp98=Rp.9800)は翌月初めの¥103.2(¥103.2xRp95=Rp.9800)と対応するため、機能通貨で比較した場合の差額を取引通貨で処理します。
月締め後の為替差調整 1円=Rp.95 円安ルピア高になった
- Dr. Forex Loss ¥3.2 Cr. A/P ¥3.2
機能通貨をドルからルピアへ変更する流れ
2015年7月から国内取引は基本ルピアベースで行うことが義務付けられましたので、必然的に会計処理もルピア建てが中心となるため、日系製造業の間では、会計システムの機能通貨をドルベースからルピアベースに変更するという流れが出来つつあります。
2015年はこの機能通貨問題以外にも、Tax Invoice(Faktur Pajak)によるVAT申告はe-Fakturによる完全オンライン化が義務付けられたり、国内商取引に関わる契約書は基本インドネシア語で作成するよう推奨されるなど、ビジネス慣行上の動きが多い年になりました。
機能通貨の変更には、あるタイミング(通常は年度初め)でカットオフしてシステムの基本パラメータをドルからルピアに変更する必要があります。
- ルピアベースのシステム環境とDBの準備
- マスタの移行
- 既存帳票や伝票へのインパクトの調査
- ルピアベースでの期首残の準備(A/PとA/Rは決済のためインボイス単位で必要)
- ルピアベースでの初回締め処理
作業的には以上の流れになりますが、重要なのは債権A/R勘定と債務A/P勘定の期首残と試算表(Trial Balance)上での期首残をルピアベースで一致させることです。
Debit NoteやCredit Noteのように、A/RとA/Pの調整を伴う処理であれば良いのですが、為替差調整や税額調整などG/L上にのみインパクトのある処理を行なう場合、双方のバランスが一致しなくなります。
外貨評価換算
外貨評価換算(Revaluation)は、債権A/Rと債務A/Pに対するものと、それ以外の流動資産・流動負債に対するものの2種類がありますが、機能通貨を変更すると当然ながら外貨評価換算対象となる通貨としてドルとルピアが入れ替わります。
円、シンガポールドル、タイバーツなど、ルピアから見たドルとのクロスカレンシーはこれまでどおり換算対象となりますが、当然ながら換算の基準はルピアになります。
会計上の取引レートは中央銀行(Bank Indonesia)のミドルレート(TTM)を売り買いすべての取引に使用するのが一般的であり、東京三菱(BOTM)のTTMを使ってもいいとは思いますが、あくまでの民間銀行の商業レートであるため、やはりBIレートを使うほうが安全だと思います。
また買いにはTTS(銀行にとっての売り)、売りにはTTB(銀行にとっての買い)を使い分けることもシステム上可能ですが、同日の売りと買いが外貨ベースで同額でも機能通貨ベースで異なってしまうのは管理上問題です。
会社によっては前月末レートを当月取引のフラットレートとして使用するケースもありますが、この場合決済時の実現為替差損益は発生しませんが、月末の外貨評価換算時には未実現の為替差損が発生し得ます。
この場合、為替レートマスタの取引レートには、当月末日にも前月末レートがセットしてあるため、取引レートとTAXレート以外にRevaluation用のレートを設定する必要があります。
切離法と洗替法
外貨評価換算の方法は、取得原価を切り離す切離法(separation method)と取得原価を維持する洗替法(reversal method)があります。
切離法の場合は毎月末にP/L上で対前月末比較の評価損益分がB/S上の評価額として増減し、洗替法の場合は当月末の為替評価替仕訳に対して、翌月初に洗替(Reverse)仕訳を生成しリセットするので、毎月末にP/L上で対取得日比較の評価損益分がB/Sの評価額として増減します。
切離法(前月末レートと当月末レートの差)
- Dr. Unrealized Forex loss 30 Cr. AR 30
洗替法(取得日レートと当月末レート差)
- 月末
Dr. Unrealized Forex loss 35 Cr. AR 35 - 翌月初に洗替
Dr. AR 35 Cr. Unrealized Forex loss 35